主人公を犯さないと死ぬ悪役に成り代わりました

キルキ

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母親 2

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「レオン、くん」
「……あれ、ニール?」

背後を振り返れば、10冊程度の教科書と数枚の書類を抱えたニールが通路に立っていた。中庭の隅でスマホを握りしめている俺を見つけたらしい。こちらに来ようとしているニールを手で静止して、俺はニールの方に歩いていった。

「やあ、ニール。君も帰りかい?夕食は食べた?」
「帰りです。夕食はまだですけど、売店でお弁当を買ったので今から自室で食べようと思っていました」

どこか疲れた様子のニールに、哀れみの情が向いた。

疲れているなぁ。無理もない。慣れない貴族に囲まれた挙げ句、水晶の儀では無属性の烙印が押されたのだから。

「水晶の儀では、災難だったね。随分長い間学園長と話していたみたいだけど、大丈夫だった?」
「はい。えっと、実は話はすぐに終わったので皆さんより一足先に寮に戻っていたのですけど、すぐにイバン先生に呼び出されて…。たった今、教材を頂いてきたんです。明日から使うから、今日中に渡したほうが良いだろうとおっしゃっていただいて。レオンくんは、電話をされていたんですか?」
「そうだね。母上と話していたよ。今日の水晶の儀で、僕が何の属性魔法と診断されたのか気になったみたいで」
「そうなんですね。……厳しいお家なんですか?その、盗み聞きするつもりはなかったんですけど、…母親と話すときの態度に見えなかったので、気になってしまって」

言いにくそうにしながら、ニールが目線をそらす。庶民出身からすれば、親に大して敬語とか使わないだろうし、気になるだろうな。

「君からすれば厳しい方かもしれないけど、貴族の家としては普通な方だよ。それで、ニールはもう家族に連絡した?」
「う……、いえ、してません。僕もそろそろ電話しないとな……」

そう言って肩を落とすニール。まあ、家族に言いにくいよね、無属性と言われたって。

でも、こういうことは報告が遅れれば遅れるほど言いにくくなっていくのだ。隠している期間がながければ長いほど罪悪感は募るし、騙されている方の気分も悪くなる。できるなら今日のうちに伝えたほうが良いと思うんだけどなぁ。

と考えていたところで、ぴんと頭が冴える感覚がした。
そうだ、こういう時こそ俺の出番なんじゃないか?

「ニールはまだ家族に連絡してないんだね?でも、大事なことは早めに言っておいたほうが良いよ。ニールの家族も心配しているだろうし」

つらつらとそういった後、俺はニールの腕の中にあった教科書を半分手に取る。

「俺も一緒に話してあげるから」

半ば強引にそう提案をしてニールと同じように胸に抱えると、ニールは目を丸くした。

うん、こういう時に助けてあげるのが「親切なお友達」になるための第一歩なんじゃないか?

「部屋まで持ってあげるから行こう」と言って先に通路を歩けば、背後から軽い足音が聞こえてきた。





△▼△


ニールの部屋は簡素でシンプルなものしか置いていなかった。贅沢品なんて少しも縁の無さそうなその部屋に足を踏み入れると、ベッドの隣の勉強机に教科書を置いてやる。

部屋の作りは俺の部屋と同じようだった。もともと備え付けてある机やソファ、ベッドも同じデザインのものだった。ニールに促されて一緒にソファに座ると、早速、ニールの母親に電話をすることになった。

「緊張する……」

張り詰めた表情のニールは、スマホを操作していた。その隣に座りながら、俺はニールが電話をかけるのを待っていた。

(かっちこちに固まってるじゃん。すぐに泣いちゃいそうだし…)

ニールの表情を隣でぼうっと見ていると、「か、かけます」とニールが言う。続いて、コール音が鳴りだした。しばらく部屋にコール音だけが響いて、そしてとうとう電話口から若い女性の声が聞こえてきた。

「もしもし?」
「あ、お母さん」

お母さん、と口に出すニールの声色が幼気だ。続けて話を続けようとして、そして、何を言ったら良いかわからないといった感じでもごもごとしている。

俺も挨拶しないと、と思って口を開こうとしたところで、電話の向こうの女性が話しだした。

「水晶の儀はどうだったの?あなたの属性は。私と同じ、樹属性かしら。それとも、父親と同じ光属性かしら。あなたはお父さんに似て天然だから、光属性かなって私は予想しているんだけど」
「え、ええと」
「でも、属性と性格は関係してないって言うこともあるし、遺伝性でもないって言うし…。やっぱり、あなたの属性がなんなのかわからないわ」
「ああう…」

間髪をいれず話し続ける母親に押され気味のニールが、唸り声に似た声を出す。

(おしゃべりなお母さんだなぁ)

因みに、属性魔法と性格は関係しているかもしれない…とこの世界では言われている。が、その説はいわゆる迷信みたいなものだ。元の世界で言う、血液型占いに似ているかもしれない。確実に関係していると証明されていないため、属性魔法で人の性格を決めつける言動はタブーとされている。

しかし属性魔法によって性格の偏りがあるのもまた事実だったりするので、性格と属性魔法の因果関係を人々は考えずにいられない、というのが現実だ。

(俺は占いに興味がないから、どの属性はどんな性格なのかとか、覚えてないけどな)

女性ほど占いが好きと聞くし、ニールの母親もそうしてニールの属性魔法を推測していたのだろう。

「ねえ、もったいぶらずに教えてよ~」

困りきって口を閉ざしたニールに焦れた女性が急かしだす。なんとなく口を出せない雰囲気になっていて、俺も何も言えなくなった。

というか、向こうは俺がいるって知らないんだろうな。ニールに紹介して貰う予定だったのに、母に一気に話しかけられたせいでそのタイミングを逃がしてしまったみたいだ。

まあ、親子二人で話がついてくれるのが一番良い。そう思って、今は静観することにした。

「あのね、お母さん……」

ぽつりとニールは話し出す。水晶の儀で診断された内容のこと、学園長と話したこと、明日からの学園生活のことをくまなく説明していた。

「……そう」

先程と違って神妙な声色の女性が短くそう言うと、ニールは項垂れた。そんな息子を見透かしたかのように、母親が「顔を上げて」と話し出す。

「顔を上げて、ニール。あなたが無属性だったとしても、私の自慢の息子に変わりないの。胸を張りなさいよ」

(わ、うちの母親は絶対にこんな良いこと言わなさそう…)

包み込むような優しさ、というのはこういうことなのだろうか。他人の俺まで伝わるくらいの、母親からニールへの愛情を感じた。

「だけど、それとは別に、あなたが心配なのよ。無属性のままで、これからの勉強について行けるの?実技試験が不利になるでしょう」
「実技は学長が免除してくれるって言ってくれたから、大丈夫だよ」
「でも、ヤドリギ学園って貴族の子ばかりって聞くし…。その中でニールだけそんな風に優遇されたら、他の子に妬まれるんじゃない?」

先程はニールのことが心配になって、神妙な様子になっていたのかもしれない。

(へえ、魔法実技は免除してもらえたんだ。そういえば、原作でもそうだったようなきがする)

知らない情報に、俺も静かに耳を傾ける。

…あれ?免除って言っても、原作のニールは授業には参加していたよな。授業でいじめられた描写があったし。
試験は免除するけど、授業には出席しろということか?

無属性のニールは他の生徒と違って、強い魔法は使えない。つまり、学園で新しく習う魔法の大半は使うことができないし、実技授業に出席したところで何もできない。

それなら、ニールが辛い思いをするのに変わりないんじゃないか?


「お母さん、あなたが学園に馴染めないんじゃないかって心配なのよ」


母親の懸念は、もっともなことだった。
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