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27 祭り
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祭り当日。一人で縁側に座って、夏の空を眺めていた。大輝は既にみきちゃんと祭りにでかけていて、空はだいぶ暗くなっていた。
この家に来て、もうすぐ2ヶ月が経つ。この2ヶ月、いろいろなことがあった。大輝の夏休みもそろそろ終わり時が近づいている。学校が始まれば、今までより会う時間が少なくなるだろう。
「……さみしいな」
さみしい。何だかんだでべったりな生活を送っていたから、大輝が学校にいる間の一人の時間に耐えられるのかという不安があった。
それに、使命を果たした後の俺の身の振り方だって考えないといけない。本当にこのまま人間として暮らすならば戸籍とかの問題が出てくる、なによりお金を稼ぎにいかないといけない。だってこのまま大輝に頼りっぱなしの生活を送るのは心苦しいし。
元猫だとはいえ、俺だって立派な大人なのだ。自分の生活費くらい稼いでおきたい。
「たぶん今日、みきちゃん告るつもりだよなぁ」
大輝優しいから、結婚しようとか言われても"大きくなったらね"とか言ってそうだな?もしもそんなこと言ってたら嫌だな……いや、恋人でもない俺がどうこういう権利はないけど、なんか複雑な心境っていうか。
いくら相手が小学生だったとしても、好きな人が自分以外の人とそういうこと話していたら、もやもやするでしょ。ただでさえ俺は、安心できるほどの関係を築けてないのに。
それにしても、一人でこんなに家にいるのは初めてかもしれない。食事もお風呂も一人でして、出禁のキッチンにこっそり入っておやつを食べて、ついでにお皿を洗って。
自由に過ごせるけど、その分退屈だ。
「……もう寝よう」
寝たらすぐに朝が来る。だから今はもう眠っておこう。
寝るには少し早い時間だけど、縁側から立ち上がって戸締まりをしようとした。そのとき、ガチャガチャという鍵を開ける音が玄関から聞こえてくる。
「とらまる!」
聞き慣れた優しい声。走る音が近づいてくるのを聞きながら、音の方を振り返る。
「見て、これ。たこ焼きとイカ焼きと、綿あめだ。ああ、こっちにあるのは射的の景品にもらったおもちゃで───」
普段通りの態度に、目をパチクリさせる。みきちゃんとの話は終わったのだろうか。っていうか、本当にした?何事もなかったかのように見えるけど。俺の縛りはちゃんと消えてるんだろうか。使命果たされた判定になってる?ねえ、神様!
「だ、大輝……えっと」
「ああそうだ、もうすぐ花火があるんだ。とらまると一緒に見ようと思って、急いで帰ってきたんだよ。みきちゃんは今は家族と一緒にいるんだ、心配しないで」
なるほど、親御さんがいると気まずいだろう。それなら花火が始まる前に帰ってきても納得できる。じゃなくって、えーと。早く大輝に、好きって伝えないと!
「あの、」
言いかけた直後、ドンという爆発音に俺の声がかき消される。音は空から聞こえてきた。
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