霊感頼みの貴族家末男、追放先で出会った大悪霊と領地運営で成り上がる

とんでもニャー太

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不甲斐ない自分

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朝の光が差し込む窓辺で、僕は静かに目を閉じていた。
今日から、成人の儀に向けての特別な訓練が始まる。胸の奥で不安と期待が入り混じる。

「アリストン様、準備はよろしいですか?」

扉の向こうからリリーの声がする。

「ああ、今行くよ」

深呼吸をして部屋を出る。
廊下を歩いていると、エドガー兄さんとすれ違った。

「おはよう、アリストン。今日から特訓だな」

「おはようございます、兄さん」

僕は小さく頷く。
エドガー兄さんは僕の肩に手を置いた。

「頑張れよ。お前なりの力を見つけることができると信じている」

その言葉に少し驚く。
兄さんがこんな風に励ましてくれるのは珍しい。

「ありがとうございます」

そう答えたものの、胸の中でモヤモヤとした感情が渦巻く。
兄さんの期待に応えられるだろうか。

訓練場に到着すると、そこにはセリーナ先生と父上が待っていた。

「よく来た、アリストン」

父上の声は、いつもより少し柔らかい気がする。

「今日からお前の特訓を始める。成人の儀までに、お前の中に眠る力を引き出すんだ」

「はい、父上」

僕は真剣な表情で応える。
でも、本当に自分に力があるのかどうか、まだ確信が持てない。

「では、まず基本的な魔法エネルギーの制御から始めましょう」

セリーナ先生が杖を取り出す。

「アリストン様、こちらを見てください」

先生の杖の先端が淡く光る。
その光を見つめていると、なぜか懐かしい感覚が胸に広がる。

「この光を感じ取れますか?」

「はい、なんだか……温かい感じがします」

「それが魔法エネルギーです。今のアリストン様には、それを感じ取る才能がある。それを制御する力を身につければ、きっと素晴らしい魔法使いになれるはずです」

セリーナ先生の言葉に、少し希望が湧く。
でも同時に、霊を見る能力のことが頭をよぎる。

この力は、魔法とは違うものなのだろうか……。

「――アリストン、集中するんだ」

父上の声で我に返る。

「申し訳ありません!」

訓練は厳しかった。
魔法エネルギーを感じ取ることはできても、それを自在に操ることは難しい。
何度も失敗を繰り返す度に、父上の表情が曇るのが分かった。

「……今日はここまでだ。明日も続けよう」

父上の言葉に、ほっとすると同時に後ろめたさを感じる。

部屋に戻る途中、いつの間にか例の古い扉の前に立っていた。

「また来たのね、アリストン」

振り返ると、オリヴィアが優しく微笑んでいた。

「オリヴィア……」

「どうしたの?何だか元気がないわね」

僕は深いため息をつく。

「成人の儀に向けての特訓が始まったんだ。でも、上手くいかなくて……」

「そう……でも、アリストンには特別な力があるじゃない。それを活かせばきっと――」

「でも、その力じゃ、誰にも認めてもらえないんだ!」

思わず声を荒げてしまう。
オリヴィアは少し驚いた表情を見せたが、すぐに優しい笑顔に戻った。

「ごめん、オリヴィア。君には関係ないのに」

「いいのよ。私にはアリストンの気持ちが分かるもの」

オリヴィアの言葉に、胸が締め付けられる。

「僕は……僕は本当にこのままでいいのかな。霊を見る能力なんて、きっと役に立たないよ」

「そんなことないわ。その力はアリストンの大切な一部よ。きっといつか、その素晴らしさを皆に示せる時が来るわ」

オリヴィアの言葉に、少し勇気をもらう。
でも、まだ迷いは消えない。

「ありがとう、オリヴィア。でも、どうすれば……」

その時、廊下の向こうから足音が聞こえてきた。

「誰かが来るわ。気をつけて」

オリヴィアの姿が消える。
僕は慌てて立ち去ろうとしたが、

「アリストン?こんなところで何をしているんだ?」

振り返ると、そこにはヴィクター兄さんが立っていた。

「あ、兄さん。ちょっと、考え事をしていて……」

「ふむ。成人の儀のことか?」

「はい……」

「心配するな。お前なりのやり方で乗り越えればいい」

意外な言葉に驚く。
いつも厳しいヴィクター兄さんが、こんな風に言ってくれるなんて。

「ありがとうございます、兄さん」

「ああ。それと、こんなところでぼんやりしていると、変に思われるぞ。気をつけろよ」

ヴィクター兄さんは軽く肩を叩いて去っていった。
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