霊感頼みの貴族家末男、追放先で出会った大悪霊と領地運営で成り上がる

とんでもニャー太

文字の大きさ
6 / 47

試練の日

しおりを挟む
朝日が差し込む窓からの光で目を覚ました。
今日という日を迎えるまで、どれほど待ち望み、そして恐れていたことだろう。
成人の儀、僕の人生を決める大切な日がついに来たのだ。
深呼吸をして、ゆっくりと起き上がる。
鏡に映る自分の姿は、いつもより少し大人びて見えるような気がした。

「アリストン様、準備はよろしいですか?」
ドアの向こうからリリーの声がする。

「ああ、もう少しで出るよ」

僕は儀式用の正装に身を包んだ。
深い青色の上着に銀色の刺繍、家紋が刻まれた胸元のブローチ。
これを着る日が来るなんて、つい最近まで想像もできなかった。

食堂に向かうと、家族全員が既に集まっていた。

「おはよう、アリストン」
父上の声は、いつもより少し優しく聞こえた。

「おはようございます、父上」

「今日という日を、誇りに思え。お前はヴァンガード家の一員だ」

エドガー兄さんとヴィクター兄さんも、励ましの言葉をくれた。でも、その目には僕への不安が隠せていないようにも見えた。

朝食を終えると、いよいよ儀式の会場へ向かう時間だ。
城の大広間に入ると、そこには既に大勢の人々が集まっていた。
上位貴族の面々、魔法協会の重鎮たち。
そして、同じく今日成人を迎える他家の嫡子たち……。
緊張で手が震えるのを、必死に抑える。

「では、成人の儀を始めます」
マーカス神父の声が、広間に響き渡った。

「最初の試練は、基本魔法の実演です」

僕は深呼吸をして、前に進み出た。練習してきた魔法を思い出す。集中して...。

「炎の球を作り出してください」

神父の指示に従い、僕は杖を構えた。
魔力を集中させ、杖の先端に小さな火の玉を作り出す。
それは確かに燃えているが、他の参加者たちの大きく燃え盛る炎に比べると、あまりにも小さく、弱々しい。
会場からかすかなささやきが聞こえる。

「次は、風の壁を作り出してください」

今度こそはと思ったが、結果は同じだった。僕の作り出した風の壁は、他の参加者たちのものと比べて、明らかに弱かった。
父上の顔を見ると、眉をひそめているのが分かった。

「次の試練は、魔法理論の筆記試験です」

これなら大丈夫だと思った。毎晩遅くまで勉強してきたのだから。
しかし、問題用紙を見た瞬間、心が沈んだ。
理解できない複雑な魔法陣や、聞いたこともない呪文の説明。
僕の知識は、まだまだ足りなかったのだ。
汗が滲み、手が震える。
何とか答えられる問題を必死に探しながら、時間が過ぎていく。

最後の試練、自由演技の時間が来た。
これが最後のチャンス。ここで挽回しなければ。

「アリストン・ヴァンガード、あなたの才能を示してください」

深呼吸をして、前に進み出る。
僕は目を閉じ、集中した。魔法の力と、霊を見る能力。この二つを融合させる...。

「見てください」

僕は杖を振り、周囲の空気を操作し始めた。
霧のような物質が現れ、それが人の形を取り始める。
オリヴィアの姿だ。
あの時、父上には幻影だと叱られてしまったけど……僕にはこれしかない。
もっと、あの時よりもっとちゃんと見せることができれば……!

しかし、その姿はぼんやりとしていて、はっきりとは見えない。
会場からは戸惑いの声が上がる。

「こ、これは...霊の姿です。僕には、霊と交信する力があるんです!」

必死に説明するが、周囲の反応は冷ややかだった。

「幻を見せるだけか?」
「これが彼の才能……?」
「やれやれ、ヴァンガード家の末っ子には、期待できないな」

そんなささやきが、僕の耳に届く。
オリヴィアの姿は、僕の動揺と共にどんどん薄くなっていく。
ついには、完全に消えてしまった。

広間は静寂に包まれた。
マーカス神父が咳払いをして、声を上げた。

「これで、全ての試練が終了しました。結果は...」

僕は目を閉じた。すでに結果は分かっていた。

「アリストン・ヴァンガード、あなたは...」

神父の言葉が、遠くに消えていくように感じた。

成人の儀は終わった。
僕の能力不足は、誰の目にも明らかだった。
これからどうなるのだろう。
家族は、僕をどう思うのだろう……。

大広間を出ると、父上が待っていた。
その表情に、深い失望の色が見える。

「アリストン...」

父上の声には、怒りよりも諦めの色が強かった。
それが、より一層僕の心を痛めた。

「申し訳ありません、父上。僕は...」

言葉が続かない。

「今日のことは、家族会議で話し合う。部屋で待っていろ」

そう言い残して、父上は立ち去った。

僕は重い足取りで自室に向かった。
窓の外では、成人の儀を祝う花火が上がっている。
でも、その美しい光景が、今の僕には皮肉にしか感じられなかった。

「オリヴィア...」

小さく呼びかけるが、返事はない。
僕は窓際に座り込み、顔を両手で覆った。
これからどうなるのだろう。
ヴァンガード家の跡取りにはなれない。
そもそも、この家にいられるのだろうか。
そんな不安と後悔が、僕の心を締め付けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...