霊感頼みの貴族家末男、追放先で出会った大悪霊と領地運営で成り上がる

とんでもニャー太

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迫り来る影

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城に戻ってから数日が過ぎた。あの不思議な石碑と霧の記憶が、まだ鮮明に残っている。窓から差し込む朝日を見ながら、僕は深いため息をついた。

「シャドウクリフの使者...一体何が始まろうとしているんだ」

執務室に向かう途中、ヴァルデマールの姿が目に入った。

「おはようございます、ヴァルデマールさん」

「おう、若き領主よ。顔色が悪いぞ」

僕は苦笑いを浮かべた。

「ええ、あの日のことが気になって...」

ヴァルデマールは真剣な表情で頷いた。

「わかる。だが、今は冷静さが必要だ。シャドウクリフの正式な使者がもうすぐ到着する。それまでに、我々の対応を決めねばならん」

その言葉に、背筋が伸びる思いがした。そうだ、今は弱音を吐いている場合ではない。

執務室に入ると、机の上には山積みの書類が待っていた。領地の再建計画、農業改革の提案...。しかし今は、それらよりも優先すべきことがある。

「まずは、あの石碑のことを調べないと」

僕は古い書物を次々とめくっていった。ヴェイルミストの歴史、近隣諸国との関係...。そして、一冊の古びた本の中に、気になる記述を見つけた。

『境界の印』—古より存在する、霧の領域と現世を隔てる印。この印が壊れれば、二つの世界の境界が崩れるという—

「これは...」

その時、急いで執務室に駆け込んでくる兵士の姿があった。

「領主様!シャドウクリフの使者が到着しました!」

僕は深呼吸をして立ち上がった。いよいよこの時が来たのだ。

「分かった。案内してくれ」

大広間に入ると、そこには黒いマントを纏った男が立っていた。その姿を見た瞬間、僕は息を呑んだ。森で見た男と、どこか雰囲気が似ている。

「ようこそ、シャドウクリフの使者殿。私はこの地の領主、アリストン・ヴァンガードです」

男は静かに頭を下げた。

「レイモンド・ブラックソーン。シャドウクリフ王国の特使です」

その声には、どこか冷たさが感じられた。

「さて、ヴァンガード領主。私たちの懸念についてお話しいたしましょう」

レイモンドの口調は丁寧だったが、その目には鋭い光が宿っていた。

「はい、どうぞ」

「ヴェイルミストの霧が晴れたこと。これは我が国にとって、重大な安全保障上の問題です」

僕は静かに頷いた。

「理解しています。ですが、この変化は領民たちの生活を大きく改善しました。作物の収穫量も増え、病気も減っています」

レイモンドは冷ややかな笑みを浮かべた。

「それは結構なことでしょう。しかし、個々の領地の利益よりも大切なものがあるのです」

「大切なもの...?」

「そう、均衡です。ヴェイルミストの霧は、長年にわたって我が国と他国との緩衝地帯となってきました。その霧が消えることは、戦争の火種となりかねないのです」

その言葉に、僕は言葉を失った。まさか、一つの領地の変化が、そこまでの影響を...?

「では、どうすれば...」

レイモンドは一歩前に出た。

「簡単です。霧を元に戻すのです」

「しかし、それは...!」

僕の言葉を遮るように、レイモンドは続けた。

「もし応じていただけないのであれば、我が国としても行動を起こさざるを得ません。例えば、軍事的な...」

その言葉に、大広間全体が凍りついたような空気になった。

「少し、考える時間をいただけませんか」

僕は必死に冷静さを保とうとした。レイモンドはわずかに頷いた。

「わかりました。3日後、再びここに参ります。その時までに、賢明な判断を期待しています」

レイモンドが去った後、僕は椅子に崩れるように座り込んだ。

「ヴァルデマールさん...どうすればいいんでしょう」

ヴァルデマールの霊が現れ、悲しげな表情を浮かべた。

「難しい選択じゃ。だが、お主なりの答えを見つけねばならん」

その夜、僕は眠れずにいた。窓の外を見ると、満月が輝いている。その光に照らされた村の姿が、とても美しく見えた。

「守らなきゃ...この景色を、みんなの笑顔を」

ふと、オリヴィアの姿が目に入った。

「アリストン...あなたならできる」

彼女の言葉に、少し勇気がわいた。

翌日、僕は村を訪れることにした。村人たちに事情を説明し、みんなの意見を聞くためだ。

村の広場に集まった人々の前で、僕は状況を説明した。シャドウクリフからの要求、そして戦争の可能性まで。

村人たちの表情が曇っていく。しかし、予想外の反応があった。

「領主様、私たちは霧の中には戻りたくありません!」
「そうだ!やっと明るい未来が見えてきたのに...」

彼らの声に、僕の心が揺れた。

「でも、戦争になれば...」

「戦えばいいんです!私たちにも覚悟があります!」

村長が前に出てきた。

「領主様、私たちはあなたについていきます。どんな決断をしても」

その言葉に、胸が熱くなった。

城に戻った僕は、決意を固めていた。レイモンドに会う前に、もう一度あの石碑を確認しなければ。

夜陰に紛れて、僕は北の森に向かった。霧の中を進み、あの石碑にたどり着く。

「境界の印...」

僕はその文字をなぞった。すると突然、石碑が光り始めた。

「これは...!」

眩しい光に包まれ、僕の意識が遠のいていく。

気がつくと、見知らぬ空間にいた。霧で満たされた不思議な世界。そこに、一人の老人の姿があった。

「よく来たな、若き領主よ」

「あなたは...?」

老人は穏やかに微笑んだ。

「私は、この霧の世界の守護者だ。お前に伝えねばならないことがある」

僕は息を呑んだ。ここで聞く話が、全ての謎を解く鍵になるかもしれない。

「シャドウクリフの真の目的、そしてこの霧の本当の意味...全てを話そう」

老人の口から語られる真実。それは、僕の想像をはるかに超えるものだった。

シャドウクリフの野望、霧の持つ本当の力、そして...僕自身の知らなかった使命。

全てを聞き終えた時、僕の中に強い決意が芽生えていた。

「分かりました。私は...」

その瞬間、意識が現実世界に引き戻される。目の前には、夜明けの森が広がっていた。

「必ず、この地を守ってみせる」

僕は静かに誓った。レイモンドとの再会まで、あと1日。
その時までに、全ての準備を整えなければならない。

ヴェイルミストの運命を左右する決断の時が、刻一刻と近づいていた。
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