69 / 97
Story1 -slavely- 蜘蛛の糸
Ⅶ
しおりを挟む「お前は、死ねるか」
ミツキの兄が発した言葉に、固まる。
死………ねる、か? 俺に、死ねと…………
聞き間違いかと、彼を振り仰ぐ。
「今、ここで死ぬ覚悟はあるか」
逆光のなか、はっきりと言い直された言葉に、頭を殴られたような衝撃を感じた。
「死 …………………」
ああ、そうか。死ぬという手があった。
なんでそんな簡単なことに気付かなかったんだ。
恥も、痛みも、死ねば感じない。
外の世界に、過去に、怯える必要もない。
なんと素晴らしいことだろう。
「あります!貴方が、殺してくれるなら」
ヨダカはベッドから降りて床に膝をつき、額を擦り付けるように頭を下げて、自ら死を乞うた。
「俺は、死ねます」
自殺は怖いから、自分では出来ないけれど、望んで殺されるのは悪くないアイデアに思えた。出来れば…、なるべく痛くない方法がいい。
「では、生まれ変わるために死ねるか」
「生まれ変わるため、に……?」
どういうことだろう、ただ死ぬんじゃないのか?
「俺の提示する死には2つ条件がある。生まれ変わったら、国のために命を掛けて尽くすこと。そして、死ぬ者にしか、いや、お前にしか出来ない任務。それを請け負うことが条件だ」
ヨダカは震えた。
この死は、安穏をもたらすものではない。
身体の死、ではない。
『高野雄貴』という存在の死だ。
それは法を逸脱し、倫理的に決して許されない方法。
だが、今のヨダカには、とてつもなく魅力的な死。
それがヨダカにしか出来ない任務なら、やるしかない。
「分かりました。引き受けます」
死ぬことは怖くない。
しかも、ヨダカを名指しする任務なら、きっとこのマグマのような中毒症状を満たしてくれるに等しいだろう。
ヨダカに拒否する理由はなかった。
男は小さく頷き、掌の中で転がしていたそれを光に翳す。小さなコインが、きらりと光った。
指先でぴん!と、コインを天に投げ、ヨダカの眼の前、床で跳ねたそれを靴底で踏みつけた。
「あとは、お前の運次第だ。任務は覚悟だけでは務まらない。お前が運を引き寄せられるかが重要だ。それも、時と場所を選ばず発揮できることが望ましい。」
ヨダカは、身じろぎもせずに男の靴を見つめる。
「さあ、選べ。このコイン、オモテかウラか。もし間違ったら……、運がなかったと諦めろ。それがお前の運命だ」
ヨダカは、靴底に踏まれたコインに思いを馳せた。
そのコインが俺の人生を決めるなんて、馬鹿馬鹿しい。運を引き寄せる?そんなこと俺にできるわけがない。運があれば、こんな場所でケツを振ってるわけがないじゃないか。
だが、ヨダカは答えに迷わなかった。
「ウラです」
コンドームを首に下げ、乳首には銀のピアス。
奴隷のタトゥーに、穴だらけのチンコ。
この身体が、何かの役に立つとしたら、悪くない。
「お前の運命を、見ろ」
そうだ、運命だ。運命なら仕方ない。
甘んじて受け入れよう。
8
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
あの部屋でまだ待ってる
名雪
BL
アパートの一室。
どんなに遅くなっても、帰りを待つ習慣だけが残っている。
始まりは、ほんの気まぐれ。
終わる理由もないまま、十年が過ぎた。
与え続けることも、受け取るだけでいることも、いつしか当たり前になっていく。
――あの部屋で、まだ待ってる。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる