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Story1 -slavely- ヨダカのはじまり
Ⅰ
しおりを挟むここは、……………どこだ?
高野雄貴《たかのゆうき》は、ぼんやりと霞む目を擦りながら起き上がり、周りを見渡した。
冷たく硬い床のうえ、ぎちぎちと痛む身体を伸ばして、強張った首や肩をゆっくりと捻りながら、周囲に警戒した目を向ける。
全く見覚えのない部屋だ。
雄貴はその部屋の中央で、一人ぽつんと座り込んでいた。
見渡す限り広がるベージュ色のリノリウム。広さはバスケットコート2面分近くあり、緩やかに半円を描く天井は骨組みが剥き出しで、見上げるほどに高い。
さながら体育館のような室内は、一つの部屋としては十分過ぎるほど広々としている。
しかし、コンクリート打ちっ放しの壁にぐるりを囲われた閉鎖的な造りで、一見して扉も窓も見当たらない。
特徴といえば、ぐるりを囲む四面のうち、一面だけが真っ白に塗装されていること、部屋の一角がタイル張りで水栓が設置されていること、木製の大きな机と椅子が置かれていることぐらいだろうか。
生活用品や調度品の類が一切なく、それが部屋をより異様な空間に感じさせている。
雄貴はそろりと立ち上がろうとして、はたと固まった。
身に着けているのは、グレーの無地Tシャツに同色のハーフパンツ。薄い安物の生地で、よくあるセットアップ。
量販店のものだろうが、身に覚えのない服だ。しかも、どうやら下着は身に着けていない。
そして、手を上げた拍子に手首にぴったり合う華奢な金輪が嵌められていることに気付く。
両手首だけでなく、目線を下ろせば両足首にも。外そうにも繋ぎ目や留め具が見当たらない。
雄貴は呆然とした。
知らない間に、誰かが自分を着替えさせ、何らかの意図をもって、この金輪を嵌めたのだ。
一体誰が。
一体どうして。
この不可解な状況について聞きたくても、誰もいない。
逃げようにも出口さえ、分からない。
雄貴は出口を探して立ち上がり、壁伝いに歩き始めた。そして、ふと壁や天井に目を凝らして…、顔を引き攣らせた。
天井には埋込式のエアコンとダクトが完備され、完璧に空調が管理されている。快適な室温にも関わらず…、冷汗と身体の震えが止まらない。
至るところに、おびただしい数の監視カメラが配置されていたのだ。
雄貴が移動すると、レンズも雄貴を追ってぐるりと向きを変える。明らかに雄貴を監視している。
両手の指でも数え切れないほどの小さな目。それは執念深さに満ちて、空間を支配している。
雄貴は、ゾッとして壁際にへたり込み、頭を抱える。
どうしてこんなことになっているのか。
何度も記憶を辿ろうとするが、不思議なことに自宅でひとり、珈琲を飲んでいたことまでしか思い出せない。
カーテンが開いて光が差し込んでいたから昼間だったのだろうが、あれはいつの光景だろうか。
そのあと、俺はどうしたのだろう。
それとも、あの光景は現実ではないのだろうか。
俺は、5月20日生まれで、数日前に20歳になったばかり。W大国際政経学部の2年。出身は埼玉県で家族は母が一人。自宅は……、友人は…、一つひとつ思い出してみるが、記憶に欠けはなく、鮮明だ。
あれ、そういえば、俺は誰かと珈琲を飲みながらスマホでやり取りをしていたような…、
そのとき、微かに空気が振動した。
振り返った目線の先。コンクリートの壁の一部に、音もなく、人一人が通れる空洞が開いた。
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