隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき

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隣の席のイケメンに懐かれた

隣の席のイケメンに懐かれた

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4月は桜の季節、というが、実際には大方散ってしまっている。学校に咲いている桜も、地面に落ちている。踏まれたのだろうか、すこし茶色くなっている。

というのは別にどうでもいい。俺に花を愛でる趣味はない。ではなぜ俺が平安貴族のように花を見ることに馳せ参じているかというと、シンプルにそれしかすることがないからだ。

学校の靴箱の前には大勢の生徒が群がっている。おかげで全然靴箱に入れず、一旦人が減るのを待っているのだ。

クラス分けの紙が張り出されており、生徒はそれを確認して教室に向かう。それだけであれば、すぐに前に進むのではないか、と思うだろうが、現実はそんなに甘くない。
その前で「やばい!みんな一緒じゃん!」「は?知り合いいないんだけど終わった」という風にみんなが騒ぎ出すからだ。
1年間だけの関係なんだから、そこまで落ち込まなくても、と思う俺は少数派なのだろうか。

と、人が少なくなってきたので、俺も自分のクラスを確認する。2年1組だ。さっさと靴箱に向かおうとすると、隣にいた女子が大声をあげた。


「え!まって!2年1組やばくない?チョーあたりじゃん!」


朝からよくそんな大声出せるな、と苦笑しつつ自分のクラスだったこと思い出す。どうやら「チョーあたり」らしい。担任がいい先生なのだろうか。そうだったらうれしい。



ーーーーー



自分の教室に向かうと、教室の外に他のクラスであろう女子たちが集まっていた。なるほど、おそらく学年でモテる男子がこのクラスに集まっているのだろう。と、浅い推理をして教室に入る。大人しく自分の席に座り、始業のチャイムがあるのを待つ。

キーンコーンカーンコーン。
チャイムがなったと同時に、さっきまでいなかった隣の席の人が座る。どうやらギリギリにきたらしい。
すると、まわりの女子がひそひそと話し出した。


「やばい!高峰きたよ!」
「同じクラスなの今でも信じらんないんだけど!!」


この人が話題になっていたうちの1人だとすぐに分かった。
たしかに、男の俺でも見惚れるほどの優れた容姿をしている。


「みんなおはよう!僕はこの春から教師になった青木といいます!至らないところもあると思いますが、よろしくお願いします!」


高峰に気をとられていると、いつのまにか教壇に上がった先生が挨拶をし始めた。どうやら新任の先生らしい。一言で表すなら爽やか熱血教師だ。

先生の自己紹介が終わり、パラパラと拍手が起こると、先生は配布物を配り出した。新学期は配り物が多い。


「今からファイルを配るけど、これは学校で保管するからサインペンで名前書いたら、後ろから前に送ってください!」


そんな大声出さなくても聞こえるよ。そう心の中で呟くと、前から送られてきたファイルをひとつ取り後ろに回す。
筆箱からサインペンを取り出し名前を書いた。
ふと隣を見ると、高峰は配られたファイルを机に置いてぼぉっとしていた。そのファイルに名前は書かれていない。机に筆箱も置いていないみたいだ。

もしかして、筆箱持ってきてない?
そう考えて、おそるおそる声をかけた。


「高峰くん?だよね。はい、これ」


俺はサインペンを差し出す。高峰は一瞬驚いたような顔をした。早く受け取ってくれ、電車の座席でおばあちゃんに席を譲ったのになかなか座ってくれないときの気持ちだ。


「ああ、ありがと」


受け取ってくれたことにほっとする。「いらない」って言われたらどうしようかと思った。高峰は表情の動きが少ないから何考えているのかわからない。


「なんで俺のペンないってわかったの?」


書き終わった高峰がペンを返すときに言ってきた。
そんなに驚くようなことだろうか?


「ファイルに名前書いてなかったのに、筆箱無いみたいだったから」
「そう」
「迷惑だった?」
「いや、全然。むしろありがと」


高峰が微笑む。やばい、俺が女子だったら確実に恋に落ちてた。イケメンパワー凄すぎる。


「あ、そうだ。俺、高峰斗真」
「柴野芹。よろしく高峰くん」
「高峰でいいよ。俺も柴野って呼ぶから」
「わかった」


よかった。仲良くやっていけそうだ。隣の席は授業でもペアワークがあったりするので仲良くなって損はない。

いつの間にか全ての配布物が配り終わって、ファイルも回収された。



ーーーー



次は全校集会だ。わざわざ体育館まで行かなくていいと思うんだが。心の中で悪態をついていると、「遅れないようになー」と先生が教室を出ていった。

みんながわらわらと教室の中を動き始める。俺も移動しようと席を立つ。
すると俺の方にクラスメイトの注目が向く。
いや、厳密に言えば俺の隣だ。


「高峰、一緒に行こうぜー」
「おー」
「急がないと遅れるよ」


高峰に声をかけたのは2人組だ。1人は一言で言えば明るい、もう1人は優しそう、という印象の2人だ。もちろん高峰と同様にイケメンなのには変わりない。


「まってカメラに収めたい。この学年のビジュ強三銃士」
「眼福すぎない?もうアイドルとかなったほうがいいよ」


女子たちが騒ぎ始める。この三人が集まったことが2年1組が「チョーあたり」である理由なのか。
てかなんだ、「ビジュ強三銃士」って。


「柴野も一緒に行こ」
「……え、あ、俺?」


3人を眺めているとふいに高峰が声をかけてきた。声をかけられると思っていなかったので反応が遅れる。


「柴野お前以外いないだろ」


そういって高峰は笑う。おい、むやみに笑うのはやめろ。後ろで女子が何人か倒れてる。


「あ、紹介する。こっちが早川で、こっちが矢沢」
「よろしくね、柴野」
「柴ちゃん、よろしくー!」


さっきの説明で言うと、優しそうなほうが早川で明るいのが矢沢だ。2人によろしく、と伝えた。「柴ちゃん」と呼ばれたのが初めてなので少し戸惑う。


「ああ、気にしなくていいよ。矢沢変なあだ名つけるとこあるから」
「おい、変ってなんだ早川」

早川と矢沢が言い合っている。
どう反応していいかわからなくて、俺はただ苦笑いを浮かべるだけだ。


「柴野困ってるから。てか早く行こ」


2人を制止して高峰が教室の外を指さす。確かに、そろそろ出ないと遅れそうだ。

4人で教室を出ると廊下の視線が一気に集まる。当たり前だ。俺の隣には「ビジュ強三銃士」がいるのだ。
そんな人たちと別に変わり映えしない顔の俺が一緒に歩いていると、だんだん居た堪れなくなってくる。
早く着いてほしい、体育館に。
あんなに行きたくなかった体育館にこんなに早く着きたいって思ったのは初めてだ。


「それにしても、高峰が声かけるなんて珍しいね」


早川が口を開く。意外だ。今日見た限りだと人に囲まれることが多くて、俺にも普通に話かけたんだと思っていた。


「柴野はいいやつだし」


なんだよ、それ。と笑うと早川と矢沢も笑っていた。
俺はサインペン貸しただけなんだけどなぁ。


「高峰ー。私たちと一緒に行こー!」


1人の女子が高峰に話しかける。メイクもヘアセットも完璧にしていて、見るからに一軍女子だ。後ろに何人か、その友達が立っている。


「やだ」


高峰はそれを一蹴した。
そんな対応でいいのか?女子泣かない?
女子たちは唖然としている。


「高峰がごめんねー」


矢沢が顔の前で手を合わせてその隣を通ると、唖然としていた女子たちの顔が笑顔になった。やっぱりイケメンパワー凄い。


「女子の誘い断ってよかったの?」


俺は高峰に聞く。俺は今までもこれからも、多分、いや絶対、女子に誘われることなんてない。


「うん。普通にああゆうのダルいし」
「ダルい?」
「ああゆうのって結局、俺たちと一緒に居る自分を見せたい、って言う自己満だから」


俺の問いに早川が答えた。その顔をみると、これで今までどんな苦労をしてきたのかすぐに分かった。俺と住む世界が違いすぎないか??


「俺はいいの?」
「柴野はそういうんじゃないだろ。見てたらわかる」


高峰は女子の誘いを断るのと同じスピードで俺に微笑んだ。
サラッと褒められたから、うまく反応できない。顔が熱い。多分、赤くなってる。高峰は自分のイケメンパワーを自覚してほしい。


「あ、ありがとう……」


なんとか言葉をしぼり出して高峰を見る。
俺、変な顔してない?いや、この三人と比べたら変な顔なんだけどさ。
そんな俺を高峰はぽかんと見つめる。あれ、やっぱり変な顔してた?


「た、高峰?」


俺が声をかけると高峰はハッとしたかと思うと、その場に座り込んだ。足に頭を埋めている。


「え、高峰?大丈夫?具合悪い?」
「いや、なんでもない……」


俺は隣に座って高峰の背中をさする。立ちくらみだろうか。俺がオロオロしていると、後ろで早川と矢沢がつぶやく。


「落ちたね」
「落ちたな」
「あ、なんか落としたの高峰。一緒に探そうか、俺」


俺があたりをキョロキョロ見回していると、後ろから笑い声が聞こえた。


「柴野、高峰はなにも落としてないよ。大丈夫」
「え、でもさっき2人が落ちたって……」
「なにか落としたっていうか、高峰が落ちたっていうか」
「落ちたって、どこに?」
「それはー、し……」


矢沢が言いかけたところで隣で座っていた高峰がバッと立ち上がる。


「矢沢!それ以上いうな!早川も柴野からかわないでいいから!」
「へいへい」
「わかったよ」


高峰の顔は耳まで赤い。結局なんだったんだろう。矢沢も早川もずっとニヤニヤして高峰を見ている。


「結局なんだったの?」
「んー、高峰に言うなっていわれたしなぁ。大丈夫、柴ちゃんはそのままでいいよ」


隣にいた矢沢に聞いたけど、これといった答えは返ってこなかった。
早川も微笑んで俺を見る。なんだその生温かい目は。


「早く行こ、柴野」
「ああ、うん」


高峰に腕をつかまれる。それは決して強いものではなく、むしろ優しい。俺は大人しくそれに着いていった。



隣の席のイケメンに、懐かれたかもしれない。
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