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隣の席のイケメンに懐かれた
朝の時間
しおりを挟むいつもSHRが始まる40分前には学校に着いている。これぐらいの時間は学校に行くまでの通学路も、校舎の中も人が少ない。いるのは、部活の朝練をしているひとぐらいだ。この時間が1番好きだ。
今日も1番乗りだろうと教室のドアを開けると、珍しく人がいた。窓から校庭を見ている。
「おはよう、早川」
「あ、柴野だ。おはよ」
早川恭弥。この学校内で「ビジュ強三銃士」と呼ばれるうちの1人だ。恐ろしいことに、この「ビジュ強三銃士」は全員このクラスにいるのだ。
「早いね。いつもこの時間なの?」
「うん」
早川の問いかけに答える。
早川はいつもこの時間にはこないはずじゃ?
「早川はこの時間珍しいね。どうしたの?」
「矢沢に朝練あるから一緒に登校してって言われたんだよ」
矢沢千秋。こちらも「ビジュ強三銃士」の1人だ。いつも元気で明るい印象だ。
「そうなんだ。矢沢って何部だっけ?」
「陸上部だよ。ほらあそこ」
早川はそういうと校庭の方を指差した。
そちらを見ると、矢沢が校庭をぐるぐる走っている。朝からあれほどの運動量、俺には考えられない。
早川は頬杖をついて、それを見守っていた。
「すごいな、矢沢。俺朝からあんな動けない」
「俺も。尊敬する」
俺と早川は目を合わせて笑う。相変わらず顔がいいな、早川も。
「そういえば、高峰は?」
「ああ、あいつならギリギリまでこないよ」
高峰ー高峰斗真も「ビジュ強三銃士」の1人だ。俺とたまたま席が隣で最近よく声をかけられる。早川と矢沢も高峰が紹介してくれた。
「たしかに、始業式の日もギリギリに来たっけ」
俺は始業式の日を思い出す。チャイムと同時に席に着いていた。
「早く来すぎると、女の子たちに囲まれるからね」
早川は平然と言う。俺もそんなこと言ってみたい人生だったよ。
でも、と早川が付け加える。
「柴野が早く来る、って知ったらあいつも早く来ると思うよ」
「え?なんで俺?」
「さあ」
早川はニヤっと笑う。そんな姿でも様になっているのだから、この世は不条理だ。
「試しに連絡してみる?」
そう言って早川は携帯を取り出し、電話をかけだした。
相手は高峰だろう。
「あ、もしもし高峰?今すぐ学校来れる?え、なんでって、柴野来てるよ。柴野ちょっとこっち来て」
早川に言われるがままに近づくと、携帯を寄越してきた。俺が首を傾げていると、早川は手を電話の形にして顔の近くに持ってくる。話せ、ということらしい。
「あ、えと、高峰?おはよう」
『しばの?おはよ。もうがっこういるの?』
絶対に寝起きだ。声がポヤポヤしている。
寝起きの高峰どんな顔なんだろう。
「うん、いるよ。高峰も来る?」
『いく』
「じゃあ待ってる」
『うん。だれともはなすなよ』
「うん。…………え?」
俺が聞き返したときには、もう電話は切れていた。寝ぼけているのだろうか。
「高峰なんて言ってた?」
「今から来るって。あと……」
「あと?」
「誰とも話すなって。誰かと間違えてるのかな」
俺が腕を組んで考え始めると、早川が笑った。
「多分間違ってないよ、柴野に言ってる」
「だからなんで俺?」
「さあ」
まただ。何か知っているのなら教えてほしいんだが。
早川はまた校庭にいる矢沢を眺めだす。
机に頬杖をついて、窓の外を眺めている、それだけで雑誌の表紙を飾れそうだ。
数分、早川と矢沢を眺めていると教室のドアがガラガラと勢いよく開いた。
「おはよ、柴野」
「おはよう、早かったね。高峰」
俺は高峰を見上げる。俺と高峰は頭ひとつ分くらい違うので、話す時は大体こうなる。
「ちょっと、俺もいるんだけど」
「いたんだ早川」
「いたんだってなんだよ。柴野いるって教えてあげたの俺だけど」
高峰と早川は言い合いを始めてしまった。俺は2人をまあまあ、となだめる。
「高峰ひどいよー。助けて、柴野」
早川が俺に抱きついてくる。俺はその頭をポンポンと撫でた。よくわからないがこうしておこう。それにしても早川の髪サラサラだなぁ。
「だめ」
高峰が俺から早川をベリっとはがし、俺を自分の方へ引き寄せる。
さっき起きたばっかりなのに、ばっちりセットしてある髪の毛からいい匂いがした。イケメンからいい匂いがする、って本当なんだ。
「柴野はこっち」
そう言って高峰は俺を抱きしめる。まだ寝ぼけているのだろうか。
「どうしたの高峰、まだ眠い?」
高峰の髪、めちゃくちゃしっかりセットしてあるから容易に触れない。
「前途多難だな、高峰」
「うるさい早川。ゆっくりでいいんだよ」
早川は俺と高峰を見て笑う。どこに笑う要素があったのだろうか。っていうか、ゆっくりでいい、って何?
高峰と早川の言い合いを見ていると、またドアが開いた。
「はよー。って、え!?高峰いんじゃん。珍し~」
矢沢は朝から声が大きいな。まあ、あんなに走っていた後ならそりゃそうかもしれない。
「あれ、柴ちゃんもいる。……あぁ、なるほどな」
矢沢は俺を見ると、納得したように頷いた。何か納得いく要素あったか?
矢沢が来たぐらいの時間から人が増えだした。そろそろSHRが始まる。
「柴野、席戻ろ」
「うん」
高峰が俺の手を引く。そんなことされなくても、きちんと自分の席に戻れるのだが、いちいち言うことでもないな、と思いそのまま着いていく。
キーンコーンカーンコーン。
今日の高峰はチャイムより先に座っていた。
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