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安田

game(1)

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 よくある学生向けの1Kマンション、ごくありふれた低い天井をバックに、この部屋の主の女が真っすぐに俺を見下ろしている。
 ベッドに背を預けて横たわる俺の上に跨って、何も身につけず、生まれたままの姿を晒して。軽く息を乱し、体温は仄かに熱い。
 そこにあるだろう意志の強い眉も、大きくて吊り気味の目も、ぷくりと膨らんだ唇も、不機嫌そうに噤んだ口元も。逆光と垂れ下がる髪のせいで、その表情はうかがえない。

 ーーのだが。
 直接見えなくても、俺にはこいつが今どんな顔をしてるのかなんて手に取る様に分かる。

「……ん、んん……は、あ」

 俺のガチガチに勃起したペニスを飲み込んで、めちゃくちゃ気持ちいいくせにそれを素直に認めることができなくて、全然気持ちよくないフリをしている。
 勝手に出る喘ぎ声を漏らさない様、きつく口を結んでいる。
 快楽に溺れているのを俺に悟られまいと、これ以上溺れる訳にはいかないと、必死に表情を硬くして耐えている。
 そして、親の仇を見るかのように、真っすぐに俺を睨みつけている。

 本能に従って欲望のままに快楽を貪りたい雌の顔と、それを否定し理性でねじ伏せようと抗うプライドの高い女の顔。
 その二つの間で葛藤し抵抗し苦悶し焦燥し、様々な感情を含んだその表情は複雑で、とてもじゃないが言葉では表すことは出来ない。ただ一つ言えるとしたら、どうしようもなく俺を煽るいやらしい顔をしている、ということだけだ。

「神成、気持ちいい?」

 仰向けになった俺の上に、神成が自ら足を広げ跨り、柔らかくもきつい膣口へとペニスを飲み込んでいる。
 その状況とこの光景だけで、十分イケる。だけど、敢えて俺は何でもない風を装い、歯を見せて嗤った。

「……は、っあ。あ、んたは……どうなのよ?」

 ぎゅっと目を細め、必死に冷静さを張り付け、そう噛みついてくる神成に、今度は自然と口角が弛んだ。
 この、意地でも自分が感じているとは認めたくないっていうスタンス。ーー本当、たまんねえ。

「全っ然、気持ちよくないんだけど。もっとちゃんと動けよ」

 嘘。超気持ちいい。ってか、ヤバイ。
 神成の中に入ってるだけでぎゅうぎゅうと締め付けられイキそうになるっていうのに、気持ちよくない筈がない。だけど、神成は俺の言葉そのままに受け取り、ムッと眉を顰めた。
 売り言葉に買い言葉。すぐに対抗意識を燃やすこの負けず嫌いの性格は、扱いやすいにも程がある。

「う、るさい。……言われなくても、わかってる。……ふっ」

 神成は俺をきっと睨みつけてから、覚悟を決めたように腹についた手に力を込めた。ペニスが抜けるぎりぎりのとこまで腰を持ち上げ、深く落とす。ぱちんと肌がぶつかる音が響くと同時に、神成が高い声を上げた。

「……っく。ほら、もっと。一回だけじゃなくて」

「わ、かってる、ってば!……んん、はあっ!」

 神成が仰向けに横たわる俺に跨って、必死になって腰を振っている。本人としてはかなり必死なんだろうけど、その動きは拙く緩い。わざと焦らしてるんじゃないかと、疑うレベルだ。
 が、それもまたいい。
 ぐちゅりぐちゅりと、その都度繋がった部分からいやらしい音が零れ、神成が自ら腰を振って感じていることでこの音が出てると思うと、股間だけでなく頭の中までも血が滾る。

「神成、イケそう?」

 上体を軽く起こし、神成の頬に手をそっと当て優しく問いかける。はっはっ、と小さく息を吐き身体を上下させている神成は、涙をいっぱい溜めた目で至近距離から俺を射抜き、口をぎゅっと引き結んだ。
 ゾクゾクっと震えが下半身から頭の先に突き抜ける。
 ーーもっと、もっと。こいつを虐めて、余裕を奪ってやりたい……俺とのセックスで、こいつの頭の中をいっぱいにしてやりたい。

「俺が手伝ってやろうか?」

 そう言って繋がったままの部分に手を這わすと、腹についた手でその手を取られた。

「あっ………だめっ……私が、やるの」

 一瞬触れただけでビクンと身体が跳ねたくせに、まだ抗おうとする。さっさと俺の手に堕ちて、その身を預けた方が楽になれるっていうのに。何度も何度もそれを繰り返して最終的にはいつも陥落する癖に、学習能力がないと言うか、諦めが悪すぎると言うか。

 常に俺よりも上位でいようとする。主導権を自分が握っていないと気が済まない。
 神成のその性格は、長所であり短所だ。
 この体位だって、神成が自分でリードするために(俺を肉体的にも精神的にも見下ろして俺に何もさせない為に)しているんだろう。プライドという鎧を全身に纏って自分のアイデンティティを守っている。
 それが、神成怜奈という女だ。
 今だって多分、自ら腰を振ることで俺を支配しコントロールしているつもりなのだろう。

 ーーこいつは本当に、どこまでも、何もわかっちゃいない。
 そんなプライドの高い神成に騎乗位をさせているのは、だ。
 俺が・・、神成が自ら俺に跨り、腰を振る様に仕向けているのだ。
 根本的な主導権を握っているのは、自分ではないということに気づかず、俺の手の内で踊らされている。
 頭が良く、高飛車で、愚かで、可愛い。俺のーー

「じゃあ、ちゃんと動けって。そんなんじゃお前も俺もイケねーだろ」

 上半身をベッドに預け、両手を広げてごろんと横たわる。ほら、動けよ、と言葉にしないでそう催促すると、神成はさっきよりも幾分か大きく身体を揺らし始めた。
 水音と、肌のぶつかる音と、神成のいつもより高いくぐもった声が聞こえる。
 見上げた先には、やはり逆光になってよく見えない神成の顔と、その間で踊る様に揺れる大きすぎる二つの胸。無意識のうちに手が伸びそうになって、ぐっと拳を握った。

「胸、めっちゃ揺れてる。てか、跳ねてる。すげー光景。エロすぎ」

「ば、ああんっ、か!……み、るな……あん、ああっ」

「ほら、動き止まってる。自分でできないなら俺がやろうか?それはやなんだろ?胸、自分で押さえてみ。そう、両手で」

 俺の腹についてた神成の手を誘導して、自分で自分の胸を抑えさせる。自ら腰を振ることで余裕の欠片もない神成は、俺の言うことに素直に従い、大きすぎる自分の胸をその小さな手で覆った。
 そして、俺に屈服したくないためだけに、また俺の上で腰を振り続ける。

 ーーはあ、なんなんだよ、この女。本当にたまんねえな。
 ため息を隠す様にゴクリと唾をのみ、神成の括れた腰をぐっと掴んだ。

「……ん、ああっ!……あ、あ、ああっ、やあ!」

 神成が腰を降ろしたところに動きを合わせて、下からぐっと突き上げる。
 ばつんっと一際大きな音が響いた。
 このまま神成のやりたいようにやらせてやっても良かったが、いい加減もどかしくなってきたのでもう止める。生殺しのような状態をこれ以上続けさせるのは、俺にとってあまり得策ではない。

 そういう意味では、神成の勝ちとも言える。ーー絶対にそんなこと言ってやらないけど。
 神成が両手を自分の胸に当てているのをいいことに、下生えに隠された花芽に手を伸ばす。神成は碌な抵抗もできずに、声を荒げて俺の上で身体を大きくしならせた。

「神成、止まってる。ちゃんと動けって」

 動く余裕をなくすために花芽を触っているのだから、神成が動けなくなるのは当たり前だ。むしろここで何も感じずに動かれた方が精神的に辛い。神成は俺の言葉にキッと眉根を寄せ、不快感を露わにした。

「わ、かってる」

 両胸を抑え、上から俺をきつく睨みつけながら、神成がゆっくりと腰を上げた。花芽から指が離れないよう、神成の身体にピタリと手を張り付ける。愛液にまみれて濡れそぼった下生えに触れ、それを塗り付けるように手のひら全体で捏ねた。
 快楽に酔い、それに耐え、隠そうとするも隠し切れず、溺れ、そして自分がこうなったのは俺のせいなのだと、怒りを宿したその瞳で俺を責めたてる。
 神成の瞳一杯に、俺だけが映し出されるこの瞬間が、最高にクル。

 達成感とも満足感とも違う、だけどそれに限りなく近い感情が湧き上がり、動かなくてもそれだけで俺はイキそうになる。それ位には、俺も神成に溺れてる自覚がある。

 ーーそんな予定は、全くなかったはずなんだけどな。

 一人自嘲して、それを誤魔化す様に腰をまた打ち付けた。

「や、すだ!……やすだっ!……ああっ!」

 神成が抽送を止め、俺の名前を何度も呼ぶ。絶頂が近い印だ。
 胸を抑えていた手を伸ばされ、誘われるように身体を起こす。対面座位の形になり神成の尻を掴むようにして、腰を振った。ベッドのきしむ音と神成の喘ぎ声が次第に大きくなる。

「怜奈、命令して」

 至近距離で見上げるように神成の顔を覗き込む。
 頬が赤い。眉は下がり、唇をだらしなく開け、涙で潤んだ目は虚ろに揺れ、泥酔しているかのようだ。
 いつもの神成からは想像もできない、無防備すぎる雌の顔。

「ああっ、あっ、やすだあ……一緒にイキたい………もっと、動け、馬鹿」

「……りょーかい」

 命令というよりは可愛いおねだりに、思わず笑いそうになる。
 神成をベッドに倒し、お尻を抱えたまま深く挿入すれば、神成の身体が大きくしなった。

「ああっ!やあ、ああっ……あ、あ」

 ぐっぐっと何度も突き上げ、それに合わせて神成が喘ぐ。何かを求めるように宙に浮いた両手に誘われ、神成に覆いかぶさると、首の後ろに手を回されそのまま引き寄せられた。
 口を開けたまま唇を合わせ、どちらともなく舌を絡める。
 普段お堅い神成が、飢えた獣の様にガツガツと食らいついてくるキスは、嫌いじゃない。俺の心のどこかが、ひどく満たされたような気になる。
 こうやって何度も何度も俺の名前を呼ばれるのも、嫌いじゃない。

 ガツガツと激しく腰を打ち付けると、神成が息苦しそうに口を離した。それは許さないとばかりにすぐにまたその唇を塞いでやる。神成は目線だけ嫌そうに向けるも、俺を拒まなかった。それをいいことに喘ぎ声もうめき声も、呼吸さえもできない様に、その全てを呑み込んだ。
 このまま酸欠で死ねばいいんだ、こんな女。
 俺の与える快楽に溺れて、俺を恨みながら、俺だけを見てーー

「……っう、く」

 ぐっと力強く腰を押し付け、溜まりに溜まったものを全て吐き出した。神成の背中が大きくしなり、ビクビクと膣内が収縮を繰り返しているのがわかる。一度口を離し大きく深呼吸してから、また唇を合わせた。挿入したまま、倒れ込むように神成の上に覆いかぶさり、豊満すぎる胸に頭を乗せる。
 通常よりも早いだろう神成の鼓動を感じていると、徐に髪の毛を撫でられた。
 セックスから得られるものとは全く違うが、同じくらい気持ちいい。
 本当にペットの犬を愛でるかのようなその指使いに、自然と瞼が重くなってくる。

 さっきは死ねばいいなんて言ったけど、反対だ。俺がこのまま、死んでしまいたい。
 神成に入ったまま、神成に甘やかされて、神成の柔らかい身体に包まれながら。真っ白で真っ黒な世界へと堕ちて、俺を終わりにしたい。

「ゴム。早く外して」

 軽く微睡んでいると、パシンと頭を叩かれた。素っ気ない言い方の割に棘のない神成の口調に、くすぐったいような気持ちになる。こんな神成を見せてくれるようになったのは、つい最近だ。前まであった俺に対する堅固な壁が綻んできている。本人にその自覚はないようだが、明らかに以前とは態度、というか雰囲気が違う。
 そのことが嬉しい。

 もっと俺に心を開け。俺だけに気をゆるし、執着して、依存して、俺に堕ちろ。

 そして、完全に俺のモノになった時、ばっさりと切り捨ててやるのだ。

 その時、こいつがどんな顔をするのか。その瞳にどんな色を滲ませて、どんな目で俺を見るのか。早く見たい。

「もちょっと、このまま入れてたい」

「駄目。コンドームは適切に使わないと避妊の確率が下がるってこと、知ってるでしょ?あんたのが小さくなってその隙間から精子が漏れたら、最中にゴムを使ってたって全く意味ないんだから」

「保健体育の授業かよ。じゃあもう一回大きくするから、それでいい?」

 今度白衣着させて、そういうプレイもいいな。
 そんな馬鹿な事を考えながら、胸に顔を埋めたまま、胸の尖りを指でつまむ。少し刺激しただけで簡単に勃起する乳首は、いやらしいにも程がある。

「ん、あっ。こら、駄目!止めなさい!ちょっ」

 口では駄目だと言いながらもその声は甘い。相変わらず快楽に弱く、チョロすぎて笑ってしまう。イッたばかりだと言うのにもう勃起しかけてる俺も、人のことは言えないが。このまま神成を丸め込んで、抜かないでもう一回やってしまおうか。

「や、安田!本当に駄目!」

 と思ったが、頭をがっと掴まれ強引に離された。どうやら本気で嫌がっているらしく、神成の目は怒りと不安で揺れていた。そのことに俺の頭もスッと冷える。
 快楽に流されやすいのは神成だけじゃない。俺もだ。こいつとのセックスは、俺をおかしくする。

「はいはい、わかったよ。じゃあ、付け直してもう一回な」

「!っな!なんで、そんなこと。もう、したんだから」

「だって俺また勃っちゃったし、神成だってしたいだろ?」

 腰を引き抜き、ゴムを外す。薄緑色のゴムの中には俺が出した白濁が溜まっている。

 以前中出しした時、神成は妊娠しなかった。どうやらあの時、妊娠しない確信があったらしい。今日もこれで避妊はばっちり成功だ。
 神成の避妊に対する自己防衛に隙はない。快楽に弱くすぐ流されるくせに、最終ラインのガードはとてつもなく硬い。妊娠の可能性は限りなくゼロに近い。

 そのことに、面白くない気持ちになる。
 妊娠なんてしたら神成もだがもちろん俺も困ることは分かってる。子供なんて現実味がないし、欲しいとも思わない。
 だけど神成の中で果てる時、孕めばいいのにと思ってる自分がいるのも確かだった。
 そして、それはただの現実逃避だということもわかってる。

 新しくゴムを付け替え、正常位の形で挿入する。神成の中は程よく濡れ、程よく俺を締め付け、程よく温かい。

 ーーああ、本当にこのまま死んでしまいたい。

 神成の瞳を見たくなくて、柔らかな胸に顔を押し付けたまま、俺は緩やかに腰を振った。




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