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その後・番外編
嘘と真実と過去と未来(2)
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と、下唇に鋭い痛みが走った。
「っつ」
反射で唇を離すと、はあはあと荒い呼吸を繰り返し顔を真っ赤にさせた怜奈に睨まれた。
「止めて!どいて!最低っ!怜央の前で、こんな……こんなこと」
「寝てる」
「……え?」
「もう寝てる」
目を丸くした怜奈が、ぎこちなく弟の方に視線を向け、動きを止めた。俺の言葉通り、テーブルに突っ伏したまま、ぐーぐーとイビキをかいて寝てる弟を確認したのだろう。
「……あ、ほんとんん、ふ」
怜奈の顎をぐいっと俺の方に戻し、唇を合わせる。ちゅぱちゅぱとわざと音を立てるように食んでいると、あっという間に怜奈の身体から力が抜けていった。本当にチョロすぎて笑ってしまう。ついさっきまでの全力の抵抗は一体何だったんだという程、怜奈の身体も心も、今はもう俺を拒絶していない。
本当に見せるわけねーだろ、ばーか。弟にも、他の誰にも、見せてたまるか。
手首を離し拘束を解くと、怜奈の身体がくたりと沈んだ。床に手をつき、腰を浮かせ、キスも唇を重ねるだけの軽いものを繰り返す。触れるか触れないかのキスをして、ふっと顔を離すと、怜奈がそっと目を開けた。
涙に濡れた二つの丸をじっと見つめる。二つの丸に問いかける。
怜奈はもどかし気に瞳を揺らしてから、それをそっと閉じた。俺の首に両腕を絡め、俺を引き寄せながら。
「ん、んん、ふぅ、はっ」
角度をつけ、深い口づけを交わす。一瞬にして怜奈を纏う匂いが濃く、甘くなる。俺のよく知る、発情した雌の匂いだ。
怜奈の頬を撫で、耳の淵をさすり、首筋、鎖骨へと手を滑らせる。怜奈のふくよかすぎるおっぱいの輪郭を撫でてから、勢いよくブラジャーを服ごとたくし上げた。露わになった胸も、上を向いた突起も無視して、身体の正中線を舌で辿る。窪みを舌でつつきながらジーンズを寛げ、邪魔なそれを引き抜いた。
「うわ、びっしょびしょ」
「あっ、んんん!」
差し込んだ指は一切の抵抗もなく、ぬぽりと招き入れられた。ぐるりと回してから指を引き抜くと、出て行かないで、もっと触ってくれとそこに懇願され、仕方なくまた突っ込んでやる。
「怜奈、言えよ。いつからこうなってる?俺まだどこも触ってないのに、なんでこんなに濡れてんだよ」
ぐぽんぐぽんとわざと大きな音を立てながら、ばらばらと指を動かす。泡立つほどに溢れた蜜を指に絡め、見せつけるように怜奈の腹でそれを拭うと、滑らかな肌にいやらしく反射する。ふーっとそこに息を吹きかけると、怜奈がびくんと身体を揺らした。
「や、やめ」
「怜奈は見られると興奮するんだよな。まさか弟の前でもとは思わなかったけど」
「ち、ちが」
「何が違うんだよ」
太腿を大きく広げ、足の付け根に頭を埋める。襞からこぼれた愛液を舐めとり、泉の中心をじゅるじゅると吸いたてると、怜奈の放つ匂いが濃さを増した。
「あっやあああぁ!んんー」
「声抑えねーと弟起きるぞ。あ、違うか。弟に聞かせるために、わざとそんなによがってんのか?」
「ちが!ん、んんふ、ぅ……うう」
慌てて怜奈が両手で口を覆い、必死に声を抑える。小さくなった喘ぎ声にとって代わる様に、わざと音を大きく立て、後から後から湧き出る蜜を吸いたてる。相変わらず言葉とは裏腹に、身体は与えられる快楽に弱く正直だ。大抵の場合、それが可愛く感じるものの、今はムカついてしょうがなかった。
「……この、嘘つき淫乱女が」
前の男とか、考えても仕方ない。そんなことに意味なんて何もないのに、頭の隅に貼り付いて胸糞悪い。
なんで前の男は弟に紹介して俺は隠すんだ、とか。前の男は俺とは全然違うタイプの男だ、とか。
そんなん、どーでもいいだろ。そう頭ではちゃんと理解してるのに、どうしても割り切れない。
「あ、ふぅ、んんー!やぁ、やぁ!!」
ぷくりと膨らんだ突起をじゅるるっと強く吸うと、怜奈の身体が大きくのけ反った。ぎゅっと太腿で頭を挟まれ、それを力で押し返す。床につくほどに太腿を広げ、攻め立てるようにそこを吸い続けると、怜奈のお尻がびくびくっと何度も浮いた。
「ほら、イケよ。弟に、お前の憧れの大好きなお姉ちゃんは、気持ち良いことが大好きなビッチ女なんだって。見せつけてやれよ」
「あぁぁぁっ!やだっ!やだやだ!」
「何が嫌なんだよ。お漏らししたみたいに濡らしやがって。口だけ女が」
「あっあああっ!は、ああっ!カイ!」
がくがくと腰を揺らした怜奈が、がしっと俺の頭を掴み、無理やり引きはがした。「なにすんだ」と顔を上げれば、膨よかな胸にぎゅっと抱き寄せられ、穏やかな暗闇に埋め尽くされる。
「……カイと、一緒じゃなきゃ、やだ」
その言葉に、びりりっと耳元から脳みそから血管を辿って全身が痺れ、いや震え、呼吸が止まった。
「カイで、イキたい」
「……クソッ」
どうしてこの女はいつも、最悪のタイミングで最悪な事を言うのか。
乱暴に怜奈の身体を引きはがし、すぐ後ろにあるベッドに上半身を押し倒す。腰を持ちあげ、乱暴にズボンを寛げると、性急に勃ちあがったペニスを差し込んだ。
「あっああっ、あぁぁぁーーー!」
「……このっ、クソ女っ」
込み上げてくるものをぶつける様に、無我夢中で腰を打ち付ける。何度も、何度も。怜奈の腰を掴み引き寄せると、腰に回った太腿が力強く俺を挟んだ。
「あっあっ!すきっ、すきぃ!んん、ふ、うーー」
乱暴に唇を合わせ、怜奈の言葉を呑み込む。普段は心地良く響くその言葉だが、今は聞きたくなかった。
好き、ってなんだよ。
セックスがそんなん好きか?気持ちいいのがそんなに好きか?気持ち良ければ誰でも、何でもいいのか?
消えたようで心の奥隅にずっと佇んでいたどす黒い靄が、じわりじわりと侵食していく。
怜奈が小さな口を限界まで開け、俺を求めるかのようにはしたなく舌を突き出し、そして形振り構わずに絡めてくる。互いの絡んだ唾液が口から溢れ、怜奈の頬を穢す。ばつんばつんと休むことなく抽送を繰り返すと、腰にまわった怜奈の足に更に力が入った。これ以上は無理だという位に、怜奈の奥を突く。
怜奈をぐちゃぐちゃに汚したい。
怜奈の全てを俺でいっぱいにしたい。
絶対にできないと分かっているからこそ、そうしたいと強く望んでしまうのはなぜだろう。
「あっ、はあん!んん、んー」
弟の知っている怜奈を、昔の男が知っている怜奈を、俺は知らない。そんなもん知らなくてもよかった。知りたいなんて思ったことなかった。
ーーだけど、どうせ知るなら怜奈の口から聞きたかった。隠すってことは、知られたくない何かがあるからだろう?
「あっ!んふうっ!」
俺もベッドに乗り上げ、怜奈の上に完全に覆いかぶさる。身体を揺らす度にベッドが悲鳴をあげるが、そんなものを気にする余裕は微塵もなかった。
……くそっ、くそっ!
唇を押し当てながら八つ当たりする様に腰を打ち付けていると、怜奈にぎゅっと抱きしめられた。俺に縋る様に力強く、なのに俺を包み込むように柔らかく。ふっと顔を離すと、薄目を開けた怜奈と目が合い、ドキリとする。そして快楽に蕩け潤んだ瞳が、ふわっと曲線を描いた。
「カイ、好き」
ぶわわわっと全身が粟立ち、居たたまれず視線を外した。
……くそ。だから最悪だって言ってんだ。
口だけだとしても、それが嘘だとしても、その言葉一つで全てをなかったことにしやがって。いや、怜奈じゃなくて俺か。俺が怜奈の言葉一つで、満たされてしまうのか。
結局、どうやっても俺は怜奈の上には立てない。どんなに俺の方が物理的な力が強くたって、主導権は怜奈が握っていることは変わらない。絶対にそれが覆ることはないと、何度でも思い知らされる。
「あっああっ!やっぁぁイク!カイ!カイんん、ふぅんんんー」
また唇を重ね、腰を打ち付ける。今度はただ抽送を繰り返すだけでなく、俺の知ってる怜奈の良い所を狙って、何度も、何度も腰を振る。
角度をつけ腹の内側を突いていると、程なくして怜奈が果てた。それを追うように、俺も我慢するのを止め、本能のままに解放する。
何もないのと、全てが満たされてるってのは、正反対のようで全く一緒なのかもしれない。
ベッドの軋む音も、肌がぶつかる音も、もうしない。
互いの荒い呼吸と、弟の間抜けな寝息だけが、天井の低いワンルームを支配していた。
◇
簡易布団を敷き、怜奈の弟をそこに寝かせてやる。相変わらず弟は呑気に口をポカンと開けたまま、ぐーすか眠り続けたままだ。その顔はやたら幼く、庇護下にある歳の離れた弟だというのも頷ける。
「んじゃ、俺帰るわ」
「え?」
ポケットにスマホと鍵を入れ立ち上がると、怜奈が弟と同じような間抜け顔を向けてきた。思わず、ぶっと噴き出す。兄弟ってやつは、顔だけでなく表情や仕草まで似てしまうものなんだろうか。普通がどうだか知らねえけど、この二人はよく似てる。それを見つける度に、胸がくすぐったくなって、なのに少しイラついたりもして、落ち着かない。これが何ていう感情なのかは知らない。知るのはもっと先でいい。
「え?って。泊まってっていーのかよ」
「あ、いや、それは」
「じゃ、ベッドでもう一回する?」
「しない!バカ!もうっ帰れ!」
抱えていた枕を投げつけられ、それを片手で受け止める。慌てて否定する怜奈がおかしくって、くくっと肩を震わせると、怜奈が唇を尖らせて睨んできた。
ああ、これこれ。
でろっでろに蕩けまくったセックスの後に見せる通常運転のツンがまた、最高にたまんねえんだよな、とか。俺も相当、性根がひん曲がってる。
「んじゃ」とリビングから出て行こうと背中を向けると、アウターの裾をくいっと引かれた。怜奈がすぐ後ろで大きく息を吸い、聞こえるか聞こえないくらいの小さい声で呟く。
「……明日、怜央が帰ったら、また来てほしい」
……ったく。無意識なのか、計算なのか。予期せずデレを投下してくるから、タチが悪い。
はあーっと大きく息を吐くと、それを否定だと捉えたのか「あ、嘘。やっぱ今のなし」と慌てて否定された。身体を反転させ向き合い、真上から怜奈を見下ろす。
「また嘘つくのかよ」
怜奈がはっと顔をあげ、下唇を噛んだ。そして、意志の強い瞳で真っ直ぐに見返される。
「ごめん、嘘じゃない」
黙ったまま視線を合わせ、その先を促す。俺の意図に気付いた怜奈が噛んでいた唇をわなわなと震わせ、少しだけ突き出した。
「……カイと一緒にいたい」
それでも口を閉ざしていると、怜奈が「カイが好きだから」と続けた。ついた嘘をチャラにする気なんてさらさらない。ないのだが、無意識のうちに頬が緩みそうになる。
「ふーん。どうせ口だけだろ?俺の存在なんて隠しておきたいくらいなんだし」
「だから違うって!結果的に隠してたみたいになっちゃったけど、本当にそんなつもりはなかったの。怜央って結構繊細で神経質で、それに私のことになると途端に心配性になるから」
事前にそう聞いていたら、そんなもん理由になるかって突っぱねてたかもしれないが、弟と実際に会った今ならそれも納得できる。まあ、心配性っつーより、こいつのは重度のシスコンだな。確かに、俺のことを打ち明けてたら、受験勉強どころじゃなかっただろう。結局、試験前日にバレた訳で、残念ながら落ちてるかもしんないけど。
「俺にも内緒にしてたのは?」
弟に言う言わないじゃなく、やっぱりそこが引っかかる。顎をしゃくると、怜奈が上目遣いで「……だって、あんたも心配性でしょ?」と言った。
心配性……違うと言いたいが、じゃあ何なのだと詰め寄られたら嫌だから、そういうことにしておくか。自分自身、怜奈に向ける執着とも取れる感情に、名前をつける勇気はまだ出ない。多分もっと、ずっと先の未来にならないと無理だろう。
「怜央の受験が終わったら、両親も呼んで顔合わせも兼ねた食事会でもって、思ってたの。ちょっといいレストランとか予約して」
「……真面目かよ」
そんでもって、誠実か。へらっと笑うと、怜奈もふっと口元を緩めた。
ーー今はこれで十分だ。
僅かな街頭に灯された、しんと寝静まった深夜の住宅街。日中よりも遥かに冷えた空気が、俺の頬を容赦なく突き刺す。
が、温かい。
夜空を見上げれば、控えめに光る星がちらほら。オリオンのベルトがどうとかこうとか、怜奈が言ってたっけ。星なんて全っ然区別つかねえ。
あれか?それとも、こっちか?
でも、この中のどれかがそうだということは、つまり見えるもん全部がもうオリオンってことでいいんじゃねえのか?
そんなこと怜奈に言ったら速攻で怒られるだろうな。
「そんな訳ないじゃない」そう、眉を吊り上げ、頬を膨らませる怜奈が容易に想像つき、くくっと一人声を出して笑った。
「ふんふ~ん、あなたと二人、あの星座のように~。か」
大分遅れて回ってきたアルコールのせいだということにして、一人陽気に鼻歌を刻む。
早く明日にならねえかな、と柄にもなく胸を躍らせながら。
「っつ」
反射で唇を離すと、はあはあと荒い呼吸を繰り返し顔を真っ赤にさせた怜奈に睨まれた。
「止めて!どいて!最低っ!怜央の前で、こんな……こんなこと」
「寝てる」
「……え?」
「もう寝てる」
目を丸くした怜奈が、ぎこちなく弟の方に視線を向け、動きを止めた。俺の言葉通り、テーブルに突っ伏したまま、ぐーぐーとイビキをかいて寝てる弟を確認したのだろう。
「……あ、ほんとんん、ふ」
怜奈の顎をぐいっと俺の方に戻し、唇を合わせる。ちゅぱちゅぱとわざと音を立てるように食んでいると、あっという間に怜奈の身体から力が抜けていった。本当にチョロすぎて笑ってしまう。ついさっきまでの全力の抵抗は一体何だったんだという程、怜奈の身体も心も、今はもう俺を拒絶していない。
本当に見せるわけねーだろ、ばーか。弟にも、他の誰にも、見せてたまるか。
手首を離し拘束を解くと、怜奈の身体がくたりと沈んだ。床に手をつき、腰を浮かせ、キスも唇を重ねるだけの軽いものを繰り返す。触れるか触れないかのキスをして、ふっと顔を離すと、怜奈がそっと目を開けた。
涙に濡れた二つの丸をじっと見つめる。二つの丸に問いかける。
怜奈はもどかし気に瞳を揺らしてから、それをそっと閉じた。俺の首に両腕を絡め、俺を引き寄せながら。
「ん、んん、ふぅ、はっ」
角度をつけ、深い口づけを交わす。一瞬にして怜奈を纏う匂いが濃く、甘くなる。俺のよく知る、発情した雌の匂いだ。
怜奈の頬を撫で、耳の淵をさすり、首筋、鎖骨へと手を滑らせる。怜奈のふくよかすぎるおっぱいの輪郭を撫でてから、勢いよくブラジャーを服ごとたくし上げた。露わになった胸も、上を向いた突起も無視して、身体の正中線を舌で辿る。窪みを舌でつつきながらジーンズを寛げ、邪魔なそれを引き抜いた。
「うわ、びっしょびしょ」
「あっ、んんん!」
差し込んだ指は一切の抵抗もなく、ぬぽりと招き入れられた。ぐるりと回してから指を引き抜くと、出て行かないで、もっと触ってくれとそこに懇願され、仕方なくまた突っ込んでやる。
「怜奈、言えよ。いつからこうなってる?俺まだどこも触ってないのに、なんでこんなに濡れてんだよ」
ぐぽんぐぽんとわざと大きな音を立てながら、ばらばらと指を動かす。泡立つほどに溢れた蜜を指に絡め、見せつけるように怜奈の腹でそれを拭うと、滑らかな肌にいやらしく反射する。ふーっとそこに息を吹きかけると、怜奈がびくんと身体を揺らした。
「や、やめ」
「怜奈は見られると興奮するんだよな。まさか弟の前でもとは思わなかったけど」
「ち、ちが」
「何が違うんだよ」
太腿を大きく広げ、足の付け根に頭を埋める。襞からこぼれた愛液を舐めとり、泉の中心をじゅるじゅると吸いたてると、怜奈の放つ匂いが濃さを増した。
「あっやあああぁ!んんー」
「声抑えねーと弟起きるぞ。あ、違うか。弟に聞かせるために、わざとそんなによがってんのか?」
「ちが!ん、んんふ、ぅ……うう」
慌てて怜奈が両手で口を覆い、必死に声を抑える。小さくなった喘ぎ声にとって代わる様に、わざと音を大きく立て、後から後から湧き出る蜜を吸いたてる。相変わらず言葉とは裏腹に、身体は与えられる快楽に弱く正直だ。大抵の場合、それが可愛く感じるものの、今はムカついてしょうがなかった。
「……この、嘘つき淫乱女が」
前の男とか、考えても仕方ない。そんなことに意味なんて何もないのに、頭の隅に貼り付いて胸糞悪い。
なんで前の男は弟に紹介して俺は隠すんだ、とか。前の男は俺とは全然違うタイプの男だ、とか。
そんなん、どーでもいいだろ。そう頭ではちゃんと理解してるのに、どうしても割り切れない。
「あ、ふぅ、んんー!やぁ、やぁ!!」
ぷくりと膨らんだ突起をじゅるるっと強く吸うと、怜奈の身体が大きくのけ反った。ぎゅっと太腿で頭を挟まれ、それを力で押し返す。床につくほどに太腿を広げ、攻め立てるようにそこを吸い続けると、怜奈のお尻がびくびくっと何度も浮いた。
「ほら、イケよ。弟に、お前の憧れの大好きなお姉ちゃんは、気持ち良いことが大好きなビッチ女なんだって。見せつけてやれよ」
「あぁぁぁっ!やだっ!やだやだ!」
「何が嫌なんだよ。お漏らししたみたいに濡らしやがって。口だけ女が」
「あっあああっ!は、ああっ!カイ!」
がくがくと腰を揺らした怜奈が、がしっと俺の頭を掴み、無理やり引きはがした。「なにすんだ」と顔を上げれば、膨よかな胸にぎゅっと抱き寄せられ、穏やかな暗闇に埋め尽くされる。
「……カイと、一緒じゃなきゃ、やだ」
その言葉に、びりりっと耳元から脳みそから血管を辿って全身が痺れ、いや震え、呼吸が止まった。
「カイで、イキたい」
「……クソッ」
どうしてこの女はいつも、最悪のタイミングで最悪な事を言うのか。
乱暴に怜奈の身体を引きはがし、すぐ後ろにあるベッドに上半身を押し倒す。腰を持ちあげ、乱暴にズボンを寛げると、性急に勃ちあがったペニスを差し込んだ。
「あっああっ、あぁぁぁーーー!」
「……このっ、クソ女っ」
込み上げてくるものをぶつける様に、無我夢中で腰を打ち付ける。何度も、何度も。怜奈の腰を掴み引き寄せると、腰に回った太腿が力強く俺を挟んだ。
「あっあっ!すきっ、すきぃ!んん、ふ、うーー」
乱暴に唇を合わせ、怜奈の言葉を呑み込む。普段は心地良く響くその言葉だが、今は聞きたくなかった。
好き、ってなんだよ。
セックスがそんなん好きか?気持ちいいのがそんなに好きか?気持ち良ければ誰でも、何でもいいのか?
消えたようで心の奥隅にずっと佇んでいたどす黒い靄が、じわりじわりと侵食していく。
怜奈が小さな口を限界まで開け、俺を求めるかのようにはしたなく舌を突き出し、そして形振り構わずに絡めてくる。互いの絡んだ唾液が口から溢れ、怜奈の頬を穢す。ばつんばつんと休むことなく抽送を繰り返すと、腰にまわった怜奈の足に更に力が入った。これ以上は無理だという位に、怜奈の奥を突く。
怜奈をぐちゃぐちゃに汚したい。
怜奈の全てを俺でいっぱいにしたい。
絶対にできないと分かっているからこそ、そうしたいと強く望んでしまうのはなぜだろう。
「あっ、はあん!んん、んー」
弟の知っている怜奈を、昔の男が知っている怜奈を、俺は知らない。そんなもん知らなくてもよかった。知りたいなんて思ったことなかった。
ーーだけど、どうせ知るなら怜奈の口から聞きたかった。隠すってことは、知られたくない何かがあるからだろう?
「あっ!んふうっ!」
俺もベッドに乗り上げ、怜奈の上に完全に覆いかぶさる。身体を揺らす度にベッドが悲鳴をあげるが、そんなものを気にする余裕は微塵もなかった。
……くそっ、くそっ!
唇を押し当てながら八つ当たりする様に腰を打ち付けていると、怜奈にぎゅっと抱きしめられた。俺に縋る様に力強く、なのに俺を包み込むように柔らかく。ふっと顔を離すと、薄目を開けた怜奈と目が合い、ドキリとする。そして快楽に蕩け潤んだ瞳が、ふわっと曲線を描いた。
「カイ、好き」
ぶわわわっと全身が粟立ち、居たたまれず視線を外した。
……くそ。だから最悪だって言ってんだ。
口だけだとしても、それが嘘だとしても、その言葉一つで全てをなかったことにしやがって。いや、怜奈じゃなくて俺か。俺が怜奈の言葉一つで、満たされてしまうのか。
結局、どうやっても俺は怜奈の上には立てない。どんなに俺の方が物理的な力が強くたって、主導権は怜奈が握っていることは変わらない。絶対にそれが覆ることはないと、何度でも思い知らされる。
「あっああっ!やっぁぁイク!カイ!カイんん、ふぅんんんー」
また唇を重ね、腰を打ち付ける。今度はただ抽送を繰り返すだけでなく、俺の知ってる怜奈の良い所を狙って、何度も、何度も腰を振る。
角度をつけ腹の内側を突いていると、程なくして怜奈が果てた。それを追うように、俺も我慢するのを止め、本能のままに解放する。
何もないのと、全てが満たされてるってのは、正反対のようで全く一緒なのかもしれない。
ベッドの軋む音も、肌がぶつかる音も、もうしない。
互いの荒い呼吸と、弟の間抜けな寝息だけが、天井の低いワンルームを支配していた。
◇
簡易布団を敷き、怜奈の弟をそこに寝かせてやる。相変わらず弟は呑気に口をポカンと開けたまま、ぐーすか眠り続けたままだ。その顔はやたら幼く、庇護下にある歳の離れた弟だというのも頷ける。
「んじゃ、俺帰るわ」
「え?」
ポケットにスマホと鍵を入れ立ち上がると、怜奈が弟と同じような間抜け顔を向けてきた。思わず、ぶっと噴き出す。兄弟ってやつは、顔だけでなく表情や仕草まで似てしまうものなんだろうか。普通がどうだか知らねえけど、この二人はよく似てる。それを見つける度に、胸がくすぐったくなって、なのに少しイラついたりもして、落ち着かない。これが何ていう感情なのかは知らない。知るのはもっと先でいい。
「え?って。泊まってっていーのかよ」
「あ、いや、それは」
「じゃ、ベッドでもう一回する?」
「しない!バカ!もうっ帰れ!」
抱えていた枕を投げつけられ、それを片手で受け止める。慌てて否定する怜奈がおかしくって、くくっと肩を震わせると、怜奈が唇を尖らせて睨んできた。
ああ、これこれ。
でろっでろに蕩けまくったセックスの後に見せる通常運転のツンがまた、最高にたまんねえんだよな、とか。俺も相当、性根がひん曲がってる。
「んじゃ」とリビングから出て行こうと背中を向けると、アウターの裾をくいっと引かれた。怜奈がすぐ後ろで大きく息を吸い、聞こえるか聞こえないくらいの小さい声で呟く。
「……明日、怜央が帰ったら、また来てほしい」
……ったく。無意識なのか、計算なのか。予期せずデレを投下してくるから、タチが悪い。
はあーっと大きく息を吐くと、それを否定だと捉えたのか「あ、嘘。やっぱ今のなし」と慌てて否定された。身体を反転させ向き合い、真上から怜奈を見下ろす。
「また嘘つくのかよ」
怜奈がはっと顔をあげ、下唇を噛んだ。そして、意志の強い瞳で真っ直ぐに見返される。
「ごめん、嘘じゃない」
黙ったまま視線を合わせ、その先を促す。俺の意図に気付いた怜奈が噛んでいた唇をわなわなと震わせ、少しだけ突き出した。
「……カイと一緒にいたい」
それでも口を閉ざしていると、怜奈が「カイが好きだから」と続けた。ついた嘘をチャラにする気なんてさらさらない。ないのだが、無意識のうちに頬が緩みそうになる。
「ふーん。どうせ口だけだろ?俺の存在なんて隠しておきたいくらいなんだし」
「だから違うって!結果的に隠してたみたいになっちゃったけど、本当にそんなつもりはなかったの。怜央って結構繊細で神経質で、それに私のことになると途端に心配性になるから」
事前にそう聞いていたら、そんなもん理由になるかって突っぱねてたかもしれないが、弟と実際に会った今ならそれも納得できる。まあ、心配性っつーより、こいつのは重度のシスコンだな。確かに、俺のことを打ち明けてたら、受験勉強どころじゃなかっただろう。結局、試験前日にバレた訳で、残念ながら落ちてるかもしんないけど。
「俺にも内緒にしてたのは?」
弟に言う言わないじゃなく、やっぱりそこが引っかかる。顎をしゃくると、怜奈が上目遣いで「……だって、あんたも心配性でしょ?」と言った。
心配性……違うと言いたいが、じゃあ何なのだと詰め寄られたら嫌だから、そういうことにしておくか。自分自身、怜奈に向ける執着とも取れる感情に、名前をつける勇気はまだ出ない。多分もっと、ずっと先の未来にならないと無理だろう。
「怜央の受験が終わったら、両親も呼んで顔合わせも兼ねた食事会でもって、思ってたの。ちょっといいレストランとか予約して」
「……真面目かよ」
そんでもって、誠実か。へらっと笑うと、怜奈もふっと口元を緩めた。
ーー今はこれで十分だ。
僅かな街頭に灯された、しんと寝静まった深夜の住宅街。日中よりも遥かに冷えた空気が、俺の頬を容赦なく突き刺す。
が、温かい。
夜空を見上げれば、控えめに光る星がちらほら。オリオンのベルトがどうとかこうとか、怜奈が言ってたっけ。星なんて全っ然区別つかねえ。
あれか?それとも、こっちか?
でも、この中のどれかがそうだということは、つまり見えるもん全部がもうオリオンってことでいいんじゃねえのか?
そんなこと怜奈に言ったら速攻で怒られるだろうな。
「そんな訳ないじゃない」そう、眉を吊り上げ、頬を膨らませる怜奈が容易に想像つき、くくっと一人声を出して笑った。
「ふんふ~ん、あなたと二人、あの星座のように~。か」
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