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童貞は決意する

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 悪夢のような13日の金曜日を経て、翌月曜日の朝。布団の中から会社に電話をかけることもなく、元気に出社する俺、小田島 康作、28歳。

 常人なら魔女らの言葉に傷ついて再起不能、意識不明の重体、最悪の場合死亡していてもおかしくない所だが。そこは俺、不死身の小田島。そんな程度じゃへこたれない。

 あれは悪夢のような現実だった。しかし、魔女らの妄言は現実ではない。万が一、その内容が限りなく現実に近かったとしても、俺が認めない限りあれらは魔女達の勝手な想像や妄想で過剰に盛りまくり事実をねじ曲げられた、ただの妄言だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 そう。俺は絶対に認めない。俺が認めなければ事実にはならない。胸を張れ、小田島。

 そもそも普段アイツらの言ってることだって、本当かどうか怪しいことだらけだ。
 どうせ女同士のマウント合戦で優位に立つ為に張った見栄だろ?あることないこと誇張して、嘘と化粧とブランド品で全身武装して、周りから舐められないようにと必死なんだろ??
 これだから女ってやつは信用ならない。

 話が逸れた。
 つまり、あいつら嘘つき女達の言ってることなんて無視してりゃいいんだ。誰かが妄言それを信じてしまったとしても、俺はきっぱり否定して堂々としてりゃいい。俺に非はない。わかったか、小田島。

 と、今までだったらそれで良かったのだが、今回はそういう訳にもいかない。以前と状況は大きく変わってしまった。童貞佐古田が非童貞佐古田へと進化してしまったからだ。

 これは俺にとって非常に不味い展開になってしまった。

 単に自分よりランクが下だと思ってた奴に出し抜かれてムカつくってのもあるが、佐古田とは同じ課内であり佐古田含むその他大勢で飲みに行くことも多い。男同士の飲みで酒が入れば自然とセックスのそういう話になるのは避けられないし、祝☆童貞卒業の佐古田がいることでその頻度と密度は今後さらに高くなることが予想される。

 そして最悪なことに、佐古田の相手は岩崎さんだ。清楚で無垢なお嬢様系だった岩崎さんも、すでに魔女らの手に堕ちてしまったと考えて相違ないだろう。
 これからは、佐古田発岩崎さん経由の最短便でこちらの情報が魔女らに筒抜けになることは容易に想像できる。つーか絶対そうなる。そしてあいつらは忌々しき13日の金曜日のように、俺のことを面白おかしくディスってそれをツマミに楽しく酒を飲むんだ。……くそ、俺に金払え。

 まさに、窮地。
 今までは俺の機転が効いたナイス返しと口の巧さでその場をやり過ごしてこれたが、これからずっとそうできるとは限らない。

 前回の様に過去のセックスの内容について掘り下げて聞かれたら(多少掘られたくらいじゃ大丈夫だが、より深く深く掘り進められたら)、架空バーチャルセックスの内容だけではボロがでる可能性もある。いくら頭の回転が早くてその場のノリと勢いでいくつもの激戦地をかいくぐってきた不死身の小田島と言えども、かなり難易度が高い無理ゲーだ。

 わかっている。わかっているんだ。俺に何が必要かということくらい。

 いや別に、大切に取っておいたわけでものっぴきならない理由があった訳でもなく、そんなもん捨てられるならとっとと捨てたかったよ?ただ、色々と思う所があって、気がついたらこの歳になってしまったというだけのこと。

 相手がいないとか、いざとなると勇気が出ないとか、女子が怖いとか、過去の男と比較されてガッカリされたくないとか、上手くできるか心配で勃たないとか。そんな理由で今の今まで童貞だったわけではない。絶対に!!!

 俺は人一倍慎重な性格なのだ。石橋は何回も何十回も叩いて叩いて絶対に大丈夫だと確証を得てから渡るタイプなのだ。来たるべき童貞卒業の日のため、入念に、綿密に計画をたて、今か今かとずっとその機会を伺っていたのだ。

 そしてついに、時は来た。来てしまった。いつやるの?今でしょ!

 
 
 ……逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ。

 小田島、覚悟を決めろ。もう後戻りはできない。このまま振り返らずに突き進み、そして男になるんだ!胸張って男同士のセックス談義に喜々として参加するんだ!!



 『アオシマ作戦』、開始します!!


 


 
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