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童貞は悲観する
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「てかさ、あいつの謎の上から目線が超イラっとすんだよね」
「わかるぅ、なんなんあの自信。どこから湧いてくるん、あの小田島のどこから」
「聞いてよ。この前所用があって、営業部に行ったんだけど。ちょうど皆出てて誰もいなくて、でも急ぎだったからまた今度っていうわけにもいかなくて。しっかたなくただ一人暇そうに残ってた小田島に聞いたの。そしたら『え、何?いちいち聞かないとこんなこともわかんないの?』みたいなツラして、鼻で嗤ってきやがって」
「うわーうわー!何それ超ムカつく!死ね!いや殺す!」
「いつも神崎さんの成績に便乗してるだけの金魚の糞のくせに、勘違いしてんじゃねーよ」
「いちいち鼻につくんだよねぇ。この間なんて終業後、佐古田に『女とは』をつらつら語っててさ」
「何それ!?どうゆうこと!?」
「女の口説き方とか、女の扱い方とか、過去の女遍歴とか」
「ぎゃー!ぎゃー!キモイ!死ね!いや殺す!」
「お前が女の何を知ってんだっつーの!!!ていうかさ、あいつ口ではああ言ってるけど、絶対嘘だって。あいつ絶対童てー」
※ ※
ふぃー、危なった。
謎の焦燥感に駆られ、本能の赴くままにあの場を後にしたが、その判断は間違っていなかったはずだ。多分あのまま魔女の会話を聞いていたら、俺は月曜布団の中から会社に電話をかける羽目になっていただろう。小田島危機一髪。
「おお、小田島やけに長いションベンだったな」
「さーっせん。可愛い子いたんでつい声かけて盛り上がってましたあ」
へらっと笑って元いた席に腰掛ける。
さっきのは夢だ。現実に起こった出来事ではなく白昼夢、いや悪夢だ。そんなもん忘れよう。
さあ飲むぞ。しこたま飲むぞ。酒が全てを忘れさせてくれる。
「この間彼女と別れたと思ったらもう次か?切り替え早えな」
「後輩の佐古田に彼女ができたって聞いたら先輩として黙っちゃいられねえよな、小田島」
「そっすねえ。一人の時間をエンジョイすんのも飽きてきたんで、そろそろまた彼女でもつくろっかなーと」
一か月前、同窓会で再会した高校時代は地味眼鏡だったが卒業後あか抜けて綺麗になった系の五人目彼女コノミと別れ、ただ今絶賛彼女募集中。という設定なのが今の俺。
「あ、そーだ。小田島も佐古田に何かアドバイスしてやれよ」
「え?何をっすか?」
「どうやったらセックスの時に女を気持ちよくさせられるか、だよ」
そう言って神崎さんが綺麗に微笑む。イケメンすぎるその笑みに、何故か全身が粟立った。
「…あ、ああ、セックスね」
そんなん俺に聞かないで、「ヘイ!シリ!女を気持ちよくさせる方法教えて!」ってスマホに聞けばいーじゃねーか。つーか、神崎さんを筆頭に非童貞が揃ってんだからそっちに聞けよ。なんでわざわざ童貞の俺に聞いてくんだよ。むしろ俺が聞きたいわ。「ヘイ!シリ!童貞ってどうやったら捨てられるの?」って。
「いやー、やっぱ前戯じゃないっすかね。いいか、佐古田。突っ込んで腰振りゃいいって訳じゃねぇんだぞ。AVのアレは男の願望を映像化した紛い物だからな」
しかし皆が周知している小田島は童貞ではない。過去に五人の女を抱いてきた経験豊富で女が途切れない小田島である。
大丈夫。俺はこういった窮地に何度も立たされながらも不屈の精神と気転の効いた巧みな返しで切り抜けてきた男だ。決して焦ったりなどしない。
こういう時は適当に知ってる風吹かせてこの場をやり過ごせばいいだけで、事細かくあーだこーだと説明してやる必要はない。つーか俺よりも実地経験がある輩に事細かに説明できることなど何一つなく、逆に先輩方のありがたいリアルセックスのお話を拝聴させていただき今後の参考とする、というのが小田島の常である。
「だってよ、佐古田。ちったぁ勉強になったか?」
「はい。でも、あの。できればもうちょっと具体的におねがいできますか?小田島さん」
佐古田、てめぇ……!
だからそんなの「ヘイ!シリ!女がヨがる前戯を具体的に教えて!」ってスマホに聞けよ!俺を名指しすんじゃねぇ!話掘り下げんじゃねぇ!
つーかググれ!大抵のことはネットが教えてくれる時代だぞ。自分で調べる努力をしろ!
と、言えるわけもなく、またしても知った風吹かせる。それが俺、小田島。
「だ、だからぁ。胸とか、クリとか、女が『もうらめぇ!』って言うまで弄りまくんだよ。そ、そっすよね!?ね!?」
「っぷ。ああ、そうだな」
「そうそう小田島の言う通りだぞ、佐古田。前戯は大事だ、メモしとけ」
「やっぱそれなりに色んな女とヤってきただけあって説得力があるよな、小田島の言葉には」
そんなあ俺なんて大したことないっすよー、とその場のノリに合わせてハハハっと笑う。
どうにか今日も適当に話を合わせてやり過ごせたようだ。小田島危機一髪、アゲイン。さすが不死身の小田島。自分で自分を褒めてあげたい。
……でも、待てよ。
さっきのサバトに岩崎さんもいたんだよな。(あれ、門限は…?という疑問はとりあえず置いといて)
ということはつまり、岩崎さんは魔女達が俺のことを陰で何て言ってるのか知ってる訳で。そして佐古田ももちろんそれを知っているかもしれなくて。
魔女発岩崎さん経由佐古田乗換えでここにいる先輩達がそれを知っている可能性ももちろんあって、魔女たちの妄言を先輩達が万が一にも信じてしまっていたとしたらーー
あれ……あれ?
先輩たちの笑顔が、神崎さんのイケメンスマイルが、佐古田の締まりのない顔が、歪んで見える。もしかして皆今、笑ってるんじゃなくて、嗤ってる?
童貞のくせに非童貞のフリして饒舌に語る俺を、嗤ってる……?
ああ、そういえば。今日は13日の金曜日だ。
全身を包む悪寒と遠くなる意識の中、ふと、そんなことに気が付いた。
「わかるぅ、なんなんあの自信。どこから湧いてくるん、あの小田島のどこから」
「聞いてよ。この前所用があって、営業部に行ったんだけど。ちょうど皆出てて誰もいなくて、でも急ぎだったからまた今度っていうわけにもいかなくて。しっかたなくただ一人暇そうに残ってた小田島に聞いたの。そしたら『え、何?いちいち聞かないとこんなこともわかんないの?』みたいなツラして、鼻で嗤ってきやがって」
「うわーうわー!何それ超ムカつく!死ね!いや殺す!」
「いつも神崎さんの成績に便乗してるだけの金魚の糞のくせに、勘違いしてんじゃねーよ」
「いちいち鼻につくんだよねぇ。この間なんて終業後、佐古田に『女とは』をつらつら語っててさ」
「何それ!?どうゆうこと!?」
「女の口説き方とか、女の扱い方とか、過去の女遍歴とか」
「ぎゃー!ぎゃー!キモイ!死ね!いや殺す!」
「お前が女の何を知ってんだっつーの!!!ていうかさ、あいつ口ではああ言ってるけど、絶対嘘だって。あいつ絶対童てー」
※ ※
ふぃー、危なった。
謎の焦燥感に駆られ、本能の赴くままにあの場を後にしたが、その判断は間違っていなかったはずだ。多分あのまま魔女の会話を聞いていたら、俺は月曜布団の中から会社に電話をかける羽目になっていただろう。小田島危機一髪。
「おお、小田島やけに長いションベンだったな」
「さーっせん。可愛い子いたんでつい声かけて盛り上がってましたあ」
へらっと笑って元いた席に腰掛ける。
さっきのは夢だ。現実に起こった出来事ではなく白昼夢、いや悪夢だ。そんなもん忘れよう。
さあ飲むぞ。しこたま飲むぞ。酒が全てを忘れさせてくれる。
「この間彼女と別れたと思ったらもう次か?切り替え早えな」
「後輩の佐古田に彼女ができたって聞いたら先輩として黙っちゃいられねえよな、小田島」
「そっすねえ。一人の時間をエンジョイすんのも飽きてきたんで、そろそろまた彼女でもつくろっかなーと」
一か月前、同窓会で再会した高校時代は地味眼鏡だったが卒業後あか抜けて綺麗になった系の五人目彼女コノミと別れ、ただ今絶賛彼女募集中。という設定なのが今の俺。
「あ、そーだ。小田島も佐古田に何かアドバイスしてやれよ」
「え?何をっすか?」
「どうやったらセックスの時に女を気持ちよくさせられるか、だよ」
そう言って神崎さんが綺麗に微笑む。イケメンすぎるその笑みに、何故か全身が粟立った。
「…あ、ああ、セックスね」
そんなん俺に聞かないで、「ヘイ!シリ!女を気持ちよくさせる方法教えて!」ってスマホに聞けばいーじゃねーか。つーか、神崎さんを筆頭に非童貞が揃ってんだからそっちに聞けよ。なんでわざわざ童貞の俺に聞いてくんだよ。むしろ俺が聞きたいわ。「ヘイ!シリ!童貞ってどうやったら捨てられるの?」って。
「いやー、やっぱ前戯じゃないっすかね。いいか、佐古田。突っ込んで腰振りゃいいって訳じゃねぇんだぞ。AVのアレは男の願望を映像化した紛い物だからな」
しかし皆が周知している小田島は童貞ではない。過去に五人の女を抱いてきた経験豊富で女が途切れない小田島である。
大丈夫。俺はこういった窮地に何度も立たされながらも不屈の精神と気転の効いた巧みな返しで切り抜けてきた男だ。決して焦ったりなどしない。
こういう時は適当に知ってる風吹かせてこの場をやり過ごせばいいだけで、事細かくあーだこーだと説明してやる必要はない。つーか俺よりも実地経験がある輩に事細かに説明できることなど何一つなく、逆に先輩方のありがたいリアルセックスのお話を拝聴させていただき今後の参考とする、というのが小田島の常である。
「だってよ、佐古田。ちったぁ勉強になったか?」
「はい。でも、あの。できればもうちょっと具体的におねがいできますか?小田島さん」
佐古田、てめぇ……!
だからそんなの「ヘイ!シリ!女がヨがる前戯を具体的に教えて!」ってスマホに聞けよ!俺を名指しすんじゃねぇ!話掘り下げんじゃねぇ!
つーかググれ!大抵のことはネットが教えてくれる時代だぞ。自分で調べる努力をしろ!
と、言えるわけもなく、またしても知った風吹かせる。それが俺、小田島。
「だ、だからぁ。胸とか、クリとか、女が『もうらめぇ!』って言うまで弄りまくんだよ。そ、そっすよね!?ね!?」
「っぷ。ああ、そうだな」
「そうそう小田島の言う通りだぞ、佐古田。前戯は大事だ、メモしとけ」
「やっぱそれなりに色んな女とヤってきただけあって説得力があるよな、小田島の言葉には」
そんなあ俺なんて大したことないっすよー、とその場のノリに合わせてハハハっと笑う。
どうにか今日も適当に話を合わせてやり過ごせたようだ。小田島危機一髪、アゲイン。さすが不死身の小田島。自分で自分を褒めてあげたい。
……でも、待てよ。
さっきのサバトに岩崎さんもいたんだよな。(あれ、門限は…?という疑問はとりあえず置いといて)
ということはつまり、岩崎さんは魔女達が俺のことを陰で何て言ってるのか知ってる訳で。そして佐古田ももちろんそれを知っているかもしれなくて。
魔女発岩崎さん経由佐古田乗換えでここにいる先輩達がそれを知っている可能性ももちろんあって、魔女たちの妄言を先輩達が万が一にも信じてしまっていたとしたらーー
あれ……あれ?
先輩たちの笑顔が、神崎さんのイケメンスマイルが、佐古田の締まりのない顔が、歪んで見える。もしかして皆今、笑ってるんじゃなくて、嗤ってる?
童貞のくせに非童貞のフリして饒舌に語る俺を、嗤ってる……?
ああ、そういえば。今日は13日の金曜日だ。
全身を包む悪寒と遠くなる意識の中、ふと、そんなことに気が付いた。
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