【R18】大好きな幼馴染が勇者になったので

遙くるみ

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大好きな幼馴染が勇者になったので

アン(2)

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 私が15歳になったとき、隣町に王国の一団が来たというので、村の皆で見物に行った。どうやら勇者を探しているとのことらしい。
 勇者なんて、そんな曖昧で抽象的なもの。一体何をもって勇者と言うのかもよくわからないのに、それをこんな辺鄙なところまでわざわざ探しに来るとか。偉い人達の考えることはよくわからない。

 隣町の中央に位置する広場へ行くと、そこは既にたくさんの人で溢れ返っていて、一本の剣を囲んでいた。
 王国の人が言うには、この伝説の剣を鞘から抜けた人物こそ、本物の勇者なのだと言う。
 なんでも、魔王がまもなく復活すると、神殿にお告げがあったらしい。魔王、なんてそれこそ御伽噺でしか聞いたことがない。
 曰く、この剣でしか魔王を倒すことはできず、この剣は勇者にしか抜けない。この剣を抜いた者こそが正真正銘勇者である証で、世界を救うために各地を回って勇者を探しているのだと。
 にわかに信じがたい話だけど、こんな辺鄙なところまで来るのだ。本当なのだろう。

 私達の目の前で力自慢の筋肉ムキムキのおじさんから、まだ10歳くらいの少年まで、さっきから何人もの人が剣を抜こうと挑戦しては、呆気なく断念する。剣は鞘にピタリと収まっていて、とても抜けそうは感じはしない。ハリボテなんじゃあ、と疑惑さえ覚える。

「ヒューゴ、俺たちもやってみよーぜ!」

「おう、面白そうだな!」

 仲間内の一人が誘うと、皆でやろうやろうと盛り上がり、一斉に名乗りを上げた。
 訳の分からない焦燥感に駆られ、私は人だかりの中へ行こうとするヒューゴの服をギュッと握りしめた。

「……何?離せよ。」

 ヒューゴが不機嫌さを隠さずに私を睨む。
 いつもなら、ヒューゴの言うことに逆らうことはないけど、今だけは離すわけにはいかない。その答えを上手く伝えることは出来ないけど、離したら駄目だと本能がそう告げていた。
 いつもと違う私の行動にヒューゴが不思議そうに眉をひそめるも、構わず私の手を掴み、服から強引にはがされてしまった。

「まっ、待って!だめ、行っちゃ!」

「何でだよ、あっ!テルー達もう行っちまったじゃねぇか!くそ、出遅れた。ったく。じゃ、アンはそこで待ってろ。変なやつについて行くなよ!」

「ヒューゴ!待って!!」

 私の制止も聞かず、そのままヒューゴは人混みの中に入っていき、あっという間に呑み込まれ姿は見えなくなってしまった。
 一歩引いた私の場所からは、そこで何が起きているのか分からない。そのことが余計に私の胸をざわつかせる。

 しばらくすると、人混みが大歓声に包まれた。ビリビリと大気が震えるほどの、大歓声。
 悪い予感がする。
 少ししてから、人だかりの中心でムキムキのおじさんに肩車され、空高く伝説の剣を掲げる人が見えた。

 ーーヒューゴだ。

 その剣は鞘から抜かれ、太陽の光を反射してまばゆい位に光輝いていた。

 皆驚き、歓喜していた。すごい、まさか、あんな若造が、これで世界は救われる、と。
 私にはその光景が、飛び交う言葉が不思議でたまらなかった。

 皆何をそんなに驚いてるんだろう。
 ーーヒューゴ以外に誰が勇者になれるというのだ。

 皆何をそんなに喜んでるんだろう。
 ーーヒューゴが魔王を倒しに危険な旅に行ってしまうというのに。ヒューゴが死んでしまうかもしれないのに。

 胸がきつく締め付けられて、ずぶずぶと底なし沼に沈んでいくようだ。
 キラキラと光輝くヒューゴの金髪と伝説の剣が眩しくて、私は気付けばポロポロ涙を流していた。


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