なつやすみのにっき

究極のかまぼこ

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なつやすみのにっき

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「よいしょっ、と。姉ちゃん、その段ボールこっち」
「はいはい。にしても康太郎、物多すぎ。本当に一人で片付けられたの?」


大学二年の夏。俺、五十嵐康太郎は、長年の夢だった一人暮らしを始めるべく、実家の自室で荷造りの最終段階に入っていた。汗だくで段ボールを運ぶ俺の横で、手伝いに来てくれた三歳上の姉ちゃん、楓夏が呆れたようにため息をつく。


「うっせ。男の一人暮らしなんてこんなもんだよ」
「その割には少女漫画みたいなファンシーなガラクタ多くない?」


姉ちゃんが指差したのは、クローゼットの奥から引っ張り出してきた、錆びついたクッキーの缶だった。蓋には掠れた文字で、俺の拙い字で『思い出』と書いてある。


「うわ、なっつ……。まだあったんだ、これ」
「開けていい?」
「別にいいけど……本当にガラクタしか入ってねーぞ」


俺の制止も聞かず、姉ちゃんはパカリと音を立てて缶の蓋を開けた。中から現れたのは、ビー玉、キラキラした石、お祭りで買ったであろうキーホルダー、そして一冊のノート。どれもこれも、色褪せてはいるけれど、鮮明に記憶が蘇ってくる。全部、あいつとの思い出の品だ。


「うわ、なにこれ。康太郎の黒歴史ノート?」


姉ちゃんがニヤニヤしながら手に取ったのは、表紙に「なつやすみのにっき」と書かれた大学ノートだった。小学六年生の頃の、俺の日記。

そうだ、この缶はあいつとの思い出を、誰にも見つからないようにって隠していたやつだ。


「ちょ、やめろよ! それはマジで勘弁!」


慌てて奪い取ろうとする俺の手をひらりとかわし、姉ちゃんは意地悪く笑いながらノートを掲げる。


「へぇ、あの創威くんとの思い出が詰まってるわけだ。これは見ものね」
「なんで創威のこと……」
「あんたが小6の頃、いっつも名前出してたじゃない。『そういがさー』って。少しだけ顔も覚えてるよ、あそこまで顔整っている小学生そうそういないからねー」


図星だった。朝倉創威。小6の時、同じクラスだった、俺の、初恋の相手。


「……別に、そんなんじゃないし」
「ふーん? じゃあ、この日記、読ませてもらいますかねー」


姉ちゃんは勝ち誇ったように笑うと、適当にページをパラパラとめくり、あるページで指を止めた。そして、そこに書かれていた拙い文章を、わざとらしく感情を込めて読み上げ始めた。その声を聞いた瞬間、俺の意識は、蒸し暑い夏の匂いと蝉の声が満ちていた、あの頃へと引き戻されていった。




♤────────────────────♤




八月十三日(土)はれ

今日は、そういと花火大会に行った。
人がたくさんいて、そういとはぐれそうになった。
そういが俺の手をにぎってくれて、ドキドキした。
かき氷を買ったら、そういが石につまづいて、俺のTシャツにこぼした。
そういはすごくあやまってくれたけど、ぜんぜん気にしてない。
そういの服をかしてもらった。

花火はすごく大きくて、きれいだった。
今まで見たどの花火よりも、きれいだった。
そういと見たからだと思う。
最後の花火が消えたあと、そういの顔を見たら、なんだかすごく、さみしそうな顔をしていた。
なんでたろう。
帰っている途中で、創威がミサンガ?ってやつをプレゼントしてくれた。うれしい。



姉ちゃんの声が遠のき、目の前には夜の闇を焦がすような大輪の光が広がっていた。


「うわっ!」


ぐい、と強く腕を引かれ、俺は人混みの中で前のめりによろけた。振り返ると、心配そうな顔をした創威が、俺の腕を掴んでいた。


「康太郎、ぼーっとすんなよ。はぐれるだろ」
「ご、ごめん……」


辺りはものすごい人で、一歩進むのもやっとなくらいだった。むわりと立ち込める人の熱気と、あちこちの屋台から漂ってくるソースの焼ける匂い。その全てが、祭りの高揚感を煽っていた。


「ほら、手。離すなよ」


そう言って創威が差し出した大きな手。俺は一瞬ためらったけど、その手をぎゅっと握り返した。創威の手は、俺より少しだけ大きくて、硬くて、すごく熱かった。その熱がじわりと伝わってきて、心臓がどきどきと大きく脈打つのを感じた。なんだこれ。暑さのせいか? それとも、人の多さに緊張してるだけか?


「康太郎、かき氷食う? 俺、ブルーハワイがいい」
「あ、うん。俺もそれがいい」


手を繋いだまま、俺たちはなんとかかき氷の屋台にたどり着いた。受け取ったプラスチックのカップはずっしりと重く、シロップで真っ青に染まった氷がひんやりと心地よかった。


「あっちの土手、空いてるっぽいから行こうぜ」


創威が指差す方へ、再び人の波をかき分けて進む。その時だった。


「うわっ!」


前を歩いていた創威が、足元の石に気づかず、大きく体勢を崩した。その拍子に、創威が持っていたかき氷が宙を舞い、俺の白いTシャツに見事な青い染みを作った。


「……あ」
「ご、ごめん康太郎! 大丈夫か!?」


創威が顔を真っ青にして駆け寄ってくる。その必死な形相がおかしくて、俺は思わず吹き出してしまった。


「ぷっ、あははは! 大丈夫だって! 創威、すげー顔!」
「笑い事じゃねーだろ! ごめん、本当に……」
「いいって、別に。後で洗えば落ちるだろ」


本心からそう言ったのに、創威はまだしょんぼりとした顔で自分のTシャツの裾を引っ張っている。


「……俺の、これに着替えるか?俺下にタンクトップ着てるし」
「え、いいの! じゃあ借りるね」


そういの服を受け取った。


「えっちょ、康太郎ここで脱ぐのか!?」
「え?わざわざ移動するのめんどくさくない?」


俺はじぶん服を脱ぎ捨てて、そういの服に着がえた。創威の服を着ると、フワッとした柔軟剤と、創威の匂いが香った。


「っ………」
「創威?どうしたの?」
「…なんでも」
「そっか。あ、もうそろそろ花火始まる!」


俺が創威の手を引いて歩き出すと、創威は少しだけ驚いたような顔をして、でもすぐに「うん」と頷いてくれた。

土手に腰を下ろすと、ちょうどタイミングよく、ヒュルルルという音と共に、夜空に最初の花火が打ち上がった。

ドンッ!

腹の底に響くような大きな音と共に、光の大輪が夜空いっぱいに広がる。赤、青、緑、金色。次から次へと色を変え、形を変え、僕たちを照らし出す。


「うわー……!」
「すっげ……」


隣に座る創威の横顔が、花火の光に照らされてキラキラしていた。普段、教室で見ている時よりも、なんだかずっと大人びて見えて、俺はまた、胸がドキドキするのを感じた。

綺麗だな。花火も、創威の顔も。

夢中で空を見上げていると、あっという間に時間は過ぎて、最後の大きな花火が、ひときわ大きな音を立てて夜空を飾った。光の粒が、キラキラと尾を引きながらゆっくりと消えていく。

祭りの終わりを告げるその光景は、少しだけ切なかった。


「……終わっちゃったな」


俺がぽつりと呟くと、創威は何も言わずに、ただ空を見上げていた。その横顔を、俺は盗み見る。

光が消えた闇の中で、創威の表情はよく見えなかった。でも、なんだか、すごく寂しそうな顔をしているように見えた。


「創威?」


声をかけると、創威ははっとしたように俺の方を向いて、いつもの明るい笑顔を作った。


「おう! 腹減ったな! 焼きそばでも食って帰るか!」
「うん!」


創威のその笑顔に、俺はさっき感じた寂しそうな表情の理由を問いかけるのを忘れてしまった。きっと、気のせいだったんだろう。そう、自分に言い聞かせた。


「ん、そうだ。はい、これやるよ」
「え?なにこれ?」
「へへ、ミサンガってやつ。俺が作ったんだ。」


渡されたミサンガには青と、ピンク色の糸が編み込まれたものだった。


「これが切れると、願い事が叶うんだとよ。」
「え?ほんと!?」
「ああ、願い事は何にするんだ?」
「えー、まだ決めない。願い事はとっとく。」


ふーん、と少しつまんなそうに創威が返事をした。ふと創威の腕を見ると、既に俺と同じ色のミサンガをつけていた。じゃあ俺は足首につけようかな。


♤────────────────────♤




花火大会の次の日、朝早くから家の電話が鳴った。


「康太郎ー! 創威くんから!」


母さんの声に、寝ぼけ眼をこすりながら受話器を取る。


『おはよ、康太郎! 今日、川行かね?』


電話の向こうの創威の声は、昨日と変わらず明るかった。


「え、うん、いいけど……」
『じゃあ十分後に迎えに行く!』


一方的にそう言って、電話は切れた。創威のこういう強引なところには慣れていたけど、それにしても、なんだかやけに急いでいるような気がした。

その日、俺たちは一日中、川で遊んだ。水をかけ合ったり、魚を探したり、日が暮れるまで、夢中で遊んだ。…久しぶりにみたから気づかなかったけど、俺なんかよりも全然創威は男らしい体つきになっていた。筋トレとかやってんのかな?

そして、その次の日も。


『康太郎! 秘密基地、行こうぜ!』


また、創威からの電話だった。

その次の日も、また次の日も、創威は毎日のように俺を遊びに誘った。まるで、この町で俺と遊んできた場所を指でなぞるように。

最初は、ただ夏休みだからだと思っていた。でも、何日も続くうちに、俺は少しずつ違和感を覚え始めていた。

創威は時々、ふとした瞬間に、遠くを見るような、寂しそうな目をするようになった。俺がそれに気づいて「どうした?」と聞いても、創威は決まって「なんでもねーよ」と笑って誤魔化すのだ。

そして、夏休みも残り一週間を切った、ある日の昼下がり。

俺が家でゴロゴロしながら漫画を読んでいると、リビングから母さんの声がした。


「康太郎、あんた創威くんに挨拶行かなくていいの? お引越し、今日でしょ」
「……え?」


母さんが何を言っているのか、一瞬、理解できなかった。


「だから、朝倉さんち。今日、お引越しなんですって。さっきご挨拶に見えたわよ。あんた、創威くんから聞いてないの?」


引越し? 誰が? 創威が? 今日?

頭の中で、母さんの言葉がぐるぐると回る。意味が、わからない。だって、創威は、そんなこと、一言も……。


「……うそだ」


気づけば、俺は玄関を飛び出していた。


「康太郎!?」


後ろで母さんが何か叫んでいるのが聞こえたけど、もうどうでもよかった。サンダルを履くのももどかしく、裸足のままアスファルトを蹴る。熱い。痛い。でも、そんなこと、気にならなかった。

なんで。なんで、言ってくれなかったんだよ、創威。

花火大会の後の、寂しそうな顔。毎日のように遊びに誘ってきたこと。時々見せる、遠い目。すべてのピースが、最悪の形でカチリとはまった。

あいつ、知ってたんだ。ずっと前から、知ってて、黙ってたんだ。

裏切られた、と思った。なんでだよ。俺たち、親友じゃなかったのかよ。

涙が滲んで、前がよく見えない。息が苦しい。それでも、俺は足を止めなかった。創威の家まで、全力で走った。

角を曲がれば、創威の家が見える。俺は、最後の力を振り絞って、スピードを上げた。


「はぁ、はぁっ……!」


創威の家の前には、大きなトラックが停まっていた。男の人たちが、次々と家具を運び出している。見慣れた創威の家の風景が、どんどん失われていく。


「創威!」


俺は叫んだ。家の前にいた創威のおばさんが、驚いた顔で俺を見る。


「あら、康太郎くん……」
「創威は!? 創威はどこにいるんですか!」
「創威なら最後にこの町を散歩してくるって」


おばさんの言葉は、最後まで聞こえなかった。

散歩。

もう、いないのか。もう、会えないのか。

がくり、と膝から力が抜けた。目の前が、真っ暗になった。

嘘だ。そんなの、絶対に嘘だ。

だって、俺はまだ、何も伝えてない。さよならさえ、言えてないんだぞ。

いや、待て。創威なら、きっとどこかにいる。あいつが、何も言わずにいなくなるはずがない。

創威が行きそうな場所。俺たちの、思い出の場所。

一つだけ、心当たりがあった。

俺は、再び走り出した。さっきとは違う方向へ。住宅街を抜け、小さな森を抜け、石段を駆け上がった先にある、古い神社。

そこは、俺と創威が見つけた、二人だけの秘密基地だった。

息を切らしながら、鳥居をくぐる。蝉の声が、やけに大きく聞こえた。

いた。

拝殿の縁側に、創威は一人で座っていた。ぼんやりと、遠くの空を眺めていた。


「……創威」


俺の声に、創威の肩がびくりと揺れた。ゆっくりと、創威が振り返る。その顔は、驚きと、悲しみと、気まずさがごちゃ混ぜになったような、見たことのない表情をしていた。


「……康太郎。なんで、ここに」
「なんでって……こっちのセリフだよ! なんで、なんで言ってくれなかったんだよ! 引越しするって!」


駆け寄って、創威の胸ぐらを掴みかからんばかりの勢いで問い詰める。涙が、ぼろぼろと溢れて止まらなかった。


「俺、知らなかったんだぞ! 今日だって、母さんから聞いて……! なんでだよ! 水臭いじゃんかよ!」


創威は、何も言わずに、ただ俯いて俺の言葉を受け止めていた。その沈黙が、余計に俺を苛立たせた。


「なんとか言えよ!」
「……ごめん」


やっと聞こえたのは、か細い、謝罪の言葉だった。


「謝ってほしいんじゃねえよ! 理由を、聞かせろよ……!」
「……言えなかった」
「なんで!」
「言ったら……お前、泣くだろ」
「……は?」


思ってもみなかった言葉に、俺は動きを止めた。


「お前、泣き虫だから。俺が引越しするって言ったら、絶対、泣く。そしたら、最後が、悲しい思い出になっちゃうだろ」


創威は、ゆっくりと顔を上げた。目の下が少し赤く腫れている。


「俺は、康太郎との最後の思い出は、楽しいのがよかったんだ。だから、言わなかった。毎日、死ぬ気で遊んだ。これで、俺がいなくなっても、康太郎は夏休みのこと、楽しかったなって、思い出してくれるだろって……」
「そんなの……そんなの、勝手すぎるだろ……!」


楽しい思い出だけでいい、なんて。そんなの、創威の一方的な押し付けだ。悲しいのも、寂しいのも、全部、二人で分け合いたかった。


「……それに最近、おかしいんだ」


創威が、ぽつり、と呟いた。


「康太郎と一緒にいると、心臓が、うるさくなって……。花火大会の時、手を繋いだ時も、かき氷ぶっかけちまった時も、…康太郎の裸見ちゃったときも、なんか、変な感じになって……。苦しくて、でも、あったかくて……その気持ちをずっと抑えてて。」



創威が何を言っているのか、俺にはすぐに理解できた。だって、俺も、同じだったから。


「男同士なのに。友達なのに。本当におかしいよな。俺、別れるときに康太郎に泣かれたらって考えると、この気持ちが抑えきれなくなっちゃいそうで。だから…康太郎に引っ越しのこと隠してたんだ。こめんッこうたろう…」


自己嫌悪に陥るように、創威は自分の頭を抱えた。その姿を見て、俺はたまらなくなった。違う。おかしくなんかない。気持ち悪くなんかない。


「……俺も、だよ」
「え……?」
「俺も、創威といると、ドキドキする。花火大会の時も、今も、ずっと。だから……だから、創威は、おかしくない」


俺がそう言った瞬間、創威の大きな瞳から、ぽろり、と涙が一粒、こぼれ落ちた。


「……っ」


次の瞬間、俺は強い力で抱きしめられていた。創威の腕の中は、汗と、夏の匂いがした。


「うっ…………っ…」


俺の肩に顔を埋めて、創威は溜めていたダムが決壊したように目から涙が溢れだしてきた。いつも強くて、明るくて、泣いたところなんて一度も見たことがなかった創威が。俺の腕の中で、体を震わせて泣いている。

その事実に、俺はまた胸が締め付けられるように痛くなった。それと同時に、不謹慎ながらそんな創威が、かわいい、なんて思ってしまった。

しばらくして創威が顔を上げ、無理やり笑った。
そしてまだ俺を抱きしめたまま、耳に囁くようにこう言った。


「……じゃあな、康太郎……俺は、ずっとお前のこと……すきだぜ」


そして体をぱっと離し、俺に背を向けて、石段を駆け下りていく。


「ま、待てよ、創威!」


追いかけようとした。でも、足が動かなかった。

初めて見た創威の涙。初めてされた熱いハグ。
そして、『すき』って言葉。

そのすべてが、俺の頭と心をぐちゃぐちゃにかき乱して、一歩も、動けなくさせていた。

創威の背中が、鳥居の向こうに消えていく。蝉の声だけが、やけにうるさく、夏の終わりの空に響いていた。





♤────────────────────♤





「……で、最後の日記が、これってわけね」


姉ちゃんの声で、俺は長い長い回想から、現実へと引き戻された。目の前には、姉ちゃんが広げた日記の最後のページ。

そこには、乾いた涙の跡で、紙が歪んでいた。そして、ミミズが這ったような、ぐちゃぐちゃの文字。何かを書いて、黒いペンで塗りつぶした跡もある。

そして、ページの中央に、大きく、一言。




『好き』




これは俺が最後に創威に言いそびれた言葉。
当時、これを創威に伝えられなかった俺は悔しくて、悔しくて、ここに書いたんだと思う。


「……」


忘れていた。最後の日に、泣きながらこんなことを書いていたなんて、すっかり忘れていた。自分の直球すぎる感情の痕跡を目の当たりにして、顔にぶわっと熱が集まるのがわかった。


「へえー? 康太郎くん、隅に置けないじゃないの。こんな昔から、創威くんのこと……」
「う、うるさい! もういいだろ、返せ!」


俺は姉ちゃんの手からひったくるように日記を奪い、パタンと閉じた。


「あはは、顔真っ赤。かわいいとこあるじゃん」


からかうように笑う姉ちゃんを睨みつけ、俺は『思い出』の缶に日記をそっと戻す。

色褪せたガラクタと、涙で滲んだ初恋の記憶。

この缶は、新しい部屋の、一番大事な場所にしまっておこう。

窓の外では、あの頃と同じように、ヒグラシが鳴いていた。もうすぐ、夏が来る。


「さて、と。感傷に浸ってないで、さっさと片付ける! 姉ちゃん、そこの本詰めるの手伝って!」
「はいはい、」


俺は、少しだけ軽くなった心で、段ボールに向き直った。段ボールを持ち上げようと、ふと下を見ると、足首に巻き付かれたミサンガがあった。

そういや、こいつになにもお願いしてなかったな。あのときからずっと、肌身離さずつけたこともあって相当くたびれている。


「…創威とまた会えますように」


なーんて、創威の引っ越し先も連絡先も知らないのに、なに言ってんだ俺は。

まずまず創威が俺を覚えているかさえ怪しいのに。
好きだって言ってくれたこともただのガキの頃の気まぐれかもしれない。

まあなんでもいい。覚えていなかったらまた仲良くなるまでだ。次、どんな形でもいいから、俺はまた創威に会いたい。ただ、それだけだ。




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