放浪戦記

アブナイ羊

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幼少期 盗賊団時代

ハンナ③

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抜いた長剣を両手で持ち、アルトの脇を抜けて斧使いに斬りかかる。

「なんだぁ?ちっ、またガキの新手か」

わたしの斬撃は全て巧みな盾さばきで全て防がれ、お返しにとばかりに斧が振り下ろされる。
こいつ、今まで戦ってきた誰よりも強い!だからアルトもこんなに苦戦してるんだ!
剣を交えてみて初めてわかった。

「ラヴィ!助かった!」

中ほどにヒビの入った大剣を構えつつアルトが言う。
ちらりと馬車の方を見ると、まだ荷物を奪っている最中だった。それもそうだ。まだ戦闘が始まって3分と経っていない。

「よそ見はいけないぜぇ?」

しまった!!
ぬっと現れた影に、接近を許してしまったことを知る。

顔面に当たる直前だった斧をしゃがんで回避したが、間髪いれずにとんでくるシールドバッシュはどうにもならなかった。

「ラヴィ!!」

傍目から見ると、まるで蹴飛ばされたボールのように飛んでいくわたしが見えただろう。
そんなどうでもいいことを考えつつも、わたしの頭はぐわんぐわんと混乱を訴えていた。

目を開けると、杖を両手で抱き抱え、目を固く閉じて立ちすくむハンナがいた。どうやらハンナのところまで吹き飛ばされていたらしい。
ちっ、わたしが攻撃をまともに食らったのになにも思わないのか、こいつは。

だが、そんなことはどうでもいいことだ。すぐに戦闘に復帰しなくては。

「しっ!」

アルトの大剣の鍔迫り合いをしている斧使いに駆け寄り、鋭く息を吐いて長剣で刺突する。案の定盾で防がれるが、わたしの渾身の力を込めた刺突は盾が木製だったこともあって盾を貫通した。盾に刺さった長剣は先が折れたせいで斧使いに怪我を与えることはなかったものの、盾を放棄させることに成功した。

「ちっ、このガキが!!」

ぶおん!と風切り音をたてて斧が大きく振られた。さすがにこれはどう頑張ってもいなせるはずがなく、二人とも後ろに跳んで避けるしかなかった。

斧使いはその隙に何か石ころのようなものを取り出しこちらに投げつける。
投石か!とアルトがこちらに届く前に大剣で切り捨てる。

「へっ、馬鹿が」

ーーーキィイイイイイイイイイン………

と言う声を聞いたのを最後に、切ったはずの石から発せられる爆音でなにも聞こえなくなった。

耳を塞いでいた斧使いは何の影響も受けず、斧を構えてこちらに突っ込んでくる。
反射で固まってしまった身体はすぐには動かなかった。

「っ~~~~………!!!」

アルトが肩に斧を振り下ろされる。もし耳が聞こえていたならば、ごしゃっと言う人体が壊れる音が聞こえていただろう。
そして斧使いの蹴りを腹にもらって後ろに吹っ飛んでいく。

「ーー、ーーーーー」

既に身体のすくみは無くなったが、いまだ耳が聞こえず何を言っているのかわからない。だが、これからこちらに攻撃を加えるというのはわかる。

恐らく、あと少しで味方の撤退が始まるはずだ。
そう考えたわたしは守りに適した戦いかたを選ぶ。右手に長剣、左手に短剣を持って構える。

「ーーーーーーーーーーーーーーーー!」

何か言った斧使いがにやりと笑い、両手で掴んだ斧を振り下ろす。

ッ!速い!!片手の時とは段違いだ。攻めないで戦うのなら、さっきの刺突で盾を捨てさせなければよかった。

振り下ろされた斧を避ける。勢いがつきすぎた斧はそのまま地面にめりこむと思っていたのだが、地面に当たる直前、クルっと180°回転したかと思うと、斧使いの踏み込みと同時に再び恐ろしい速度で斧が振り上げられる。

こいつ、どんな筋肉してんの!?
驚愕を押し殺して、短剣を当てて斧の進路を少し変更して当たらないようにする。

そして振り上げられた斧が今度は角度をつけて振り下ろされ、また振り上げられる。また振り下ろされる。
縦横無尽に飛び回る斧を必死でかわして数分が経った。いや、実際には1分も経っていないかもしれない。

息がきれ始め、何度も折れた短剣が左手のものを含めて残り3本になった。残りの短剣は両くるぶしの上にある2本しかない。斧をかわしながら足に装備している短剣を抜くのは不可能なため、実質手にあるのが最後の短剣だ。長剣一本では凄まじい運動量を持つ斧をいなせる自信がない。

うっそ……

ふと斧使いの顔色を伺うと、こんなに長時間斧を振り回しているのにまだまだ余裕そうだ。
だが、まだわたしには運が残っていたらしい。
もう無理かもと諦めかけたそのとき、戻っていた聴覚がカインさんの声をひろう。

「全力で後ろに跳べ!!」

1も2もなく残っている全ての力を総動員して後ろに跳ぶ。尻餅をついたわたしに斧使いが襲いかかるが、間に滑り込んだカインさんの大きな斧が斧使いの斧を弾いた。

「撤退だ。早く下がれ!」

「ちっ、なんだてめえ!」

ガン!ガン!と斧同士がぶつかり合う音を背後から聞きながらわたしは走ってその場を後にした。
極限の状態だったせいで聞こえていなかったが、リーダーが「撤退!」と何度も叫んでいた。

ハンナはとっくに退却済み。アルトは後ろからじゃ誰かはわからないが先輩に背負われていた。

「アルト!怪我は!?」

声をかけるが、背負っている先輩に止められた。

「無駄だ。意識を失ってる。ひでぇ怪我だ。鎖骨が折れて飛び出してやがる。幸い内臓には届いてなさそうだが、まだわからねぇ」

見ると、砕けた右肩の辺りは大量の血でベタベタに固まっていた。もう出血は止まっているらしいが、先輩の言葉通り傷口から飛び出した白い骨が痛々しい。

「ま、一応これくらいなら治るから安心しな。鬼人は傷の治りも早いし、すぐ復帰できるさ」

ほっ、と胸を撫で下ろした。これでもう戦えないとかだったらアルトは団を追い出され、そしてどこかで餓死していただろう。いつも楽しく笑っている盗賊団とはいえ、動けない者を養う余裕は無いのだから。
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