10 / 30
1章
10 名もなき村
しおりを挟むセフィールはユーリに返信した後、早速ステンレス鋼の錬成に取り掛かった。
何度か失敗したもののユーリが配合割合を教えてくれていたので新しい金属の錬成にしては、異常な早さで成功した。本職の鍛冶屋と違い錬金術の利点は、何度失敗しても混ざった素材を元の素材に戻せるので失敗しても破棄する事がないのである。
試しに素材ボードに収納すると『ステンレス鋼 1㎏』と出ていたので成功した事は間違いない。しかし、セフィールは20キロ位作ってみたかったがニッケルを含むペントランド鉱30キロ精錬すると、1.2キロしかニッケルが含まれていなかった為取り敢えず1キロに作ることにした。
「んー・・・ニッケル含有量少な過ぎだよー・・・ニッケル採れる鉱山探さなきゃなー・・・
もうそろそろ隣国に入るだろうし、隣国で探せば良いか。よし!!ユーリ様が言ってた鍋作るか」
ヒートの魔法と錬金術で片手鍋を練り上げた。錬成された鍋は銀色に光り美しく長年練習していた錬金術によって厚さも丁度良い見掛けも美しく仕上がった。持ち手は森の木を使った。
ーーきゅーーーーーーっっっ
ーーわふっ
アオとクロがいつの間にか帰ってきており、クロが獲って来たと思われる大きな獲物とアオが採って来たと思われる薬草が転がっていた。
洞窟の外を見やると日が落ちており、集中し過ぎて帰って来ていたアオとクロに気付かなかった様だ。
今出来たばかりの片手鍋を使って料理をしたかったが、少し持っていた塩さえも使い切ってしまっていたので、夕ご飯はただ肉をヒートで加熱するだけにした。アオとクロはセフィールが捌いた魔物の肉を食べ、ユーリにステンレス鋼で鍋を作った報告をしてから明日の出発に向けて早めに就寝した。
翌朝、昨日の夕飯の残りをみんなで食べてから使い古したリュックに片手鍋を入れアオとクロと共に歩き始める。昨日いた洞窟から4時間程度歩いた頃に人の気配があった。
セフィール達は、そちらへ向かうと集落があり少数ではあるがそこで生活していた。
「あ、あの・・・すみません・・・」
「え?ーーーうあぁぁぁぁっっっっっっ!!!」
セフィールが畑を耕している若い男性に声を掛けると男性が驚いて転んでしまった。
「すみませんっっっっ!大丈夫ですかっっ!?驚かせるつもりはなかったのですがっっっ!!!」
あたふたとセフィールがしていると男の叫び声を聞いた村人が簡素な作りの家からクワや斧を持って出てきた。また、それを見たセフィールは先程以上に慌てふためいてしまっている。
そんなセフィールの前にクロが出て低い唸り声を上げ威嚇を始めた。
「みんなっっ!ごめん、俺が村人以外の人に驚いて叫んじまっただけなんだっ!!コイツに襲われた訳でも何でもねぇ、みんなお客さんだ」
そう男が家から出てきた人達に伝えると、怪しむ様な目をセフィールに向けるものの武器を下ろし下がっていった。クロも敵意が無くなった村人に威嚇するのを止めて様子を見ている。
「悪かったな、ここには滅多に他所からの客なんか来ないからよ」
「いえ、俺も急に話しかけて驚かせてしまいましたから・・・本当に怪我してないですか?」
「ははっ!!大丈夫だって、お前良い奴じゃん♪なんでこんな何にもない田舎に来たんだ?・・・もしかしてお前・・・」
「??」
「いやいや、気にしないでくれ。で、何の用事できたんだ?」
「あー・・・数日前までフォルテム王国に居たんだが、ここはまだ国内なのか?国内なら後どれ位で国外へ出られるのか教えてくれないか?」
「・・・お前、もしかして錬金術師・・・か?」
急に聞かれてセフィールは心臓がバクバクと鼓動が激しくなる。浮浪者の様な姿で補助金を切られたこのタイミングに国を出ようとしている事で、錬金術師にアタリを付けて聞く様な人間はフォルテム王国民だけである。
「え・・・いや、俺はその・・・(しまったっっ!!ここはまだ国内かっ!!罵声浴びせられる前に出て行かなきゃ・・・)」
「隠さなくてもいい。この村はな、フォルテム王国を逃げ出した錬金術師の集まりなんだ・・・。法律を破って逃げ出したから王国の兵が捕まえに来るんじゃ無いかって、ずっと怯えているから過敏なんだ。アイツらも悪気があって武器向けた訳じゃ無いって事だけは知っておいてやってくれ。」
「え?もう怯えなくても良いじゃ無いですか?何でまだ怯えているんですか?」
「え?」
「え?」
二人の間に沈黙が流れた。
♢♢♢♢♢
若い男の名前はルークといい、2年前からこの隠れ里に住んでいる。彼は魔法学校の錬金術科に通っていたが、余りにも酷いイジメと家族に無視される日々に耐えかね学校に向かう途中で死んだ様に工作して国を出たとの事であった。
今日はルークの家に泊めてもらう事になった。
クロがいつの間にか獲物を獲ってきており、ルークにも宿泊のお礼にとセフィールは料理を振る舞う事にした。折角なので台所を借りて、昨日完成させたステンレス鋼で作った片手鍋で初調理をする事にした。
「あー良かった、俺やっとでフォルテム王国出たんですね?地図買う金も持ってなかったから昔図書館で見た地図のうろ覚え頼りに歩いてきたんですよ~」
「やっぱりみんな同じ様な境遇だね・・・。ここはミジュア王国なんだが、お前は知らないかも知れないが弱小国なんだよ・・・。強い国に逃げたくても法律破った犯罪者だから強い国なんかに逃げ込んだらすぐ気付かれちまうだろ?だから、いつもフォルテム王国の影に怯えて暮らしてるって訳。
ーーーーで、さっきの話なんだけど・・・。」
調理をしているセフィールの後ろでルークがテーブルに凭れたまま話を続ける。
「あぁ、俺が国を出たのはあの法律が無くなったからなんだよ。だからこの村の連中がフォルテム王国に帰っても補助金は貰えないからな?」
「いらねーよ、ただでさえガキの小遣い程度なのに年々少なくされた名目だけの金なんかよ。端金でどんだけ俺ら苦しめたと思っているんだよっっ!!あの国は錬金術師の力で出来た国の筈なのになー・・・何でこんなに酷い扱いするんだよ・・・。」
「・・・俺はこれから、この国の中心地に行って錬金術で作った物を売りながら、この国の錬金術を学んで研究しようと思うんだ。ルークはどうするんだ?このままここにいるのか?錬金術出来るならやらないと勿体無いぞ?」
「期待折って悪いんだけどさ、この国は錬金術師差別は無いけど錬金術の知識フォルテム王国の2割位しか無かったぞ?どうしようも無いんだよなー・・・でも犯罪者じゃ無いなら、錬金術のレベル高い国に行ってもいいんだよなー・・・うーん。でもなぁ・・・」
「ルークの心配している事は分かっているつもりだ。確かにどこに行っても大差無くて、錬金術師は本職に敵わないのは同じかも知れない。でもな、ルーク。この片手鍋昨日俺が作ったんだが、新しい合金を錬成して作ったんだぞ。自分達でも出来る事が・・・自分達錬金術師で無ければできない事があるんじゃ無いのか?」
丁度料理が出来上がり、鍋敷きの上に料理の入った片手鍋を置いた。
「これ、セフィールが作ったのか!?てっきり鍛冶屋が作った高級品かと思っちまった・・・。確かに鉄っぽく無いな・・・。持ってみて良いか?」
「おいおい、食べてからにしたらどうだ?」
苦笑いでセフィールが返すと、ルークは少し眉を寄せた。
「料理が入ってこその鍋だろっっ!!だから、良いんだっっ!!」
そう言って持ち上げ上下に動かしたりしながら軽い事に驚いていた。セフィールは実の弟と普通に暮らせたらこんな感じかもなと思いを馳せながらルークを微笑ましく眺めていた。
ーーコンコンコン・・・
「あれ?誰だろ?」
ルークが扉を開けるとそこには5~7歳位の女の子がいた。どうしたんだろうとセフィールが思っていると女の子がじっとセフィールの方を見てきた。
「マリー、どうしたんだ?こんな時間に出歩いちゃダメだろ?」
「俺に用事があるのか?」
コクリと頷くがセフィールが作った料理の匂いを嗅いでしまいお腹がきゅるるるる・・・となってしまいマリーという少女は顔を真っ赤にして俯いた。
セフィールとルークは顔を見合わせて笑うとマリーも加えて一緒に食事をする事にした。
アオとクロには生肉を皿に乗せて置いて、セフィール、ルーク、マリーの3人はテーブルを囲んで食べ始めた。錬金術師は攻撃魔法が微々たる物なので、錬金術師達である村人達は狩が出来ない。その為久しぶりに肉料理を目の前にしたルークとマリーは目が輝いていた。
「喜んで貰えて嬉しいよ。肉はそこでご飯食べている黒い犬がいるだろ?クロって言うんだが、いつも獲ってきてくれるんだ。オスだけど俺のお母さんみたいな感じかな?そっちの青い蜥蜴はアオって言うんだ。アオは・・・うーん・・・子供っぽい所あるけど我が強くて我が道を行く感じでメスだけどおじいちゃんって感じなのかな?書物で読んだ理想の家族の印象だから、現実は違うのかもしれないけどね」
「お前、よく獣にお母さんとか思えるな・・・。俺も結構一人でいる期間長かったけど、流石にお前みたいに拗らせた事は無いぞ?マリー、お前はあるか?」
「・・・マリーは、お姉ちゃんも錬金術師だから無い。」
そこでやっとセフィールはマリーの声を聞いた。余りにも喋らないから喋れないのかもと思っていたが、人見知りが強かっただけだったのだろう。
ーー突然何か考える様な仕草をしたルークが、顔を上げた。
0
あなたにおすすめの小説
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる