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1章
11 名もなき村(2)
しおりを挟む「あぁ、そうだった。マリーは姉のエミリアと一緒に国から逃げて来たんだ。マリー、ちゃんとお姉ちゃんにここに来る事は伝えてあるんだよな?」
「・・・・・・」
「えっと・・・マズくないか?ルーク・・・」
「「「・・・・・・」」」
ーーバタァァァァァァァァァンンンンンンッッッッッ!!!!
「「!?!?!?」」
一瞬で扉が吹っ飛んだ。そこに立っていたのは15.6歳位の少女であった。セフィールは恐る恐るルークの顔を見るとルークの顔は真っ青になっていた。
「・・・ルークさん?マリーがルークさんの家に入れるのを見たと、村の人が教えてくださいましてね?貴方はマリーを手篭めにでもなさる気だったんですか?こんな時間にマリーを家にあげるなど・・・破廉恥極まりないっっ!!恥を知りなさい!!愚劣な輩はこの村にはいりません!私が処刑しますっっ!!!!」
エミリアの手には長剣が握られており、それを構える。
「ちっ違うんですよっっ!!!エミリアさんっっっ!!ひぃっっっ!!!セフィールっっセフィール助けてぇぇぇぇっっっっっ!!!!」
「は!?ちょっお前俺の後ろに隠れんなっっっっ!!」
「イヤだっっっ!!死にたくないっっっっ!!!!」
「貴方は見ない顔ですね・・・。あぁ、日中に誰か客人が来たとか言っていたが貴方であったのですね?で、2人でマリーを手篭めにする気だったと・・・。1人でも2人でも大差無いですね。」
可愛い顔に似つかわしくないドス黒いオーラを見に纏い近付いてくるエミリアを前に、セフィールとルークは身を寄せ合って震えた。
「ふぁぁぁぁっっっっ美味しいっっっっっ!!!」
殺伐とした空気を打ち破ったのは元気な少女の声であった。
マリーの声に3人は我に返った。マリーの方を見ると幸せそうに片手鍋で作った、煮込みハンバーグを美味しそうに頬張っていた。
「あ、・・・エミリアさんも夕飯食べて行きます・・・?セフィールが作ったんですけど・・・え・・・と・・・お肉ですよ?」
「・・・お邪魔しますわね」
夕食は4人に増えたが、セフィールの煮込みハンバーグは完成した鍋に浮かれて作り過ぎていた為問題なかった。
食べ終わった後ルークが人数分の紅茶を出してから、マリーがルークの家に来た説明をした。
「マリー、何でこんな時間に他所様の・・・まして男性の家に上がり込んだのかしら?話の内容によってはお仕置きしますからね?」
「・・・お姉ちゃん・・・ごめんなさい・・・」
「おいおい・・・こんな小さな妹を脅すなって!」
「これはうちの家の問題です。他所様は口出さないでくれます?」
「・・・ひとんちに上がり込んで飯食って良く堂々と言えるよな・・・凄いな・・・。」
感心してセフィールは小さな声で呟いたが、しっかりエミリアには聞こえていたらしく真っ赤に顔を染め上げた。
「だっっ誰が恥知らずですってぇぇぇっっっっ!!!わ、私が恥知らず・・・恥知らず・・・そんなはずは・・・!?確かにそうかも・・・?え・・・嘘・・・」
涙目で百面相をしているエミリアを放置して、マリーに用事を聞く事にした。
「マリーちゃんだっけ?で、おじさんに何の様かな?」
「・・・あの、昼間の話本当ですか・・・?」
眉尻を下げてセフィールを見上げるマリー。この村に来てルーク以外と話していなかったセフィールには、心当たりが一切ない。
「昼間?」
「セフィール、あれ聞かれてたんじゃないか?もう怯えなくて良いって話。違うかい?マリー?」
「ごめんなさい・・・。」
「いや、聞かれて困る話じゃないから別に良いけど」
「ちょっと、なんの話をしているのよ!!私にも教えなさい!!」
「・・・ルーク、この子って何でこんなに偉そうなんだ?もしかして、弱味でも握られてるのか・・・?」
「そんな事しないわよっっっっ!!!・・・そ、その・・・私にも教えてください・・・。」
余りにも不遜な態度のエミリアにルークの事が心配になったセフィール。
そのセフィールの発言でエミリアは先程の発言を思い出し、慌てて言葉を改める。
「はははっ!セフィールって穏和そうなのにはっきり言うよな♪」
「そうかな?国を出た開放感で気分が高揚しているのかも?」
「はははっ!何だそれ!」
「ねぇっ!いつまで関係ない話ししているのよっ!早く教えな・・・教えてよ・・・」
「あーすまない、そうだったな。エミリアも知っていると思うが補助金を錬金術師に渡す法律あっただろ?国から出られない様に縛り付ける法律。あれが廃止されたんだよ。推測だが、微々たるお金すら国が惜しくなったんだろう。それに補助金廃止したら、錬金術師を嫌っている国民と貴族の支持が得られるからな。」
「なっっっっっっっ!!!!あの法律が廃止されたですってぇぇぇぇっっっっ!!!」
「お前声デケェよ。ご近所迷惑だろ。」
正面に座っていたルークが耳を押さえながら注意するものの、エミリアの興奮が止む気配はない。
「ルーク何呑気に構えてんのよ!!あの法律の所為で錬金術師がどれだけ蔑まれ罵倒されて来たか・・・!やっと解放されたんだ・・・町にも顔を出して歩けるんだ・・・う゛ぅぅ・・・うあぁぁぁぁぁんっっっっ!!!!!!!!」
「お、お姉ちゃん・・・」
「・・・情緒・・・」
「セフィール、皆まで言わなくても大丈夫だ・・・」
テーブルの上で両肘を立てて額の前で手を組み、組んだ手に額を当てているルークは疲れた様に呟いた。
。
「じがたない゛じゃないっっ!!!・・・だって・・・だって・・・!!!」
エミリアは自分達の事を途切れ途切れ話し始めた。
2人はまだこの村に来て半年位の錬金術師で、少し良いところの家の出であった。エミリアは10歳になる前には、国から出るつもりで侍女がほとんど別宅に居ないのを逆手に剣の修行に明け暮れていたそうだ。準備が出来て国をそろそろ出ようと思っていた矢先に妹のマリーが生まれた。マリーの魔法も錬金術の魔法であった為、マリーも一緒に連れて逃げられる年齢になるまで待ってから国を出たとのことであった。
勿論エミリア達の家族も自分達の身の可愛さから最初から存在しない様に振る舞っていて3歳になる頃には、町外れの森の近くにある小さな別宅に放置していたのだとか。別宅に一緒に住んでいた侍女も錬金術師への差別意識が強く、掃除もせずお風呂にも入れて貰え無かった。ご飯も時間になったらパンを部屋に投げ込んで終わりなのだと。人間が投げ込まれた時は流石にびっくりしたとエミリアは苦笑いで言う。
「それがまさか自身の妹とは思っても見なかったわ・・・。妹が私と同じ苦しみを味わってしまうのかという悲しみと、2人ならば乗り越えられるかも知れないという期待で感情が滅茶苦茶だったわ。」
既に眠ってしまったマリーの頭をだいぶん落ち着きを取り戻したエミリアは撫でながら、優しい目でマリーを見ていた。
良いところの家ですら、この環境であるなら貧乏な村の出の俺は当たり前だなと思いながらセフィールはエミリアの話を聞いていた。
2人が帰った後ルークと話し合って、あの法律が廃止された事は明日ルークと一緒に村人全員に伝える事にした。村人はこれで、しがらみから解放されるだろう。
今日は色々ありすぎて、ユーリに話したい事が多くなった為明日朝一にユーリに知らせる事にした。
セフィールは窓から見える翠星にユーリの幸せと少しずつ錬金術師達の気力が戻る事を祈ってからアオとクロと一緒に借りたシーツの上で眠った。
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