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15 魔王の通訳官

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アパートに着くとミュナは室内着に着替えキッチンへ行く。そこには室内着に魔法で着替えたレンが一瞬で温かい夕飯を用意してくれたので一緒に席に着き、レンに用意してくれた感謝をして夕飯を食べ始める。

総長には家を用意すると言われているけれど、もう少しこのままこのアパートで暮らす事にした。総長の話を聞くとどうも侍女を雇う程大きい家らしく、2人で問題なくやってきたミュナは気が休まらないと思ったからだ。
 


「レン、なんでノーヴァンさんを配下にしたの??」
『あぁ、アレは主君として国王を選んでいない男だと感じたという事と自身の強さを存在意義にしている。我の配下になるのは契約であって、命をかけて守ろうという主君がいる場合は契約にならん。ジジイは十分この国に尽くしたから大してもうこの国に仕える気はないだろう事と魔法馬鹿だった故、直ぐに配下になるだろうと思ったのだ。ちなみにミュナも我の配下に当たるぞ。』

「はい?」

『我を心の拠り所にしたであろう?それにミュナは愛国心すらないからな。簡単であったぞ』
「え?え?いや、そりゃ・・・レンが側にいてくれるのは心強いと思っているけど・・・私ワイン呑んでないんだけど・・・」
『まぐわったであろう?あれで既に我と契約しておるぞ』
「聞いてない」
『言ってない』
「・・・・・・若返ってなく無い?」
『恐らく2、3歳は若返っておるのでは無いか?若返るのはその人間が最高の力を発揮できる年齢になる為だ。ジジイと護衛が年齢が違うのはそういう事だ』

 確かにノーヴァンさんは20代前半、バレンス総長は30代前半位に違う年齢に若返った。

「え?じゃあ私はほぼ変化なし?ちょっと悲しい・・・」
『そのままの若さで生きられるから良いでは無いか』
「え?死ぬまで?」
『うむ。喜んでくれたか?」
「・・・・・・」


 ミュナはまたかと諦め、この話は追々すれば良いかと明日の夜会の話に変えた。
急に招待されドレスも全て持っていなかったが、レンの魔法で問題ないとのことだったのでどうしようも出来ないミュナはレンに丸投げする事にした。今日のパンはくるみが入っていて美味しい。


「本当に夜会の準備大丈夫なの?」
『心配は無用だ。我を誰だと思っておる』
「はいはい。凄い魔法使いなんでしょ分かってますって」

 夕飯を一緒に食べていたレンの手が止まった。

『ん?我は魔法使いと言った覚えは無いぞ。前世界の肩書きは魔王だ、言っておらんかったか?』
「え?まおう?なんですか、それ?」
『ミュナの住む世界にはおらんのか?魔物と魔族の上に君臨する強者の事だ』

 ミュナも食べる手が止まる。

「・・・え?え?あれ?この星にいる魔王と同じ存在って事??」
『うむ、そうだ。それで間違いないぞ』
「・・・レンが魔王って話は誰かにしたんだっけ?」


 ミュナは新事実に驚きつつも、食べる手を止めるほどの話では無いかと思い再びほかほかのパンを手に取り食事を再開する。


『いや、ミュナにしていないならしておらんだろうな』
「そうだよね・・・。マズくない?」
『別に問題ないだろう。そんなにミュナが気になるなら明日の夜会で真の姿でエスコートしても良いぞ?』
「レンってそれが元の姿じゃないんだ?初めて聞いたんですけど?」
『あぁ、目立たない姿でこの国の情報収集しようと思ったのでな』
「そっかー確かに今の姿だから私も警戒心薄かったんだよね・・・」
『うむ。ミュナはもう少し男に警戒心を持った方が良かろう。会ったその日に良くも知らない男を一緒に住まわせたのだからな。ミュナの親は男は獣と教えなかったのか?』
「そんな事いちいち親は教えないと思うけど、男は狼ってのは良く聞いた事はあったよ・・・。本当に狼・・・いや野獣だったって言うね・・・。」
『これからは気をつけるのだぞ?さて、明日はどうしたものか・・・ミュナを嘲笑う目的ならば我が魔族と分かるものは消しておくとしよう。我々に無礼な真似をした時は城を壊さぬ程度に脅して身の程をわからせてやるとしよう』
「まぁ、程々にね」

 随分レンの暴君っぷりにも慣れてしまい。魔王という事実が判明したところで「だから我が儘なんだ!!」納得したミュナは今日翻訳した『旧原始の魔術書』の内容を教える。最近では翻訳内容を教えるのが日課になっている。レンに言わせると中々興味深い内容らしく、ミュナの前いた世界の話と同じ位面白いとの事。ただの機械まみれの世界の話と、この世界創世魔法にまつわる書物の内容と同等に語られると機械は近年の歴史だから色々申し訳なくなる。
ベッドの上で色んなことをレンに話して聞かせながら、知らず知らずに瞼が落ちてしまい眠ってしまった。


『・・・・・・』


 眠った顔を眺め優しくミュナの髪を撫でレンも眠りについた。





♢♢♢♢♢♢





 午前中は翻訳を進め午後お昼から戻って来てからも翻訳を再開しようとすると魔術団総長が声を掛けてきた。


「レン様ゆな嬢、今晩は夜会だから準備があるだろう?ここの片付けは私がやっておくから帰って良い」
「バレンス総長は出席しないんですか?」
「私はもう時期退官する身だから招待など来んのだよ。次招待があるのは退官式位だったが、レン様の配下になるのがもう少し早かったらこの夜会の招待状が届いてただろうな。若返った私を見たがっている貴族は多いからな。悔しがっている連中の顔が浮かぶ様だ」

 悪そうな笑みを浮かべている総長はほんの先日まで、孫の成長を心待ちにする好々爺といった感じだったのにここまで変えられて家族は何も言っていないのか心配にさえなってくる。

「(今更戻れないんだろうけど・・・)」

『では、一旦帰るとしよう』
「レン様、言い忘れておりましたが流石に城までいつものように、散歩するつもりで歩いて来てはなりませんよ。馬車で行かねばなりませんので我が家の馬車をお貸しするのでそれでお越しください」

『流石ジジイ気が効くな。任せる』
「ありがたき幸せにございます」


ミュナは魔術団総長のレンへの取り込まれっぷりが心配でしょうがない。







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