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【第一部】マクミラン王国
第三話 魔物をダイレクト浄化
しおりを挟む最前線に一人で立つ私を魔獣がその爪で引き裂こうとした瞬間、ヒナがゼロカウントで張ってくれた【守りの力】の結界が私の周りに球体で形成された。
魔獣が全力で振り下ろしたであろう右前足の勢いはヤツ自身に反発し、中指の爪1本が折れた。よし。カウンター大成功!
……と思ったら、その右前足に左前足をかけ、両手の力と鋭い爪で結界に無理やり孔を空けようとしている。……魔獣型だから見誤った! コイツ意外と知能があるやつだ!
「ヒナ! 二重結界を!」
そんな事、本来なら言わなくてもわかるハズだ。だけど振り返って見たヒナの顔には迷いがあった。……この女!!
「早く!!」
経験上わかる。もう結界は多分あと少ししか保たない。
このサイズ、力、そして知能もある魔物相手。もし私が殺られたら?……多分いろいろ終わる。そんな事ヒナもわからない程バカじゃない。
……ああ、あのアホ王子が横に居るのがネックなのか!
「ヒナ!!」
私が声を枯らして叫ぶのと、ヒナがバッと顔を両手で抑えるのと、魔獣が結界に孔を穿ったのと……そしてその内側にキン、と新たな結界が張られたのはほぼ同時だった。
「……今よ!」
私が手を挙げ号令をかけると、城壁の上にいた弓兵が一気に魔獣へ矢を浴びせる。後ろ足で立っている魔獣の高さは城壁を越えていてヤツの頭に矢は殆ど届かないし、魔獣型の魔物はだいたいが身体に厚い毛皮を持つ為、こんなものは針でつつく程度だろう。だがそれでも良い。
魔獣がチクチクとした矢の雨に怯み、両の前足を私の結界から少し外したタイミングで新たな二重結界がキン、と外側に張り直された。多分ヒナが指の間から状況を見て結界を張ってくれたのだ。
そして同じタイミングで、数人の魔術師団が私に【脚力強化】の魔法をかけてくれる。私はその力をすこしだけ借りてジャンプした。魔獣は鋭い爪の攻撃を繰り出してくるがギリギリで掻い潜り、更にその前足を踏み台にして魔獣の鼻先まで飛ぶ。いくら強化があるとはいえ、以前はこんな身軽には動けなかった。全て騎士団との特訓の賜物だ。
目の前に私の姿をみとめた魔獣は、その大きな口をガバりと開けて私をひとのみにした。
よし! 知能はあると言っても牙でズタズタに弄ぶような事はせずに単純にパクリとしてくれるタイプでよかった!
パリィン。
魔獣の口蓋が閉じた事で、私の周りの球形の二重結界は狼の顎の質量に耐えられず粉々に割れ、消え去った。
だが問題ない。口の中には僅かな空間もあるから横になれば私は圧し潰されない。それにこれは絶対に秘密なのだが、実は私の身体にピタリと纏う形での結界が別に張ってある。これは耐強度はそれほどでもないが、魔獣の唾液等からも身を守ってくれる。
さて、一刻も早く浄化をしなくては。今魔獣は舌を口腔内で動かして私を引きちぎる為に歯の近くへ押しやり、または喉の奥に飲み込んでしまおうと夢中になっているみたいだ。でも私を無視してヒナや騎士団達に攻撃をはじめたらマズイ。本気を出せない、今のヒナ一人の結界では皆を守り切れない。
私は魔獣の舌にしがみつき、小さく呟いた。
「………ね、つ………ね。今………るから」
そして舌の上に寝そべったまま、唇を当てた。
一気に魔獣の瘴気を吸い出す。
「ヴ、ヴォアアアアー!!」
魔獣の喉の奥から凄い声が上がってきてビリビリと空気が震えた。危なかった。身体に纏うタイプの結界じゃなかったら鼓膜が破れていたかもしれない。
魔獣は鋭い牙をガチガチと鳴らし、舌を暴れさせ抵抗するが、私は構わず瘴気を吸いまくる。プランA……わざわざ口の中に入ったのはこの為だ。
魔物といわれる生き物は、大きく分けて二種類だと言われている。
ひとつは悪魔、魔王と言われる生まれながらの魔の者。これは極めてレアな存在。
もうひとつは獣や人間、植物などの生物が瘴気によって魔物に変えられるパターン。悪魔から生まれたり、その他の要因で世に放たれた瘴気に取り憑かれた生物は身体が大きく醜く変化し、力も何倍にも増え、見境なく暴れるようになる。
『原初の聖女が魔物を清浄なものに生まれ変わらせた』というかつての伝説は、おそらく逆だ。『人間や獣に瘴気が取り憑き不浄になった者を、聖女が元に戻した』だけなのだ。
私は今、それを実行しようとしている。
暴れていた魔獣が徐々におとなしくなり、身体のサイズがどんどん小さくなってきた。このままだと私のせいでこの獣の口が裂けてしまう。
私はギリギリのタイミングで獣の口から這い出した。しかしその後も引き続き口から瘴気を吸う。
狼のような獣は、体長2メートルぐらいの大きさに縮んだところで赤い目が澄んだ金色の目に変わった。
「……ふう。浄化完了よ」
瘴気が消えると共に毛の色が薄くなり、銀混じりの青灰色になったフカフカな獣の背を撫でると、彼は綺麗な瞳で私を見つめ、身体を擦り付けてきた。
その私と獣を取り囲むように騎士団と魔術師団の全員がザッと一斉に膝をついて礼をする。残されて立ち尽くすのはヒナとクライヴ王子だけ。
ヒナはもう顔を抑えていない。魔獣の口に結界を潰された後、いつも通りに戻ったかな?
クライヴ王子は真っ青になってこっちを見ている。僅かに震えてもいるみたい。ああ、そういえばこの人はいつも王宮でのんびりするか遥か後方で騎士団に守られていたから魔物との戦いを間近で見たことがなかったわね。かと言って前線に居座られたらすっごく邪魔な存在だったけど。
「さっ! お祝いに一杯呑も! も~瘴気の吸いすぎで胃もたれするわ~。お酒で消毒しなきゃ!」
私がわざと明るく言うと、皆がホッとした顔をして立ち上がった。
「聖女様に酒を持て!」
「聖女に感謝と祝福を!」
「我らの勝利に祝杯を!」
この後王城で祝いの宴をするかもしれないけど、まずは正門でかけつけ一杯。皆がお酒を素早く用意してくれる。うん。シュバババっと信じられないスピードで提供された。最近の私は【酒浸り聖女】だからね……こうなることを見越していたのかもね。
一方、魔術師団の一人が宙に向けて火炎魔法を放った。それは花火のようにはじけて空を彩る。遠くの王城に「魔物討伐成功」の信号を送ったのだ。
杯に満たされた赤いワインに火炎魔法の光が反射しキラキラとしている。綺麗だなと見つめていると、空気に触れたワインは豊潤な薫りが立ちのぼり、早く飲んでとでも言うように私を誘う。あー、もう我慢できない!
「皆行き渡った? はい、勝利に乾杯っ!」
私が音頭を取り杯を頭上へ掲げると、皆が閧の声の如くおぉー! と野太い声で応じ同じように杯を掲げた。そして一斉に飲む。
……はぁぁ、うンまァァーい! やっぱり労働の後の一杯は最高だね!
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