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【第一部】マクミラン王国

第六話 王宮の廊下で婚約破棄宣言?

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 ◆


「オーカお姉様! おかえりなさいませ!」
「エメリン姫!」

 王城に戻った私を広い廊下でいの一番に出迎えたのは、クライヴ王子によく似た金髪碧眼の可愛らしいエメリン第一王女。彼女は王族でありながら生まれつき【癒しの聖女】でもある。
 エメリン姫はポフッと抱きついてきた。私を見上げる目はアクアマリンのようにキラキラしているし、いい匂いもするし、ちっちゃいし、ホントに可愛い。最近荒んでる私には酒以外ではマジで一番の癒し。違う意味で癒しの聖女。

「先触れの兵から聞きましたわ! 城壁よりも大きな魔物を浄化したのですって!? 流石はお姉様ですわ! わたくし達の憧れです!」

 鈴を転がすような声で私を誉めるエメリン姫。可愛い。笑顔が1億点。
 以前この世界の聖女達を集めて、聖女の力を強くするために私が指導と訓練を行った時にエメリン姫もその中に居た。それ以来彼女は実の兄よりも私の方に懐いてしまったようだ。
 クライヴ王子はそれも気に入らないんだろうな。あ~背中側からズモモモモ……って効果音が聞こえてきた気がする。

「何が憧れだ! エメリン、その汚らわしい女から離れろ!!」

 振り返ればクライヴ王子が予想通り仁王立ちで横にヒナを従えていた。王子の言葉に周りも引きつってる。ざわ……ざわ……っての、こういうのね。あんまりいいもんじゃないわ。

「お兄様!? 今の失礼な言葉はまさかオーカお姉様に向けたものではないでしょうね?」

 エメリン姫がキリリとしてクライヴ王子に問う。エメリンは賢いんだよね。キリっとしてる姿もギャップ萌えできゃわわ!

「その女以外に誰が居る? こんな女は聖女ではない。俺は騙された! 今日この場で婚約は破棄だ!!」

 ……はい?
 何を言い出したかと思えば。エメリン姫も、クライヴ王子の後ろにいるグリーンさんもアイルさんもカーンさんも皆が目を見開くか引きつった顔をしている。多分私もそうだろう。違うのは得意気なクライヴ王子と「???」って感じで王子の横にいるヒナ、同じく状況がわからないので私の横で「?」と大人しくお座りしているチャッピーだけだ。
 クライヴ王子は私とチャッピーに向かって指差し、自信満々で言った。

「俺は今日、この女がそこの汚い魔獣と口づけをしているのを確かに見た! しかもその後この魔獣を手懐け、背中にまで乗ったんだぞ。あれが聖女の振る舞いだなんてありえん! こいつは聖女ではなく瘴気を食らう化け物に違いない!!」

「「「「えっ……」」」」

 その場にいたクライヴ王子以外の全員が(ヒナまでも!)彼の言葉に絶句する。

「……」
「……」
「……ん?」

 その様子に最初は調子に乗っていた王子も、あまりにも王宮の廊下が静けさに包まれたためにキョロキョロと周りを見渡し始めた。

「お、おい……聞こえなかったのか? こいつは聖女ではないんだ! 俺は騙されたんだぞ! こいつを摘まみ出せ!」
「摘まみ出されるのは、どちらかというと貴方の方ですわね。お兄様」

 あれっ。私の側からものすごく低~い声が出た。
 えっ、まさか。いつもはふんわりとした春の陽気を思わせる可愛い可愛いエメリン姫から発せられてるの? 地獄の審判みたいな声だったよ!?

「なっ! 妹のくせに俺に意見するか!?」
「はぁ……いいですかお兄様。たった今、お兄様は自らわたくしの下に立つ発言をなさったのですよ。寧ろわたくしの意見をありがたく聞いていただきたいですわ」

 エメリン姫がウジ虫でも見るような目で、良く似た実兄を見つめてる……あわわわ、私の可愛い天使が堕天しちゃうのでは。

「お前の下に立つだと? ふざけるな。俺は次代の王だぞ!」
「……はん、まだそんな戯れ言を! 衛兵、彼を捕らえなさい」
「何!?」

 今、はんって言った!?

「ひ、姫様、恐れながら、それは流石に……」

 衛兵も狼狽えてる。そりゃそうだよね。でもエメリン姫は容赦が無い。

「今、彼は自ら婚約を破棄すると言ったのよ。しかもオーカお姉様を聖女でないと根拠のない侮辱をして! 最早この男はただの無礼な一庶民となんら変わりがない。そうでしょう?」
「は、はあ……でも魔獣に口づけをしていたと聞くと、やはり……」

 エメリン姫がピクリと片眉を上げた。

「おや、お前、我が国の騎士団員の癖にそんなことも知らないの……グリーン!」
「はっ、エメリン姫」

 騎士団長であるグリーンさんが前に出てくる。

「この者の教育はお前の管轄でしょう!」
「誠に申し訳ありません。本日は魔獣討伐の最前線に優秀な人員を割いた結果、オーカ様の浄化について不勉強な者を城内に配置してしまったようです」
「ふん……これはお姉様の素晴らしい研究結果をもっと広めるべきなのかしら。……でも他国からお姉様を狙う奴らが現れるかもしれないし、難しいところね」

 え、エメリン姫……? 目が完全に据わって扇子をパシパシしている様子が王女ってより女王様みたいになってるけど……。

「……まぁ、それはそれとして、仮にも次の王を名乗るつもりでいる男が、不勉強な一兵卒と同じ知識しか持っていないなんてあんまりですわ。この男と同じ血が我が身に流れているのが恥ずかしくなります」
「エメリン! 貴様言わせておけば……!」
「クライヴ様っ、待って!」
「殿下、お待ち下さい!」

 顔を真っ赤にして、今にも腰の物を抜きそうなクライヴ王子を騎士達とヒナが止める。

「何故止める!」
「当たり前でしょう。貴方が愚かだからです。教えて差し上げましょう。貴方が見たものは汚らわしくもなんともない、お姉様だけが出来るハイレベルな浄化の方法なのですわ」
「……は?」

 クライヴ王子が目を見張り、顎がガクンと落ちて間抜けな顔になった。

「ハイ……レベル?」

 王子の言葉に、彼を止めていた騎士も、ヒナも無言でうんうんと首を縦に振る。あちゃあ、さっき私が浄化を完了させた時に信じられないものを見る目で真っ青になっていたから、もしやとは思ったけど……知らないとかある?
 私、以前研究結果の資料をまとめて「後で読んでね」ってちゃんとクライヴ王子に渡したよ? 読んでないのね?
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