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【第一部】マクミラン王国
第七話 マクミラン王国の制度
しおりを挟むエメリン姫が白い目で実兄を見たまま、呆れた口調を隠しもせずに言う。
「ええ、お姉様の言葉を借りると『粘膜接触』……つまり皮膚ではなく体内に近い柔らかい部分で触れると浄化のスピードや効果が上がるのだそうです」
私が持つ浄化の力、それは触れると魔物や魔獣の瘴気を浄化し祓うことができる。しかしチャッピーが魔獣化していた時のように大きな体を持つ者になると、とんでもない量の瘴気が取り憑いている。こうなると手で触れて瘴気を祓うのはかなり厄介だ。
以前は魔物の皮膚を大きく切り裂き、中の肉に私が手を突っ込んで瘴気を浄化していた(今ではそれは私たちの中でプランBと呼ばれている)。が、時間も手間もかかるし、皮膚を切る役目の騎士がケガをしたり傷口から出る瘴気に中てられて倒れたりしていた。
私は何匹もの魔物と戦いつつ研究をした結果、手で浄化するよりも粘膜接触で直接瘴気を吸う方が非常に効率が良いと気づいた。吸った瘴気は私の中に入るが、それは吸ったそばから簡単に体内で浄化出来るので問題ない。
チャッピーの浄化を完了した時に騎士団と魔術師団の全員が膝をついて礼をしたのは(大袈裟な気がしないでもないけど)、あのサイズの魔物と戦ってケガ人や瘴気中りを一人も出さずに済んだのは彼らからしたら相当凄いことだからなのだ。
「そ、そんなものは……詭弁だ!! こいつは聖女ではない!!」
クライヴ王子が苦し紛れに吐き出すと、私の隣から高笑いが起きた。
「ほーっほっほっほ!! ああ、おかしい。言うに事を欠いて詭弁ですって! 自ら言っていた事の自白かしら?」
エメリン……さようなら私の天使……こんにちはカッコイイちっちゃな女王様。
「ではここに居る皆に詭弁かどうか訊いてみましょうか? ねえ、オーカお姉様はたった今婚約が破棄となったわ。皆はどうするの?」
一瞬その場が静まり返ったかと思うと、すぐにグリーンさんが前に進み出た。屈強な身体を私の前で縮め、跪く。
「では、遠慮なく。オーカ様、俺と結婚して下さい!」
「えっ」
「「グリーン!?」」
クライヴ王子とアイルさんとがハモった。でもグリーンさんは気にする様子もない。私は固まって、彼の熱い視線をただただ受け止めるだけになってしまった。
「俺は貴女の、強力な力に惹かれています。俺では貴女に一生敵うまいとも思っています。だがこの命あるかぎり貴女を御守りしたい」
グリーンさんは私を見つめ、逞しい腕を差し伸べてくる。そこへ長髪の美形魔術師が割り込んだ。
「待て、グリーン! 僕だってオーカ様と結婚できるならなんでもする!」
「アイルさん!?」
「オーカ様、僕は貴女が自身の力に奢らず研究を続ける姿をずっと好ましく思っていました。僕は貴女の傍でずっと研究を支え、この国を共に守っていきたいのです!」
美しく微笑み跪いて、やはり片手を私に差し出すアイルさん。と、その横に歩み出てきたのは顔を真っ赤にしたカーンさん。えっ、彼まで!? 頭が痛くなってきた……。
「オーカ様、この世界に最も詳しく、今までも様々な事で貴女を支えてきたのは私です! これからも貴女の力になれるのは私だと思います。私と結婚してください!!」
騎士団長、魔術師団長、王宮の事務次官までもが私に求婚したとあってクライヴ王子の顔色が明らかに悪くなる。エメリン女王様がまたも高笑いをした。
「ほーっほっほ! 勿論三人はオーカお姉様を『この国で一番強い聖女』と思っているのでしょう?」
「そ、それはそうですが、エメリン様、僕はそれで求婚をしたわけでは」
「俺はオーカ様を純粋に愛しています!」
「私もそうです! 国王の座ではなくオーカ様をお慕いしているからで」
慌てて言いつくろう三人に、エメリンはそのアクアマリンの瞳をにやりと細めた。
「よいよい、国王の座を狙うという事はオーカお姉様をこの国一の聖女と認める事と同義なのだから。ああ、本当に残念だわ。私が男の身なら真っ先にお姉様に愛を語るのに」
そう、実はこの国の王政は世襲制ではない。この国で一番の聖女が現れたなら、その聖女と結婚した男が次の王となり国を統べる決まりなのだ。
聖女の力は絶大で、聖女がいない国は魔物に襲われる。だから聖女を他国に取られないように縛り付けるための制度といえば筋は通っている。
そしてマクミラン王家の人間は代々自分達の一族が王座に着くために努力してきた。しかし努力の方向性が少々歪んでいる。
一族の女は聖女の力が顕現すれば儲けもの。王家パワーでこの国イチの聖女だと吹聴する。事実、クライヴ王子とエメリン姫の母親である現王妃はマクミラン一族の人間で【守りの聖女】。今、城壁の周りに毎晩結界を施している人だ。彼女は美男かつ国を治める能力のあった大臣の息子を婿にとって、国王に据えたらしい。……少なくともこの選択は間違ってなかったと思う。現国王はちゃんと国を治めてるから。
女で聖女の力が顕現しなければ、美しい男を夫にして美しい子を産み次代に賭ける。一族の男は幼少期から美貌を磨き、聖女のあらゆる口説き方と国の治め方を学んでいるという。そうやって何代もマクミランの一族で王家を牛耳ってきたのだ。
私は召喚されてすぐにクライヴ王子にプロポーズされ、それを了承した後で王制の真実を知った。つまり、クライヴ王子は顔が良くて女たらしなだけの、聖女口説き装置だったのだ。
ハッキリ言ってコイツが次代の国王って普通に不安要素すぎる。そんなのに引っ掛かって、つい最近まで大馬鹿たれだと気づかなかった私も私なんだけどさ!!!
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