アラサー聖女、出奔す。理由は『酒浸り』!?  ~皆が求婚してくるけど逃げようと思います。あれ?モフモフ男子がついてきたぞ?~

黒星★チーコ

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【第一部】マクミラン王国

第十話 たとえ超絶美形だろうと、怖いのでとりあえず殴る

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「オーカ」

 その声は突然、私の悪夢にふわりと入り込んできた。
 優しく蕩けるような甘さを持ち、それでいて心が安らぐ低い声に包まれる。温かく大きな手がゆっくりと私の頭を撫で、時折私の髪の毛をさらさらと玩んでいるのが目をつむっていてもわかる。そしてまたよしよし、と子供にするように頭を抱き込まれた。

 先ほどまで悪夢に囚われ傷ついていた私の心は、この上なく優しい扱いにゆっくりとほどけ、緩んでゆく……。それでも涙は零れてしまうが、湿った温かい何かが私の頬を撫でてくれる。

「オーカ、どうした。何故泣いている」

 その何かは私の涙をぬぐっているのだと気づいた。ふわっと世界が明るくなり、私は嫌でたまらなかった夢の世界から現実に戻ってくる。と、視界に映ったのは……

「あ、目、覚めたな。怖い夢でも見てたか?」

 絵画か彫刻かと思うほど整った顔をした、青灰色の髪の毛を持つ見知らぬ男性だった。鼻と鼻とが触れそうなほどの至近距離で美しい金の瞳が私を覗き込んだかと思うと、ふっと優しく細められて太陽の様な眩しい笑顔になる。

「……?」

 現状を理解できず、これも夢なのかと思った私の頬を男がぺろりと舐める。えっ、ちょっと、さっきまで私の涙をぬぐっていたのはもしかしてこの舌……。

「オーカ、かわいい。大好きだ。俺の奥さんに」

 ベッドの中、先程まで私の頭を優しく撫でていたであろう彼の大きな手が動き、私の腰に回される。私をそっと抱き締めるその逞しい腕から肩、そして胸までが一糸纏わぬ裸だった。えっ、もしかして下半身も? と思うと同時に全身に鳥肌がぶわーっと立つ。
 無理無理無理!! 幾らドが付くイケメン相手でも、これは恐怖と嫌悪感しか湧きようがない!!!

「嫌ああああ!!!」

 私は持てる最大の力を込めて(ウソ。、かつ気絶するよう加減した力で)男性の顎に向かって掌底を突き上げた。

「グファッ!!」

 クリーンヒットした顎を抑え、男性がのけぞる。驚いたことに彼は気絶しなかった。確かにガタイがいいがそれにしても何という頑丈さか。それとも何か魔法で防御力を上げている? 閨の中で女を手籠てごめにしようとしながら魔法防御をする意味がわからないけど。

 私も瞬時に攻撃に使った力を引っ込め、ベッドで身を起こしてに専念する。これで彼がこれ以上私を襲う事はできないと思うけどやっぱり怖い。ぶるぶると震える身体を両の手でぎゅっと抱きしめながら、裸の男もベッドの上で(おそらく痛みにより)震えているのを見守っていると、彼は苦痛にゆがんだ顔を無理やり笑顔に変えて呟いた。

「……お、オーカ……それでこそ俺が惚れた女だ……」
「何言ってるかわかんないわ!!」
「聖女様、失礼します。何事ですか? ……えっ!?」

 私の叫び声を部屋の外で聞いたであろうメイドさんが、ドアを開けて入ってきた。彼女はベッドの上にいる裸の男を見て一瞬声を失った後、金切り声を上げた。

「きゃあああ!! 誰かっ、誰か来て!! 聖女様に不届者が!!」

 ああ、これで護衛の騎士が来てくれればこの男は捕まるだろう。それまで私は自らの身を守っていればいい。私は少し安心しメイドさんがドアの外に向かって助けを呼んだのをちらりと見て、目線をベッドに戻し……

「あっ!?!?」

 目の前の光景に驚きのあまり思わず声が出る。男の姿は煙の様に消えていた。代わりにベッドの上にいたのは。

「くぅ~ん」

 青灰色の耳をぴったりと伏せ、両の前足を顎の辺りに当て、金の瞳で可愛らしく上目遣いに見上げてくるチャッピーだった。

「聖女様! ご無事ですか!?」

 騎士たちが数人部屋になだれ込んでくる。しかし部屋の中に私とチャッピーしかいないのを見て、丸かった目が更に大きく丸くなる。

「侵入者は!?」
「探せ!」

 部屋中、そして続き部屋まで見て回ってくれるが誰も見つけられなかったらしい。騎士の一人がチャッピーを指さしながらメイドさんに詰め寄った。

「おいお前、この狼を侵入者と見間違えたんじゃないだろうな!?」
「そんな! さっきまで裸の男が確かに居ました!」

 彼女は真っ青になって反論する。慌てて私もフォローに回った。

「本当に知らない男が部屋に居たのよ! でも一瞬で消えちゃったの!」

 騎士達は顔を見合わせ、そして眉間に深く皺を寄せた。

「消えた!? 馬鹿な!」
「いや、だがこの部屋の外には常に誰かが詰めていたから扉からは入れない筈……。侵入者は部屋に入る時も出る時も転移魔法の類を使ったという事か?」
「まさか! 転移の魔法など過去の伝説レベルだぞ。自在に操れる魔術師などいるわけがない」
「……む、とりあえず部屋の前の警備を強化して、副団長に報告しよう」
「オーカ様、失礼致します」

 そんな事を言いながら彼らとメイドさんは部屋を出て行った。暫くの間、私は閉じられた扉をずっと見つめ、部屋には静寂がたちこめる。

「オーカ」

 その静寂に割り込んで、あの甘く低い声が後ろから私を呼んだ。私はハァ……と溜め息をついてからふり返った。そして改めて男の全身を観察する。

 ひと筋だけ銀の毛が混じった青灰色の長い髪の毛は両のこめかみの上辺りから宙に向かって延び、二つの三角形を形成している。つまり、獣の耳だ。
 神々の像のように雄々しくも美しい顔の下には、これまた神が作ったのかと思うほど理想的に鍛えられた逞しい身体。その身体は先ほどまでは全裸だったが、今はベッドのシーツをはぎ取って腰に巻いている。更にそのシーツの合間からは髪と同じ青灰色のフサフサとした尻尾がはみ出ており、機嫌がよさそうに左右に揺れていた。

「あんた……」
「チャスだ。チャス・ブレント・アッコラが俺の名前」

 彼はまた太陽の笑顔を見せる。だが私はそれに心を動かされることなく彼を睨みつけて言った。

、あんた獣人だったのね」
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