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アルフェン・ダーロンという男

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時系列としては「星が泣いた夜」の数ヶ月後の出来事です。 


ボンヤリした男―-それが周囲から見たアルフェン・ダーロンの印象だ。

蜂蜜色の金髪に、少々垂れ目な琥珀色の瞳で中性的な容姿をしており、若干23歳ながら薬師としてまた占星術を扱う錬金術としての腕は確かで、彼の作る薬や滋養強壮剤ポーション、目薬は評判が高い。 
彼自身は真面目な性格なのだが、考え込んでしまうと自分の世界に入り込んでしまうため、時折彼の弟達が声を掛けたり、最近では年の離れた妹が服の袖を引っ張り現実の世界に戻す姿が目撃されている。

この日はギルドのテーブル席で感冒かんぼうの薬を作るために占いを行っていたのだが、突如バンッとテーブルを叩く音で我に返ったアルフェンが占いをしていた手を止めると、190センチはある長身ながらスラリとした体躯で癖のある黒髪に猫のようなツリ目の若い男がニヤニヤとアルフェンを見下ろしていた。

「よう、ひさしぶりだなぁ。」

「‥‥3日前に遭いましたよね。」

ニヤニヤと笑う男に対してアルフェンは反応は冷ややかだ。

「ハッ、相変わらずお高く留まりやがって。」

「・・・何の用だリーベ。」

アルフェンの態度が気に食わないのか、リーベと呼ばれた男はチッと舌打ちをした。
リーベは数ヶ月前からこの町に現れた自称「冒険者」である。しかし特に仕事をするわけでもなく、酒を飲んでは酔って大暴れしたり、飲食代を踏み倒してはギルド職員とトラブルを起こし、さらには他の錬金術師達を脅しては金銭を奪いとるなどの暴挙を繰り返しているために、ギルド職員や錬金術師達から疎まれている。
何故かは知らないが、アルフェンが気にくわないらしく、ことあることに絡んで来ては暴言を吐き、最後には「錬金術師なんて早く止めてしまえ」と行って去っていくので、アルフェンもリーベに対して言い感情を持っていない。 

「まだそんな女々しいものを続けているのかよお前。」

「女々しい・・・?」

リーベのその一言にアルフェンの眉がピクリと動いた。

「占星術なんて女々しいものだろう。そんな役に立たないものをやって何になる?」

リーベの占星術をバカにした言い方にアルフェンの目が鋭くなっていくが、本人は全く気付く気配はない。

「本当のことだろう。おまけに素材や薬草の採取なんてものをまだ続けているんだろう。そんなガキのお使いみたいなことしてバッカみたい。おまけにソレを使って役にも立たないモノを作って何が楽しいんだよ。くだらない。」

後半のリーベの言葉に近くにいた周りの空気がピりりと重たいものに変わったことにリーベはまったく気づかず、アルフェンを「役立たず」だのアルフェンを貶める発言を好き勝手に吐き続ける。

「だから役に立たない錬金術なんか早く止めちまえ・・「何言ってんの。」あっ!?」

突如聞こえてきた声に向かって振り返ると、アルフェンと同じ蜂蜜色の金髪を三つ編みに結った10代前半の幼い少女--アルフェンの妹レイリーンが腰に手を当て、アンバーの瞳でリーベを睨んでいた。

「何だこのガキ。」

「レイリーン。」

「錬金術が役に立たないなんて何でそんなこと言い切れるのよ。」

「はあっ?その通りだろう?本当のこと行って何が悪い!!」

「そう言っているけど、その胸ポケットに入ってる滋養強壮剤ポーション…………それアルフェンの作ったヤツだよ。」

「なっ………!?」

レイリーンが指したのは昨日、薬局で購入した滋養強壮剤ポーションだ。
薬局の店主から勧められて買ったのだが、まさかアルフェンが製造したものとは思いもしなかった。

「ポーションだけじゃないわ。その腰に下げている剣や武器の素材だって他の錬金術師が採取してきたモノなのにそれをよくくだらないなんて言ったわね。おまけに錬金術を役に立たないなんて言っていたけど……………ココ錬金術ギルドだよ。それを理解しわかって言っているの?錬金術ギルドココにいる錬金術師達に向かって役に立たないモノを作っているなんてよくそんなことが言えるわね。他の錬金術師達に失礼よ!!」

ズバズバと言い放つレイリーンにリーベはギリリと歯軋りをしながらレイリーンを睨みつけた。

「………うるさい!!それに占いなんて役に立たないモンだろうが!!」

「役に立たない?………何言ってんの?占星術って錬金術の中でものすごく難しいんだよ。」

占星術は錬金術の中でも難易度の高い分野であり、これを扱う錬金術師は一握りしかいない。更にアルフェンはその中でも一番若い。また占星術はアルフェンのように薬の処方だけではなく、医学や数学、さらには建築学などにも深く関わりがある。


「それを女々しいってそう言っているそっちが馬鹿なんじゃないの。何より・・・アルフェンのこと、散っ々役立たずとか迷惑だとか好き勝手言って何よ!!アルフェンの事、何にも知らないのに勝手なこと言わないでよ。アルフェンの努力や存在を否定しないでよ!!」

気にくわなかったのか、リーベはグルル……と猫のようなうなり声をだし、ギリッと鋭い目でレイリーンを睨むと握りしめていた拳を頭上にあげた。 

「このガキッ……いい気になりやがっ…「レイリーンの言うとおりだ。」

ゾワリ……と寒気を感じたリーベは拳を下げ後ろを振り向くと、黒髪を短く刈り上げたアルフェンより少し年下の男がリーベに向けて殺気を放っていた。

その男の登場にその場にいた人々は「うわっ、来たぁ!!」「やっとかよ!!」と口々に叫んだ。

黒髪の男の名はヴァルト。アルフェンの弟で、レイリーンの次兄だ。
 
「お前、よくも兄さんを役立たずだの何だのいってくれたなぁ。……」 

「ひぃっ・・・・」

自分よりも小柄なヴァルトの威圧感にリーベは思わずたじろいでしまう。

「おまけに錬金術師を辞めろだと?何様のつもりだ。”あぁ″っ!!」

ゴゴゴ……という効果音が聞こえてきそうな禍々しいオーラを放ちつつ、ボキボキと指を鳴らしながら近づいてくるヴァルトにリーベは後ずさる。 

「うわぁ~~アイツ、終わったな。」

「アルフェンにちょっかいだすから、ヴァルトの怒りを買わずにすんだのに……」

「自業自得だよなぁ……」

ヒソヒソとリーベに対する同情と呆れの声が周囲で囁かれる。

「うわぁ~~、ヴァルト兄さん大荒れだね~。」

ちょっと間延びした声が聞こえて振り返ると、レイリーンと同年代の少年--アルフェンとヴァルトの弟で、レイリーンの兄であるリュークがいたずらッ子の表情を浮かべている。

「笑い事じゃないでしょうリューク。いいの?ヴァルトアイツ止めなくて。」

「ヴァルト兄さんは一度火がついたら止められないってレイリーンも知ってるでしょう。」

「それはそうだけど……アレ?そういえばアルフェンは?」

「アレ?さっきまでいたのに……って、あっ……」

ガルル……と狂犬のようにリーベを威嚇していたヴァルトだったが、ふいに肩を叩かれ振り向き相手を見た瞬間、威嚇を止めた。

「………兄さん。」

「もうそれくらいにしな。」

周りに迷惑がかかるからね…とアルフェンに窘められて、ヴァルトは一瞬でシュンと子犬のように大人しくなる。

「……リーベ、僕は別に自分が何を言われても構わないよ、だけど君はさっきレイリーンに殴りかかろうとしたよね。」

「えっ………?」

「もし、君がレイリーン……妹に危害を加えるようならば…………………………容赦しないよ。」

いつもの穏やかな瞳とは違う、冷ややかでゾッとするほど凍たい目で睨まれた瞬間、リーベは腰を抜かしつつも、大慌てでギルドから出ていった。 

「ご迷惑をおかけしました。」

そう言ってギルドその場にいた人々に向かってアルフェンが頭を下げると、まるで何事もなかったかのように人々は散っていった。

「いいの?あの人逃げてったけど。」

レイリーンのその問いに答えてくれたのはリュークだった。 

「大丈夫だよ。多分あの人、もうギルドココには来ないと思うし。」

「何で?アルフェンを怒らせたから?」

「それもあるし、あの人、他のギルドでも似たような事をして出禁になってるんだよ。」

聞けば、別のギルドでも「自分は冒険者だ!!」と言ってはギルド内の食堂で飲み食いをして代金を支払わなかったり、恫喝しては金を巻き上げたりと、好き勝手してきてはそこを追い出されてを繰り返してきた。 


「結局、あの人何がしたかったの?」

「う~~~ん…………」とリュークは腕を組んで考えこみ、ヴァルトは
「アレの考えてる事なんか分かるわけないよ。」とバッサリと切り捨てた。

「まあ、ひとつ言えることは、でしょう。ところでレイリーン。」

「……何?」

「さっきはヴァルトが来たから良かったものの、下手したらリーベに殴られたかもしれないんだよ。」

「ぅっ…………ゴメン。」

「でも………」

手を伸ばし、レイリーンの頭を軽く撫でる。

「君は、僕や他の錬金術師達のために怒ってくれた。ありがとうレイリーン。」

「…………うん。」

照れくさかったのか、顔を真っ赤にし、それを隠すように俯くレイリーンの姿にアルフェンは目を細め笑った。

その後、リーベは逃げるように町を去り、その後の消息は掴めなかった。
この一件以来、錬金術師達の間ではアルフェンを怒らせてはいけないという暗黙のルールができた。


終わり

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