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復讐
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フィリップは、エミリアの機嫌を窺うように下手に出た。
「まあ、陛下ったら。頬が青くなって、痛々しい」
エミリアは、フィリップの頬にそっと手を伸ばした。しかし、触れはしない。代わりに冷笑を浮かべた。
「早く良くなってくださいね?」
(白々しい)
鼻で笑ってやりたくなるが、そうもいかないので、当たり障りのない労りの言葉を口にする。
「ああ、早く治すよ」
フィリップがエミリアの手に自らの手を重ねようとして――エミリアは一瞬、躊躇った。
(駄目よ、躊躇っては)
今は忍耐だ。エミリアはぎゅっと拳を握りしめると、フィリップに微笑んだ。
フィリップはほっとしたように笑うと、エミリアの腰に腕を回した。
(あ、気持ち悪い……)
心が拒絶しているのがわかるが、その感情を押し殺して平然と微笑む。
「こんなに離れていたのは初めてだ。会いたかったよ、エミリア」
「私もです、陛下……」
(あ――)
抱き寄せられて、唇が触れそうになる瞬間――エミリアは腕を突っ張って抵抗した。
フィリップは目を見開いている。動揺しているようだ。
「……どうした? もう……口付けるのは嫌か?」
フィリップは哀し気に眉を寄せて笑った。
「いえ、お部屋に皆さまがいらっしゃるから」
エミリアは周囲を見回して、答えた。
フィリップは頷いて、「二人きりで話したいんだ。外してもらえるか?」と周囲に退室を促した。
秘書とカルヴィンは、ぎょっとした顔をしてから、慌てて退室する。
執務室に二人きりになると、フィリップはエミリアの手を引いてソファに座らせた。
その隣に腰を下ろす。
「あの時は……すまなかった。ヴァルデリアの王子につい嫉妬して……本当に会いたかっただけなんだ」
「嫉妬……陛下も嫉妬されるんですか? そういったことは気にされないタイプかと思っていました」
「心外だな。私だって人並みに嫉妬するさ」
フィリップは苦笑する。エミリアの髪を撫でて、愛おし気に顔を見つめた。
(ああ、吐き気が……。今までどうして平気だったのかしら)
胃液が込み上げてくるような感覚をどうにか抑え込むと、精一杯の笑みを浮かべる。
「でも、私にサンフラン嬢を認めろと仰いましたよね? 私は嫉妬してはいけないんでしょうか?」
「いや、それは……」
フィリップは言葉に詰まった。当然だろう。最初に不貞を働いたのは、他ならぬ自分なのだから。
と、いうよりもフィリップの能力でエミリアを言いくるめようとは、どうにも無茶な話だ。
それなのに、あっさり味方を部屋の外へ追い出すとは。
「まあ、陛下ったら。頬が青くなって、痛々しい」
エミリアは、フィリップの頬にそっと手を伸ばした。しかし、触れはしない。代わりに冷笑を浮かべた。
「早く良くなってくださいね?」
(白々しい)
鼻で笑ってやりたくなるが、そうもいかないので、当たり障りのない労りの言葉を口にする。
「ああ、早く治すよ」
フィリップがエミリアの手に自らの手を重ねようとして――エミリアは一瞬、躊躇った。
(駄目よ、躊躇っては)
今は忍耐だ。エミリアはぎゅっと拳を握りしめると、フィリップに微笑んだ。
フィリップはほっとしたように笑うと、エミリアの腰に腕を回した。
(あ、気持ち悪い……)
心が拒絶しているのがわかるが、その感情を押し殺して平然と微笑む。
「こんなに離れていたのは初めてだ。会いたかったよ、エミリア」
「私もです、陛下……」
(あ――)
抱き寄せられて、唇が触れそうになる瞬間――エミリアは腕を突っ張って抵抗した。
フィリップは目を見開いている。動揺しているようだ。
「……どうした? もう……口付けるのは嫌か?」
フィリップは哀し気に眉を寄せて笑った。
「いえ、お部屋に皆さまがいらっしゃるから」
エミリアは周囲を見回して、答えた。
フィリップは頷いて、「二人きりで話したいんだ。外してもらえるか?」と周囲に退室を促した。
秘書とカルヴィンは、ぎょっとした顔をしてから、慌てて退室する。
執務室に二人きりになると、フィリップはエミリアの手を引いてソファに座らせた。
その隣に腰を下ろす。
「あの時は……すまなかった。ヴァルデリアの王子につい嫉妬して……本当に会いたかっただけなんだ」
「嫉妬……陛下も嫉妬されるんですか? そういったことは気にされないタイプかと思っていました」
「心外だな。私だって人並みに嫉妬するさ」
フィリップは苦笑する。エミリアの髪を撫でて、愛おし気に顔を見つめた。
(ああ、吐き気が……。今までどうして平気だったのかしら)
胃液が込み上げてくるような感覚をどうにか抑え込むと、精一杯の笑みを浮かべる。
「でも、私にサンフラン嬢を認めろと仰いましたよね? 私は嫉妬してはいけないんでしょうか?」
「いや、それは……」
フィリップは言葉に詰まった。当然だろう。最初に不貞を働いたのは、他ならぬ自分なのだから。
と、いうよりもフィリップの能力でエミリアを言いくるめようとは、どうにも無茶な話だ。
それなのに、あっさり味方を部屋の外へ追い出すとは。
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