捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら

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復讐

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「フィリップ様が私を厭っていらっしゃらないことだけは、伝わりました」

「そんなはずがないだろう。あの晩にも話したが、私は二人を等しく愛しているんだ。君を軽んじている訳ではないんだよ」

「そうですか、フィリップ様は懐の広いお方なのですね」

 どうにも言い訳できない展開だったので、花を向けてやると、フィリップは顔を輝かせた。

 この素直さを「可愛い」と勘違いしていたとは、自分は本当にどうかしていた。

「では、その優しさで、どうかこの一件を穏便に済ませて頂けますか」

 この男に一国を預けたら、瞬く間に傾いてしまうだろう。

「勿論、君がそう望むなら」

 フィリップは表情を引き締めた。

「ではお義母様たちの前で認めてくださいますか。フィリップ様が私を愚弄した故に、ヴァルデリアの王子が拳を振るったのだと」

「それは……」

 フィリップは口ごもる。エミリアは嘆息してみせた。

「お隠しになるのは止めてください。私は馬車の中におりましたが……すっかり聞いていたのです。ショックでしたのよ、フィリップ様が私を心の底でどう思っていたのかわかって」

「……それを言うなら君だって。父たちの前で「私を殴ったのは自分だ」と証言したそうじゃないか。どうしてあの男を庇ったんだ」

「あの男とは、ヴァルデリアの王太子殿下ですか? あの方はフィリップ様が私を辱めたので代わりに怒ってくださったのです。それを庇っちゃいけませんでしたか?」

 エミリアは努めて、無邪気さを装った。

「私は君を辱めてなどいない」

「王太子殿下に、私を預けるから、望みを遂げるといい、と仰いましたね。殿下の望みが何だとお考えだったのです?」

「それは……」

「わかっているから、提案なさったのですよね? ああ、あと、もう私を抱いたのか? とも尋ねていらした」

「まさか、そこまでは言っていない。誤解だ」

 フィリップは慌てて否定したが、今更の弁解など意味がない。

 エミリアはにっこり微笑んで、追い打ちをかけた。

「もう隠さなくて良いのです。皆さんのお考えは何となくわかりましたから。だから私はフィリップ様とお話をしに来たのです。わだかまりを残さぬようにと。私は結婚相手以外と体の関係を持ったりしませんわ。ね、お互い心の内をさらけだして、すっきりしましょうよ」

 今度はエミリアから、軽く手の甲に触れる。

 フィリップは、しばし逡巡しているようだった。エミリアが彼の返答を待っていると、ゆっくりと口を開いた。

「どうして……。馬車の中まで、会話が聞こえていたのか……?」

 エミリアは是とも否とも言わなかった。

 ただ、こくりと頷く。

「流石はエミリア……か。しかし相変わらず可愛くないな。大人しく水に流してくれればいいのに。白黒つけずにいられないのか……」

 フィリップは苦笑した。

「私は充分可愛いですよ。こうして戻って来たのが証拠ですのに、あまりな言い草ですわ」

 エミリアは穏やかな口調で目を落とした。
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