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復讐
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この男にはこういう節があった。自分に否があっても、こちらのせいにする部分が。
エミリアを信頼して甘えているのだと、解釈しようとしていた。
それはきっと、間違いではない。だが、エミリアがフィリップを甘やかしたのも確かだ。
それがいけなかったのかもしれない。
(そう、私が本当に愛しているなら……)
彼の欠点を受け入れてあげられたはずだし、逆に受け入れないこともできた。
「そうだな、君と私の仲だ。仕方がない。……正直に答えるよ」
「ありがとうございます。……先ほど嫉妬、と仰いましたが、ヴァルデリアの王太子殿下が、私を気に入っているとお考えになったのですか」
「ああ。あいつの態度はおかしすぎた。普通は、赤の他人ならあんなにムキになる訳がない。まあ、君が美貌の持ち主なのは、私も誰よりよく知っている。惹かれても仕方ない」
「あら、お上手ですこと」
エミリアはにっこり笑った。フィリップも気を良くして笑い返す。
「だから、君には悪くない話だと思ったんだよ。好意があれば君にも良くしてくれるはずだし、気が済んだらヴォルティアへ送り届けてくれる」
「確かに、都合の良いお話ね。でも、不思議ね。そこに私の気持ちが見当たらないように思えるのだけど、何処へ行ってしまったんでしょう?」
「えっ? だって、君は私の妻だから……」
フィリップは心底何を問われたか理解できない様子で聞き返した。
妻は当然夫に従うもの。そう思い込んでいる。
「そのようにお考えですか。では、フィリップ様のお考えを纏めると……つまりヴァルデリアの王子が私に関心を持っているから、手出しを許可して預けようと提案した。そういうことですね。回りくどい言い方をしてしまったわ。皇太子殿下が私に夜伽を求めても良いという、暗黙の了承でしたのよね」
「君が素直に馬車から降りて来てくれれば良かったんだ。君を連れて帰れなかったら、皆に合わせる顔がなかった。だから私なりに必死で」
フィリップは拗ねたような口ぶりで反論した。
「もし王太子殿下が私を手放さなかったら、どうするつもりだったんです? 嫉妬は、どこへ行ったのですか」
エミリアは怒りを通り越して、今度は呆れを隠さなければならなくなった。
「そんな。いずれは手放したさ。約束を交わす以上、後ろめたい気持ちになるだろう? 子供の口約束じゃないんだ。それに……」
フィリップは突如言い淀んだ。
「何です? せっかくの機会ですから、遠慮せずに仰って」
「そうだな。君が言うなら……その、美人は三日で飽きるというだろう。君はそう長く男性を虜にできない。君は賢い分、女性の魅力に欠けるだろう。手に入れてしまえば飽きるだろう思ったのさ。私のようにね」
エミリアを信頼して甘えているのだと、解釈しようとしていた。
それはきっと、間違いではない。だが、エミリアがフィリップを甘やかしたのも確かだ。
それがいけなかったのかもしれない。
(そう、私が本当に愛しているなら……)
彼の欠点を受け入れてあげられたはずだし、逆に受け入れないこともできた。
「そうだな、君と私の仲だ。仕方がない。……正直に答えるよ」
「ありがとうございます。……先ほど嫉妬、と仰いましたが、ヴァルデリアの王太子殿下が、私を気に入っているとお考えになったのですか」
「ああ。あいつの態度はおかしすぎた。普通は、赤の他人ならあんなにムキになる訳がない。まあ、君が美貌の持ち主なのは、私も誰よりよく知っている。惹かれても仕方ない」
「あら、お上手ですこと」
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「だから、君には悪くない話だと思ったんだよ。好意があれば君にも良くしてくれるはずだし、気が済んだらヴォルティアへ送り届けてくれる」
「確かに、都合の良いお話ね。でも、不思議ね。そこに私の気持ちが見当たらないように思えるのだけど、何処へ行ってしまったんでしょう?」
「えっ? だって、君は私の妻だから……」
フィリップは心底何を問われたか理解できない様子で聞き返した。
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「そのようにお考えですか。では、フィリップ様のお考えを纏めると……つまりヴァルデリアの王子が私に関心を持っているから、手出しを許可して預けようと提案した。そういうことですね。回りくどい言い方をしてしまったわ。皇太子殿下が私に夜伽を求めても良いという、暗黙の了承でしたのよね」
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「もし王太子殿下が私を手放さなかったら、どうするつもりだったんです? 嫉妬は、どこへ行ったのですか」
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「そんな。いずれは手放したさ。約束を交わす以上、後ろめたい気持ちになるだろう? 子供の口約束じゃないんだ。それに……」
フィリップは突如言い淀んだ。
「何です? せっかくの機会ですから、遠慮せずに仰って」
「そうだな。君が言うなら……その、美人は三日で飽きるというだろう。君はそう長く男性を虜にできない。君は賢い分、女性の魅力に欠けるだろう。手に入れてしまえば飽きるだろう思ったのさ。私のようにね」
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