捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら

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復讐

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(――!)

 何を聞いても感情を出すまい。

 覚悟を決めていたのに、頭が一瞬真っ白になった。

 エドワードが思わず殴り掛かった理由がわかった。

 実は、この決定打だけ、エミリアは知り得なかった。

 エドワードの影で、フィリップの口元が隠れていたからだ。

 何も、言葉が出てこない。

「ああ、悪かったよ。やっぱりショックだったよね。でもお互いに胸の内を話して、恨みっこなしだ」

 何も言わないエミリアに、フィリップは気まずげに謝った。

 フィリップにはまったく悪気がない。

 ただ、思ったことをそのまま口にしただけだ。つまり、紛れもない馬鹿だった。

(ああ……エドワード様……)

 エミリアはぐっと歯を食いしばって、瞑目した。

 今、この時ほどエドワードの真心が、自分に染み渡るのを感じたことはない。

 エドワードとフィリップの愛は対極にあった。

「恨みっこなし……」

 エミリアは噛みしめるように呟く。

 どうしたって不公平だ。こちらの我慢ばかりが大きいように思われる。

 けれど、これでいい。

 ほとほとに、愛想が尽きた。

 コンコン

 躊躇いがちに扉をノックされた。

「陛下、そろそろお時間が」

 カルヴィンが退室を促しにやって来た。

 そっと、顔を出す。

「もうそんな時間か。ご覧の通り、ここ数日の処理が滞っていてね」

「よろしければ、お手伝いいたしましょうか? 私は何処にも不調などありませんから」

「そう、頼みたいところだが……少々確認が必要だ。とりあえず今日は、ゆっくりしていてくれ」

 フィリップは、名残惜しそうにエミリアを見つめると、立ち上がった。

「フィリップ様、他に何か、言い残した言葉はありますか?」

 エミリアはせめてもの手向けに、言葉を掛けた。

「いや、ないよ」

 フィリップはエミリアの手を握って、優しく微笑んだ。

 もうこの男には二度と会わないだろう。会う必要はない。

 ――むしろもう会いたくない。

「では、私はこれで失礼します」

 エミリアが部屋を出ると、カルヴィンもすぐその後を追った。

 どうにもエミリアから目を離すつもりがないらしい。

「もう戻っても構いませんよね」

 エミリアはカルヴィンを振り向くと、返事を待たずに歩き出した。

 早歩きでどんどん先に進む。

 今自分はどんな顔をしているだろう。

 誰にも、見られたくない。

(ふふふ……)

 悲痛に歪んでいるからではない。

 うっかり笑みを零す姿を、見られては困るからだ。

 もう、エミリアは一人ではない。

 だから、どんな苦境だろうと、乗り越えていける。

 味方を得た喜びを噛みしめるエミリアだった。

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