118 / 149
ノーキエ王国の地下にて/エルネスト視点
4
しおりを挟む
確かにこの地下洞窟に幽閉されてからずっと放置され、見張りも置かれていなかった。
堅牢な岩壁に覆われているために抜け出す術もなかったが、こちらの言動は筒抜けだったかも知れない。
(……大丈夫だ。特段、漏れて困る内容の会話はしていない)
こちら側の重要な情報は漏れていない。
エルネストはここ数日を振り返りながら、冷静を保つよう自身に言い聞かせた。
「そう驚くこともなかろう。この城は今や隅々まで私が支配している。何処へ行くのも自由自在よ。それより朗報だぞ、エルネスト副団長。上手くいけばそなたらは、今日のうちにも解放されるかもしれん」
ざわめきから一転、”解放”の2文字を聞いた団員たちは、グッと息を呑んだ。
「まさか陛下が……要求を呑まれたのか? いったい、何と引き換えに」
冷静に熟考し、可能な限り相手から情報を引き出さねばならない。
頭では理解していても、身体は思う通りに動かなかった。
エルネストは激昂して立ち上がり、アルヴァロに掴み掛かる。
本来ならば身を盾にして、王国を守護することが騎士団の本懐だ。
それなのにおめおめと囚われた挙句、祖国に犠牲を払わせるなど、到底受け入れてはいけない現実だった。
しかし、猛然と伸ばした手が、アルヴァロを捕らえることはない。
目の前の黒い靄は霧散し、腕はその体を貫通した。
「そうか。お前たちには見えなかったな。……これならどうだ」
散った靄が再び集まり、形を変える。
エルネストは慌てて後退し、その全容を視認しようと見つめた。
靄は再度、人間の背丈くらいまで立ち昇ると、ぼんやりと何らかの風景を映し出した。
まるで、空から鳥が見下ろすような景色だ。
生い茂る緑は森の木々、上空から下降するほどに、葉の一枚一枚が鮮明に見えてくる。
木々の隙間から、一頭の栗毛の駿馬と赤髪の女が飛び出した。
「アッ……!」
「レオノール様? これは……!?」
音声は聞こえないが、その動きは鮮明に捉えられる。
革鎧に身を包んだ赤髪の女ーーレオノールが、ロングソードを片手に馬を駆っている。
レオノールは生活のほとんどを西の棟で過ごしていたから、直接顔を見た騎士はそう多くない。
だが、騎士たちは口々に名を叫んだ。
身のこなしから、”赤い獅子”の異名を持つレオノールだと、誰もが確信した。
前方にはまだ森がずうっと、目線の先まで続いている。
が、行く手で足元の土が盛り上がると、地面から緑色の塊が次々と生まれ出てきた。
頭に角を持つ生き物、獅子の形をした四つ足の生命体……それらの姿形は明らかに魔物だった。
……あのマナ溜りで見たような複数種類、雑多な集団が、波のように襲い掛かる。
レオノールは剣を一閃し、魔物たちを薙ぎ払う。
一陣の風が吹いたように、両断された肉塊が吹き飛び、開けた道をひたすらに進む。
堅牢な岩壁に覆われているために抜け出す術もなかったが、こちらの言動は筒抜けだったかも知れない。
(……大丈夫だ。特段、漏れて困る内容の会話はしていない)
こちら側の重要な情報は漏れていない。
エルネストはここ数日を振り返りながら、冷静を保つよう自身に言い聞かせた。
「そう驚くこともなかろう。この城は今や隅々まで私が支配している。何処へ行くのも自由自在よ。それより朗報だぞ、エルネスト副団長。上手くいけばそなたらは、今日のうちにも解放されるかもしれん」
ざわめきから一転、”解放”の2文字を聞いた団員たちは、グッと息を呑んだ。
「まさか陛下が……要求を呑まれたのか? いったい、何と引き換えに」
冷静に熟考し、可能な限り相手から情報を引き出さねばならない。
頭では理解していても、身体は思う通りに動かなかった。
エルネストは激昂して立ち上がり、アルヴァロに掴み掛かる。
本来ならば身を盾にして、王国を守護することが騎士団の本懐だ。
それなのにおめおめと囚われた挙句、祖国に犠牲を払わせるなど、到底受け入れてはいけない現実だった。
しかし、猛然と伸ばした手が、アルヴァロを捕らえることはない。
目の前の黒い靄は霧散し、腕はその体を貫通した。
「そうか。お前たちには見えなかったな。……これならどうだ」
散った靄が再び集まり、形を変える。
エルネストは慌てて後退し、その全容を視認しようと見つめた。
靄は再度、人間の背丈くらいまで立ち昇ると、ぼんやりと何らかの風景を映し出した。
まるで、空から鳥が見下ろすような景色だ。
生い茂る緑は森の木々、上空から下降するほどに、葉の一枚一枚が鮮明に見えてくる。
木々の隙間から、一頭の栗毛の駿馬と赤髪の女が飛び出した。
「アッ……!」
「レオノール様? これは……!?」
音声は聞こえないが、その動きは鮮明に捉えられる。
革鎧に身を包んだ赤髪の女ーーレオノールが、ロングソードを片手に馬を駆っている。
レオノールは生活のほとんどを西の棟で過ごしていたから、直接顔を見た騎士はそう多くない。
だが、騎士たちは口々に名を叫んだ。
身のこなしから、”赤い獅子”の異名を持つレオノールだと、誰もが確信した。
前方にはまだ森がずうっと、目線の先まで続いている。
が、行く手で足元の土が盛り上がると、地面から緑色の塊が次々と生まれ出てきた。
頭に角を持つ生き物、獅子の形をした四つ足の生命体……それらの姿形は明らかに魔物だった。
……あのマナ溜りで見たような複数種類、雑多な集団が、波のように襲い掛かる。
レオノールは剣を一閃し、魔物たちを薙ぎ払う。
一陣の風が吹いたように、両断された肉塊が吹き飛び、開けた道をひたすらに進む。
49
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』
鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」
幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。
その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、
彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。
目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。
だが、中身は何ひとつ変わっていない。
にもかかわらず、
かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、
「やり直したい」とすり寄ってくる。
「見かけが変わっても、中身は同じです。
それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」
静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。
やがて彼女に興味を示したのは、
隣国ノルディアの王太子エドワルド。
彼が見ていたのは、美貌ではなく――
対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。
これは、
外見で価値を決められた令嬢が、
「選ばれる人生」をやめ、
自分の意思で未来を選び直す物語。
静かなざまぁと、
対等な関係から始まる大人の恋。
そして――
自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。
---
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる