「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら

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プロローグ

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「なんであんなに怒るかな~。怒る? 怒るか。プライド高そうだもんね……」

 一人でごちながら、レオノールは卓上のワインボトルを持ち上げた。

 クラウディオがあおったグラスに、そのまま液体を注ぐ。

 新たに夫婦となった二人は、初夜の晩に盃を交わす慣わしだ。

 トポ……と空気の抜ける音と共に、芳醇な果実の香りが漂った。

(ん……良い香り。高級そう)

 グラスをくゆらせながら、腰を上げる。

 窓辺へ寄って、グラスを月明かりにかざすが、色合いまではわからない。

 くるりと反転し、扉へ向けてグラスを目線の上に掲げる。

「乾杯!」

 拒絶され、出ていった背中に、声は届かない。

 十二分に承知した上で、堂々と乾杯の音頭を取った。

 レオノールはクラウディオと同じグラスをあおり、一気に飲み干す。

「これで私と貴方は正式な夫婦です。クラウディオ様」

 誰に見せつけるでもないが、にっこりと、自分史上で最も優雅な微笑みを浮かべてみせた。

 勇者レオノールは強き女だ。

 冒険のどんな局面も、勇猛果敢に乗り越えてきた。

 今さら、夫ひとりに背を向けられたくらいで、傷つくような繊細さは持ち合わせていない。

 レオノールは己の選んだ結婚を後悔しない。たとえ一方通行であろうと、契りは契り。

 これは自分の意思で選び取った未来だ。

 無償で全てを受け取った訳じゃないし、レオノールが差し出したものもある。

(そうだ、落ち込んでも仕方ない。良い方向に捉えよう。現状で嫌われているなら、これ以上悪くなることもないでしょう)

 そう割り切ると、胸が軽くなった。

 胸が軽くなると、思い出したように、ゴクリと喉が鳴る。

「それにしても、美味しいな、コレ。どうせもう戻って来ないだろうし、全部飲んじゃっても良いよね」

 およそ1分は佇んでいたが、すぐに気を取り直して、レオノールは再びソファに戻った。

 残りのワインで一人、晩酌を始める。

 味わいは濃厚で、果実味の余韻が長く続く。

 いつもの安酒とはちがう、熟成されたフルボディの味わいだだ。

 窓の外には、薄雲を割って月が浮かんでいた。

 舌鼓を打ちながら朧月を見上げ、レオノールはこれからの新婚生活に想いを馳せる。

 その一方でーー

「護衛が執事長に報告しているところを目撃しました。クラウディオ殿下が自室に戻られたそうですよ」

 夜の闇に乗じて暗躍する、影があった。

「それは、そうでしょう。王命といえど、あの気高い殿下が甘んじて受け入れるわけがありませんわ」

 客人に用意された一室で、不穏な火種が燻り、揺れる。

 そうして誰も気づかぬところで、小さなさざ波は立ち始めていた。
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