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浅草の恋敵
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一夜明けて五月十八日。
惣一郎は早朝から、いかに首尾よく家を抜け出すか、機会を窺っていた。
いつもは様子を見たり、外出のついでにさり気なく抜け出しているから、さほど気にならなかった。
だが、今日は朝一番で店を出なければならない。
寛太は不思議と惣一郎の〝抜け出す〟気配を察するので憂慮は要らない。
可能ならば見られることも避けたいので、あくまで惣一郎は店を抜け出すのだが。
他の家人たちには目撃されたとしても、足早く立ち去れば引き止めるまではしない。
今一番、面倒なのは母の菊だ。暇さえあれば「早く悠耶を連れてこい」と口うるさい。
今は連れてくるどころじゃない。
浅草へ、嫁に連れて行かれないようにしなければならない情態だ。
表向きは不可思議事件の解決を悠耶に依頼する形を取っている。
だが、ついでに口説こうと企んでいる魂胆は明らかだ。
だから、咄嗟に浅草へ同行しようと決めた。
悠耶をあの坊主にやるのは嫌だ。
しかし、平静になれば、他人の縁談を第三者の好き嫌いで邪魔をしていいはずがない。
多少の腹黒さが見え隠れするものの、深如は本願寺の僧侶だ。
本願寺は浅草で浅草寺に次ぐ大きな寺院だ。門徒の数も他の宗派の中で一、二を争う。
そこの僧侶に見初められたなら、風介親子のような町人にとって悪い縁談ではない。
いくら本人の望みとはいえ、娘が一生ずっと独り身なのをよしとする親は少なかろう。
惣一郎の母だって、そうなのだから。
それを邪魔するだけの権利と覚悟が自分にあるだろうか。
婚姻の叶わない円来との仲は、誰にもどうすることもできない。
悠耶を友人と考えるならば、深如との祝言を勧めてやるのも友の甲斐性なのではとも思う。
人の将来をとやかく言える立場ではない。
だが、祝言を挙げて子供を儲けるのは幸せの形の一つに違いない。
……絶待に嫌だけど。
あの悠耶が深如の妻になる。そんなのは絶待に嫌だ。
誰の妻にもしたくない……そんなことになるくらいなら、いっそ一生ずーっと寡婦でいてくれたなら。
随分と非道な望みだ。
惣一郎はもう一刻も先延ばしがならない事実を悟りつつあった。
俺はいったいどうしたいのか。もう、決めなくてはならない。
「おはようございます、若旦那。随分と早いお出かけですね」
坪庭の稲荷神社のお社周りをうろうろしていた惣一郎に、寛太が目ざとく声を掛けた。
惣一郎の想像を大きく裏切る行動だ。
「おはよう。何で出かけるって決めつけるんだい?」
内心は慌てたものの、惣一郎は平生を装った。
「だって、瓢箪を二つも持っているでしょう。てっきり、お出かけになるのだと」
惣一郎は腰紐に下げた瓢箪に目をやる。一つどころか二つ。
一夜明けて五月十八日。
惣一郎は早朝から、いかに首尾よく家を抜け出すか、機会を窺っていた。
いつもは様子を見たり、外出のついでにさり気なく抜け出しているから、さほど気にならなかった。
だが、今日は朝一番で店を出なければならない。
寛太は不思議と惣一郎の〝抜け出す〟気配を察するので憂慮は要らない。
可能ならば見られることも避けたいので、あくまで惣一郎は店を抜け出すのだが。
他の家人たちには目撃されたとしても、足早く立ち去れば引き止めるまではしない。
今一番、面倒なのは母の菊だ。暇さえあれば「早く悠耶を連れてこい」と口うるさい。
今は連れてくるどころじゃない。
浅草へ、嫁に連れて行かれないようにしなければならない情態だ。
表向きは不可思議事件の解決を悠耶に依頼する形を取っている。
だが、ついでに口説こうと企んでいる魂胆は明らかだ。
だから、咄嗟に浅草へ同行しようと決めた。
悠耶をあの坊主にやるのは嫌だ。
しかし、平静になれば、他人の縁談を第三者の好き嫌いで邪魔をしていいはずがない。
多少の腹黒さが見え隠れするものの、深如は本願寺の僧侶だ。
本願寺は浅草で浅草寺に次ぐ大きな寺院だ。門徒の数も他の宗派の中で一、二を争う。
そこの僧侶に見初められたなら、風介親子のような町人にとって悪い縁談ではない。
いくら本人の望みとはいえ、娘が一生ずっと独り身なのをよしとする親は少なかろう。
惣一郎の母だって、そうなのだから。
それを邪魔するだけの権利と覚悟が自分にあるだろうか。
婚姻の叶わない円来との仲は、誰にもどうすることもできない。
悠耶を友人と考えるならば、深如との祝言を勧めてやるのも友の甲斐性なのではとも思う。
人の将来をとやかく言える立場ではない。
だが、祝言を挙げて子供を儲けるのは幸せの形の一つに違いない。
……絶待に嫌だけど。
あの悠耶が深如の妻になる。そんなのは絶待に嫌だ。
誰の妻にもしたくない……そんなことになるくらいなら、いっそ一生ずーっと寡婦でいてくれたなら。
随分と非道な望みだ。
惣一郎はもう一刻も先延ばしがならない事実を悟りつつあった。
俺はいったいどうしたいのか。もう、決めなくてはならない。
「おはようございます、若旦那。随分と早いお出かけですね」
坪庭の稲荷神社のお社周りをうろうろしていた惣一郎に、寛太が目ざとく声を掛けた。
惣一郎の想像を大きく裏切る行動だ。
「おはよう。何で出かけるって決めつけるんだい?」
内心は慌てたものの、惣一郎は平生を装った。
「だって、瓢箪を二つも持っているでしょう。てっきり、お出かけになるのだと」
惣一郎は腰紐に下げた瓢箪に目をやる。一つどころか二つ。
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