お江戸のボクっ娘に、若旦那は内心ベタ惚れです!

きぬがやあきら

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悪戯犯

6話

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 障子に手を掛け外に身を乗り出すと、惣一郎がへたり込みながらも〝それ〟の足にしがみついている。
  
 それ、は表情にこそ出さないものの、明らかに動揺していた。

 背丈は悠耶の首より下くらい。

 大きな傘を頭に被り、藍色に格子柄の着物を着て、子供らしい体つきだ。

 しかし、ただの子供とは違う。違うと見分けられる一番の特徴は、丸い顔に目が一つしかない点だ。

 大きな一つ目をきょろきょろさせて、足元の惣一郎をどうするべきか当惑している。

「惣一郎、大丈夫だよ。放してあげて」

「えっ?  でも放したら」

「逃げないよ。ねえ?  初めて会うね、おいらは悠耶だよ」

 唐傘お化けのように舌べろを大きく口の外に出しているので、思うように口が利けないのかもしれない。

 それ、はせわしなく動かしていた目の動きを止めて悠耶を見上げた。
  
 体に丸みがあるし、愛嬌のある顔立ちをしている。手に盆のようなものを捧げていた。
 
 だが、惣一郎に驚いた拍子に傾いて、中身を落としていた。

 逃げるどころか、若干、怯えた様子だ。どう見ても質の悪い妖怪には見えない。

 悠耶が手を差し出すと、それ、は忙しなく動かしていた目を止めて悠耶を見上げた。

「足元にいるのは惣一郎だよ。聞きたいことがあるだけなんだ。びっくりさせて、ごめん」

 惣一郎は全力でしがみついていたので、いざ足を放してやろうとしても体が必要以上に固くなっていた。

 恐る恐るというより、難儀しながら妖怪の足を放した。
  
 惣一郎のすぐ側には、落ちて形が崩れた豆腐が転がっている。

「豆腐小僧だ……。こいつも本当にいたんだ。絵草紙のまんまだ」
  
 同じく落ちた豆腐に注目した惣一郎が呟いた。

 初対面だが、言われれば〝豆腐小僧〟で納得だ。

 惣一郎が絵草紙で見た記憶があるなら間違いなかろう。

「お前さんは豆腐小僧っていうの?」

〝豆腐小僧〟はゆっくり首を上下させた。豆腐小僧でいいらしい。

「おいらたちは、方々で豆腐やお寿司を腐らせたりしてる悪戯者を探しているんだ。けど、お前さんじゃないよね?」

 舌べろを出したまま、今度は首が、ゆっくり左右に振れる。

「じゃあ、誰が悪戯してるか、知ってる?」

 豆腐小僧は、再び左右に首を振った。

「お悠耶。もしや……そこに何者かいるのですか??」
 
 振り返ると悠耶の草履を持った深如がやって来ている。几帳面に外を回って来たのだ。

 女将さんは部屋の中からこちらを向いて愕然としてる。

「うん。豆腐小僧ってんだって」

「あの豆腐小僧が、ここに!?  どこに??」

「あはは。惣一郎の、すぐ右側に……」

「ああ、もどかしや、何故、拙僧には見えないのでしょう!  もしや、惣一郎殿にはお見えなのか?」

「ああ。まあ……」

 深如が大仰に額を手で覆い、嘆いた。

 惣一郎は、まだ朧な返事をする。惣一郎のおよそ一町後方で、そいつは笑っていた。

「お前っ……!」

 悠耶が目にした瞬間、そいつは確かに笑っていた。

 壁の後ろから顔だけ覗かせて、浮かんでいたのは意地の悪い笑みだ。

 おまけに悠耶と目が合ったら、一目散に逃げ出した。

 あいつだ!  捕まえなくっちゃ!!

 頭で判断するよりも先に、駆け出していた。
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