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悪戯犯

7話

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「お悠耶?」
  
 悠耶は惣一郎と豆腐小僧の横を抜け、そいつの姿を追う。

 勢い余って塀にぶつからないよう加減して右に曲がる。

 曲がった先には稲荷があって、稲荷の先はどん突きだ。

 どん突きを右に影が走る。姿を消さぬうちに勝負を決めねば。

 悠耶はさっと着物の裾を捲り上げた。

 疾風の如く影を追って稲荷を駆け抜ける。

 角を曲がった時には、もう目標へ手が届く寸前まで迫っていた。

「げげっ!」

 こんなに早く追いつかれるとは思っていなかったのだろう。

 目標は呻きながら進路を変え、塀をよじ登り始めた。

 だがもう、この間合いなら悠耶の捕縛範囲だ。

 今度は悠耶がニッと笑みを見せる。

 膝を曲げ、手を伸ばし、思いっきり跳ね上がった。

 両腕で小僧程度の細さの腹に飛びついて、もろとも地面へ転げ落ちた。

 小僧姿の妖は悠耶より軽い。ある程度まで庇ってやりながら尻餅をつく。

 多少は痛みを感じるが、こんなのは日常茶飯事だ。

 転がりながら衝撃を逃し、もう半分回転して上半身で押さえ込む。

「参った!  参ったから勘弁してくれ。おめえ何者だ??  蚤ほども跳びやがる」

「おいらは悠耶だよ。手荒な真似をしてごめん。豆腐やお寿司を腐らせる悪戯者を探していたんだけど―――犯人はお前だね?」
  
 ごめんと謝ったが、悠耶は全く悪びれない。
  
 むしろ笑顔半分で、妖に問う。

「どうして悪戯なんかしたの?」

 問うているのに、悠耶はこの妖を犯人だと決めつけていた。

 見ただけだけれど、かなりの自信がある。
  
 でなければ初対面で、ここまで手荒な真似はしない。
  
 押さえつけた妖の背格好は、豆腐小僧にそっくりだ。
  
 今は口を引き結んでいるが、丸っこい坊主頭に、顔を覗けば目は一つ。
  
 見るほどに瓜二つである。

「お前さんは誰なの?  名前と、仔細を話しておくれよ。別にお前さんを責めようってんじゃないんだ。悪戯をやめてほしいだけなんだ」
  
 優しい口調とは裏腹に、妖を羽交い絞めにしながら悠耶は妖を諭した。
  
 妖が難しい顔で黙っているところへ、惣一郎と深如たちが追いついて来る。
  
 更に後ろには長谷屋のおかみさんが、隣には豆腐小僧が遠慮がちについて来ている。
  
 悠耶の様子で妖怪の存在を察した惣一郎が、近づきすぎぬよう深如と女将さんを手で制した。
  
 惣一郎には、こちらの妖も見えているのか。

「だってよう、あいつだけさあ!」

 腹の下の妖が不貞腐れた声で呻いた。

「あいつだけ、人気者で不公平だろう! おんなじ大豆の妖怪なのによ。だから気に入らなくて悪戯してやったんだ!」

「あいつって、豆腐小僧のこと?」

「そうだよ!  豆腐は江戸では大人気だ。それに比べておいらは……」

「お前さんはいったい誰なの?」

「おいらは、納豆小僧さ!  ほら見ろおいらは見たってわからないだろ。豆腐小僧は知っていたくせに」
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