ノスタル爺

鯨骨

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高校3年生1月頃からの話

偶然

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定期券がきれていて、昼飯代をチャージ代にするわけにもいかないから、切符を買った。
普段と違って切符を買ったことはエッセイのネタにならないだろうか、と思ったが特にアイディアが浮かんでこなくてつまらないと思っていた。

定期じゃないので、乗り換えの時に、迷子になった。
たまたま駅の外で1人路上ライブをしている人がいたので、ほんの一瞬覗いてみた。
その人は、足を大きく広げず、くっつけて立っていた。
ときどき、片足でリズムをとっているみたいだった。
震えさせるような声ではなく、はっきりした声に感じる。

その人の目はまっすぐだった。
独りよがりな嘆きや咆哮ではなく、媚びるわけでもなく、ただまっすぐお客さんたちをみていた。
ぼくが目をそらしても、その人はまっすぐぼくを見ていた気がする。
それは他のお客さんが相手でも同じな気もしている。
その人は、自分の世界だけではなく、周りのことも見られる人なのだろうと思った。
というか、届けたいこと、だけでなく、届けたい人、まではっきり自覚している人なのかもしれない。

曲が終わって、お金を入れて貰ったときに、「ありがとうございます。」を尻すぼみせずにはっきり言える人は素敵だと思った。

ぼくは、駅内へ戻る。
駅に1歩入れば、駅のごちゃまぜ感が戻ってくる。
駅の案内やたくさんの人に塗り替えられていく。
もうほとんど路上ライブの音はきこえてこない。
特に目立った話し声はないはずだし、特別うるさくは感じない。
人の話し声、足音が重なって目まぐるしく動き回っていっているのか。

ぼくは、切符はめんどくさいけど、今日の路上ライブに出会えた偶然はよかったな、と思った。
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