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1話 私のスキル

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山小屋にポツンと残された私が先ずやるべき事。それは腹ごしらえ。
 とは言え、食材もないこの部屋で、ただ待っていても食事が配布される訳もなく、仕方がないので山菜かキノコを採りに、壁に立て掛けられていた斧と小さい鎌を手に持ち、森の中へと出掛けた。

 当然、都会っ子の私に、何が食べられる食材なのかなんて分かるはずもなく、ただ森の中を歩くのが精一杯で、途方に暮れていたそんな時、怪しい唸り声と地響きが近付いて来るのに気が付いた。
 急いで逃げようと震える足を必死に動かした。だけど足が縺れて上手く走れない。その時、木の根につまずき倒れてしまった。
 
 得体の知れない物の荒い息が私に迫る。目の前に現れたのはいのししと思しき怪物だ。突き出た長い鼻、牙が4本に角がひたいの中央に1本、からだは長い毛に覆われている。
 まるで図鑑に出てくるマンモスの小型版のよう。

 私は無我夢中で目をつむり、持っていた鎌ではなく拳を振るってしまった。すると荒い息が聞こえなくなった。確かに手ごたえはあったが、素手で倒せるはずもないと、恐る恐る目を開けて見ると――

「えっ? えぇぇぇぇっ! ウソ……」

 そこには白目を剥いた怪物が、腹を上に伸びていた。そっと指先で突いてみる。微動だにもしない。
 
 私が倒した?
 一撃で?
 そんな馬鹿な……。

 ギャグ漫画じゃあるまいし――と、そこへまた、倒した怪物のミニサイズが2体、宙をかけるように飛び掛かって来た。私はもう一度と両手の拳を交互に振るった。するとまた何故かクリーンヒットしてしまった。2体とも白目を剥いて昏倒こんとうし息絶えた。
 どうやら偶然でも幻でもなさそうだ……。

 怪力スキル?
 私は女神の言っていた言葉を思い出した。そう、確か特別なスキルがなんちゃらって……。
 もしこの怪力が私のスキルなら、異世界生活も少しは楽になるかも知れない。

 ゲームとかよく知らないけど、もしこの怪物がギルド指定モンスターなら、売ってお金に変える事も可能なのでは?
 とその前に、この異世界にギルドとかダンジョンとか存在する世界なんだろか。
 まだ山小屋と怪物にしか出会ってないんですけど……。

 私は軽々と怪物3体を抱えて山小屋へ戻ってきた。ここでくすぶっていても何も始まらない。
 さっそく怪物をシーツに包み、眼鏡を掛けローブを羽織り、意気揚々と怪物を担いで小屋を出た。

 すると――

「お前……ここで何やってんだ? 盗っ人か?」

 いきなり現れた初老の男に、盗っ人と呼ばれて私は慌てふためく。
 しかしですよおっさん。盗っ人と思うなら、もう少し危機感を持ったほうが良いのでは?
 そんなどうでもいい事を思いながら、言い訳を探す。もしかして、この小屋の持ち主?

「あ、あの、道に迷いまして、そのう、寝る所にも困ってまして、でですね、ちょっと小屋を見つけてしまったので、住めるかなあ、なんて……ハハ。ご、ごめんなさい! 他に住んでるとは知らなくて!」

 物凄く下らない言い訳をタラタラと並べてしまった私を見て、男はいきなり笑い出した。……へ?

「ガァッハッハ! 迷い人かい。いいよ、いいよ。その小屋は臨時の休憩所みたいなもんだ。まあ、住めるっちゃあ住めるが、こんな小屋でいいのか?」

 期待度高めのお言葉を頂いたので、わらをも掴む思いで頼みこんだ。

「どうかあの小屋を譲っては頂けないでしょうか!その代わりと言ってはなんですが、この怪物らしき物をお金に換えたら全額お渡ししますので、何卒、お願い申し上げます!」

「怪物? そ、それはどんな……?」

「はい、鼻の長い……」

「おお!」

「牙が4本で額に角のある……」

「おおお!」

「毛の長い生き物です……が、ご存知で?」

「うおおおおおっ! ま、まかさモンスターマンモを君が?! ひとりで?!」

「マ、マンモ……?」

 何、そのダサ可愛いネーミング……。
 そうだ、疑われる前に証拠を見せなければ!

 私はシーツと縄でぐるぐる巻きにした怪物を解いて見せた。

「あの、これなんですが、そのマンモですか?」

「な、なんと3体も! しかも凶暴な親子マンモ! ああ、これでこの森も安心して木を伐採ばっさいできる!」

 木を伐採と言う事は、この人はきこりなんだろうか。そうか、だからあの小屋を休憩所と言ったのか。ならやはり、譲って貰う訳にはいかないだろう。どうしよう……。

「いや、恐れ入った! 長い間この辺りを縄張りにされて困ってたんだよ。しばしば人にも危害を加えるようになってなあ。いや、本当に助かった。あんたのお陰だ。ありがとう!」

 こちらこそ恐縮です。たまたまと言うか偶然にも私のスキルが役に立っただけなので。
 この流れのまま上手く事は運ばないだろうか。ここは押して駄目でも押しまくりで!

「そうでしたか。で、あのう小屋の件なんですが」

「おお、そうだった。金なんかいらねえ、この小屋もあんたに譲るよ。だからさ、俺んとこで働いちゃくれないかなぁ。ちゃんと給金は払うよ。どう?」

 これはまた神の思し召しか。しかも好条件の特典付き。断る理由など御座いません!

「本当にいいんですか? ありがとうございます!有難きお誘い! あ、それでこのマンモはどうしましょうか?」

「ああ、王都にギルドがあるから、そこで引き取って貰って金に換えればいいさ。そういやあんた、迷ったとか言ってたが、この国は初めてかい?」

 なるほど。王都と言えば国王の居る国。それと、ギルドが有るならダンジョンも存在するのかも知れない。いやはや、夢は膨れ上がります。

「はい。この国は初めてです。ちょっとお聞きしたいのですが、ギルドで冒険者登録とか誰でも出来るんでしょうか?」

「ああ、出来るよ。そうだ、まだあんたの名前を聞いてなかったな。俺はカイルだ」

 名前かあ。どうするか、まさか紅子とは名乗れないし……べに……あか……んー、あ、くれない、よし、くれないにしよう。

「私は紅と言います。一応、男ですよ、男ね」

「紅? 変わった名前だなあ。よろしくな紅。それにしても紅は随分と背が高いんだなあ。それに、珍しい色の眼鏡だ。特注品か?」

「えっ! ああ、まあそうです。御守りみたいな物ですかね。ハハ」

「御守り? まあいいや。後で荷馬車を持ってくるから、一緒に王都へ行こうや。小屋で待ってな」

「へい、お頭! 有難うございます!」

「お、おう……じゃあな」
 

 どうやら変装は上手くいったようだ。ちょっと言葉使いに苦労するだろうけど、もうここまで来たら楽しまなきゃ損だわね!

 あ、斧を取ってこないと。お腹空いたなあ……。

  


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