規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ

文字の大きさ
15 / 29

14話 国境を越えて

しおりを挟む


 今日の食事と食料品だけを買って早々に小屋へ戻った。なんともせわしい別れになってしまった。

 小屋の前に着くと、ドアのところに見慣れない白い物体が転がっている。木の枝を拾い、恐る恐る突っついてみた。すると一声鳴いた。動物か。

「おーい。生きてるかあー?」

「キュウ……」

 白い生き物がゆっくり立ち上がった。よく顔を見ると、山の洞穴ほらあなにいた小狐こぎつねだ。その小狐がなぜ私の小屋にいるんだろう。

「どうしたのお前。親はいないのかい?」

 辺りを見回したがそれらしい姿は見当たらない。マンモに襲われた時は親子で不意打を喰らったので、暫く警戒していたが、どうやらこの小狐だけのようだ。とにかくここでお見合いしていても、恋も語り合いも出来そうにないので、構わずドアを開けると、小狐が静々と中へ入った。
 招いたつもりは無いんだけど……。

「ハァ、お邪魔しますくらい言ったらどうよ」

「お邪魔するの……」

「…………!」
 
 
 驚愕の事態発生。モフモフの小狐が言葉を喋る。
 頭の中では分かっていても、一応辺りを見回すが誰もいない。小狐は尾っぽをユラユラと揺らしながら、図々しくもベッドの上にちょこんと座った。
 お決まりのびっくりドッキリは……やめておこう。

「しゃ、喋れるのね……ふ、ふぅ~ん、そう……」

 動揺は言葉に表れるのが一般常識である。
 私は顔を引き攣らせながら、ぎこちない足取りで荷物を机の上に置いて、防御体制に入る。

「ちょ、ちょっと、小狐くん。な、なにか用?」

 小狐は前足で顔を擦りながら、太い尾を揺らす。

「僕はお礼をしに来たの」

「お礼? あっ、もしかしてパンのこと?」

 お礼の一言で、動揺と警戒心は少し解かれた。小狐は犬のように尾を勢いよく振る。多分、喜んでいるのだろう。どうやら害はなさそうだ。

「うん。あのパンのお陰で力が戻ったの。でもそれだけじゃないよ。紅はあの魔獣を倒してくれた恩人なの。僕は魔獣が荒らした森を回復させる為に、力を使い果たして弱っていたの。だからお礼」

 私の名前まで知っている。この辺りに来ていたのだろうか。いつから?

「魔獣ってまさかあのマンモのこと? まあ、あれが暴れ回ったら森も荒れるわね。でも森の中は荒れてるようには見えなかったけど、えっ、じゃあ回復させたって小狐くんが? えっ、どうやって?」

「僕は山の守り神。森を守るのが僕の役目なの。紅のことはこの森に来た時から知ってるの。この間近くまで来たんだけど、気付いてくれないの」

 守り神か。どうやったかなんて、私が聞いても理解に苦しむだけだろうから、追求はやめよう。
 近くって、もしかして、シャツを干していた時にチラッと見えた白い物体が小狐? 分からんって。

「それって、私がシャツを干してたときだよね?」

「うん。だからこの前ね、来たよって合図にシャツ貰ったの。寝床にしてるの。フフフッ」

 シャツ泥棒は小狐か! やり方間違ってるし!

「そ、そうなんだ。じゃあもしかして、ちょくちょく来てたのかな?」

「うん! 紅はいつもパンツ洗ってるの。フフッ」

 ……こいつ!

「し、しょうがないじゃん、パンツ少ないんだもん。でも生乾きは解消されたわよ。シャツはまだ無理だけど。で、その山神様が私にお礼って?」

 山の神様なら、木の実とか山菜とか川魚とか?

「あのね、わあー!」

 と言って、いきなり小狐が私に飛び掛かり、顔に張り付いた。

「ブフッ! ンンーッ!」

「今、僕の力を少し分けてあげる。静かに……」

 そう言うと、小狐の体を伝い、生暖かい風と一筋の閃光が、私の体の中へ入り込み駆け巡った。
 驚いて小狐を引き剥がすと、小狐はまた尾を勢いよく降って喜びを表す。

「わーい! 大成功ー! 僕と紅は仲間なのだ!」

 私は何がどうなったのか、痛みも無ければ違和感もない状態に、ただ困惑の声を小狐に投げ掛けた。

「ね、ねえ、何が起こったの?!」

「えっとね、いっぱい操る力を紅の体に入れてあげたの。これでシャツもパンツも乾くのー!」

 中途半端な説明をありがとう。
 おそらく操る力とは、冒険者でいう魔法の様なものなんだろう。魔法のステータスが低い私には有難い話だ。でもどうやって使うのだろうか。

「えっと、魔法みたいなもの? 使い方は?」

「んー、こう、エイッ! エイッ! なのだ!」

 小狐め、説明する気ないだろ。これは自分なりに攻略するしかなさそうだ。

「紅~、力を使ったらお腹空いたの~」

「あのねえ、ハァ……パンとソーセージならあるけど、食べる?」

「食べるー!」

 いい気なもんだ。とは言え、私もお腹の虫が鳴いたので、一緒に食べることにした。
 久しぶりに誰かと食べる食事は、こんなに楽しかったのかとしみじみ思う。それが人間ではなく小狐だったとしてもだ。しかし、そんな感傷に浸っている場合ではない。明日はここを出発するのだから。

 私と小狐は満腹のあまり、ベッドに倒れ込みいつの間にか寝てしまった。

 真夜中。目が覚めて、ふと隣りを見ると、寝ていたはずの小狐の姿はもうなかった。
 おそらく森へ帰ったのだろう。その証拠に、私のシャツと地図が机の上に置かれていた。
 きっと私が旅に出ることを知っていたのかも知れない。やっぱり神様だ。

 しまった。そう言えば、今日ライがシャツを持って来ると言っていたのを思い出した。しかし、この時間になっても姿を見せないのであれば、今日はもう来ないのかも知れない。きっと彼も自分の事で精一杯なんだろう。

 シャツの替えもあることだし、朝を待たずにこのまま出発するのも悪くない。人目に付けば、あれやこれやと聞かれるのも面倒なので丁度いい。

 私は必要最低限な物を斜め掛けバッグに詰め、冒険者カードをポケットに入れて、ローブを羽織り、眼鏡と手袋を身に着け、アックスを持って小屋を出た。そしてお世話になった小屋に向かって一礼し、きびすを返し歩き出した。

 森を出て左へ行けば王都、右へ行けばアントが来た方角だ。ならば左へ進めば国境があるはず。陽が昇らないうちに越えてしまいたい。
 新しい場所で太陽を見るのはきっと格別だろう。

 暫く歩いてやっと国境のとりでが見えてきた。門の近くまで行くと、国境警備兵がふたり立っている。特に問題はないと思うが、こういった場面はやはり緊張する。まだ夜中とあってか、訪問者の人影はない。私は警備兵の前に立つ。


「こんばんは。お疲れ様です」

「ああ、こんばんは。今から国境を越えるのか?」

「はい。これから旅に出るんです」

「じゃあ、身分証か、冒険者カードを見せて」

 私は冒険者カードを提示した。

「特徴は眼鏡に手袋か……おい紅って、君はあの『ハーキュリーズ』の冒険者か! いや、まさかこんな所で逢えるとは、ちょっと待てよ!」

 と言いって、私の冒険者カードを持ったまま、別の警備兵のところへ駆け寄った。そしてふたりして私の前に立つ。尋問じんもん

「おお、君があの冒険者か。ほ~う、背は高いが体格は普通なんだなあ。もっとゴツい奴を想像してたよ。あ、引き留めて悪かったな。気を付けて」

「ありがとうございます。では、失礼します」

 良かった。ここで足止めとかされたんじゃ敵わない。それにしても、私って結構有名なんだ。でもスキルが有名なだけで、さほど活躍はしていないので、あまり期待はして欲しくないかな。
 
 私は冒険者カードをポケットへ入れて、とうとう国境を越えた。
 

 暫しのお別れだ。アラウザル国よ……。
 

 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

きっと幸せな異世界生活

スノウ
ファンタジー
   神の手違いで日本人として15年間生きてきた倉本カノン。彼女は暴走トラックに轢かれて生死の境を彷徨い、魂の状態で女神のもとに喚ばれてしまう。女神の説明によれば、カノンは本来異世界レメイアで生まれるはずの魂であり、転生神の手違いで魂が入れ替わってしまっていたのだという。  そして、本来カノンとして日本で生まれるはずだった魂は異世界レメイアで生きており、カノンの事故とほぼ同時刻に真冬の川に転落して流され、仮死状態になっているという。  時を同じくして肉体から魂が離れようとしている2人の少女。2つの魂をあるべき器に戻せるたった一度のチャンスを神は見逃さず、実行に移すべく動き出すのだった。  女神の導きで新生活を送ることになったカノンの未来は…?  毎日12時頃に投稿します。   ─────────────────  いいね、お気に入りをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。

聖女の孫だけど冒険者になるよ!

春野こもも
ファンタジー
森の奥で元聖女の祖母と暮らすセシルは幼い頃から剣と魔法を教え込まれる。それに加えて彼女は精霊の力を使いこなすことができた。 12才にった彼女は生き別れた祖父を探すために旅立つ。そして冒険者となりその能力を生かしてギルドの依頼を難なくこなしていく。 ある依頼でセシルの前に現れた黒髪の青年は非常に高い戦闘力を持っていた。なんと彼は勇者とともに召喚された異世界人だった。そして2人はチームを組むことになる。 基本冒険ファンタジーですが終盤恋愛要素が入ってきます。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう
ファンタジー
運び屋(ポーター)のルカ・ブライオンは、冒険者パーティーを追放された。ーーが、正直痛くも痒くもなかった。何故なら仕方なく同行していただけだから。 ルカの魔法適正は、運び屋(ポーター)に適した収納系魔法のみ。 攻撃系魔法の適正は皆無だけれど、なんなら独りで魔窟(ダンジョン)にだって潜れる、ちょっと底無しで少し底知れない運び屋(ポーター)。 そんなルカの日常と、ときどき魔窟(ダンジョン)と周囲の人達のお話。 ※タグの「恋愛要素あり」は年の差恋愛です。 ※ごくまれに残酷描写を含みます。 ※【小説家になろう】様にも掲載しています。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
 病弱な僕は病院で息を引き取った  お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった  そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した  魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る

処理中です...