規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ

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20話 挫折

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 身体は疲れているのに、どうにも眠れない。何かが違うようでモヤモヤとする。何が違うのか分からない。だから余計にイラつく。
 私は徐にクッキーを手に取り、頭の中を空っぽにしてバクバクと食べた。

 ここへ来た当時の私はどんな人間だっただろう。自分でいうのもなんだけど、もう少し謙虚で、控えめだったように思う。
 なぜ変わってしまったのか、それは自分でも分かっている。おごりだ。何かを得た代わりに何かを失った、多分そういうことだ。
 初めての挫折。モブとして生きて来た時には無かったことだ。
 原点に戻りたい、それは無理。ならアラウザルに戻る、今更それも無理。ならせめて山の中へ戻りたい。森に包まれてじっくりと考えたい。
 
 これ以上スキルを増やす気も使う気もないので、荷物をまとめてここを出よう。
 部屋を片付け、ベッドの上に少し多めの宿泊代金を置いて、宿を後に森へと歩き出した。
 
 国境に近い山林を寝床にしようと、森を少し抜けて、開けた場所に陣取る。
 荷物から小鍋と珈琲を取り出し、枯れ木を集めて火を着ける。山から湧水を汲んでお湯を沸かし、珈琲を入れて飲む。ああ、和む。

「私は何者か、知らんがな……ハァ、アホらし」

 その場に寝転び、夜が明ける空を眺める。すると小さい黒い点が見えた。それは次第に大きくなって近づいて来る。

「……ゎぁぁぁあああああああ!」

 と、その物体が叫びながら降って来る……。

「……えっ!?」

 と、私が起きあがろうとした瞬間、腹に激痛。

「グホッ!」

「紅、みーっけ! キャハハハ!」

 聞き覚えのある声に、痛みを堪えて腹を見ると、山神様の小狐が乗っかっているではないか。はっ?

「イタタタッ! ちょ、ちょっと、山神様?!」

「紅が僕を置いてったの。寝床と地図を残したのに。だから罰なの!」

 ああ、そうゆうこと。だから分からんって!

「一緒に来るつもりだったの? でもアラウザルの山神様だよね? 離れていいの?」

「僕は全部の山を守ってるの。偉いのー!」

「そ、そうなの? じゃあ、特別な名前とかあったりする? 例えば、お稲荷様とか、御狐様とか?」

 小狐は尾っぽをフリフリと振って、私の体から離れると白い煙と共に姿を変えた。

「私は九尾の白狐びゃっこだ。恐れ慄け。この姿はそうそう見られるものではないぞ。よう覚えておくがよい」

 なんと、声のトーンと喋り方まで変わった。それに大きい体は艶やかな毛並みで一層に白く、見事な九尾が半円を描いて後光のようにそびえ立つ。
 正に巻絵に描かれた妖狐その物だ。凄い……。

「あ、あ、貴方様が白狐……綺麗だなあ……」

 と言っているにも関わらず、白狐はすぐさま元の小狐に戻ってしまった。ちょっと癒されてたのに。

「僕はキレイー! 紅もキレイー! キャハハ!」

 ああ、話し方まで戻ってしまった。その幼稚で謎だらけの喋り方をなんとかしようよ。疲れるって。

「そ、そう。私も綺麗なのね、ありがとう。別に戻らなくても良かったのに……で、その白狐様が何で私と一緒に来るつもりだったの?」

「ムッ。白狐様じゃないの。紅は仲間なの。もっと仲良しの名前がいいの。早く早くう!」

 また訳の分からんことを……解読せねば。

「んーっと、仲良しってことは、友達みたいな呼び方をしろってことかな?」

「早く早くうー!」

「ああ、はいはい。えっと、白狐、白い狐よね。じゃあ、白、しろ……はく、ハクなんてどう?」

「やったー! 僕はハクなのだ! 紅は凄いのだ!だからずっと一緒なのだー!」

 だからその説明を先にしろよ!
 一緒とはどういう意味なんだろう。私と同行するつもりなんだろうか。いやはや、私はその旅の途中で挫折してしまったのだよ。
 神様ならお知恵を拝借願いたい。

「ねえハク。その一緒って私と旅をするってことなの? でもねえ、私、行き詰まってるんだなあ」

 そう私が言うと、ハクは私の膝にちょこんと座り、なにやら話を始めた。

「知ってるう。紅はいっぱい悩んでるの。えっとね、紅は間違えたの。だからスキルが現れたの。魔法で変えないとずっとそのままなの。どうして移動しちゃったの?」

 私が間違えた? 移動って? しかもスキルのことまで知っている。スキルを魔法って……ああ、頭が混乱する。

「ちょ、ちょっと待って。えっ、それってアラウザル内限定? 私が国境を越えたから?」

「そうなの。《プリテンダー》は絶対的な支配権なの。強大な力が絶対条件。あのね、変装は偽り、だから神に認められた者にしか与えられない称号。スキルとして知られてはダメなのだ」

 突然明朗な解説をされたらそれこそ混乱する。どうして気が付かなかった。一番重要なことを素通りしてしまった。ギルドのお姉さんはどんな表情をしていただろうか。どうにも思い出せない。
 なんという大失態。変装は知らされたくないから変装なんだ。それを自ら暴いている。
 ああどうしよう。色々と急ぎ過ぎたツケがここで回って来た。挫折とか言っている場合じゃない。

「ハク……私はどうしたらいい?」

「プププッ! 大丈夫なのだー! 紅はもうスキルアップして称号が上書きされたのー!」

「はっ? どういうこと?」

「えっとね、紅は仮面を着けたでしょ? あれがね、レベルアップとして認められたの。でもでも、僕は次のスキルを知らないの。楽しみー!」

 なんだよそれ。私はちっとも楽しみじゃない。返って怖いとさえ思う。しかし、一瞬でも知られたことには変わりはないので、ショックもそれなりだ。
 もうここから一歩も動きたくない……。

「紅~、僕が良い子良い子してあげるの」

 そう言ってハクが小さいモフモフの前脚で私の頬を撫でてくれる。これぞ万国共通の癒し……。

「ごめんね、ハク。ああ、モフモフくんよ、ありがとう。ちょっと元気出た。フフッ」

「わーい! 紅に褒められたのだー! キャハハ!
 あ、後ね、紅は順番も間違えたの。金髪と魔法と黒髪の。えっとね、黒髪がいじわるしたの。だからヘンテコなスキルが出たの」

 今度は何の問題よ。ヘコむんだけど。上げたり落としたり上手過ぎる。でもどういうことだろう。
 私に関係ある者として、金髪はライで黒髪はレオを指していると思われる。
 それと、意地悪とは誰が誰になのか。

「ヘンテコスキルって《アンダーテイカー》?」

「そうなの。紅は魔法を試さなかったの」

 なるほど、分からん。推理をしてみよう。
 ハクとライと魔法、小屋でハクと出会い、魔法を授かるも試さず、尚且つライとハクを待たず私は旅に出た。そして最後に出会ったのがレオだ。
 この順番が間違っていると言いたいのか。なら何故あの時ライは姿をみせなかったのか。
 多分、ここで意地悪が関わってくるんだろう。おそらく、レオが何らかの理由を付けてライを私に会わせないようにした。そして更に、私に嘘をついてあたかもライが探しているように装った。
 全てはライのため、自分の思惑おもわくのためだろう。

 別に、済んでしまった事を今更とやかく言っても仕方がない。なら順番が正しければどうなっていたのか。

「んー、ライと先に会っていたらどうなったの?」

「んっとね、新種はとっくに見つかっていたの。紅と金髪はラブラブなの。でも僕と紅もラブラブ!」

 なにをマセたことを言うかこの小狐は!
 それにしても、新種のことまで知っているとは驚きだ。だったらハクと探せば楽勝じゃん?

「ハクは新種を知ってるんだね? なら思ったより早く見つかりそうで助かるわ」

「僕は知らないのだ。新種って何? キャハハ!」

 ああ、なんと面倒くさい奴……。上手い話にはとげがある。飴と鞭、両方いらない。


 ライかあ、ライねえ……。
 あれ? 魔法は何処いずこに……?
 
 
 
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