ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

文字の大きさ
8 / 130

4

「顔色が悪い」

そこへ、奥の部屋からお盆を手にやってきた勇者くんが声をかけてくれた。
俺の前に、大粒の宝石が散りばめられた金ピカなゴブレットを置く。何コレ!?一杯数万円しそう。

「こいつに何か言われたか?…とりあえず、これでも飲んで。俺が育てた野菜の葉っぱで淹れたやつだけど、結構旨い」

金ピカの中には透明な液体が湯気を立てている。やや青臭いが、何とも素朴な香りだ。

「一息ついたら、俺で良ければ話を聞く。何か困ってるんだろう?ここで会ったのも何かの縁だ、一緒に考えよう」

勇者くんは少女と自分の前にもお茶の器(こっちは普通のコップだった)を置きながら、なんて事ない様にそう言った。表情は変わらないが、緑色の瞳が真摯にこちらを見つめている。
俺にはその姿が、後光がさして見えた。

今確信した。この人はめっちゃいい人だ。
迷える人々に希望と勇気をもたらす勇者様だ。
ああ……これが勇者か。今日から俺、この人のファンになる!

「なんじゃあ?青くなったり赤くなったり……気味悪い奴よの」

少女ボスが呆れた様に俺を見て言った。

「それより何じゃ、その趣味の良いコップは。何故わしのより豪華なんじゃ?」
「この間拾った。お客さんにぴったりだろう」
「……それは茶を飲むのに使うモノではなかろう」

勇者くんの淹れてくれた素朴な金ピカ茶で一息入れると、少しずつ落ち着いてくる。スーッとするほうじ茶みたいで美味しい。ゴブレットに指紋が付いてしまうのがどうしても気になるが。

ふと自己紹介がまだである事を思い出し、俺は切り出した。

「今さらですが、お二人の名前を伺ってもいいですか?俺は島屋というものです」
「わしに名などない。不要じゃ」
「ラスタだ。よろしく」

勇者くん改めラスタさんは、辺境の村で生まれ育った。6年ほど前に村を発ち冒険者をしている内、やがて勇者と呼ばれる様になったそうだ。

「21か…俺の四つ下だ」

10代後半かと思った。言わないけど。
見た目はほっそり体型だし、3つも属性が使えると言うなら魔法使いさんなのだろうか。

「ん?魔法使いだったか?お主」
「剣士だ」
「おー、そうじゃったよな。お主の持っておったあの剣、あれは見事じゃった。何処にしまったか忘れたが」

剣士さんだった。やはり勇者だ。体力が満タンなら、剣からビームが出せるのだろうか。いつかそれとなく聞いてみよう。

ラスボス少女に敗北したのは、大体2年ほど前。時間の感覚が無いから、正確には分からないそうだ。
そんな年単位もの間、どうやってライフラインもないこんな場所で暮らしてきたのだろう。たずねると、食料はこの魔境にいるモンスターを倒して手に入れているらしい。

ダンジョンでモンスターを倒すと死体は消えてなくなるが、代わりに「ドロップアイテム」としてその魔物の一部が出現するらしい。加工された状態で。
なんか、本当にゲームの中の世界みたいだなぁ。

それで肉が手に入る。野菜はその辺で育てており、土に埋めて数日で収穫できるものもあれば、芽すら出ない物もあるという。
飲み水は、元々ラスタさんが持っている魔法の水筒で飲み放題。彼はかつて世界のあちこちを冒険して、他にも色んな便利アイテムを多く所持している。そうして、安定したリタイア生活を送れているそうだ。

それでも、不便に違いない。世捨て人同然の生活を、2年なんて。
俺が首を傾げると、彼は静かに「気楽に勝るものはない」と言った。

「フフフ!なんと負け犬らしい台詞よ!勇者の重圧というモノか?良いではないか」

お茶をずずず、していた少女ボスが嘲るように笑って言った。

「諦め投げ出した所で、何だというのだ。こやつは真の勇者などではなかった。それだけの事じゃ」

俺には何とも言えないので、黙って二人を交互に見る。
元勇者くんはどこまでも無表情で、少女ボスはひたすら愉しそうだ。

「…その通りだ」

何の感情もこもらない声で、ラスタさんが呟いた。

ーーー

要するにラスタさんは、RPG終盤で魔王に挑む前の勇者様なのだった。ステータスつよつよ、アイテムも飽和気味。いいなぁ、チートじゃん。

そんなぶっ飛んだ生活力の無い俺は、是非とも地上に帰還したい。じゃなきゃ生きていけない。
そんな旨を相談すると、もう一度あの車を鑑定させて欲しいと言われたので俺はすぐさま車の元へ戻る。

ここで緊急事態が起きた。車が影も形もなくなっていた。

「ウソォーーーッ!?」
「…おい、お前なんかしたか?」
「あん?知らんのう……ああもう、鬱陶しい。しとらんったらしとらん、本当じゃ!」

ラスタさんが真顔で人さし指を少女ボスに向けると、パチパチと輝く光の球が次々と現れ、少女へ飛びかかって行った。彼女はそれをハエのように追い払う。
初めて光の魔法を目の当たりにしたが、今はそれどころじゃない。

「ぬ、盗まれた!?誰に!」
「リビングメイルあたりが鉄の馬と思うて連れて行ったのではないかー?」
「いや。探知に引っかかった跡がない。シマヤ、さっきクルマに何かしてなかったか?」
「へ?さっき?」

真っ白になりつつある頭で考える。何した?カギかけたくらいだ。
俺はポケットからカギを出した。

「ド、ドアにカギをかけたけど…それくらい」
「鍵?」
「あ、ハイ。こうやって」

アンロックのボタンをポチッと押してみせる。

するとガチャリと音がして、目の前に車がスーッと現れた。何事もなかったような顔をしてそこにある。

「良かったな」
「よ、良かったけど…!」
「落着だの」
「落着だけど…!」

どういうこっちゃねん。人騒がせな。
俺はその場で車を消したり出したりを繰り返してみた。さっきは気づかなかったが、ロックをかけるとその場から消えるようだ。
暫く繰り返していると、どうやら車は見えなくなっているわけではなく、本当に消えてしまっているのだと判明した。
この際、色々と検証してみる必要がありそうだ。

数時間後。

「ふむふむ、つまりこいつで鍵をかければ、お主はクルマを持ち運びできるし好きな所で出し入れもできる、というわけじゃな?」
「返して……」

穏やかに晴れた空の下、ラスタさんの家から少し離れた街の広場で、少女ボスは俺から奪った車のキーをひらひらと掲げた。

買ったばかりでキーホルダーの一つもついていないカギは、ひどく頼りなさげだ。しかし、絶対に紛失するわけにはいかない大事な物であることが判明した。…あれ、それは元いた世界でも同じか。

「こいつが失せ物になった時が、お主の運の尽きというわけだ。ポーイ!」
「わーー!」

少女ボスは無邪気に笑うと、あろう事か全力で振りかぶって俺のキーを放り投げる。もうこのクソガキ、本当に勘弁して。

「何すんすか!」
「何もかにもあるか、魔境のボスのお仕事じゃ。これで帰り道は無くなったも同然…あとはゆっくりとここで暮らして、くたばるのだ」

小柄な見た目に反し凄まじい肩の力を思わせる軌道を描いて、キーは飛んでいってしまっていた。俺は慌てて駆け出そうとするが、ふと片手に違和感があって、握っていた右手に目をやる。

「?……あれ」
そこには飛んでいった筈のキーがある。どういう訳か、無事に戻ってきてくれたのだった。

「こ、これは、家に置き忘れても取りに戻らなくて済むやつだ…!」

異世界の紛失防止仕様すごいな。なんでもあり。便利便利。
じとー、と不満タラタラに睨んでくるクソガキ少女ボスを無視して、ホッと胸を撫で下ろす。
感想 3

あなたにおすすめの小説

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
 2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。  死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。  命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。  自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日発売! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)

異世界のんびり放浪記

立花アルト
ファンタジー
異世界に転移した少女リノは森でサバイバルしながら素材を集め、商人オルソンと出会って街アイゼルトヘ到着。 冒険者ギルドで登録と新人訓練を受け、採取や戦闘、魔法の基礎を学びながら生活準備を整え、街で道具を買い揃えつつ、次の冒険へ向けて動き始めた--。 よくある異世界転移?です。のんびり進む予定です。 小説家になろうにも投稿しています。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。