親子そろって悪役令嬢!?

マヌァ

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白魔法の文献編

185話『分断』

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ナナリーを乗せて進む馬は結局マリク君の馬になった。

マリク君はエルフ特有の無音の旋律という魔法の結界を

ナナリーの周りに張った。



ナナリーの声は外に漏れない。

マリク君に支えられて横乗りし、

楽しそうに歌っているナナリーの姿だけが見える。



正直マリク君には助かった。



もともとの魔法の用途はベリアル様の魔法陣と同じで

周囲に声が漏れなくなるというもの。



指定した人同士の会話しか出来なくなる。

内緒話にピッタリだね。



まぁ、魔法陣との違いは移動できるかどうか。

あと持続時間だね。



魔法陣は設置型で込めた魔力の量で持続し続ける。

あと、魔法陣は全部に該当するけれど、平らにしないと効果が切れてしまう。

布型の魔法陣はシワが少しでも入ると効果が切れる。



無音の旋律は指定した人の声を漏れなくする。

効果時間は効果が切れる前にかけ直しすれば持つ。

魔力が続く限りってところかな。

とりあえず、マリク君には魔力回復のポーションを渡し済みだ。





どっちがいいかとかは、場所にもよるかな。

ちなみにマリク君はこの魔法の使い道として、

ライナーの目の前で悪口を言っていたらしい。



なんというか、マリク君って結構したたかだよね。



「ところで、ナナリー様は不思議な歌を歌われるのですね。

 どこの歌なのでしょう?」



とリーテ様がたずねてきた。



アレを歌といってたまるか! とは思ったけれど、言わない。

こちらの声はナナリーには筒抜けなのだから。



「さ、さぁ?」



知っているけれど、言わない。



リーテ様が知らないって事は、前世の記憶がないのかな?

まぁ、ナナリーの歌っていたオープニングは音程が外れすぎて

何の歌かなんて分からない。

マニアレベルで歌詞だけで歌が分かるのなら別だけどね。

ちゃんとした音程で歌えばあるいは……?



え、私?

私はもちろん、カラオケとかでも歌っていたよ。

ナナリーの歌う歌詞を聴いてすぐに分かったよ。


そんなこんなで、夕方より早く今日泊まる予定の村に到着した。

到着するまでナナリーは一度も酔わなかった。

歌の力って凄い。



宿のない村では、少し広めの集会所的な場所を借りて泊まる。

お金を払って、食料や水ももちろん補充した。



私はさっそくマッピングだ。

今日結構進んだので、明日ナナリーが酔わなければ明日の夕方には

国境砦に着きそうだった。



ちなみに、コンラート様はというと、

「時間が惜しい!」と言ったリーテ様に

馬にくくりつけられて村に到着するまで気絶してました。



なんというか、コンラート様の家庭内序列が垣間見えた気がした。



翌日。



出発の準備を済ませた私達の旅は続く。

今日の進む布陣は一番前がリーテ様、マリク君とナナリー、

ベリアル様と私、一番後ろにコンラート様で進む。



相変わらず、ナナリーは楽しそうに歌っている。

もちろん、私達には聞こえないけれど。



元気になったコンラート様は、悲しい視線でナナリーを見つめている。

その悲しい視線はどういう意味だろうね?



何の問題も無く昼休憩の時間まで進み、

馬を休憩させる場所を模索していたリーテ様が雪原の異変に気づいた。


「兄上!」



リーテ様がコンラート様を呼びかけるのと、私達の周囲が霧に覆われるのと

ほぼ同じだったように思う。



瞬く間に周辺は真っ白い霧に覆われ、数メートル先にいたリーテ様と、

マリク君とナナリーの姿が見えなくなった。



ベリアル様とコンラート様は馬を止める。



「リーテ! ナナリー!」



コンラート様が前方にいるはずのリーテ様とナナリーに声をかけるが、

2人の声は返ってこなかった。



「ど、どうなっているのでしょう?」



思った以上に自分の声が震えていた。

これもイベント関係だったりするのかな。



「少し調べてきます。

 エミリア様、ベリアル王子はこのままお待ち下さい」



コンラート様が馬に指示して駆け出した。

と思ったら、進んでいった方向から馬で駆けて来る。

早いなんてものじゃないくらい早すぎる帰還だった。



コンラート様は、私達と視線が合った瞬間に困惑の表情で馬を止めた。


「どうしたのですか……? コンラート様?」



「なっ!?

 ど、どうなっているんだ!?

 お、俺は……確かに……」



この慌てようは様子がおかしいどころじゃない。



「コンラート様? どうかされましたか?」



「この霧はどこかおかしい。

 俺は、あっちに向かって馬を走らせた。

 だが、走った先にはエミリア様とベリアル王子がいた。

 どうなっているんだ!?」





混乱するコンラート様はこんどは別の方向に向かって馬を走らせた。

だけど、さっきと同じように入った場所から出てきた。

それを数回繰り返したコンラート様を見て、私達が思い至ったのは……



「霧に閉じ込められているな」

「そのようですね……」



コンラート様も頷いていた。



ちなみに、私とベリアル様もコンラート様と同じように

霧に向かって馬を走らせたら、案の定

元の場所に戻ってしまった。



「とりあえず、どうしましょうか?」



「今頃リーテが霧の原因を突き止めていることでしょう。

 我々は、ここでじっと待っていればいいかと」



まるで、リーテ様が解決してくれるのを信じている言い方のコンラート様。



リーテ様やナナリーも霧に囚われていたらどうするんだろうか。

コンラート様を無視して、ベリアル様が動き出した。

「少し調べてみよう」



しばらく霧を調べていたベリアル様でもこの霧の解除は出来ないらしい。

万能のように見えるけれど、

ベリアル様でも出来ないこともあるのは当然だよね。



霧を細かく調べた結果は、霧全体が魔法で出来ている事、

この霧を解除するには、霧を発生させている大元をどうにかするか、

自然に消えるのを待つしかないとのことだった。

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