猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【暗黒討伐編】

第189話・狂神

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「⋯⋯くッ」

 ギオスを睨み、歯軋りをするヴィルジール。
 一刻も早く足の拘束を解きたいが、炎刃の攻撃速度は尋常では無い。
 明確に狙われている以上、動き出すタイミングには慎重さが必要なのだ。
 一挙手一投足。一つの呼吸、一回の瞬き──。全ての動きにヴィルジールは神経を張り詰める。

「「「〘必殺・究極奥義・完全最強黒竜砲〙!!」」」

 突然、黒竜三匹の声が響く。
 素早く振り返ったギオスの眼前には、漆黒の魔力の粒子砲が迫っていた。

「ギャオッッ!!」

 瞬時に炎刃を正面に移動させ、高速で振り回すギオス。
 切り刻んでいるのだ。黒竜達が放つ超エネルギーの奔流が、肉体に到達するよりも早く。
 現在のギオスは警戒状態である。それ故に、自身の転送能力には完全な信頼が無い。
 だからこそ、攻撃の相殺が可能ならば自らの手で行うのだ。
 迫る危機を確実に処理出来る様に。

「おい人間!」「なんとかしろ!」「頭良いんだろ!」

 ギオスを引き止めつつ、黒竜達が叫ぶ。
 勢いが衰える三匹の黒竜砲と、超高速で振り回され、徐々に黒竜達に近付く炎の刃。
 激しい衝撃波が散る光景を前に、ヴィルジールは思考をフル回転させた。

「タイミング⋯⋯タイミングさえ掴めれば⋯⋯!!」

 拳を握り締め、それを腰の横に打ち付ける。
 先程、唯一ギオスに当たった黒竜の攻撃は、一体どんなものであったか。どんなタイミングだったか。
 必死に思い返す最中──ヴィルジールはふと思った。
(⋯⋯さっきのアレは、どうして当たったんだ⋯⋯?)
 よく考えてみれば、違和感のある出来事だった。
 転送能力の解除方法が、“徐々に弱まり最終的に消失する”という流れである場合。
 受けたのが物理攻撃ならば、能力解除の最後の最後まで転送は行われた筈である。
 魔力による出力攻撃であれば、弱まった能力の転送速度を上回り、突破が出来たのだと予測出来る。
(⋯⋯だが、黒竜が当てたのは翼による普通の斬撃だった。
 それなら、あの能力は──“全身”に”同時”に展開される訳では無い⋯⋯?)
 一つ一つはまっていくピースに、ヴィルジールは目を見開いていく。
 そして、答えに辿り着いた。
 転送能力が展開される時と、解除される時。それには、“起点”になると共に、“終点”となる場所がある、と。
 攻撃を受けた時の転送能力は、ギオスの全身に一瞬にして現れるのでは無い。
 肉体の“ある箇所”から展開され、全身に行き渡るのである。
 無論、逆も然り。能力解除の際は、肉体の各先端から“ある箇所”へと収縮していくのだ。

「フッ──!!」

 ギオスの背後から急接近し、ヴィルジールは双剣を振るう。
 先程やった様に、左剣の一太刀で転送能力を発動させ、二太刀目の右剣で──ギオスの左脹脛ふくらはぎを斬り付けた。

──ザンッッ!!

 鮮血が、散った。

「ギャオオアッ!!?」

 悲鳴を上げ、ギオスは即座に振り返る。
 そこには、自身から吹き出た血の霧の先で、男が不気味に笑みを浮かべる光景があった。
 直後、男が大きく飛び退く。続けて、ギオスの周囲を漆黒の魔力が覆った。
 無意識の内に、彼は炎の刃の動きを止めていたのである。
 狂神の姿は、黒竜達の粒子砲の中へと消えていった。

「やった!」
「やった!」
「やった!」

 ワイワイと騒ぎ、黒竜達は飛び跳ねる。
 しかし、ヴィルジールは喜ぶ彼らをジェスチャーで落ち着かせ、口を開いた。
 
「──まだ、やってねえ。俺の斬撃は手応えあったが、お前らの攻撃には転送能力が間に合った筈だ」
「え?」「なに?」「そうなん?」
「⋯⋯だが、奴の攻略法は完全に理解したぞ」

 双剣に付着したギオスの血を眺め、ヴィルジールは嗤う。
 彼が理解したのは、神将の転送能力の“起点・終点”が胸元である事だった。
 即ち、そこから遠い手足を筆頭に、身体の各部位に狙いを定めて攻撃タイミングを合わせられれば⋯⋯

「アイツを」「ようやく」「殺せる」

 説明を受けた黒竜達が、邪悪に牙を剥き出しにした。
 立ち込める漆黒の煙。その奥から、ギオスの陰が揺らめく。
 フラフラと歩く姿からは、既に闘争心など感じられず──。
 ただ、困惑と恐怖を表情に浮かべ、ヴィルジール達へと視線を送っていた。

「ウギッ、ヒギッ⋯⋯」

 頭を両手で覆い、怯えるギオス。
 膝から崩れ落ちた彼が、次に行った動作は──助けを乞う、紛うことなき“祈り”であった。
 己を創造したオーガへ、ギオスはひたすらに祈りを続ける。
 ──そして、遂に届いた。
 父である存在の声。窮地に陥ったギオスへの、啓示が。

『使えん奴め、貴様は失敗作じゃな。せめて、地上の者共を道連れにするがよい』

 次の瞬間。“何か”が、ギオスを内側から叩き付ける。
 それは、膨大な魔力だった。一度ひとたび弾ければ、地平線までを吹き飛ばす程の。
 オーガはギオスへと魔力を送り込み、自爆させようとしたのである。

「ギャアアアァーーーーッッ!!!」

 紛れも無い、悲鳴が上がる。
 ギオスはセラフを除く他神将と違い、本物の生命体である。
 膨張する魔力によって全身が張り裂けてゆく痛みと、それを認識し、恐怖を覚えられる感情も存在する。だからこそ──
(どうして どうして どうして どうして どうして どうして どうして どうして どうして どうして どうして どうして どうして どうして どうして どうして どうして どうして どうして )
 どうして。何故、自分を救ってくれないのか。
 激痛を追い越して湧き上がる感情が、ギオスに大きな変化をもたらした。

「オオォォォガァァァァァァーーーーッッ!!!!!!」

 純然たる怒りが、ギオスを覚醒させた。
 爆発寸前の魔力を抑え込み、我が物としたのである。
 大きなエネルギーの全てを吸収したギオスは、その姿を変貌させる。
 背に生えた四枚の翼はもげる様に落ち、全身の包帯は純白から暗黒へと変色。
 身体は獣の如き骨格と巨躯へと化し、頭部からは赤黒い髪が高速で伸びてマントの様になびく。
 身体の周囲には黒い鎧が形成され、まるで拘束具の様に肉体に装備された。

「なんだアレ?!」
「どう見たってヤバイぞ!!」
「流石に無理!! ヴァルソル様を呼びに行こう!!」

 爆発する存在感と威圧感のギオスに、黒竜達は狼狽える。
 ヴィルジールもまた、覚醒したギオスを目撃して唾を飲み込んだ。

「フーーッ!! フヴーーッ!! オォーガァ⋯⋯!!」

 “歪”であり、“狂”であり、“獣”である。
 その“力”は──。たった今、オーガが失敗作と罵った者が得た“力”とは、神将としての到達点の手前。“狂化形態カオスモード”である。
 そしてギオスは、この力が何の為にあるかを理解していた。

 我が子を裏切り、殺そうとした狂った神を討つ力──。
 父である神を討つべく、獣となった狂った子の力──。

 空を見上げながら、ギオスは右手を広げる。
 金色こんじきの光が煌めき、その手の中で大剣の形へと変化した。
 神器・“狂神ギオス”──。神殺しの剣を握り、獣は大地を踏み締める。
 その赤い光が揺らめく瞳に、怨敵を宿して。

「グオォオオオオオーーーーーーッッ!!!」

 雄叫びを上げ、剣を構えるギオス。
 最早、黒竜達はたじろぎ、ヴィルジールは眺めている事しか出来なかった。──だが、

「⋯⋯⋯⋯。」

 ヴィルジールの表情には、陰りがあった。
 事情は分からない。だが、恐怖し、痛みにのたうち、何かに怒っているのは明確に分かる。
 ギオスがまだ子どもである事を、ヴィルジールは理解していた。
 だから哀れみ、そして憤る。
 幼子が苦しむ姿に、それを助けてやれない自分の愚かさに。
(⋯⋯助けてやれない?)
 疑問が、浮かんだ。
 一体、誰が助けられないと考えた? 誰が助けないと決めた?  ⋯⋯他でも無い、自分自身だ。
 それなら、それを否定出来るのも、また自分自身である。

「──折角、お前を倒せそうだったってのによ」
「おい」「バカ」「殺されるぞ」
「そん時はそん時だ。好きにさせろ」

 溜息をしつつ、ギオスに歩み寄る。
 既に此方に興味は無い様子で、空を見上げて唸っていた。

「やれやれ、仇討ちのつもりだったんだがな⋯⋯」
「ア"ア"ァッ!?」

 目の前に立った男に、ギオスが気付いた。
 誰かは分からない。先程まで戦っていた様な気がするが、そんな事はどうでもいい。今は復讐を──。
 宇宙まで飛び跳ねようとしたギオスの頬に、ヴィルジールが手を当てる。
 優しく微笑み、子どもを宥める様に軽く頬を撫でた。

「オ"オ"オ"ア"ア"ッッ!!」
「ぐう⋯⋯ッ!!」

 ヴィルジールが、ギオスに鷲掴みにされる。
 “邪魔だ”と吼えるギオスに、ヴィルジールはそれでも優しげな表情で向き合った。

「オ"オ"オ"⋯⋯⋯⋯」

 少しづつ、握られる圧迫が弱まっていく。
 ギオスは葛藤していた。復讐は当然したいが、目の前のこの小さな存在は“安心しろ”と目で訴えてくるのだ。
 自分はどうすればいいのか。最良の選択はなんだろうか。
 固く目を閉じ、理性の欠片と向き合うギオス。──そして、次の瞬間だった。

──ッタァ────────ンッッッッ!!!

 甲高い音が鳴り響き、ギオスの首から血が吹き出る。
 驚愕するヴィルジールは、音の発生源へと振り向いた。
 しかし、何も見えない。何者かが、遠距離からギオスを狙撃した様だった。

「ウギ⋯⋯オオオ⋯⋯」

 倒れたギオスは、元の姿へと戻った。
 まだ命はある様で、僅かな呼吸と目が動いているのが見受けられる。
 だが。極めて弱っているギオスを見て、黒竜達が攻撃態勢に移った。

「殺す」「今がチャンス」「やってやるぞ」

 瀕死のギオスに対し、魔力のチャージを始める黒竜達。
 彼らを背後にして、ヴィルジールは瀕死のギオスへと手を伸ばした。
 しかし、触れれる事は出来ない。転送能力は、神将の余力に関わらず永続的に発動するのである。
 “介抱してやりたい”というヴィルジールの思いも虚しく、黒竜三匹の魔力チャージが完了した。

「まずは陽動」「ソイツに攻撃しろ」「さっさとやれ人間」
「⋯⋯⋯⋯っ」

 グッと、双剣を握るヴィルジール。
 殺気に満ちた黒竜達へ振り返り、双剣を両剣に戻し──男は構えた。
 彼の意図を察知した黒竜達は、怒りを全開にして声を揃えた。

「「「なんの真似だッッ!!!」」」

 対峙するヴィルジールは、溜息を零す。
 そして首を左右に振り、力強く言い放った。

「俺は、コイツを助けたい」
「もういっぺん」「言ってみろ」「クソ人間」
「あぁ、何度だって言ってやるさ。俺は、コイツを──」
「「「ブチ殺すッッ!!!」」」

 〘完全最強黒竜砲〙。
 黒竜三匹の最大火力が、ヴィルジールに向けて撃ち出される。
 轟々と迫り来る攻撃に、真っ直ぐ両剣を構えるヴィルジール。
 受け流せる確信は無い。しかし、引き下がる訳にはいかなかった。

──ゴオォォォーーーーッッ!!!!

 直後、ヴィルジールが攻撃に飲み込まれる。
 痛みは無かったが、その代わりに大きな驚愕があった。
 黒竜砲へ両剣を振るおうとした刹那、目の前に飛び出して来たのだ。

 蒼色の炎を身に纏い、その背に蒼炎の輪が浮かんだ、一匹のグレイドラゴンが。

「全く、アンタはピンチに好かれてんな。──で、無事か?」

 首だけ振り返り、ドラゴンは尋ねる。
 ヴィルジールが小刻みに頷いて返答すると、ドラゴンは正面の黒竜三匹に向き直って口を開いた。

「ドラゴン型の黒異種か。面白そうだぜ」

 不敵に笑い、大地に踏み込む。
 黒竜達を見据え、ドラゴンは臨戦態勢を取るのだった。
 
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