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1章【巨人の湖編】
第11話・紅き龍。その名を【テュラングル】
しおりを挟む「そこまでだ。」
ピタリと、互いの動きが止まる。
鼻先に体温が伝わるほど、ギリギリ停止した拳。
そして、相手の血により赤く染った拳。
男が止めに入り、刹那。
打撃の衝撃波により砂煙が舞い上がり、視界が遮られる。
「オアァァアアアァッ!!!」
地が揺れる程の雄叫びが響き、砂煙の中から何かが飛び出してくる。地面を数回バウンドし、男の数メートル前まで転がり、止まった。
──ブシュッ!!
男は目を見開き、口角を僅かに上げた。
砂煙を吹き飛ばし現れたのは竜。銀灰竜と名付けられた、幼体の魔物だった。
ある程度、離れているこの位置からでも聞こえた音。
それと共に地面に飛び散る鮮血。それも尋常ではない量の。
竜の右腕はだらりと下がり、肘から下全てが自身の血により赤く染っていた。
「あァァ!!クソがッ!痛えェッ!」
顔面を抑えながら飛び上がる和服装備の男。
鼻血を流しながら銀灰竜を睨む。
(⋯ほう。人間と魔物とは言え、このレベルの装備を纏った相手に傷を追わせるか。)
「お"い"!テメェが口出さなきゃこんな事には 「黙れ。」
一撃、うなじに入れる。
白目を向きながら倒れ込む男。銀灰竜は唖然としてこちらを見ていた。
⋯ま、暫くは黙って貰う事にしよう。
地に伏した邪魔者を適当に放り投げて、銀灰竜に歩みを進める。
(さっきの出血は恐らく、殴った反動で腕の限界を迎えた感じか。)
俺がここに到着するまで多少の時間はかかっちまったからなぁ⋯その間に消耗したのか。
飛び出ているのは骨、か?
⋯凄まじいガッツだな。この俺とて自分の身体がぶっ壊れる程の攻撃、出せるかわからん。
「グルォ⋯」
虚ろな目でこちらを見上げる竜。
出血量が多い。このままでは死ぬな。間違いなく。
抵抗はない。⋯いや出来ないのか。
まぁどっちにしろ好都合。
俺は弱り切ったその身体に手をかざした。
「☾ハイルング☽」
緑色の光が銀灰竜を包む。
俺の行動に驚いたのか、表情の変化を見せる。
だがそれさえも微弱なもので、それ程消耗しているのだと、俺は気付く。それと同時に苛立ちも覚えた。
「なっ、何してんだテメェ!」
そうこうしていると、結界を張っていたもう片方の男が降り、こちらへ大股で歩いて来た。
そりゃま、折角ボコボコにした獲物を回復させてんじゃあコイツらからしたら面白くないよなぁ。
⋯ただ、
「おめぇらの事情なんて知らねぇよ。」
「ウッ?!」
ズドッと鈍い音が響く。
腹に一発入れた。入れたというより、拳を手前に出したらそこに自分から突っ込んできたって感じか。
男は情けなく膝から崩れ落ちた。
腹を抑えながら悶える男の頭を鷲掴みにして、続けた。
「俺は基本優しい性格だ。おめぇらみたいなカスにだって簡単には手を出さん。」
そう、自分で言うのもなんだが、俺は盗みを働くガキだろうが、ぼったくり酒場の店主だろうが、金の為に男を誑かす女だろうが殴りはしない。優しい人間だ。
だが、唯一俺が前置き無しに手を出す人間。
それは⋯
「俺はな、俺の獲物を横取りする奴を何人足りとも許さない。許せん。許し難い。⋯⋯分かるか?」
「⋯ッ──⋯」
⋯⋯フッ。
まぁ、こんな奴に話しても分からんわな。
俺は掴んだ頭を突き放した。
仕留めるなら、こいつらの実力程あれば一撃で可能だろう、捕獲したいなら魔法だけで十分だろう。
いちいち、チマチマ、ちんたら⋯こーゆ輩が1番嫌いだ。
生理的に。
「テメェ⋯この件がギルドに知れたら俺の親父が黙ってねぇぞ⋯!」
「⋯⋯。」
はぁ~⋯。
なにが『ギルドに知れたら~』だよ。お前らの目的がこの銀灰竜を飼い慣らす事だってぇのに俺が気付いてねえとでも思ってんのかよ。
許可なく魔物を国内に入れる事、そんなのギルドが許すわけねぇだろ。特にこう言う家の金にモノを言わせる様な輩に許可を出す程、ギルドの目だって腐ってない。
「そもそも、なんで魔物なんて飼おうとしてんだよ?」
「⋯は?」
⋯おっと、悪い癖が出ちまったな。
たまに話をすっ飛ばしちまうんだよな俺。
ま、この反応を見る限り、俺に気付かれてないと思ってたって事だな。あんたらの親御さんから全部聞いてんだよ、コッチは。
マトモだったなぁ⋯子供と違って。
『愚行を止めて欲しい』ってさ。
「テメェ⋯なんでソレを⋯」
「さっきからなぁ⋯。俺はテメェなんて名前じゃねぇ。俺の名前は」
──ゴゴゴゴゴゴゴゴ──⋯ッッ!!!
「⋯!!」
なんだ、この巨大な魔力の塊は⋯?
高速でこちらに接近中⋯到達まで十数秒⋯
異常事態に気が付いたのか銀灰竜も起き上がり接近する巨大な魔力の方向へ頭を捻る。
「な、なんだ!どうした?!」
なんだコイツ⋯魔力の感知も出来ないのかよ⋯。
呆れたもん⋯⋯ん?待てよ?ボンボンとは言え、あくまで冒険者のコイツが魔力の感知が出来ないのに対し、幼体の魔物である銀灰竜が感知出来ているのか⋯
やはり、俺の見立ては⋯
「グルォアッ!!」
「⋯来たか。」
天高く、雲を裂いて顕現した『ソレ』はまるで物質として存在しているのかと錯覚するほど、巨大な魔力の塊を剥き出しにしながら真っ直ぐ此方へ下降を始めた。
紅い甲殻──
「おっ、落ちてくるぞ!!」
太陽を隠す程の巨翼────
「⋯⋯グルルッ⋯!!」
殺意に形を与えたかの様な牙──────
「⋯⋯⋯⋯ハッ。」
────ッッッドゴォォ──────────ンンンッッッ!!
この日、リーゼノール周辺の観測を行っていた観測隊は後にこう語っている。
『空から閃光が落ち、地から巨木が突き上がった』と。
「我が名はテュラングル。我が紅蓮の業火を持って総てを灰燼と還さんとする⋯──
──⋯火龍の王なり。」
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