猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【巨人の湖編】

第24話・戦の始まり。

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ギフェルタ中腹・西側にて。


「シュルル──ッ!」

「クソっ!攻撃が当たねぇ!」

「不味いぞ、毒を食らっちまった⋯」


ロクロウが複数の冒険者と戦闘を開始。
蛇特有の肉体的特徴からして、こちらの攻撃は当てやすいと判断した冒険者達だったが、その予測を凌駕する機動力に翻弄されていた。

それに加えて強力な毒能力。
既に3人を戦闘不能まで追い込み、部隊撃破までそう時間は掛からないだろう。

そして時を同じく、ギフェルタ中腹。


「ガォアッ!」

「ぐッ!?畜生!どっから攻撃されてるんだ!?」


既に半数が壊滅した部隊の1人が、持っている片手剣を振り回しながら叫ぶ。傍から見ればマヌケな光景だが、それもその筈。相手は暗闇を主戦場とする魔物。それもベテランである。攻撃される方向の予測、計算など及ぶ筈もなく見事に追い込まれてた。

しかし、そんな彼らの活躍を上回る者が2体がいた。
その2体は現在、ギフェルタ中腹・東側で全力全開で猛威を奮っていた。


「「ゴォアァァァアッッ!!!」」

「な、なんだコイツら!?デカすぎるぞ!?」

「怯むな!数では勝ってるんだ!押し切れ!」

「ぐわッ!?空から火球が降ってきたぞ!気を付けろ!」


巨獣、二対。
その暴れっぷりに、多くの冒険者達が蹴散らされていた。痺れを切らした魔法の使い手とみられる冒険者が何やら放とうとするが、空からの素早く的確な攻撃によって阻止される。

魔物達が、連携して冒険者を追い詰めている⋯。
この事実に、1人の冒険者が叫んだ。恐らく、この場の全員の脳裏に浮かんでいる言葉を。


「⋯莫迦な⋯こんな、こんな事ありえねぇぇーーッ!!」


⋯─戦闘は、ギフェルタの至る所で始まっていた。
作戦の立案者である銀槍竜ですら、想定していなかった敵の嵌りっぷり。現在、山に入った冒険者80名が6つの塊に分断され、各所で数を減らされていた。

彼らは最早、本来の目的である標的の捕獲以上に、この事態への対処を優先とせねばいけない状況に陥っていた。ギフェルタに侵入来た冒険者の殆どが冷や汗をかく中、唯一冷静さを保っている男が1人いた。


「⋯チッ、役立たず共が⋯」


ギフェルタ山頂付近。
ゴルザは、手下の情けなさに苛立ちを覚えていた。煙草を吸う事で何とか気を紛らわしているが、皺の寄った表情からは、あからさまに怒りのオーラが漂っていた。


「ハァ⋯ま、お前1人、着いて来ただけよしとするか。」

「⋯⋯そりゃどうも。」


ゴルザの背後、薄暗い林に紛れて後をつけていたのは、例の捜査員の男だった。ゴルザの突発的な指示の目的を探る為、後をつけていたのだ。勿論、本人には悟られぬ様に静かに、ある程度の距離を開けた尾行していた訳だが。

 
「⋯いつから気付いていた?」

「ンー?そんなモン、初めっからに決まってンだろ。」

「⋯そうか。」


淡々と話すゴルザを相手に、男は内心動揺した。
組織のトップとしての統率力はあると想定はしていたが、気配を察知された事によって、フィールドにおけるスキルも甘く見れないと判断したからだ。

しかし、今回の目的はゴルザの確保ではなく現場を押さえる事。完全な現場さえ目撃できればその記憶を法廷で開示し、それを証拠にゴルザを牢屋にブチ込めれる。


(⋯問題は無い⋯ハズだ。)


ハズ⋯つまり確定はしていなかった。
理由は最近のゴルザの様子にあった。違法ギルドの中でも名の知れたこのゲシュペトが動くとなれば、いくら対策を練っていたとしても、遅かれ早かれギルドが勘付かない筈がない。

特に今回、別々のギルド会場から出発し現地で集合するという手段を使ってはいるが、どう考えても安易すぎる。その事にゲシュペトの総長であるゴルザが気付いていない訳が無い。にもかかわらず、この男の落ち着き様にどうしても腑に落ちない所があったのだ。


「ところで⋯」


ふと、そこまでゴルザが喋りかけた時、ある物が視界に入った。あれは⋯


「⋯⋯家?」

「⋯家、だな。随分小せえが⋯」


それは銀槍竜が住処とする家だった。
魔物が家を作るなど、想像の片端にも無かった2人は同時に首を捻った。しかし、数秒間を空けた後に突如早足でゴルザがその家に向かって行った。

そして徐に背中の大剣に手をかける。
それを見ていた男は、ゴルザが次にするである行動に速攻で察しがついた。


──ガッッシャアァァアンンンッ!!


大剣を叩き付けられた小さな家は、木っ端微塵に吹き飛んだ。
それを目の当たりにしていた男は、誰の所有物ともしれない家を、微塵の抵抗も無く粉砕するゴルザの異常な行動に驚愕すると共に、あの大人1人分はある大剣を片手で軽々と振り下ろせる筋力にも驚かされていた。


「⋯疑問か?何故こんな事をするのか。」

「別に。組織のトップてのはクセが強い方がイイ。」


⋯これに関しては、俺の個人的な意見だ。
トップの特徴ってのは、組織の特徴に繋がるからな。トップが悪い事を堂々とするなら、組織も然り。そしてそういったヤツらを捕まえるのが俺の仕事だからな。目立ってくれていい。


「ナルホドな。いや、良い意見だ。⋯だが──⋯」

「⋯!?」


ヤツが言葉を区切った途端、俺の視界は真っ暗になった。
初めは何が起きたか分からなかったが、直後に背中に感じた衝撃と、頬に突き刺さった痛みが俺に起こった事態の結論を出してくれた。

視界が戻り、朦朧とした意識の中で俺は立ち上がった。
まず最初に目に入ったのは、だらりと垂らした右手をユラユラと左右に扇ぐゴルザの姿だった。


「⋯良い意見だが、俺が伝えたかったのはそうじゃねえ。」

「なん、だと⋯?」


今の衝撃で舌を切ったのか、口内に溜まった血を吐き出した。
何をされたかは分かった⋯が、全く見えなかった。ヤツは俺の顔面を殴り付けた。それだけだが、あの重量の鎧を着たままであの速度⋯かなりマズい。


「今からテメェをこうしてやるッて意味だぜ!ギルバド・アレクター!」

「何故俺の名を⋯──ガッ!?」


腹部に槍が刺さったかの様な激痛。
見事にゴルザの拳が俺の腹に命中していた。しかし、その痛みを忘れる程の衝撃があった。ギルバド・アレクター、俺の本名をヤツが知っていたという事だ。

捜査員という仕事上、実名を伏せるなんてのは当たり前だ。
同じ捜査員の仲間にですら極わずかな人数にしか教えていない。⋯筈だったのだが。


「クハハハッ!最初から気付いていたぜ、テメェがギルドの捜査員だという事に!」


背後の木にぶつかり、肺が潰れる様な感覚に襲われている俺をよそに、ゴルザは言葉を続けた。


「俺はテメェらギルドが、どこまで嗅ぎ付けているのか興味があった。そこに都合良く現れたのがテメェだった訳だ。」


呼吸困難に陥り、リアクションすらままならないギルバドにゴルザは追撃を加えた。顔面に何度も、執拗に。

意識が消えかけ、地面に倒れるギルバドの後頭部を鷲掴みにして無理矢理起き上がらせ、ゴルザは覗き込んだ。


「⋯最初から気付いていた、というのは訂正する。確証に至ったのはつい最近だったからなァ。」

「クッ⋯グ⋯馬鹿な⋯」

「ハッ、馬鹿なのはどっちだ。ギルドの飼い犬が。」


そう言うとゴルザは投げ捨てる様に手を離した。
支えを失った頭部は、そのまま血でぬかるんだ地面に落下。ギルバドは僅かに悶えた。正確には悶える気力すら薄れているのだが。

ゴルザは煙草をふかして崩壊した家の方に振り向いた。


「その腕の防具に小物を隠す細工⋯懐かしいなァ。」

「!?」


ギルバドは驚愕と同時に、納得もした。
この腕の細工⋯一般冒険者からは何の変哲もない見た目だが、捜査員達からみればあからさまに通常の防具と異なっているのだ。そしてそれを知っているという事は⋯


「そう、俺も昔はテメェと同じギルドの飼い犬だった⋯」

「⋯ゴホッ⋯そういう事か⋯。」


小さく掠れた声でギルバドは呟き、ゴルザを睨んだ。
ゴルザは煙草を投げ捨て、ある事を思い出していた。自身がギルドで捜査員として活動していた過去の事を──⋯




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⋯──10年前。


「先輩!本日からお世話になります!ゴルザと申します!」

「おぉ、君が例の!よろしくな、相棒!」


彼の名はザック。
ゴルザが捜査員の試験に合格し、初勤務から彼の指導役となった男である。同じギルドの捜査員なら知らぬ者は居ない程の凄腕の捜査員であり、皆の理想だった。

しかし─⋯


「せ、先輩⋯?」

「チッ、見られちまったか。」


ゴルザが捜査員になって3年がたった時、事態は起こった。
信頼していた先輩が、地元で有名な違法ギルドとグルだと知ってしまったのだ。

その時ゴルザが見たのは惨たらしく死んだ魔物の死体と、それを担ぐチンピラ数名、そして中心人物の様に振る舞う男の姿。


「悪いな相棒。ちょっと死ね。」


担いでいた大剣を振りかざし、迫ってくる相棒だった男に対して、ゴルザは冷静に反応した。一撃目の振り下ろしを、上体を逸らすだけで躱す。

しかし、相手もベテラン。
即座に二撃目の振り払いの構えを取った。が─⋯


「それ、いいなァ。」

「なッ!?」


一撃目を躱し、相手から視界から消えた一瞬でゴルザは肉薄し、腕の小物入れから小型のナイフを取り出した。

相手が全身に纏っていた黒鉄の防具には歯が立たないと踏んで、ゴルザが刃を突き立てたのは、視界を確保する為に僅かに空いた、頭防具から見える眼球だった。グサリと、左目から右目まで骨を断って斬り裂いた。


「ぎゃあグッ!?」

「うるせえな。」


激痛で悲鳴を上げるより早く、頭防具を剥いで口の中へナイフを刺し込む。この時、周りで見ていたチンピラ達は目の前で起こっている事のあまりの迫力に怯えてしまっていた。


「フゥ──⋯」


顔面を一頻り刺し、斬り付けてからゴルザは煙草をふかし始めた。そして、チンピラを1人呼び寄せて脅迫に近い尋問をした。


「コイツがテメェらのボスか?」

「は、はい⋯」

「そうか。なら素顔を見た事があるヤツは?」

「いえ⋯俺らも今初めて見ました⋯」

「そうか。」


そして、ゴルザは元相棒の防具を全て剥ぎとって我が物にした。この瞬間から、捜査員では無く別の存在へとなったのだ。

そう、違法ギルド【ゲシュペト】のその全てを統括する者に。




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俺を動かしたのは金だった。
チンケな捜査員なんかより、魔物ブッ殺して金が稼げりゃあ儲けモンってやつだぜ。丁度よく俺の目の前に金の成る木が生え、それの所有権を奪い取っただけの話だ。


「⋯ク⋯ッ⋯成程な。⋯この際、何故道を誤ったかなんて聞かねぇ。だが、一つ答えろ。今回の標的はなんなんだ?」

「⋯あ"?」


しばらく思い出にふけていて気が付かなかったのか、いつの間にか立ち上がったギルバドが問い掛けてくる。その質問に、ゴルザの額に青筋が入った。

─何故道を誤ったか─

自身の行いに対して、投げ掛けられた言葉。
ゴルザは道を誤ったなどと微塵も考えていなかった。寧ろ、自分の欲に従った正しい行動だったとすら思っていた。

しかし、目の前の男⋯ギルバドから放たれた言葉。
それはゴルザの正しさを真っ向から否定する形となり⋯


「テメェ!如きが!知った、様な、口を⋯聞くなァッ!」


キレたゴルザは言葉を区切る事に腹に蹴りを入れた。
ギルバドはまたも血を吐いた。が、今回の吐血は口内が傷付いた事によるものでは無い。内蔵圧迫され、血管が破損。体内に溢れた血液が喉を通って噴出したのだ。

この時点でギルバドの意識は途切れているが、ゴルザが蹴りを止める事は無かった。⋯あるタイミングまでは。


「クエーーッ!」

「⋯あん?」


トドメのために大剣を取り出し、ギルバドの首に据えたその時、『何か』が林から飛び出してゴルザの頭をつついた。


同刻、ギフェルタ中腹・東側でとある異変に気付いたものが1名いた。


「時にイサ、貴様我らが長殿にあの小鳥の世話を任されていたのではなかったのか?」

「ヌッ!?⋯あの小鳥め、何処に消えよった⋯」


いざという時は、コイツを体を張って守って欲しいと長殿に言われ、我こそはと名乗りを上げたのはいいが、ここに来て見失うとは⋯。フン。まあ、この人間共を直ぐに片付けて探せばよいか。⋯いや、どうせなら人間のせいにして亡き者にするという手も⋯


「化け物共め!う、うぉおおおお!」

「やかましいぞ、小虫が!」


バチーンと、突撃してきた人間を軽くはたいてイサは考えた。
確かに目障りな存在ではあるが、自らの長が寵愛しているあの小鳥を殺されては、世話を任された身としては不甲斐が無さすぎると。


「チィ⋯セイカイよ、もう少し暴れられるか?」

「おうよ!」


更に勢いが加速する2体の巨獣を相手に、憐れな冒険者達の悲鳴がギフェルタの空に響き渡った─⋯






「⋯─コイツ⋯!!」


懸命に攻撃してくる『何か』を見て、ゴルザの表情が豹変する。口角を吊り上げ、頭に飛び付いてきたソレを強引に掴んで自身の顔の前へと寄越した。


「ピャアァ──ッ!!」


虎徹は、鷲掴みにされている箇所の痛みと、自分達の家が無惨に破壊された事に対して、目一杯に威嚇した。しかし、相手は腐っても冒険者。そんなものが通用する筈も無く、ゴルザが取り出した薄汚れた布袋に突っ込まれる。


「ククッ⋯まさか標的が自分から飛び出して来てくれるとはなァ⋯ついてるぜ。」


事の発端は、数日前にギルドが発行した銀槍竜についての書類だった。あの書類に掲載されていた銀槍竜の画像⋯その背景に僅かに映っていたのだ、この【ハイフォーゲル】が。

今や絶滅寸前の、超希少魔物。
この地域では滅多に見られないハイフォーゲルの、しかも幼体が映り込んでいた。ハイフォーゲルの生態として、体内に魔力の塊を形成する、というものがある。

卵から孵った直後から、その塊は幼体の体中に生成されるが、この塊は成体になるにつれて自身の成長のエネルギーに変換されて純度と大きさを減らしてゆくのだ。

そして、その魔力の塊は裏の世界では大層高額で取り引きがされる。つまり、ハイフォーゲルの幼体からまだ純度とサイズがある塊を取り出し、それを売って大金を手に入れるのが、最初からゴルザの目的だった。

ゴルザ自身も最初は見間違いかと思っていた。
が、即座に部下に画像の解析をさせたところ、間違いなく本物である事が判明し、今回の作戦に至ったのだった。


「フン⋯命拾いしたな、ギルバド・アレクター。」


最後に顔面を思い切り蹴り飛ばし、ゴルザはさっさとその場を立ち去る。中で虎徹が暴れる布袋を、上機嫌に振り回しながら、そろそろ銀槍竜を片付けているであろう、部下たちの元へ。


(銀槍竜と生息地が被っていて警戒していたが⋯まさか邪魔者が自らはけてくれるとは幸運だったぜ。)


呑気にゴルザか鼻歌をしながら歩いていると、ある違和感に気が付いた。完全に勘だったが、妙な気配を察知して即座に振り返る。


「⋯⋯⋯。」


しかし、ギルバドは倒れたまま以前動いてはいない。
気のせいかと、再び歩き始めようとした瞬間、違和感の正体が判明する。

それは、ギルバドの腕の部分。
捜査員が小物を隠す為に使う箇所⋯それの位置が若干変化していたのだ。


「──ッ!!」


──ボンッ!!


小さな爆発音と共に、周囲に煙が立ち込めた。
煙玉である。ギルバドは限界の意識の中で、自分に出来る最善の行動に出た。

ゴルザは咄嗟に空高く飛び上がって地上を確認するが、先程までいたギルバドの姿が消えていた。そして、手に握っていた布袋から感じていた重量も。


「~~ッ!このゴミ犬がァ!」

「ハッ⋯ハッ⋯思い出したぜ、ゴルザ。」


着地と同時に大剣を振り回し、煙を払い飛ばす。
現れた血塗れのギルバドは、片手に虎徹を抱えて立っていた。


「ゴルザ⋯その名を聞いたのは俺が捜査員になって間もない頃だった。とある国のギルドの捜査員で、違法ギルドのチンピラを捕らえまくってる男がいるってな。」


捕まったチンピラは総じて違法ギルドの事を吐いたが、足取りは一向に掴めなかった。⋯そりゃそうだ、その組織のトップがギルド側では無く、さらに奥の領域に潜んでいたんだからな。

ゴルザは自分の部下を捕まえ続ける事によって、その組織の対策員に抜擢された。そして、決定的な証拠は提出せずに逃げ続けていたんだ。捕まった部下はトカゲのしっぽ切り、無慈悲な男だ。


「⋯いいだろう、テメェは殺す。全て聞かせてやるよ。」

「⋯そりゃあご丁寧にどうも。」


──⋯⋯。
冷静を装っているものの、身体は限界。特に頭を攻撃されたせいでクラクラするし、煙玉も今ので最後⋯。


「俺はゲシュペトの総長になった後も、暫くはギルドに残り続けた。そっちの方が逃げやすいからなァ。」


ゴルザは俺の周りを、回る様にゆっくりと歩き始めた。
大剣を引き摺りながら、いつでも殺せる様にと。


「だがな、ある時気付いたんだ。ギルド側にいたままでは俺自身の身動きが出来ないと。デカい金は手に入る、が捜査員という仕事上、厄介な事に簡単には使えなかった。身分を隠してんのに豪遊なんてしたら色んなヤツらに目立つからな。」

「で、辞めたって訳か。随分と軽い理由だな。未だお前が捜査員なら俺がゲシュペト対策員になって、この場にいる事は無かったつーのに。」


くだらない、と鼻で笑って返すゴルザ。
何とかこの場を離れる方法を模索するが、残念ながら思い付かない。確かに、今俺が何かせずとも、ゴルザがアジトに帰った時点で俺の勝ちだが、殺すと言われた手前、無抵抗とはいかねえ。俺だって死にたくねえからな。


「⋯聞きてえ事がある。テメェが言った標的ってのはか?」


俺の手の上で弱った1匹の魔物を、ゴルザに見せた。
随分乱暴に扱われたのだろう、酷く衰弱しているのが目に見てわかる。


「あァそうだ。レアモノだぜソイツは。」


下品な笑いを浮かべ、ゴルザはピタリと歩みを止める。
『だが』と、笑うのを止めてギルバドを鋭く睨んでから、ゴルザはこちらに向かって歩き始めた。

 
「標的1匹の為に組織がまるまる全部動くと思うかァ?」

「なんだと⋯?」

「よく考えろ、あれだけの人数を一度に動かしたんだ。ギルドの犬どもが勘付かねェハズがねぇよなァ?!」


ついに大剣を振りかざし、ゴルザは勢いよく斬りかかってきた。が、大剣は俺の目の前ギリギリで止められていた。防具の隙間から見えるゴルザの瞳が俺を睨む。


「今回のこの作戦は簡単に言やぁ『引越し』の為の茶番だ。」

(⋯まじかよ。)

「⋯いや、茶番と言ったらそうではねェ。ソイツは高値で売れる。どデカい酒場を買っても釣りが来る程にな!」


ゴルザは両手を広げ、無邪気な子供のように目を輝かせた。
子供と違う点は、汚染水に光が反射した様な、淀んだ輝きだったという事だ。


「部下共を全員動かし、標的を確保し、資金を蓄えた上で別の街に移動して、またゲシュペトとして活動をする⋯それが、今回のシナリオだ。」


莫迦な⋯
という事は、待ち伏せを知った上での行動では無い⋯って事か!?オイオイ⋯そりゃあいくらなんでも悪運が強すぎるぜこの野郎⋯


「⋯驚いたぜ、テメェの仲間が用済みのアジトに待ち伏せしていると知った時はよォ⋯」

「⋯⋯⋯。」

「お?どうしてそれを知っているってェ顔だな?」


ゴルザは大剣を肩に担いで、俺が持っている魔物を見つめた。
俺が答えを思いつかないまま数秒たった時、ゴルザは徐に腰の物入れからある物を取り出した。

そしてそれを見た俺は、何故ゴルザが待ち伏せの事を知っていたのか、納得させられた。


「魔道通信⋯いい物が出来たモンだよなァ⋯?」


ギルバドの作戦を、元から知っていたので無い。
ゴルザは用心深い男だった。彼は今回の引越しにあたって、部下達を数人、街に残していたのだ。そして、アジトに侵入者があった場合は、直ぐに報告しろと命じていた。

そうする事によって、ギルドがどれ程の時間で自分達の動向を察知しているかの確認がしたかったのだ。そして、その侵入者の到着があまりに早かった為、ギルバドがスパイだと確信に至った経緯であった。

つまり、仮に今回引越しの予定が無かったとしても、報告があった時点で彼らが捕まる事は無かったのである。


「クハハッ!最初から今まで、全て俺の掌の上さ!」

「⋯⋯⋯クソッ。」


気力を失ったギルバドは、伸びてきたゴルザの手を拒む事無く、手の中の魔物を引き渡した。ギルバドはこの時点で殆ど諦めていた。

彼の力量不足では無い。
敵が大きく、そして巧妙だったのだ。強いて言うなら、捜査員としてゲシュペトの対策員として抜擢された際、思い切って潜入を試みたのが、間違いだったか。

入念に調べ、ついに下っ端との接触を果たし、上手く滑り込んだつもりだった。しかし、この期に及んで全て見透かされていたとは。


「⋯最期に、1つ聞かせてくれ。」

「はん、いいだろう。同じ立場の人間だった者として、聞いてやる。」


片手で大剣を振りかぶり、完全に両断する構えを取ってからゴルザは答えた。


「ギルバド・アレクター⋯この名前を何処で聞いた?」

「⋯聞いてどうすんだ、もう死ぬってのに。⋯⋯まぁいい。答えてやるぜ─⋯」


⋯─3年前のある取引の際、俺は自ら闇市に出ていた。

しばらく商人と話した後、交渉が成立したので帰ろうとした時、ある男が話し掛けてきた。

ボロボロの外套に身を包んでいて顔は見えなかったが、嗄れた声から老人だと言うことだけは分かった。

その老人は『ギルバド・アレクターという男がお前の元に来る、そいつはお前の敵だ。』と話した。

半信半疑だったが、それから間もなくして、捜査員のお前がウチにやって来た。

老人は言った『金を貸してほしい』と。

俺をゲシュペトの総長と知り、金を持っていると踏んだんだろう。借りが出来た俺は1000万程、老人にくれてやった。

予想通りだったが、老人が金を返す事はなくそれ以降姿を見せる事も無かった─⋯


「⋯何者だ。」

「俺が知るか。⋯さて。」


ゴルザの構えが最終段階に到達。
ついに斬りかかろうとしていた。俺は目を閉じ、そして考えた。今の話の老人が、何者かは分からない。

が、思っていたよりゴルザがお人好しだと言う事は分かった。
敵である俺の質問に、丁寧答えるその性格。見上げたものだ。

だが、お人好しだけで生きてはいけない。
そんな悠長に、長々と説明してくれたお陰で─⋯


「ガルルッ!!」

「ッ!!いつの間にッ!?」


突然の咆哮に、ゴルザは即座に振り向く。
その瞬間、ギルバドが手元の魔物を取り返した。ゴルザの意識は一瞬だけ手元に行った。そして、その一瞬が大きかった。ゴルザが身構えるより早く、飛び掛ってきた魔物に手元を噛まれて大剣を手放してしまう。

その隙を見て、ギルバドは今出せる全力でゴルザを殴り付けた。大きくよろけ、尻もちをつく様に倒れたゴルザは、なんとか魔物を振り払う事に成功した。しかし、手の中には大金と化す魔物の存在が無い。


「⋯このド畜生がァ⋯ッ!」

「へッ⋯よぉコラ。これで0対0だぜ?」


ギルバドは、最高にバカにした笑顔でゴルザを眺めた。
これによってゴルザの青筋がまた1本と増えるが、大剣を拾いつつ、冷静に呼吸を整えて立ち上がった。


(クソが⋯どうしたって俺を狙いやがるんだ?血塗れで瀕死の状態の方が餌になるだろうが⋯)

「グルル⋯」


現れた魔物は脚と尾が白く、身体は灰色交じりの朱色の体毛で覆われていた。その魔物の名は【デメルング】。銀槍竜がムサシと名付けた魔物だった──⋯




NOW  LOADING⋯




ゴルザがトドメを刺そうとした直前、背後の林にて。


「⋯⋯⋯。」


息を潜めて様子を伺っていたのは、ムサシだった。
彼に与えられた指示は1つ『虎徹の守護』だった。本来イサに任せていた事だったが、自由奔放な虎徹の性格上、戦闘が始まったら驚いて逃げ出すかもしれない。

そして、イサはその場から動けない。
この事から万が一を見越して、銀槍竜はムサシに対して虎徹を徹底的にマークする様にと頼んでおいたのだ。


(流石です、アカシ殿⋯貴方の予想通りに⋯)


縦横無尽に逃げ回る虎徹を追い掛ける途中、何度か仲間と冒険者達との戦闘出くわし巻き込まれた為、今まで見失っていたが、何かが壊れる様な大きな音が聞こえた方向に急行した結果、この現場に辿り着いたのだった。


(⋯しかし、不味いな。あの人間が片手に虎徹殿を抱えている以上、大きな隙が無ければ危険だ。)


ムサシが頭を悩ませていると、ふと気が付いた。
大きな鎧と剣に隠れて見えなかったが、もう1人奥に人間がいる。その人間は此方を一瞬見て、僅かに目を細めた。

そして、何やら黒い鎧の男に喋ったかと思えば、今度は黒い鎧の男が長々と話し始めた。

この時、ムサシは奥の人間の意図に気が付いていた。

─まだ出てくるな─

これを信じたムサシは、虎徹救出に備え脚に力を込めた。
そして⋯


「へッ⋯よぉコラ。これで0対0だぜ?」

(アカシ殿の住処を破壊しただけでなく、虎徹殿にも危害を加えたその無礼⋯決して許さん⋯!)

「⋯⋯いいぜ、まとめてかかって来いよザコ共。相手してやる。」


⋯立ち姿だけでも分かる。
あの黒鎧の男は間違いく俺より格上だ。しかし思い出せ俺。仲間と共にアカシ殿に鍛えてもらった日々を⋯!


ギフェルタ頂上にて、
片や捜査員としてのプライドを守る為に。
片や主を冒涜された恨みを晴らす為に、構えた。目的は違えど、共闘するには十分な相手。

文字通りの頂上決戦が始まった──⋯


















⋯──そして時を同じくして。
リーゼノールの草原に一体の魔物が降り立った。

─それは赤い翼を持っていた。

───それは朱い鱗に覆われていた。

─────それは緋い瞳で当たりを見渡した。


「⋯ぬぅ⋯奴の魔力を感じぬ⋯住処を変えたか。」


紅き龍【テュラングル】
銀槍竜と激戦を繰り広げた、灼熱の龍である──⋯
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この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

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