猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【王都編】

第55話・狂突と銀槍④

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「⋯~~ッ!いってえェ!!」


腹部を擦りながら、ファリドが地面から飛び起きた。
割と渾身のイッパツだったんだが、なんで余裕で起き上がれるんだアイツ。⋯まぁ少なくとも、拳で感じたのは『人間の手応え』では無かったのはあるが⋯⋯。


「ちきしょおー!俺が槍を手放すなんてェー!」

「子どもみたいに騒ぐなよ⋯アンタいくつだ?」

「今年で31だ」  


なんだコイツ。
どこからともなく『キリッ』とか聞こた気がしたんだが⋯⋯。気の所為か?


「フゥ、仕切り直しだッ」


パンッと、ファリドが自分の頬を両手で叩く。
此方へと歩くファリドの先には、きっさきが俺に向いた状態のまま『固定』された彼の槍があった。

そう、『固定』である。

事前の攻防で俺は、アイツに遠距離の攻撃が意味無いと判断。
背後に準備していた槍を片付け、『既にファリドに向かわせていた槍』に意識を絞った。

俺が背後の槍を消したのをチャンスだと、攻撃を誘発。
その後、破壊された俺の槍の破片をアイツの槍にまとわりつかせ、攻撃を仕掛けてきたタイミングで操作し、地面へと突き刺した。

結果、高速で迫る槍の固定に成功。
アイツに隙が生まれ、先制点に繋がったワケだ。⋯いやはや、この特別訓練場の地面が頑丈でよかったぜ。ここが『普通の地面』だった場合、地面に固定しようとした所で意味はなかったからな。

あんな速度で槍が迫ってたんだ。
それをこの方法で止めようとすれば、地面にも相当な負荷がかかるのは当然。破片が突き刺さった地面ごと引っこ抜かれ、そのまま命中⋯なんてのも有り得る話だ。

そんなん、ダサすぎて笑えねー⋯
っと、ファリドが槍を取り戻したな。切り替えていこう。


「いよっしゃ!ギアを上げるぜ!」

「なんだ?さっきまでは、小手調べって感じだったのか?」

「馬鹿タリィ~、俺は何時でも本気だぜ?⋯ンま、強いて言うなら、『本気のギア』ってのを上げるってトコだ」

「⋯⋯⋯⋯そうか」


⋯⋯コイツ、冗談で物を言わないタイプか。
さっきから本気だったかどうかはさて置き、実力の底がまだまだ見えないのは事実。ギアを上げるってのも、一体どれほどの変化があるんだか⋯⋯。

やれやれ。

全く。


ほんっと、楽しませてくれるのな。この世界。


「俺は、借りをちゃんと返す男ってので有名なんだ。先制点の借り、返してやるぜ」


ファリドは、自身の槍を頭上へ掲げる。
彼が両手でソレを回すのと同時に、魔力感知に反応が現れた。
槍の回転速度の上昇に呼応するかの様に、ファリドの魔力が膨れ上がる⋯

⋯⋯いや、コレがアイツ本来の魔力の全てだろう。
この“重さ”⋯⋯懐かしいな。初めてテュラングルと会った時の衝撃と似た感覚があるぜ。


「──死ぬんじゃねぇぞ、銀槍竜」


ドクンと、心臓の鼓動が大きくなる。
それ共に、俺は自分の額に一筋の汗がつたるのを感じ取った。

やがて、その汗は頬へと流れ、顎へと滑る。

そして、ついにソレは肌から離れ、静かに落下。


その一雫が、地面へと打ち付けられるまでの刹那。



俺とファリドは、ただ真っ直ぐと視線を交差させていた。



「「⋯⋯⋯⋯⋯」」


──ファリドが、前方へ僅かに重心を傾ける、 

その瞬間だった。


「うッ──!?」


ファリドが踏み込むのを、俺の目が認識する。
それと同時に、右頬には浅い切り傷が発生していた。


「よく躱したァ!次いくぞッ!」


背後から聞こえるファリドの声に、俺は振り向く。
次の攻撃を繰り出そうとするファリドを見た俺に、ここでようやく理解が追いついた。

先程、ファリドは刺突をしてきたのだ。
右頬の切り傷は、アイツが当て損じたのではなく、俺が反射的に回避した事によって生まれたものなのだろう。

そう考えれば。 
もっとも、その瞬間を俺自身が記憶していないので、単なる推測に過ぎないが⋯⋯


「フッ──!」

 
体勢を建て直そうと試みる俺に、ファリドは追撃を仕掛ける。
地面を蹴り、俺の上空へと飛び出したファリドから、槍の猛攻が降り注いだ。それは最早、激しい刺突の雨⋯⋯というより、刺突の『塊』だった。


「く⋯⋯ッ」


辛うじて直撃は避けれているが、その一方で、身体中に擦り傷が創られていく。先程まで、捌きながらも反撃のタイミングを狙えていたのが、まるで嘘だったかのような余裕の無さだ。


「オイオイ、逃げるだけかァ?!ガッカリさせんなよ!」


チッ、あの野郎、上から好き勝手言いやがる。
下手したら相手が死ぬってのに、なんて良い笑顔してんだ。


「──降参は、早めに頼むぜ?」


俺の上空を飛び越え、地面へ着地するファリド。
傷だらけの俺を見て勝利を確信したのか、物言いが腹立つな。
⋯とはいえ、試合のルールが『“明確な”一撃を与える事で1点』というので無ければ、既に俺の負けなのだが。


「オラッ、休んでんじゃねェッ!」


槍を1回転させ、突撃を開始するファリド。
やはり、格段に速度が上昇しているが、どういう仕組みか先の魔力の解放によって身体能力が上がっているらしい。

恐らく、魔力で筋肉を増強しているのだろうが、それにしてもなステータスの上昇幅。こりゃあもう、完全に某戦闘民族だな。


「フッ─」

「ッ!!」


その時、俺の背にゾクッと何かが走った。
原因は、たった今ファリドが行った『呼吸』。

同じなのだ。
彼は、刺突の連撃を繰り出す際に、必ず同じ呼吸をしている。そして、ついさっきの上空からの攻撃とは違い、今回の連撃は両足を地面に着けた状態で行われるのが確定している。

即ち、確実に踏み込んだ状態での連続攻撃が来る──


「──!」

「うおッ!?」


そこから先は、回避するので精一杯だった。
ファリドの身体能力上昇後、初めの一撃によって動揺を開始していた俺の脳。そこへ、更に超高速の連続刺突が迫った事によって、“理解”と“判断”には、大幅な遅延が発生していた。

目の前に来る一撃を回避する事だけに専念。 
完全なる防戦一方へと、戦局は変化していった。


「そらそらそらァッ!どうした、銀槍竜!?」

「う、うるせ⋯!!」


思わず目を覆いたくなる程、刺突の速度が上昇してゆく。
それこそ、本来1本しかない筈の槍が、巨大な束となって迫り来る様な感覚だった。


「ッ」


だが、その0.1秒にも満たない瞬間。
ファリドが、ごく一瞬だけ息を吸ったその時、連撃の速度が僅かに緩んだ。


「ハッ!」


右に、弾く。
その事だけに、俺は全神経を集中させる。


 
それが、文字通り致命的ミスに繋がるとも知らずに。


──ガツンッッッ!!!


「ガッ⋯ハッ⋯?!」


顎の下に、強烈な打撃を食らったかのような痛み。
いや、実際に何かを当てられたのだろう。空が見えているという事は、下から衝撃が加わった証拠だ。⋯⋯と、飛び掛ける意識の中、俺は考えていた。

そして、

 
(あれ程の手練を、視界から外すのはヤバい⋯ッ!)


と、即座に目を覚まして、頭をファリドへと戻す。
だが、遅かった。


「お”ぉッ!!」


ファリドの咆哮と共に、彼の手から槍が消える。
いや正確には、消えたと見間違える程の速度だったのだろう。
しかし、右腕に鋭い痛みが現れ始めた現状を持って、そんな事はどうでもよくなった。


「ファリド、1点ッ!」


シルビアが、ファリドへの加点を宣言する。
その、敵である俺ですら見事だと思う程の一閃は、間違いなく大きな一点だろう。


「フッ⋯」


不敵に笑うファリドと目が合う。
彼の伸び切った腕には、槍が握られていた。

そしてその鋒。
幾多の魔物を屠ってきたであろう、その鋭利な先端は、完全に俺の右腕を貫いていたのであった──
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