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1章【王都編】
第59話・クロスカウンター
しおりを挟む『グレイドラゴン』。
彼らは、接近戦に主とした進化は辿っていない種族だ。
確かに、獲物を狩る際には、牙や鉤爪で相手を仕留める。
だが、それはごく一瞬、刹那のやり取りの話。
強敵との邂逅時にも、一定の距離を取って戦闘を行う。
持続的な接近戦闘については、今まで一度も確認された事はないのだ。
かの種族が接近戦闘を学習した場合、どんな事が起きるのか。
そんな『もしも』の想像を、冒険者達はした事がなかった。
──しかし、本日この場を持って。
彼らは思い知った。『その気になった』グレイドラゴンが、如何なる力を発揮するのかを。
「ガルルッッ──!!」
「くッ⋯!?」
銀槍竜の猛攻を防御しきれず、ファリドは徐々に後退する。
“先の一撃”のダメージも抜けておらず、彼の焦燥は広がった。
だが、肋骨の殆どを砕き、激しい吐血さえ引き起こした“その一撃”は、食らったファリド自身でさえ唸る程、見事なもでもあった。
どれ程の威力だったかと疑問ならば、ある場所を見るといいだろう。
最深部20cm強、直径約2mのクレーターが、先程ファリドが体勢を崩された地面に形成されているからだ。
(オイオイ、まじでヤベェじゃねえかコイツ⋯⋯)
ファリドが溜息すら零しそうな程、銀槍竜の攻撃は加速する。
この時のファリドが難儀していたのは、自分、もとい人間と銀槍竜との『身長差』だった。
銀槍竜の身長が約160cmに対して、ファリドの身長が179cm。
加えて銀槍竜は、二足姿勢が人間の『猫背』や『前屈み』に近い。
この、一見無関係な2つの特徴。
これらが組み合わさり、偶然“発生した”した構えが、たった今、銀槍竜が取っている構え。即ち、零距離攻撃型であった。
「ぐッ⋯⋯。や、やるなァ、銀槍竜ちゃん」
「息切れしてんぞ、降参するか?」
「ハッ、ありえねぇ、なッ!」
銀槍竜の質問に、ファリドは笑みを浮かべて返す。
逆に、銀槍竜はファリドの返答に、首を横へ傾けつつ1回瞬きをした。
(隙ありッ!!)
瞬きのタイミングを逃さず、ファリドは素早く後ろへ下がる。
銀槍竜にとってジョークを交えた表情のつもりだったが、どうやら伝わらなかったらしいと、少々肩を落した。
(⋯距離の確保は出来た。問題は──)
と、ファリドは続きを考えるより早く、防御の構えを取る。
そして、
──ガンッッッ!!
槍の柄で、銀槍竜の拳を防いだ。
「マジか。防がれるとは思ってなかったぜ」
「ちぇ、またそれかよ⋯!」
ファリドは、苦い顔をする。
銀槍竜は再び後脚にバネを作り出し、20m以上開いていた空間を一息で縮めたのだ。
彼は、満足したのである。
自身の技術がどこまで通用するのか確認を終え、もう『試合を続ける必要』が無くなったのだ。
「──舐めんなッ!!」
ファリドは、空中へ高く跳ね上がる。
無論、強引なエスケープではなく、バネの性質を理解した上での行動だった。一気にエネルギーを解放する事は、直線上での速度が爆発的になる利点があるが、欠点も同時に存在する。
それは、『速度が早過ぎて小回りが効かない』というものだ。
地上であれば、相手に回避されても着地時の反動を利用し、即座に再攻撃が可能。⋯しかし、空中に相手がいる場合は?
──と、ここまでの展開を読み切った事で、彼はここから先を勝利に繋げる事に成功したのであった。
「オッ!?」
ガクンと、ファリドの身体が揺れる。
そして、彼は目の当たりにした。
自身の愛槍に、何かが絡まっている事に。
「フッ⋯」
銀槍竜は、嗤った。
金属生成によって作り出した『鎖』が、ファリドの左腕ごと槍に巻き付いたからである。
即座に、ファリドは鎖を引き千切ろうと力を掛ける。
彼は、試合開始時の攻防を思い返していた。あの時の銀槍は、難なく破壊が可能であった。ならば、コレも同じ様に──
(クッソ⋯!!形状だけじゃねぇ⋯⋯強度も操作できるのかよ⋯ッ!?)
奮闘虚しく、銀槍竜の鎖に変化が起こる事は無かった。
寧ろ、軋む音の1つも発さない程に鎖は強固だったのである。
「ぬ"あ"ッ!」
銀槍竜は、鎖を目一杯に引いた。
ファリドが状況に追い付くのを、許さない為である。
「クッ⋯⋯オオぉッ!!」
「ガルオァァ──ッッ!!」
両雄咆哮。
片や、右腕の貫通にて1点。
同、部位の切断にて1点。
片や、腹部への打撃にて1点。
水月(※みぞおち)への打撃にて1点。
最早、互いに後は無い。
結果は至ってシンプルで、『勝つ』か『負ける』かのみ。
──最後の攻防、決着へのカウントダウンが始まった。
「ン"ン"ッ!」
先手、ファリド・ギブソン。
鎖を自ら引き、加速を行う。
「⋯──。」
後手、銀槍竜。
ファリドの動作を確認し、攻撃パターンの予測に入る。
──ドゴォンッッ!!
決 着。
鈍い打撃音と共に、勝敗が決した。
互いに繰り出したのは、右のストレート。
僅かに銀槍竜が出遅れた様にも見えたその刹那の後、2人に歩み寄る1人の人物がいた。
「⋯⋯⋯試合終了」
彼女の名はシルビア。
銀槍竜とファリドの試合を、審判として見届けた人物である。
「まず、言わせて。2人共、素晴らしい試合だったわ」
交差する腕の先で、シルビアは静かに笑った。
「──銀槍竜1点ッ!勝者、銀槍竜ッ!」
力強い声が、特別訓練場に響き渡った。
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