猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【王都防衛迎撃作戦編】

第71話・“邪悪な矢”

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迎撃作戦開始から、およそ1時間。
突如出現した【人形黒異種】と、急増した【翼竜型黒異種】によって一時混乱した戦場だったが、各冒険者達の奮戦もあり、現在は拮抗状態を保っていた。

特に活躍が目立っているのは、やはりゼクスの面々。
狂突アクセル】こと、ファリド・ギブソンを初め、ソールやハクア、シルビアやニナの働きによって、前線の抑え込みに成功。

圧倒的な数の不利を覆していた。


「──☾稲妻の監獄ブリングニス☽!!」


そして彼女、アイリス・セレンスティナ。
王都に迫る翼竜型黒異種を、雷の包囲攻撃をもって一斉撃墜してゆく彼女こそ、この戦いの要だった。

この作戦の主軸は、王都の防衛。
前線のゼクスがどれだけ『地上の黒異種』を食い止めようが、『空の黒異種』の防衛ライン突破を許してしまえば意味がないのである。


「ハァ⋯ハァ⋯。流石に、ちょっとキツいわね⋯⋯」


額を伝う汗を拭い、アイリスは苦笑いする。
魔力切れになり始めているツエン達を背にして、彼女は空を見上げた。


(まだ、半分以上はいる。目測でも、2000体は下らないわね⋯)


アイリスは小さく歯軋りをして、地上へ視線を移す。
自分達から少しばかり離れた地点では、“何か”と戦う銀槍竜の姿があった。相手は複数いる様だが、資料にあった黒異種の獣型(黒狼)以外に、奇妙な形をした黒い奴も見える。

恐らくは黒異種⋯という所までは分かるが、この距離から見える“ソイツら”は、まるで人間の様な姿を⋯⋯


(──いや。正体なんて、今はどうでもいいわね。兎に角、銀槍竜がコッチに戻ってくるまで耐えなくちゃ⋯!!)


上空へ視線を戻し、魔法を放ち続けるアイリス。
だが、その速度と火力は、確実に勢いを落としている。彼女の魔力は、刻一刻と限界に近付いていた──⋯



NOW  LOADING⋯



──ズドンッッ!!


鈍重な打撃音を響かせ、黒異人コクトが吹き飛ぶ。
俺が殴り飛ばしたソイツは、背後の黒異人コクト達の群れに突っ込み、薙ぎ倒していった。


「チッ。多いな⋯」


俺は、目の前の黒異人コクトの群れに舌打ちをした。
ファリドに助けられ、アイリス達の近くまで戻って来たはいいが、前線から抜けてきた黒異人コクトが多すぎる。

ゼクス達も全ての黒異種をカバーできるワケじゃないし、ある程度のは予想していたが⋯。これじゃあ、アイリスに合流して黒ドラ達を共に迎撃するなんて、とてもじゃないがムリだ。

せめて、アイリス達の所へ黒異人コクトが行かない様、ここで俺が食い止めるしかない⋯⋯。が、アイリスの魔力も無尽蔵って訳ではないし、なんとか合流する手を考えないとな⋯


(──いっそ、ここで?⋯いや。『アレ』はまだ不完全というか未完成だしな⋯⋯)


とある策が浮かんだ俺は、内心で首を捻る。
もしかすれば、『この方法』で一気に現状を打破できるかもしれない。⋯だが、未だ完全な制御が出来てない手前、下手をすれば黒異種達より大きな被害を出してしまう可能性もある。

⋯『あの技』を使うのは、周囲に被害が出ない時だけだな。
まぁファリドとの試合でも使わなかったくらいだし、圧倒的格上が相手か、ヤバイもう死ぬ!ってタイミングでしか切らない手札しておこう。


(しっかし、じゃあどうするんだって話なんだよなぁ⋯)


うーむ、悩みどころだ。
簡単に、現状のマズい点を上げてみるか?

まずは、アイリスの魔力量の限界だな。
迎撃戦開始時から常に魔法を撃ち続けている彼女だ。いつ魔力が切れてもおかしくない。上空の黒ドラ達の“壁”となっている彼女がダウンすれば、王都への進行を許してしまう。

事実上の迎撃戦失敗に繋がる訳だ。


次は、俺の立ち位置か。
俺が前線から抜けてきた黒異人コクト達を迎え撃つより、アイリスと共に迎撃魔法を撃っていた方が、圧倒的に効率が良いだろう。
せめて、俺の代わりに誰かが黒異人コクト共を足止めしてくれればいいんだが⋯⋯。現状ではソレも難しいか。



「オオォオアアッ!!」

「うっせぇわ!」


尻尾をブン回し、発生した風の刃で黒異人コクトを斬り裂く。
周囲に味方がいない今だからこそ、遠慮なく繰り出せる技だ。
欠点は、予備動作が大きいってトコだな。ある程度の実力者が相手なら、余程の隙を突かないと当てらないだろう。

まぁ扱いとしては、ハイキックみたいな感じか。
当たれば大ダメージが稼げ、外せば大きな隙を生んでしまう。
雑魚相手か、もしくは追撃かトドメの一撃用だな。


「ガルルーーッッ!!」

「おっと、」


飛び掛ってきた黒狼を躱し、銀槍の投げ付けにて反撃する。
槍が頭に突き刺さった事でその黒狼は動かなくなったが、ソイツが倒れ込んだ先では、無数の黒狼が俺を睨んでいた。

黒異人コクト達に気を取られがちだが、言うてコイツらも殲滅しきってないんだよな⋯。マイったな、ますます打つ手が見出せなくなってきたぞ。

やっぱ『あれ』は、ここで切るべき──


「⋯⋯?」


違 和 感。
“それ”の正体が何だったのか、即座には分からなかった。

ただ、一つだけ。
無数の黒異種達が、俺の背後へ一斉に視線を移した事以外は。


(まさか⋯)


その瞬間、俺は背中に寒気が走るのを感じる。
そして、同時に“予感”も過ぎっていた。

“『最悪の光景』が背後に広がっているのは”と。


「クッソ⋯!!」


俺は、振り返ると同時に、最大出力で金属を生成する。
そして、この戦場にいる誰かが、どんな行動に移るよりも早く、俺は巨大な金属の壁を創り出した。

その直後。
瞬きする間も無く、俺は駆け出した。

迎撃魔法による爆音と、眩い発光が消えた空の下に。


「ぶはッ!はぁッ!はぁッ!⋯私とした事が⋯っ!!」


アイリスは、地面に膝を着いていた。
それも、瞳と鼻から血を流しながら。


「「「「「「ォオオォオオオオオ──ッッ!!」」」」」」

(やべぇ、やべぇやべぇ⋯ッ!)


戦場の黒異種達が、一気に活気づくのが伝わってくる。
反射的に生み出した壁を背後に、俺はアイリスに駆け寄った。
彼女は酷く疲労しており、誰がどう見てもこれ以上の戦闘続行は困難な様子だった。


「私はッ⋯いいからッ!」


俺が肩を貸そうとするが、アイリスはそれを振り払う。
彼女は、防衛ライン上空を通過しつつある黒異種の群れを指差し、俺の目を強く見つめた。


「⋯っ。オオォアァ──ッ!!」


全力を持って、俺は銀槍を生み出す。
そして、その銀槍が100、200と数を増やすよりも早く、真上の空へ向かって撃ちまくる。辛うじて、黒ドラ達の先頭の防衛ライン突破を阻止には成功した。
 
だが、俺の銀槍による範囲攻撃は、相手が遠くにいる程、銀槍と銀槍の間隔が広がってしまう。どうしても発生する“その隙間”を通り抜けられるまでは、最早時間の問題だろう。


「──☾炎の矢フラン・ファル☽っ!」

「アっ、☾氷柱の雨アイス・ツァーフェン☽!」  

「☾鎌鼬ビクトリング☽ーッ!!」


その時だった。
俺の銀槍に続いて、微弱ながらも複数の魔法が放たれたのは。

背後へ首を捻ると、そこには大量の汗を流し流しつつも、何とか立ち上がったであろうツエン達の姿があった。

──まだ、やれる── 

そう、目で訴えてくる彼らは、なんとも頼もしく頷いた。
⋯成程。歯を食いしばるには、まだ早かった様だ。


「お前達は、俺がやり損なった連中を頼む。今、俺が攻撃している箇所より、王都寄りの上空を狙ってくれ!」

「「「「「応ッ!!」」」」」


ツエン達の強い返事は、大地を揺らした。
表情から伝わる彼らの気合いは、それはもう心強いモノだ。


(⋯いいぞ、士気が落ちてない。このまま、一気に反撃を⋯!)


──が、しかし、そうは問屋が卸さなかった。
先程、俺が咄嗟に創り出した壁を乗り越え、黒異人コクトや黒狼が迫ってきたのだ。連中、どうやら仲間を踏み台に壁を越えたらしい。

⋯だが、咄嗟だったとはいえ、8メートルはある壁だ。
この突破の速度は、いくらなんでも早すぎる。恐らくだが、上手く“協力”しあっているんだろう。ただ仲間を踏み台にするのでは無く、自分が次の踏み台となるべく動く⋯とか。

⋯って、なに冷静に分析してんだ!
もしそうなら、連携も士気もアイツらの方が上じゃねーか!!


「「「「「「オオォォオァアア──ッッ!!」」」」」」


雄叫びを上げ、無数の黒異種達が迫る。
とどめをさしてやらんと言わんばかりの、凄まじい形相で。


「──な、め⋯んじゃあ─⋯ないわよッッ!!」


バチン!と、振り下ろされた黒異人コクトの腕が弾かれる。
アイリスが、迫り来る黒異種を食い止めるべく、結界を作り出してくれた様だ。それも、俺が作った壁の倍はあるかという、大きな結界を。

しかし彼女は、魔力が既に切れかかっている状態。
ごく薄い結界には、黒異種達の攻撃によって早くも亀裂が入り始めていた。


「アイリス!保てるか!」

「ンぐぐ⋯ッ」


俺の問い掛けに、彼女は首を横に振る。
ただでさえ目や鼻から出血していたアイリスは、今の無茶が原因で更に激しく血を流していた。

⋯そして、


──パキン────⋯ッ。


「⋯⋯⋯⋯あぁ、やられちゃった」


彼女のその笑みは、諦めから生じたのだろう。
最後の力を振り絞って作った結界が破られ、眼前に迫るのは黒狼の牙と鉤爪、黒異人コクトの拳や膝⋯。既に重症の身であるアイリスからすれば、『生』を諦めるには十分過ぎる。


「くッ──」


だが⋯⋯、だが。
俺が、空へ魔法を撃つのを止め、彼女の守護に動こうとした、その時だった。

微かなが、俺の鼻を通り抜けたのは。


(⋯⋯あ、)


“その香り”は、以前にも感じた事があった。
ひどく甘ったるく、魔物の俺の鼻には堪えた、煙草の香り。

ギルバートのシガーとも違っていた、独特な印象の。






 


「──ったく。頼むぜ、ゼクス筆頭」


『男』は、そう言うと、飛び掛ってくる黒異種へ手をかざす。
そして、黒異種が

一瞬だけ。
一瞬だけ、黒異種に向けて手が光った様にも見えたが、それ以上は俺の目でも捉えられなかった。


「ンま、仕方ねぇ。やってやるか」


男は、倒れゆくアイリスを支え、ゆっくりと抱き上げる。
近くにいたツエンに彼女を預けた男は、空へと手を伸ばした。





「──☾邪悪な矢ベゼ・ファル☽」

手で銃を模した形を作り、男は呪文を唱える。
三本の蒼白い閃光が、眩い輝きを放ち、炸裂した。
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