猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【地獄のスパルタ訓練編】

第104話・雨

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 アリオンの街に、雨が降り始めた。
 大地へと落下する雨粒は、花が開く様に形を変える。
 冷たい雫に映るのは、冒険者達と謎の黒異人コクトの存在。
 ──戦場は、更なる変化を遂げようとしていた。

「ウヴォアアアァ──ッッ!!」
「「「「!!?!?」」」」
 
 冒険者達は、一斉に飛び退く。
 上空に現れた“謎の黒異人コクト”に、膨大な魔力の奔流を感じ取ったからだ。
 攻撃の衝撃波に備え、万全の構えを取る冒険者達。
 彼らに対し、謎の黒異人コクトは天を仰ぐ体勢を取る。
 直後、黒異人コクトは大きく開けた口から太陽の様な球体を生成。
 そして──

「ひッ、退(ひ)けえぇーーッッ!!」

 真っ先に、ヴィルジールが叫ぶ。
 攻撃に備えて距離を取った筈が、相手にとっては未だ命中範囲だという事に気付いたのである。
 ヴィルジールの咄嗟の指示により、冒険者達は即座に後方へと跳ねる。
 だが、彼らが次に地面へ足を着けるよりも早く、黒異人コクトが動いた。

「ヴァッッッ!!!」

 振りかぶり、そして振り下ろす様に。
 黒異人コクトは、生成した火球を大地へと放つ。
 まるで太陽が迫ってくるかの様な光景に、冒険者達は絶句し、硬直する。

 ──飲み込まれれば命はない──
 
 その事実が、唐突に突き付けられる。
 あまりに強大な力の前に、冒険者達は立ち尽くす事しかできなかった。
 ──ただ一人を除いて。

「結界だッッ!!」
 
 ヴィルジールは、素早く指示を飛ばす。
 しかし、落下した火球が、地面を削りながら迫って来ている現状。
 冒険者達は、暗い表情で首を横に振った。

「無理だ⋯⋯アレは、街に結界を張った所で──」
「違う、俺に張れっつってんだ!!」

 一斉に、冒険者達は顔を上げる。
 一見すると、自己憐憫が故の言葉に聞こえる、ヴィルジールの台詞。
 だがこの時、彼の周囲にいた冒険者達は、即座に言われた通りの行動を起こした。
 それは、冒険者達にヴィルジールへの絶大な信頼感があったからである。
 事実、誰一人として、“考えがあっての発言だろう”と信じて疑っていないのだから。

「⋯⋯考えは、あんのか?」
「ある。お前らは、俺に結界を張り続けてくれ⋯⋯!!」

 強い決意を目に、ヴィルジールは駆け出す。
 迫り来る巨大な火球へと、真正面から。

──ズズンッッ!!

 そして、火球の動きが鈍足化する。
 冒険者達は、再び絶句していた。
 真っ直ぐと突撃したヴィルジールが、10メートル程もある火球を受け止めていたからだ。

「ぐッ⋯⋯あああッッ!!」

 結界が張られていて尚、ヴィルジールの掌には約200℃の熱が伝わっていた。
 屈強な冒険者といえど、その熱を継続的に、そして押し当てる形で触れていれば、苦痛は相当なものだ。
 それでも、彼がその場で踏み留まり続けるのは、護りたい存在があるからである。

「ぬああぁぁァァ──ッッ!!」

 ヴィルジールは叫ぶ。
 だがそれは、痛み故の叫びではない。
 言うなれば、それは“根性”。ゼクスではなく、冒険者ではなく、男としての気迫であった。
(いけるッ! このまま着弾地点を逸らす⋯⋯!!)
 彼の努力は、無駄では無かった。
 僅かだが、確実に火球の移動方向が変化し始めたのである。
 そして、遂に──

「うオアアーーッッ!!!」

 バチン! と弾ける音と共に、火球が上空へと打ち上げられる。
 数秒後、火球は遥か彼方で炸裂。眩い光を放ち、ゆっくりと収束していった。
 ヴィルジールの勇姿に冒険者達は感嘆し、よろめく彼の身体を抱えた。

「よくやったぜ、ヴィルジール」
「どうって事⋯⋯ねぇ、よ⋯⋯」

 軽く笑って見せ、ヴィルジールは空を見上げる。
 一度攻撃を跳ね飛ばしたとはいえ、相手の黒異人コクトの余力は未知数。
 冒険者側も士気は大幅に上がったが、それでも戦線を保てるかは不明であった。

「ヴォ⋯⋯? ヴァ。ウ、ウ⋯⋯ヴァウウ」

 その時、上空の黒異人コクトが奇妙な反応を見せる。
 左右に首を傾け、疑問げな声を上げるその行動に、冒険者達の警戒は高まる。
 黒異人コクトのその行動が、“どうして攻撃が跳ね飛ばされたのだろう?”という疑問から来ている点については、冒険者達も知る由がない。
 だが、直後にこの黒異人コクトに思い浮かんだ“解答”は、冒険者達を更に追い詰める事となる。

「──ヴゥゥオオォォオオオァァァアッッッッ!!」

 “それ”は、最悪の結果であった。
 この時、黒異人コクトが考え付いたのは、一つ。
 その作戦に移行する為、黒異人コクトは地上にいた黒異種(こくいしゅ)へと手をかざした。
 次の瞬間、今まで静観する様に停止していた黒異種達が、一斉に暴れ始める。
 悲鳴にも似た声を上げ、その場でのたうち回る黒異種に対し、黒異人コクトは、

「ゴハン」

 と、を発した。
 その直後、無数にいた全ての黒異種の肉体が崩壊する。
 例えるなら、初めから砂や灰の様な小さな粒で創られていたかの様に。
 
「⋯⋯クソッタレめ!」

 冒険者の1人が、そんな台詞を吐き捨てる。
 ただでさえ莫大な魔力量だった黒異人コクトは、黒霧の様に変化した黒異種達だった物を吸収。
 その魔力量を更に底上げし、作戦の実行に移った。

「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯!! かよ!!」

 “普通の攻撃に対応されたなら、より高い威力の攻撃を放てばいい”。
 それが、黒異人コクトが考えついた作戦であった。
 それに気付いたヴィルジールは、歯を食いしばる。
 すぐさま次なる手を考えた彼は、舌打ちをしながら周囲へ指示を飛ばした。

「──このままじゃ全滅だ⋯⋯。撤退するぞ!!」
「「「了解ッッ!! 」」」

 ヴィルジールの指示を受け、冒険者達は武器を構えた。
 “撤退”という指示を受けた者達が、“攻撃”の構えを取る。
 不可思議な光景にも見えるが、冒険者達には共通した意識があった。
 それは、「一般人の避難が終了してから」というものである。
 冒険者として、一般人を退かして先に逃げる事は許される事ではない。
 それが念頭にあるからこそ、彼らは即座に武器を構えたのであった。

「──そこのアンタ! ギルドに行って、“増援はいらない、俺達も退避する”と伝えて来てくれ!」
「分かったわッ!!」

 ヴィルジールの指示に、1人の冒険者が走り出す。
 彼女を見送った後、ヴィルジール達は改めて上空の黒異人コクトへと目をやった。
 
「ヴォ??」

 刹那。ヴィルジール達の背筋に、極大の悪寒が走る。
 黒異人コクトの視線が、武器を構えた自分達では無く、“別の方向”へ動いていたからだ。
 その方向とは、ギルドへと走って行く、仲間の冒険者に他ならない。
 ──そしてその冒険者は、たった今、ギルドへと入っていった。

「ヴァアッ!!」

 猿が喚(わめ)く様に、黒異人コクトは片手をギルドへと向ける。
 手の先に紅い光が凝縮されていく様子を見て、ヴィルジールは思わず絶叫した。
 
「逃げろーーッッ!!!」

 その声が届く事は無かった。
 紅い光が、レーザーの様に街一帯を薙ぎ払い、直後に爆発。
 その一直線上にあったギルドは、跡形もなく消し飛んだ。
 住民の避難もまだ終わっておらず、彼らを誘導する仲間の冒険者や、ギルドの職員も建物内にいた。
 撤退に使う筈の転移装置までも、全てが丸々消し飛ばされてしまった。

「う⋯⋯く、あぁッ!!」

 最早、言葉になどならなかった。
 湧き上がってくる感情が、悲しみなのか怒りなのかさえ理解できぬ状況。
 冒険者達は、焼け落ちるアリオンの街を眺める事しかできなかった。

「もう、終わりだ⋯⋯」

 ヴィルジールは崩れ落ちる。
 絶望と、何より無力感が、彼を押し潰していた。
 だが、悲嘆暮れる間もなく、更なる脅威が迫る。

「ヴァオオオオ──ッッ!!」

 黒異人コクトは、先程よりも巨大な火球を生成。
 大きく振りかぶり、そして──






「──ヴィルジール様ッッ!!」

 その時だった。
 聞き馴染みのある声に、ヴィルジールは振り向く。
 そこには、全身が傷と煤(すす)だらけのグレイスの姿があった。
 彼女は、背後に“謎の魔導具”を引きずっており、酷く疲労している様子。
 そんな彼女を見て、ヴィルジールは思わず怒鳴った。

「な、なんで逃げてねぇんだよ、グレイス!?」
「そんなの!! 決まってるじゃないですかッ!!」
「何ィ!?」
「私は! 貴方の! 下僕なんですッッ!!
 私が! 主を置いて逃げる下僕に見えるとでも!?」

 バカな。 
 ヴィルジールはそう思った。
 この期に及んで、笑みさえ零れてきそうな遣り取りに、彼は再び立ち上がる。
 攻撃の溜めに入ってる黒異人コクトを見上げながら、彼はグレイスへと質問をした。

「⋯⋯どうする気だ?」
「見くびらないで下さい。私の“生涯”をお見せ致します」

 ヴィルジールは、グレイスへと振り返る。
 大砲の様にも見える魔導具の後ろでは、グレイスがレバーの様な物に手を掛けていた。
 
「『都市防衛結界・試作型』──」

 レバーを引き下げ、グレイスは呟く。
 直後、魔導具の頂上に装着された巨大な魔力石が、虹色の発光を見せる。
 膨大なエネルギーが砲身へと装填され、放出の段階へと移行した。

「起動ッッ!!」

 翠色のエネルギーが、黒異人コクトへ向け、真っ直ぐと放たれた。
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