猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【暗黒討伐編】

第168話・約束

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「──魔王幹部⋯⋯って、あの魔王幹部か?」
「あぁ」
「しかも、魔王軍随一の戦闘狂と呼ばれるティガだって?」
「⋯⋯あぁ」

 あんぐり。そんな表情になるヴィルジール。
 恐らくだが、今の彼の脳内は真っ白になっている違いない。
 困った事になった。会話の流れで、ティガの正体をうっかりバラしてしまったぜ。

「い、いやホラ、さっき言ったろ? 魔王軍やその他の色々な連中に稽古をつけてもらってるって⋯⋯」
「魔王幹部を連れて来てるとは聞いてなかったんだが?」
「ほんっとにゴメン。⋯⋯ただ、言うほど暴君じゃないから、この事は内緒にしてくれないか?」
「『暴君じゃないから』⋯⋯? その魔族の男の経歴を知っていて、そんな事を言ってるのか?」

 ⋯⋯うん? ティガの経歴だって?
 そういえば、本人の口から聞いた事は無かった気がするな。
 まぁ魔王幹部なんて肩書きがあるんだし、物騒な話は少なからずあるだろう。
 だが、ティガの性格を踏まえると、とんでもなく凄惨な仕打ちを人類にしているとは考えにくい。
 ヴィルジールの言い様からして、ある程度の被害を出しているのは分かるが⋯⋯

「2000年前。当時、世界最強だった王国軍10万と1人で交戦。
 後に発見された文献には、“生存者は一人もいなかった”と記載されていた。
 354年前。伝説の冒険者パーティと呼ばれ、魔王ゼルリウスの打倒を掲げていた4人組を瞬殺。
 調査の結果、亡骸すら消滅させられていた事が判明した。
 27年前。先々代の『最強』の称号の持ち主であった人間と、東のとある孤島で決闘。その島は消滅──。
 ⋯⋯それで、コレのどこが暴君では無いっつうんだよ?」
「暴君だ⋯⋯」

 初めてティガの過去を聞いたが、こりゃヤバいな。
 というか、本人が武勇伝を語るタイプではないのはあるが、長く一緒に居たのに知らなかったのがショックだ。
 ヴィルジールもヴィルジールで、よくそんな話を知っているもんだぜ。
 まさか、冒険者ならこのくらいは知っていて当然とか⋯⋯?
 なんにせよ、ティガがしっかりと魔王軍の幹部である事実を思い知らされたな。

「──人間共は、徹底的に俺らを悪者にしたいらしいなァ」

 話を聞いていたティガが、意味深な事を言う。
 溜息をする様に放たれた言葉に、俺もヴィルジールもティガへと顔を向けた。

「まァ、別に構いやしねェが⋯⋯折角の機会だ。いくつか訂正してやる。
 他の人間共にも、正しい歴史を教育してやる事だな──⋯」



 ⋯──まず2000年前の話だが、大きな間違いがある。
 あん時の世界最強の軍隊は、王国の兵士共なんかじゃねェ。
 いやそもそも、俺が相手にしたのは人間ですらなかったな。
 “機甲戦人アンドロイド”っつう、人間の老害連中が造り出したよく分からん人形の群れが、急に襲って来やがったんだよ。
 だからブチ壊してやった。何匹かには逃げられたが、殆どは粉々にしてやったぜ。
 そんでもって、その機甲戦人アンドロイドより厄介だったのが、ヤツらを造った老害連中だった。
 “みさいる”だの“きかんほう”だの“せんしゃ”だの、ホントにワケわかんねぇモンばっかり造り出しやがってよォ。
 腹ァ立ってしょうがねェから、全員殴り殺してやったぜ。

 次に冒険者の4人組の話だが、根本的に色々違う。
 奴らをブチのめしたのは、354年前じゃねェ。353年前だ。
 俺の住処ダンジョンに入って来たのが354年前で、直接会ったのがその1年後ってワケだな。
 ついでに、アイツらが掲げてたのは魔王ボスを倒すんじゃなく、封印するって目的だった。
 んで、封印するのに必要な分の魔力を俺から得られると考えたらしく、俺んトコに来たっつぅ話だ。
 まァ、仮に成功したところで、俺らのボスを封印するなんざ不可能だがな。
 ⋯⋯あァ。それと、コレだけは言っておくが、『瞬殺』はしてねェ。出来なかったからなァ。
 一対一タイマンなら瞬殺だったろうが、あの冒険者共は連携の精度がトンデモなくてな。
 結局は俺が皆殺しにして勝ったが、かなり楽しかったぜ。

 ──で、だ。
 最後の話にある間違いは一つだけだが、それが肝心なんだ。
 27年前。そもそも俺ァ、“あのババア”と戦ってねェんだよ。
 ⋯⋯逃げたんだ。あの、息を吹きかけただけでんじまいそうな年寄りから。
 奴と向かい合った瞬間、俺は感じた。“斬られる”ってな。
 今考えりゃ、仮に斬られたとしても致命傷にゃならなかったろうし、実際に斬られていた可能性もあったか分からねェ。
 ⋯⋯だが、アイツが俺に“斬られる”と勘違いさせる程の達人だったのは確かだ。
 だから俺ァ、アイツと直接の戦闘する事を避け、島を丸ごと吹き飛ばした。
 そして、“これなら生きてねェ”っつう思いを胸に、その場を後にした──⋯



「⋯──まァ、結局のトコ、それで死んだのか生き延びたのかは知らねぇけどなァ。
  ⋯⋯さてどうだ? 魔王幹部ティガ様の話に満足したか?」
「「⋯⋯⋯⋯。」」

 なんか、凄い事を一気に聞いた気がする。
 ただ、2000年前のアンドロイドとかミサイルだとかの話は、前に幼女から聞かされた話と繋がるな。
 転生者という存在を生み出していたオーガは、魔王軍に対抗する為、別世界の“技術”に目を付けていた時期があるらしい。
 その“技術”の中には、恐らく俺の前世の近代兵器等も含まれていた様だ。
 この世界の化学技術レベルでは、前世にあった兵器の再現は不可能に近いだろう。
 しかし、この世界には“魔力”という、それ自体が魔法な様なエネルギーが存在している。
 歴史上の天才達であれば、魔力の解析は困難では無い筈だ。
 魔力を利用した擬似近代兵器の開発や、前世では達成が叶わなかった研究でさえ、成果が挙げられた事だろう。
 そして、彼らが行き着いた先が、戦いの為の人形を造り出す事だった、と。
 ⋯⋯全く、どんな世界でも争い事か。人間という生き物は。

「──オマケに言っとくが、俺に挑んで来た冒険者共の死体は灰にして埋めてやったぜ。
 奴らが俺らのボスに企てた策は気に入らねぇし、だから俺も皆殺しにしたワケだが⋯⋯。
 この俺に臆さずに立ち向かった勇気と、練り上げられた技や魔法の数々には敬意を払ってやった」
「⋯⋯!! それが、歴史の真実⋯⋯か」

 関心深そうに、ヴィルジールは腕を組む。
 俺としては、ティガが極悪人でなくて安心している感じだ。
 2000年前の出来事については、人間側に圧倒的な非がある。
 この剣と魔法ファンタジーの世界を、近代兵器による争いなんかで穢しやがったんだ。絶対に許せない。
 伝説の冒険者パーティとやらも、それ相応の覚悟で事に臨んでいた筈だ。
 ティガとしては、己が忠誠を誓っている者に仇なそうとした人間を屠ったという、至極当然の理由がある。
 更には、敵であるその冒険者達を丁重に弔ったという話だ。
 それらを踏まえるなら、“正義”は兎も角としても、“仁義”はティガの方にある様に思える。

「──じゃァ、長話もここら辺でいいだろ。27年前の話は深堀するなよ? つうか、誰かに話したら殺すからな」
「えっ、ちょっと待ってくれよ。“あのババア”って⋯⋯」
「深堀すんなって言ったばっかじゃねェかよォ! エェ!?」
「ぐええええーーッ!?」

 首を締め上げられ、カエルの様な鳴き声を出す。
 久し振りのティガによるチョークスリーパーだな⋯⋯って、いつも締め上げてくるのはアインの方だったか。
 なんにせよ、こうして呑気に考え事が出来る辺り、ティガも冗談交じりのつもりらしい。
 前までは、割と真面目に視界が暗くなってきてたからなぁ。
 苦くはあるものの、懐かしくもある思い出だぜ。

「──で、どうすんだ? オメェらの件はよォ」
「あぁ、それについては⋯⋯」

 チラリと、横に目をやる。
 すると、僅かに口角を上げて首を横に振るヴィルジールの姿があった。

「いや、今日はもういい。どの道、あのまま続けていても俺が負けていただろうし。
 どうせやり合うなら⋯⋯俺だって男だ。当然、勝ちてえ」
「ヴィルジール⋯⋯! あぁ、いつかまた絶対にやろうぜ!!
 たかが0勝1負だ。アンタなら──」
「ん? 待て待て、ちょっと待て」

 俺の言葉を遮り、ヴィルジールが前に出る。
 疑問げな顔を向けてみると、彼もまた、不思議そうな表情でコチラを見つめていた。

「俺が、いつ、お前に負けた?」
「えっ? だって今、『続けてたら俺が負けてた』って⋯⋯」
「あぁ、続けてたら、な。だが実際に負けた訳じゃねぇだろ?
 それなら、勝負は決まってないのと同じ。つまりは、今日のところは引き分けって事だ」
「⋯⋯えっ」

 は、はあああ!? なに言っとんじゃコイツは!!
 『差を付けられちまったな』とか嘆いてた男の台詞とは到底思えねぇ!!
 いや、ティガも笑い過ぎだろ!! 『気に入ったぜ』じゃないわ!!
 自信を無くさなくて良かったけど!! 良かったけども!!
 ソレとコレとは別!! さっきの戦いは俺の勝ち!!

「──いいねェ。好きだぜェ? 人間のそーゆートコロ♡
 “負けを認めない限り負けではない”!! カァーーッ!! サイッコーだなァ!!」
「ホラ見ろ、魔王幹部すらこう言ってるぜ?」
「ざっ、ざっけんなぁコラぁ!! あぁいいぜ!! こうなったら、次の勝負で白黒つけてやらぁーー!!」

 やいのやいのと言い合い、日が暮れてゆく。
 その後、外の空気を吸いに行っていたシルビアとサンクイラが帰宅すると、粉砕されたテーブルを見て驚愕。
 『再会が嬉しくてはしゃいでいた』と誤魔化すと、呆れつつも片付けを手伝ってくれた。
 ティガの申し訳なさそうな──素振りが無いのはどうかと思うが、取り敢えず『友人』という設定で彼女達には紹介した。
 角や漆黒の肌色等に疑問は持たれたが、『獣人やドワーフみたいなモン』という事でゴリ押し。なんとか押し通した。

「──俺、残りの休暇はこの街で過ごすわ」
「そうか? ンじゃあ、俺も一緒に留まるかァ。同じ部屋で寝よ~ぜ♡」
「いいってw むさ苦しくてロクに寝れなそうだぜ」
「あァん? 俺ァ、紅志を抱き枕に出来るから気持ち良く寝れそうだけどなァ」
「お前はな?w」

 ベルトンの外。小高い丘の上で、ティガと駄弁だべる。
 星空を見上げつつ今後の予定を考えていると、“ある事”を思い出した。昼間にヴィルジールと再会した時の事だ。
 彼は、確かに『紅志』と、俺を名前で呼んでいた。
 ベルトンで俺が名を明かしたのは、鍛冶屋のボルドというドワーフとその仲間の数人だけのハズだが⋯⋯。
 まさか、俺なんかの名前が広まる事なんてな。考えてもみなかったぜ。

「──あン? なにニヤニヤしてんだ?」
「う~ん? いやなんか、名前で呼ばれるっていいよなって」
「ンン? 俺ァ、いつも紅志の事を紅志って呼んでるだろ?」
「それはそうだが⋯⋯。──まぁそれもそうだな」

 尻尾を、ついつい振ってしまう。
 俺は名前で呼ばれるのが好きだ。相手が、ちゃんと俺の事を分かってくれていると思える。

 “ここは異世界”。
 “名を呼んでくれるのは、俺が自ら名乗った相手だけ”。

 ⋯⋯そんな風に思っていたんだけどな。
 人の名というのは、まるで木が成長する様に広がるものだ。
 誰から誰かに。その誰かから、また別の誰かに──。

「紅志ー!! ティガさーーん!!」
「夕飯、出来てるわよー。紅志達も早く来てちょうだーい」
「おーー、今行くーー」

 遠くから、サンクイラとシルビアが手を振る。
 ゆっくりと立ち上がった俺は、ティガを手招きした。

「いやぁ、俺ァ別にいいぜ? 魔族は、飯を食わなくても生命活動の維持が──」
「そういうのはいいから。ほら、行こうぜ」
「そうか? 紅志がそう言うンなら⋯⋯まァ、行くけどよ」

 ポリポリと頭を掻き、ティガが立ち上がる。
 ベルトンの街。鍛冶場の灯りが無数に光るその街へ向けて、俺は足を踏み出すのだった。
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