3 / 78
第一章 魔術師と血の繋がらぬ子供
第一話 魔術師、子供を拾う
しおりを挟む
曇天模様の朝、男はいつも通りあばら家から近くの沼を目指し歩いていた。
まだ太陽が顔を出し切っておらず、水平線から白い光が上がってくるこの時間が男の行動と思考にぴったりと一致するのだ。朝の準備運動と言った所だろうか?
深緑のフード付き外套を羽織り、少し湿った地面に足跡を残しながら歩いて行く。
周りを見渡すと収穫を終えた畑が広がり、肥料となるであろう藁が一面に敷かれ種まきに向け力を蓄えているようであった。
自分のあばら家より十分ほどにある目的地の沼へ流れ込む川の側を歩いていた。大きな川でなく、湧水が沼に注ぎ込む様な小さな川である。その川は切り立った崖、--せいぜい五メートル程の高さであるが--、を有しており川へ降りるにはかなり手前に降りる場所があるだけであった。
強引に降りようとすれば、転げ落ちる事は必至で良くて打撲、悪くて骨折となるであろう。
川辺を歩き続けるといつも採取している薬の元となる薬草が広がる湿地帯に出る。いつもであれば薬草を採取し、薬を作ってから売ることもこの男の生業であるが、今は薬草が大量に在庫としてため込まれており、今日は採取必要がない程に十分であった。
目的はこの川が流れ込む沼である。沼は二百メートルほどの直径であるが、観光地でも遊び場でも、そして何がある訳でもないので、人が来ることは滅多になく、隠れて何かを行うには絶好の場所だった。
(さて、今日はどんな魔法の練習をしようか?)
毎日の日課の練習のメニューを考えながら、一歩一歩踏みしめながら歩いて行く。
この男は薬師であると共に魔術師なのだ。
”魔術師”とは、魔法を使い様々な事象を専門に起こす人の事を指す。例えば炎の魔法を出し木々を燃やしたり、真空の刃を撃ち出して獣を切り裂くなどだ。
男は、近くの街で少しは名が売れているのだが、良く知るものからは何故か”変り者”と呼ばれている。変り者であるが、魔法をあまり人前で使った事は無く、魔法を使う”変り者”よりも、効能の高い薬を扱う”変り者”の方が名が通っている。
(いつも思うが、”変り者”はちょっとうれしくはないな)
あばら家を出て歩く事十数分が過ぎた頃であろう、沼へ出る河口付近のいつも見る風景に違和感を覚えた。
(何か、物体が置かれている?)
興味深く近づいてみると、廃棄され、破壊が進んだ馬車の車体だった。
数日間、雨が降っていたのでこの場所へ来たのは数日ぶりであった。前に来た時にはこの様な残骸は無かったと記憶している。と言うよりも、この様な大きな物体は間違えようがないのだが。
(はて?)
さらに興味深く観察してみると、商人や旅人が使うような幌の付いた馬車であり、強い衝撃が加わったであろうか、車軸が折れ車輪が外れている場所があった。そして馬車の周りには載せていたと思われる荷物が散乱していた。
「ここに馬車ごと落ちたか。それにしても馬はどうした?」
破損した馬車がここにあるとすれば、車体を引っ張る馬車馬が存在するはずだが、その死体も馬車馬に伸びる馬具も見えない事に気が付く。
恐らくだが馬車馬でここへ運ばれ、車体のみを崖の上から滑り落とされ廃棄された事になる。
それでも、運が良かった事は、崖を滑り降りただけで必要以上に破損をしていなかった事であろう。天地を逆さまになる事無く、車体や幌が無事だった事もあり、引き上げて車軸を直せば、もしかしたら再利用できるのではないかと思われるほどであった。
車体が無事だとわかり、他にはどんな状況かと日よけや雨除けの幌を見れば、白地に赤い点々が斜めに真っ直ぐ続いてる。
「うん?これは血の色か?」
誰かがこの幌の前で刃物に切られ鮮血が噴き出し、血飛沫となって付着したのだろう。血飛沫は車体の外側に多く見られ、数人が命を落としたと見られた。幌の内部は綺麗であり、内部では襲われていない様だ。
「これは襲われたようだが、惨いことをするな」
男は何か手掛かりになりそうな物が無いかと荷台や外に散乱した荷物を”ゴソゴソ”と探し出した。生活困窮者ではないので、あくまでもこの持ち主を探す為である。
荷物をかき分けて捜していると、男のその手が止まった。
「おやおや、これはこれは」
車体の中で荷物と荷物の隙間に一人の子供が倒れているのを発見した。パッと見たところでは生死は分からないが、外傷を確認できない事から何とか無事でいてくれと無事を祈るのであった。
そして、車内に使えそうな物を無いかと探すと、幸いなことに柔らかいクッションを見つけ、それを枕にして子供を介抱し始めた。
(無事でいてくれれば良いが……)
子供の胸に手をそっと触れると小さく胸が上下に動き、小さい体ながら一生懸命に生きようとしており、無事が確認できる。
(何とか生きてる。良かった)
男は子供が無事でいる事に安堵の表情を見せた。
さらに子供を観察すると、身に付けている服に破れや濡れは無さそうで、たいしたことないと判断できるだろう。。
そして、外傷を見るのだが……額に擦り傷と腕に打撲痕が見えるだけで、腕や足が明後日の方向を向く事も無かった。
今は車体の中や周囲に散乱している柔らかい荷物がクッションとなり怪我を防いでくれたようだ。
「なんにしろ、このままではまずいな」
まず、あまり得意でない回復魔法を使い、子供の傷を治す。擦り傷に打撲痕であれば男の魔法であっても傷跡が残らないで治癒する事が可能である。
「襲われたにしては幸運だったようだな。荷物の陰で寝ていて助かったのか?」
崖の下を見渡しても人の倒れている様子もなく、子供の両親らしき人も見当たらない。
崖の上から落とされてのであれば上にいるかもしれないが、幌に掛かっている血飛沫を見る限りは絶望的と言えるだろう。
(それにしても何かこの子供の身の上がわかるものがあるといいのだが……)
あるのはクッションや何に使われるかわからないような物ばかりで、襲われたとき目ぼしい物はあらかた持っていかれてしまったのだろうか。散乱している荷物を見ても少ないと見える。
(ここにいても食べるものも着るものも無い。あとで街の方で保護してもらうとして、一先ず、あばら家に連れていくか)
羽織っていた自分の外套で子供を包みこみ、起こさない様に注意しつつ抱きかかえ、あばら家に帰ろうと足を進める。
(あぁ、この子供はどうしようか?)
男は、突然起きた遭遇に、一抹の不安を抱くしかなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
自分のあばら家に戻ってきた時にはすでに日も完全に昇り、夜が明け周辺には畑で仕事をするに姿がちらほらと見受けられた。
普段であれば戻ってすぐに朝食の用意をし、一人で朝食を取ることが日課となっていたが、この日は保護した子供がいるので二人でとなった。
とは言え、子供はまだ目も覚まさず、子供の事を知る手がかりは得られず、何もわかっていなかった。唯一わかっている事は保護した子供がここにいる事だけだろう。
子供の名前は?
親は?その名前は?
何処から来た?
何故あの馬車に乗っていた?
男の疑問は無尽蔵に湧き、尽きることは無い。
それを解決するには子供が起きるまで待つしか、有用な手段は無かったのだ。
”グググゥゥゥゥゥウウゥゥウウ~~~”
部屋に何やら音が、盛大に鳴り響いた。
「まぁ、何をするにも腹は減るな。腹ごしらえの準備でもするか」
男の腹が盛大に鳴った所で思考を変え、腹を満たす事を優先事項にした。
抱えていた子供を傍らのソファーに寝かし、男は朝食の支度を始めるために台所へと向かった。
結婚もしていない一人住まいの男である、豪華な食事など出来るはずもなく、最低限の食事を取ろうといつものメニューを手際よく作っていく。
あっという間に朝食の準備が出来、男は子供のいる部屋へと移動し、用意した朝食を食べ始める。薄切りにし軽く炙った硬いパンと根野菜と干し肉のスープ、コンソメ風である。これは男がいつも用意するものである。よくも飽きもせず同じメニューを食べるものだな、と自分に言い聞かせながら黙々と口に運んでゆく。
たまには違ったメニューも考えなければならぬと思うが、一人身ではその気も起きない。
朝食の事を考えていると、ソファーで横になっていた子供が目を覚ますのが見えた。眠い目を両手で器用にこすると、首をあちらこちらに向け部屋の様子を見ると、今までにない光景が目に入り大声を出し始める。
見知らぬ場所で見知らぬ男がいれば当然ながら頭が混乱し騒ぎ出すのは仕方のない事であろう。特に小さな子供であればそれは顕著に出るはずだ。
「なに、ナニ、ここ!!みんながいない、どこ~~~~!!」
一度見た部屋の中を、もう一度ぐるりと見わたし何もないとわかると、側で食事を取る男を見つけさらに叫び声を上げる。
「イヤだぁ!!なんにもしないで~~~~!!」
大声で叫ぶと首まで掛けてあった外套を頭まで隠れるように掛け体全体を隠す。傍らから見ていても、体がブルブルと震えているのがよくわかる。相当怖い目にあったか、見慣れない人が目の前にいて混乱してかだろう、と。
「何もしないよ。私はスイール、【スイール=アルフレッド】。見ての通り、このあばら家で一人暮らしをしているんだ。何もしないから、顔を見せてよ」
食器を置きニコニコ顔で話すスイールを、掛けてあった外套を目の位置まで下ろし、声の主であるそばにいる男、スイールの顔を見つめる。
当然ながら怖い思いをした子供は震えが止まらずに、まだまだ落ち着く様子を見せないでいる。
(聞くのはまだ先かな?)
落ち着かない様子の子供を見て、事情を聴くよりもまずは腹に何か入れて貰わなければと、台所より少し多めに作ったスープを金属のコップに入れてテーブルへと置いた。
「ほら、何もしないよ。おなかが減っただろう、大したものはないけど、朝ごはんだ。ちょっとは食べたほうがいいよ」
テーブルに用意した朝食を指し、安心して食べるようにうながす。
「まぁ、怖いよね。私は少し離れていよう。ご飯を食べながらお話できるかな?」
座っていた椅子を引きずり子供から離れ、後ろの壁付近まで移動して椅子に腰を下ろす。子供はそれを見て、目の前にいる男を警戒しながらだもテーブルに置かれたスープのコップを手にし、口に近づける。お腹が減っていたのか、味わう事を忘れたように、ただ、ただお腹に入れていく。
「ゴホッゴホッ!!」
「ほらほら、急いで食べるから。もっとゆっくり食べてもいいんだよ。誰も取らないから」
子供を心配を掛けまいと優しい言葉を掛けながら、水をコップに注いで子供の前に置いた。コップから水を勢いよく飲むと、ようやく落ち着きを取り戻したのか口を開き始めた。
「おじさん、ここどこ。とうちゃん、かあちゃん?いっしょにいたみんなは?みんな、どこいったの?」
落ち着いたといっても腹が満たされただけである。見知らぬ人と一緒であればまだまだ不安を抱えたままだろう。それにはもう少し時間がかかるかもしれない。
(そういえば、この子供の年齢も知らないな。幼いようだけど、まだ三~四歳くらいかな?)
スイールの疑問がまた湧き出てきた。分からない事があるととことんまで調べる、悪い癖が出てしまった。
「君は馬車の中で眠っていたんだよ。その周りには誰もいなかったよ。ところで、君の名前はわかるかい?」
「うええぇぇぇ~ん!!とうちゃ~ん!!かあちゃ~ん!!」
名前を聞く前に余計な事を聞かせてしまったか、子供は泣き出してしまった。
(ありゃ、しまった。子供の扱いは分らないからなぁ。泣き止むのを待つしかないか、はぁ……)
頭をかきながら、「やれやれ」、と失敗したことを自覚する。妻帯者であればわかるかもしれないが今までずっと、独り身であった。子供の気持ちなどとうの昔に過ぎ去った記憶で分かるわけもなく、時間だけが過ぎて行く。
十分も大きな声で子供は泣き続け、疲れてしまったのかいつの間にかソファーで寝息をたて、眠りについてしまった。
(これからどうなるんだろう……)
スイールは子供を見ながら、これからの自分とその子供の将来にがどのようになっていくのか不安を隠せないでいるのだった。
まだ太陽が顔を出し切っておらず、水平線から白い光が上がってくるこの時間が男の行動と思考にぴったりと一致するのだ。朝の準備運動と言った所だろうか?
深緑のフード付き外套を羽織り、少し湿った地面に足跡を残しながら歩いて行く。
周りを見渡すと収穫を終えた畑が広がり、肥料となるであろう藁が一面に敷かれ種まきに向け力を蓄えているようであった。
自分のあばら家より十分ほどにある目的地の沼へ流れ込む川の側を歩いていた。大きな川でなく、湧水が沼に注ぎ込む様な小さな川である。その川は切り立った崖、--せいぜい五メートル程の高さであるが--、を有しており川へ降りるにはかなり手前に降りる場所があるだけであった。
強引に降りようとすれば、転げ落ちる事は必至で良くて打撲、悪くて骨折となるであろう。
川辺を歩き続けるといつも採取している薬の元となる薬草が広がる湿地帯に出る。いつもであれば薬草を採取し、薬を作ってから売ることもこの男の生業であるが、今は薬草が大量に在庫としてため込まれており、今日は採取必要がない程に十分であった。
目的はこの川が流れ込む沼である。沼は二百メートルほどの直径であるが、観光地でも遊び場でも、そして何がある訳でもないので、人が来ることは滅多になく、隠れて何かを行うには絶好の場所だった。
(さて、今日はどんな魔法の練習をしようか?)
毎日の日課の練習のメニューを考えながら、一歩一歩踏みしめながら歩いて行く。
この男は薬師であると共に魔術師なのだ。
”魔術師”とは、魔法を使い様々な事象を専門に起こす人の事を指す。例えば炎の魔法を出し木々を燃やしたり、真空の刃を撃ち出して獣を切り裂くなどだ。
男は、近くの街で少しは名が売れているのだが、良く知るものからは何故か”変り者”と呼ばれている。変り者であるが、魔法をあまり人前で使った事は無く、魔法を使う”変り者”よりも、効能の高い薬を扱う”変り者”の方が名が通っている。
(いつも思うが、”変り者”はちょっとうれしくはないな)
あばら家を出て歩く事十数分が過ぎた頃であろう、沼へ出る河口付近のいつも見る風景に違和感を覚えた。
(何か、物体が置かれている?)
興味深く近づいてみると、廃棄され、破壊が進んだ馬車の車体だった。
数日間、雨が降っていたのでこの場所へ来たのは数日ぶりであった。前に来た時にはこの様な残骸は無かったと記憶している。と言うよりも、この様な大きな物体は間違えようがないのだが。
(はて?)
さらに興味深く観察してみると、商人や旅人が使うような幌の付いた馬車であり、強い衝撃が加わったであろうか、車軸が折れ車輪が外れている場所があった。そして馬車の周りには載せていたと思われる荷物が散乱していた。
「ここに馬車ごと落ちたか。それにしても馬はどうした?」
破損した馬車がここにあるとすれば、車体を引っ張る馬車馬が存在するはずだが、その死体も馬車馬に伸びる馬具も見えない事に気が付く。
恐らくだが馬車馬でここへ運ばれ、車体のみを崖の上から滑り落とされ廃棄された事になる。
それでも、運が良かった事は、崖を滑り降りただけで必要以上に破損をしていなかった事であろう。天地を逆さまになる事無く、車体や幌が無事だった事もあり、引き上げて車軸を直せば、もしかしたら再利用できるのではないかと思われるほどであった。
車体が無事だとわかり、他にはどんな状況かと日よけや雨除けの幌を見れば、白地に赤い点々が斜めに真っ直ぐ続いてる。
「うん?これは血の色か?」
誰かがこの幌の前で刃物に切られ鮮血が噴き出し、血飛沫となって付着したのだろう。血飛沫は車体の外側に多く見られ、数人が命を落としたと見られた。幌の内部は綺麗であり、内部では襲われていない様だ。
「これは襲われたようだが、惨いことをするな」
男は何か手掛かりになりそうな物が無いかと荷台や外に散乱した荷物を”ゴソゴソ”と探し出した。生活困窮者ではないので、あくまでもこの持ち主を探す為である。
荷物をかき分けて捜していると、男のその手が止まった。
「おやおや、これはこれは」
車体の中で荷物と荷物の隙間に一人の子供が倒れているのを発見した。パッと見たところでは生死は分からないが、外傷を確認できない事から何とか無事でいてくれと無事を祈るのであった。
そして、車内に使えそうな物を無いかと探すと、幸いなことに柔らかいクッションを見つけ、それを枕にして子供を介抱し始めた。
(無事でいてくれれば良いが……)
子供の胸に手をそっと触れると小さく胸が上下に動き、小さい体ながら一生懸命に生きようとしており、無事が確認できる。
(何とか生きてる。良かった)
男は子供が無事でいる事に安堵の表情を見せた。
さらに子供を観察すると、身に付けている服に破れや濡れは無さそうで、たいしたことないと判断できるだろう。。
そして、外傷を見るのだが……額に擦り傷と腕に打撲痕が見えるだけで、腕や足が明後日の方向を向く事も無かった。
今は車体の中や周囲に散乱している柔らかい荷物がクッションとなり怪我を防いでくれたようだ。
「なんにしろ、このままではまずいな」
まず、あまり得意でない回復魔法を使い、子供の傷を治す。擦り傷に打撲痕であれば男の魔法であっても傷跡が残らないで治癒する事が可能である。
「襲われたにしては幸運だったようだな。荷物の陰で寝ていて助かったのか?」
崖の下を見渡しても人の倒れている様子もなく、子供の両親らしき人も見当たらない。
崖の上から落とされてのであれば上にいるかもしれないが、幌に掛かっている血飛沫を見る限りは絶望的と言えるだろう。
(それにしても何かこの子供の身の上がわかるものがあるといいのだが……)
あるのはクッションや何に使われるかわからないような物ばかりで、襲われたとき目ぼしい物はあらかた持っていかれてしまったのだろうか。散乱している荷物を見ても少ないと見える。
(ここにいても食べるものも着るものも無い。あとで街の方で保護してもらうとして、一先ず、あばら家に連れていくか)
羽織っていた自分の外套で子供を包みこみ、起こさない様に注意しつつ抱きかかえ、あばら家に帰ろうと足を進める。
(あぁ、この子供はどうしようか?)
男は、突然起きた遭遇に、一抹の不安を抱くしかなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
自分のあばら家に戻ってきた時にはすでに日も完全に昇り、夜が明け周辺には畑で仕事をするに姿がちらほらと見受けられた。
普段であれば戻ってすぐに朝食の用意をし、一人で朝食を取ることが日課となっていたが、この日は保護した子供がいるので二人でとなった。
とは言え、子供はまだ目も覚まさず、子供の事を知る手がかりは得られず、何もわかっていなかった。唯一わかっている事は保護した子供がここにいる事だけだろう。
子供の名前は?
親は?その名前は?
何処から来た?
何故あの馬車に乗っていた?
男の疑問は無尽蔵に湧き、尽きることは無い。
それを解決するには子供が起きるまで待つしか、有用な手段は無かったのだ。
”グググゥゥゥゥゥウウゥゥウウ~~~”
部屋に何やら音が、盛大に鳴り響いた。
「まぁ、何をするにも腹は減るな。腹ごしらえの準備でもするか」
男の腹が盛大に鳴った所で思考を変え、腹を満たす事を優先事項にした。
抱えていた子供を傍らのソファーに寝かし、男は朝食の支度を始めるために台所へと向かった。
結婚もしていない一人住まいの男である、豪華な食事など出来るはずもなく、最低限の食事を取ろうといつものメニューを手際よく作っていく。
あっという間に朝食の準備が出来、男は子供のいる部屋へと移動し、用意した朝食を食べ始める。薄切りにし軽く炙った硬いパンと根野菜と干し肉のスープ、コンソメ風である。これは男がいつも用意するものである。よくも飽きもせず同じメニューを食べるものだな、と自分に言い聞かせながら黙々と口に運んでゆく。
たまには違ったメニューも考えなければならぬと思うが、一人身ではその気も起きない。
朝食の事を考えていると、ソファーで横になっていた子供が目を覚ますのが見えた。眠い目を両手で器用にこすると、首をあちらこちらに向け部屋の様子を見ると、今までにない光景が目に入り大声を出し始める。
見知らぬ場所で見知らぬ男がいれば当然ながら頭が混乱し騒ぎ出すのは仕方のない事であろう。特に小さな子供であればそれは顕著に出るはずだ。
「なに、ナニ、ここ!!みんながいない、どこ~~~~!!」
一度見た部屋の中を、もう一度ぐるりと見わたし何もないとわかると、側で食事を取る男を見つけさらに叫び声を上げる。
「イヤだぁ!!なんにもしないで~~~~!!」
大声で叫ぶと首まで掛けてあった外套を頭まで隠れるように掛け体全体を隠す。傍らから見ていても、体がブルブルと震えているのがよくわかる。相当怖い目にあったか、見慣れない人が目の前にいて混乱してかだろう、と。
「何もしないよ。私はスイール、【スイール=アルフレッド】。見ての通り、このあばら家で一人暮らしをしているんだ。何もしないから、顔を見せてよ」
食器を置きニコニコ顔で話すスイールを、掛けてあった外套を目の位置まで下ろし、声の主であるそばにいる男、スイールの顔を見つめる。
当然ながら怖い思いをした子供は震えが止まらずに、まだまだ落ち着く様子を見せないでいる。
(聞くのはまだ先かな?)
落ち着かない様子の子供を見て、事情を聴くよりもまずは腹に何か入れて貰わなければと、台所より少し多めに作ったスープを金属のコップに入れてテーブルへと置いた。
「ほら、何もしないよ。おなかが減っただろう、大したものはないけど、朝ごはんだ。ちょっとは食べたほうがいいよ」
テーブルに用意した朝食を指し、安心して食べるようにうながす。
「まぁ、怖いよね。私は少し離れていよう。ご飯を食べながらお話できるかな?」
座っていた椅子を引きずり子供から離れ、後ろの壁付近まで移動して椅子に腰を下ろす。子供はそれを見て、目の前にいる男を警戒しながらだもテーブルに置かれたスープのコップを手にし、口に近づける。お腹が減っていたのか、味わう事を忘れたように、ただ、ただお腹に入れていく。
「ゴホッゴホッ!!」
「ほらほら、急いで食べるから。もっとゆっくり食べてもいいんだよ。誰も取らないから」
子供を心配を掛けまいと優しい言葉を掛けながら、水をコップに注いで子供の前に置いた。コップから水を勢いよく飲むと、ようやく落ち着きを取り戻したのか口を開き始めた。
「おじさん、ここどこ。とうちゃん、かあちゃん?いっしょにいたみんなは?みんな、どこいったの?」
落ち着いたといっても腹が満たされただけである。見知らぬ人と一緒であればまだまだ不安を抱えたままだろう。それにはもう少し時間がかかるかもしれない。
(そういえば、この子供の年齢も知らないな。幼いようだけど、まだ三~四歳くらいかな?)
スイールの疑問がまた湧き出てきた。分からない事があるととことんまで調べる、悪い癖が出てしまった。
「君は馬車の中で眠っていたんだよ。その周りには誰もいなかったよ。ところで、君の名前はわかるかい?」
「うええぇぇぇ~ん!!とうちゃ~ん!!かあちゃ~ん!!」
名前を聞く前に余計な事を聞かせてしまったか、子供は泣き出してしまった。
(ありゃ、しまった。子供の扱いは分らないからなぁ。泣き止むのを待つしかないか、はぁ……)
頭をかきながら、「やれやれ」、と失敗したことを自覚する。妻帯者であればわかるかもしれないが今までずっと、独り身であった。子供の気持ちなどとうの昔に過ぎ去った記憶で分かるわけもなく、時間だけが過ぎて行く。
十分も大きな声で子供は泣き続け、疲れてしまったのかいつの間にかソファーで寝息をたて、眠りについてしまった。
(これからどうなるんだろう……)
スイールは子供を見ながら、これからの自分とその子供の将来にがどのようになっていくのか不安を隠せないでいるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
王宮メイドは今日も夫を「観察」する
kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」
王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。
ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。
だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……?
※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
いいえ、望んでいません
わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」
結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。
だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。
なぜなら彼女は―――
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!
川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。
だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。
だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。
馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。
俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる