奇妙な魔術師の放遊録 ~ゆかいな仲間たちは今日も我が道を進む?~

遊爆民。

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第一章 魔術師と血の繋がらぬ子供

第十二話 襲撃

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    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 エゼルがモーリーを投げ飛ばしていた頃、ヒルダはシスターと話をしていた。

「ねぇねぇ、シスター。わたし、大きくなったら人を助ける仕事がしたいの」

 ヒルダは何かを決意した顔でシスターに話した。

「どうしたんだい?さっき怒られたから、いい子にしようとしてるのかい?それだったら駄目だよ」
「ううん、違うの」

 シスターの言葉にヒルダは首を横に振って否定した。

「きのう、泊まった時に、スイールさんが倒れてたおじさんを助けてるの見て、わたしもあんな事したいって思ったの。回復魔法ヒーリングも使って、かっこよかったの。どうしたらできるようになる?」

(なるほど、この子は大切な事を学んできたようだね。手伝いをしてあげようか)

 うんうんと微笑ましい顔をして答える。

「それじゃぁね、私が教えてあげるよ。みんなを助けたい、その願いをかなえてあげる」
「ほんと~~?」
「ああ、約束するよ。でもね、まだヒルダの歳じゃ無理だから、もうちょっと大人になってからね。魔法を教えるには中等学校位にならないと、ダメだから。でも、お手伝いは教会で出来るから、いろんな人の治療を手伝ってもらうよ」
「ありがとう、シスター!大好き!!」

 ヒルダはシスターに飛び付いて抱き着き、体のすべてで感謝を表した。
 その日はヒルダが一大決心をした大切な日となり、シスターには忘れられない日になったのである。



    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「こいつをとっ捕まえたから、オレの仕事はひとまず終了。あとは王都まで連行して報酬をもらえば依頼達成だ。いやぁ、世話になったねぇ」
「無事に仕事が終わりそうで何よりです。この後はすぐに出発ですか?」

 モーリーを捕まえ後ろ手に縛ったて意気揚々としているヴルフに、直ぐに王都へ向けて出発するかをスイールは尋ねた。

「出発は明日だな。今夜はギルドの牢にでも閉じ込めておくさ」
「そうなると、今日はこれからギルドへ直行ですね」
「だな。昨日のお礼もまだだから、何か考えてるんだがな」

”お礼なんかいいですよ”とヴルフに伝えるが、それはどうかと思うがと返され、しぶしぶとそのうちにと返すだけだった。
 それを聞いていたのか、モーリーが鬼のような形相で二人を睨んでいる事から、まだ何か隠しているのかとスイールは不思議に思い、ヴルフにそっとをした。

「いつかまたあった時にでも、お礼を楽しみにしてますよ。明日はお見送りに行きますからね」

 にっこりと笑顔を見せて別れの挨拶をすると、スイールとエゼルは孤児院へと足を向けた。

「とっとと歩け。お前は王都まで行くんだからな」

 二人と別れたヴルフはモーリーを連れて、連行して仕事依頼請負ギルドへ向かった。
 だが、なかなか歩かぬモーリーに手を焼き、小突きながらでなかなか歩く速度が上がらなかった。

「ちわっす。こいつ、ちょっと牢に入れておいてくれるか~?」

 やっと仕事依頼請負ギルドに到着し、建物の中へ入ると受付に声を掛けた。
 ギルドには、今回のモーリーのように捕縛依頼が出たときのため、簡易ではあるが牢が用意されている。牢は石積みされた壁で囲まれ、入り口や窓には鉄格子がはめられ、出口は一つしかない。牢から出るには表の格子を抜けてドアを潜るしかないのだ。。

「あれ、ヴルフさん。早いですけど、もう捕まえちゃったんですか?」

 受付で書類整理をしていたキャロが答えた。建物中には明日の依頼を選んだり、報告をしていた者達がいて、キャロの言葉を聞いて一斉に、ヴルフに視線を向けた。

「え、ヴルフって、もしかして、あのヴルフ?」
「たしか、”速鬼そっき”のヴルフとか言われてた?」
「そんな有名人がここに来てる?」

 有名な二つ名のヴルフが来ていると、ちょっとした騒ぎになり、何処にヴルフがいるのかと立ち上がって見ていた。

「そうだ、牢を貸してれないか?」
「はい。それでは、カギを出しますね。そっちの奥の部屋がその部屋です。あ、これカギです」
「はいよ、じゃ、こいつ入れておくわ。ほら、とっとと歩くんだよ」

 牢のカギを受け取り、モーリーを牢に入れてからしっかりと鍵を閉めてそのカギをキャロに返す。
 その後、ヒューゴへの伝言を伝えて貰おうとキャロと軽く打ち合わせをし、”明日、また来る”とだけ最後に伝えて、棒状戦斧ポールアックスを受け取り、”フラッ”と街へと消えて行った。



    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「くそう!オレをこんな目にあわせやがって。目にもの見せてやるわ……」

 モーリーは閉じ込められた牢の中で毒づいていた。そして、何やらいらぬことを考えはじめていた。

「それにしても、あのカモがここまでするとはな。今に仕返ししてやる、見てろよ」



    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 天を見上げるが、特徴のある二つの月はまったく見えなぬ闇夜。厚い雲が空をおおい、星すら見えぬ闇夜が訪れた。
 街はすでに寝静まり、見回りの守備兵以外は音も無くしんとしている。
 その暗闇を二つの黒い影が街の中を滑るように進んでゆく。裏路地から裏路地へ、街の地理を良く知る動きだ。

 二つの影は目的の建物の到着する。寝静まった深夜には建物を守る見張りは置いていない様だ。重要な建物の割には見張りがいない不思議な場所だ。

 窓から中を見るが、カーテンが部屋の視線を遮る。灯りは点いていない、そう、誰もいないか、夢の中へ沈んでいるかのどちらかだろう。

 一つの影がドアに接近し、耳をドアに当て内部の音を聞くが、ネズミの足音も聞こえて来ない。懐から黒い袋をだして細い金具を選んで、手探りでそれを操作する。

”カチャリ”

 細長い道具がドアの鍵を開ける事に成功したようだ。

”ギーーーー”

 ゆっくりとドアを開けると、蝶番の鈍い音がかすかに耳に届いた。闇夜なだけにざわつく音は良く耳に届く。
 だが、人の眠りを覚ますだけの力は無かった。
 そして、二つの影がその中へ入り込み警戒するが、彼等には何の敵意も感じなかった。

(上手くいったな)

 カウンターの奥に入り込み、手探りで金属の束を探し出すと、さらに奥へと続くドアを開ける。
 そこにはいるはずの見張りも見えなかった。

(あれ?見張りもいない。罠か?)

 そこには見張り置いておくのが常識だが、この日に限ってはそれすらいない。
 この日は見張りの職員がうっかりと家に帰ってしまったのだ。職務怠慢とでも、いうべきだろう。

 暗がりの中、鉄格子のカギを開けると、待ってましたとばかりに中から人が出てくる。

「おう、待ってたぞ。まさか、こんな時にこの場所に来るバカがいるとは考えまい。それにしても、見張りもいない馬鹿な組織など、どうなっているんだ?」
「マスター、それはともかく、急ぎ脱出しましょう。ここは危険です。別の街に移る用意はできております」
「念のため、こちらをお持ちください」

 牢から現れたのは、昼間にヴルフに捕まったモーリーであった。そして、その協力者、いや、モーリーを主とした詐欺集団の実行部隊に属する二人が迎えに来たのだ。
 逃げるために必要だと、短めの剣を渡す事も忘れない優秀な実行部隊である。

「さあ早く、こちらです」

 音を立てぬように慎重に入り口のドアに向かう。
 ドアは少しだけ開いて、外を伺えるが人影は見えない。

「大丈夫です。行きましょう」

 ゆっくりとドアを開け、三人は外に出る。

(捕まえた後の詰めが甘いな。所詮、お坊ちゃんの雇った騎士崩れに、間抜けな組織よ)

 まんまと逃げ出し、笑いそうになるがここはぐっと抑えて逃げようとしたのである。



「おっと、そこまでだ。これ以上、オレ達の手をわずらわせないでもらおうか」

 何やら声がしたと思ったら、三人に向かう光が数個、目の前に現れる。

「「「なに!」」」

 三人がドアを出たところで、声を向けられたのである。
 モーリーは聞いた事のある声だ、と実行部隊の二人に告げる。昼間に散々聞いた忘れることのできぬ声であった。

 光は三方向から迫ってくる。ちょうど三人を包囲するように。
 光はそれぞれ建物と建物の間、普段は使われない小道の奥から現れたようだ。

 一人は長い棒状の武器を、もう一人は背の高さほどの杖を、最期の一人は何やらロープのような輪っかを持っている。

「くっ!!」

 普通は建物中に見張りを置いて警備するのだが、まさか、この様な方法で待ち構えているとは、思いもよらなかった。

「普通は牢の前で見張りを立てるよな。誰もいないが罠と思わなかったお前らの読み違いだ。すぐに帰ればモーリーだけですんだものを、これがまさに、飛んで火にいる何とやらだな。あれ?夏の虫だっけ?まぁ、もうすぐ冬なのに夏の虫が飛び込んでくるとは覆わなかったがな」

 真正面の男が声をかける。
 男の背の高さよりも長い全長二メートルほどの棒の先端に、小型の斧を付けた武器--棒状戦斧ポールアックス--を担いでいる。
 ヴルフだ。

「あの表情を見て、まさかと思ってヴルフに伝えてみれば、面白い事に参加できて私としても力の出しがいがありそうですね。でも、夏の虫とは言いえて妙ではありますな」

 先端に灯火ライトの魔法をかけた杖を持ったスイールである。
 ”変り者”といわれているが、モーリーの表情だけでこの状況を予想するなど、どれだけ修羅場をくぐったらできるのかと不思議に思う人もいるだろう。

「いやいや、オレのギルドに侵入するとは、いい度胸だな。久しぶりに腕が鳴るわい」

 先ほど、受付のキャロに誘われて、酒場で聞きたくもない愚痴を嫌と言うほど聞かされ、ストレスがたまっている仕事依頼請負ギルドの支部長のヒューゴだ。

「ふざけるな、オレ達が虫だと?思い知らせてやる!!」

 くしくも三対三である。
 実行部隊の二人は腕に自信があった。幾度も修羅場を潜ってきたのである。
 それでも先ほどの罠にはまったのは、主を助ける事が優先された結果でもあったが。

 しかし、二人の自信は過剰であるといわざるを得ない。修羅場を潜ったのはその二人だけではないのだ。当然、ここにいるヴルフ、スイール、そして、ヒューゴの三人も幾多の修羅場を潜っているのだ。

「マスター、ここは引き受けます。その隙にお逃げください」
「分かった、いつもの場所で」

 小声でやり取りを済ませると、実行部隊の二人はスイールとヒューゴに襲い掛かった。
 この中の三人で一番倒しにくいのは二つ名を持つヴルフと見たためであろう。

 だが、結果は一方的だった。



 スイールに襲い掛かった一人は腰からショートソードを抜き、正面から切りかかった。
 右から剣を払い、握る杖ごと切り捨てようとしたのだ。

(魔術師なら速さで翻弄できる。殺せなくても逃げる道を開けるくらいなら簡単だ)

 素早い動きで魔術師の懐に入り剣を横に一閃させようと剣を振るおうとした、その時であ。

風の弾ウィンドショット!」

 スイールの放った衝撃波が、男を正面から襲い、体が宙を舞った。
 スイールが風の戦闘魔法、風の弾ウィンドショットを発動したのだ。

 剣を振るう事無く魔法を一撃加えただけで、モーリーのもとまで吹き飛ばされた。五メートルは飛んだであろうか。男はそのまま胸を押さえて唸り声を上げながら地面を転がる。
 先ほどの衝撃で、肋骨が何本か折れるほどの衝撃を与えたのだ。
 もう動く事は出来ないだろう。



 ヒューゴに向かった一人は右手でナイフを数本引き抜き、左手でショートソードを逆手に握る。ナイフを投擲すると同時に、ヒューゴの側面を攻めようと壁際を走った。だが、ヒューゴの武器を見誤った男はすぐに後悔することになる。

”バシッ!!”

 ヒューゴが手していた輪っかが緩み、生きている蛇のように鞭が男を襲った。ヒューゴに向けて放った数本のナイフを道連れにして。

 スナップの効いた鞭が男の顔面に命中する。鞭とはいえ、十分殺傷能力を持つ武器が顔面に直撃したのだ。体の表面は鍛えられても、顔の表面は鍛えるのが難しい。
 顔面の皮を一部剥がせば、それだけで戦闘行為を挫折させることは容易い。男は顔面を押さえてその場で悶絶するのであった。



 モーリーは手練れの男二人があっという間に先頭不能になるなど想像もしなかった。何度も行動を共にし、幾度も追っ手を返り討ちにした二人が、こんなにも早く、だ。
 モーリーは戦慄した。だが、ここで逃げなければすべてが終わる、と。
 そして、瞬時に判断した。

 三方どこへ逃げても手ごわい相手がいる。
 だが、自分を殺してしまっては、依頼が達成できずに報酬を貰えない男が目の前に控えている。しかも、この狭い空間では担いでいる長い武器では使いにであろう。

 そう考えれば、向かう敵は自分を追っている男だ、とモーリーは考え実行に移す。そして、他の国にでも逃げて再起を図るのだと。

 握ったショートソードをヴルフに向け、突進を始める。

(その斧では無理だろう、振ればオレを殺す。そんな事出来ぬだろうさ)

 安易に考えたモーリーはすぐに誤りに気づくだろう。その身をもってして。



 突撃してくるモーリーに、ヴルフは躊躇なく武器を振るう。ショートソードの間合いよりもはるかに広い間合いを持つ棒状戦斧ポールアックスの有利な間合いに

 もし、ヴルフの武器が槍状の先端が付いた棒状万能武器ハルバードであれば、突きを食らわしただけでモーリーの命を奪っていたであろう。だが、ヴルフの武器は棒状戦斧《ポールアックス》だ、先端は槍がつかず殺傷能力は低い。

 ヴルフは相手の実力もわかっていないのかと溜息を吐きながら棒状戦斧ポールアックスを突き出す。突進の速度と相まって、強烈な一撃がモーリーの右肩を襲う。

 ”バコッッッ!!!!”

 痛々しい鈍い音が辺りに響き、ショートソードを手放して”くるくる”と回転しながらモーリーが吹っ飛んだ。

「いってぇ!!」

 右肩を押さえて、暗い地面をごろごろと転げまわる。体には刺さらないが、金属の棒の先端が当たるのだ。当然の帰趨きすうとなった。

 モーリーを含め、三人は地面に転がり、すべての決着が付いたのだ。

「全く手間かけさせやがって。取り調べが必要だな、これは。そうそう、守備隊の隊長さん何て言ったかな?あちらに引越ししてもらうぜ」
「久しぶりに人に魔法使ったが、上手く手加減できたか?」
「さっきまで愚痴聞いてたんだ。少しストレス発散させてもらったわい」

 自らが倒した相手に言葉を吐きつつ、彼らを後ろ手に縛り守備隊詰め所へと連れて行く。その道中に縛られた三人は恨みをはいていたが、ヴルフ達はそれを無視した。



 さすがの守備隊隊長のジムズであっても、この夜中には自宅に戻っていて不在である。
 夜間の当直に、縛り上げた三人を牢に入れてもらい、夜が明けてからまた寄ることを言い残しヴルフ達は去って行った

 牢の見張りを厳重にする事を忘れずにと忠告したのは言うまでもないであろう。





帰趨【きすう】:ゆきつくところ、結局のところ
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