奇妙な魔術師の放遊録 ~ゆかいな仲間たちは今日も我が道を進む?~

遊爆民。

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第三章 王都への旅路

第四話 怪しい商業ギルド

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「サイズ調整は明日の夕方までに終わらせておく。それまで、町で暇つぶししてくれや」

 ひらひらと手を振って工房からスイール達を追い出すと、鎖帷子と胸当てのサイズ確認を終えたラドムは、それに向き直り調整に取り掛かった。鎖帷子の大きさを体に合わせて小さくするのが結構大変らしい。また、多少の体型に変化にも対応できるようにと調整機構もつけようとしていた。

「では、明日の夕方にまた来ます。それでは」

 スイール達はラドムの邪魔にならないようにと、挨拶を済ませると工房を後にした。
 そして、今日、明日と時間があるのでワークギルドに簡単な依頼があれば受けることにして、そこに足を向けた。
 小さな町や村では大きな依頼はほとんどないが、この村では山岳部特有の依頼や獣を追い払ってくれだの、洞窟に住み着いた獣を倒して欲しい、などがワークギルドに持ち込まれる。



 ”から~んから~ん”

 ワークギルドのドアを開けると、木琴のようなドアベルが鳴り響く。この場所に来る人達は数える程らしく、この時間でもスイール達の他には誰も見えなかった。そして、壁際に掛かる掲示板の依頼も数えるしか見えなかった。

「いらっしゃ~い。登録ですか?依頼の確認ですか~?」

 受付カウンターの受付嬢が元気いっぱいで話しか掛けてくる。ワークギルドお決まりの白いシャツと黒いズボンの制服を着ている。まだ四月の肌寒い時期なので、黒っぽい上着のジャケットを羽織っているが、胸元を見ても名札は付けていなかった。

「何か簡単にできる依頼が無いか確認しに来たのです」

 軽く挨拶をしながら掲示板に目を向けるが、すぐに終わりそうな依頼は無かった。予定以上の期日が必要だったり、この村より別の場所へと向かう依頼などしか残っていなかったのだ。

「申し訳ないが、我々が滞在中にできそうな依頼は無さそうだ。残念な事に……」

 スイールが手を振って、別れの挨拶をしながらワークギルドを後にしようとすると、受付嬢が暇だとばかりに話し掛けて来た。

「そうですか、残念ですね。そうそう、その恰好を見ると旅をされてる様ですので一言申しておきますと、ここから東に行く商売人が護衛を雇ってるって噂ですよ。あくまでも噂ですけどね。ワークギルドに依頼が来ませんから、噂でしか知りませんけど。東に行かれるのでしたらご注意くださいね」

 依頼も受けずに立ち去ろうとしたところだったが、親切な受付嬢から思いもよらぬ情報と心地よい挨拶をされてしまった。この対応をされれば、また来ようと思うに違いないだろう。
 その中で聞き逃す訳に行かない情報を受付嬢から得ることが出来たのは大きいだろう。”護衛を雇ってる”、と。

「商売人が護衛を大量に雇っているだと?」

 ヴルフが受付嬢の言葉を反芻はんすうするように言葉を漏らした。
 そして、建物の外へ出ようと動かし始めた足を止め、振り向きざまに受付嬢に問いただすのであった。

「この周辺は護衛をそれほど必要とする程の治安の悪さではないはずだが……。悪いがその話を詳しく聞かせて貰えないか?」

 トルニア王国の至る所を旅して回っていたヴルフの勘が、良からぬ事が起こりつつあると告げていた。
 ”商売人が護衛を大量に雇う”が意図するのは、襲われるのが”護衛を付けぬ商売人”からだろう。金品や商品を載せた馬車を襲い、強奪するのが目的であると。

「ええ、確かに治安は良いので普通の旅人は護衛などは雇いませんね。何組かの商売人さんは一度に十人位雇っているらしいです。北に向かう商売人さんや乗合馬車は護衛は雇っていませんね。そういえば何時からでしたかね?一か月くらい前からでしょうか?詳しく聞きたいなら、商業ギルドに聞いてみると分かるかと。ウチでは護衛の依頼をさばくだけですから」
「そうなのか?それは良いことを聞いた、どうもありがとう」

 一礼をしてワークギルドから外へ出ると、ヴルフの直感に東へ向かう道すがらに何かがある、そう感じたのである。

「スイールよ、少し寄り道していいか?」
「かまいませんが、先ほどの商売人の護衛の件ですか?」
「あぁ、そうだ。何か匂わないか?一応、確認しておいた方がいいだろう。どうせ、王都に向かうつもりなのだから、道中の情報を仕入れておくに越したことがないだろう。それで、安全だとわかれば問題ないだろうし」
「そうですね。確認だけでもしておきましょう。幸いにして時間はたっぷりありますから」

 ヴルフの直感と同じように思ったスイールは、二つ返事でそれに賛成を表明し、噂の真相を求めて商業ギルドへと足を向けるのであった。

 商業ギルドはワークギルドから五分ほどのほど近い場所にあり、四人はあっという間にその前に姿を現した。そして、四人は思わず口を開けて呆然とその建物を見上げるのであった。
 目に写ったのは、商売人が好みそうな外観で、価値は低いが嫌味をたっぷり含んだ”ピカピカ”に光った装飾品であった。商売に関わることの無い普通の旅人は、それを”胡散臭い”と思うかもしれない。
 スイール達には見た目よりも内部が胡散臭いと感じるのであるが……。

 その入り口をくぐり、四人は入りたくもない商業ギルドに嫌々と入って行った。

「こんにちは~」

 中には何人かの商売人が見えるが、受付カウンターで話し込んでいる人はいない。
 暇を持て余しているカウンターにいる男性の受付係が、早速、声を掛けて来た。
 それに反応したのはスイールとヴルフの二人で、エゼルバルドとヒルダは壁際の掲示板へと向かって行った。

「いらっしゃいませ!どのようなご用件でございましょう?」

 ”ニコニコ”と満面の笑みで挨拶を返してきた。”シャカシャカ”と音がするので何かと男を見ると、目にも止まらぬ速度で気持ち悪くをしていたのだ。
 スイール達は情報を聞く為だけに来たのだが、もみ手を見せて商売につなげようとの必死さが、商売人でない彼らの気分を害していた。
 だが、気分を害されようとも話を聞かなければ情報を得られぬと、気を取り直して男に話をする。

「他のギルドで聞いたんだが、最近、商売人の馬車に護衛が沢山雇われているらしく、その情報を求めてきたんだが、何か知らないか?」

 会話の途中で男の顔が一瞬だけ曇ったのをスイールは見逃さなかった。”ニコニコ”して人が良い様に見せているが、その本質は腹黒く何かを隠しているとみられた。
 その曇った顔のすぐ後には、彼のもみ手が荒々しい動きになり、何かを隠してるのだと確信に変わった。そして、スイール達はその反応を、見て見ぬふりをしながらさらに続けた。

「確かに、護衛は雇って行かれますが、それだけでございますね。など、一切の情報は入ってませんよ」

 男はいつも通りの口調でスイール達に何も無いと説明をしていた。だが、男の注意が散漫になり視線を動かしていたのを二人は見逃さなかった。

「そうですか、お邪魔しましたね。それでは帰るとしましょう。二人とも帰りますよ~」
「「は~い」」

 受付の男に返事を返すと、エゼルバルドとヒルダを呼んで商業ギルドを後にした。



「依頼の掲示板は何かありましたか?」

 商業ギルドからの宿へと続く道すがら、スイールはエゼルバルドとヒルダの二人に掲示板に何か情報はあったかと尋ねた。

「たいした依頼は無いね。貴金属を買います、売りますとか。いつまでに珍しい食材が欲しいとか、そんなのばっかり。オレ達には関係ない物しかなかったよ」
「そうそう、お金儲けしか頭にありませ~ん!って依頼ばっかりだったわぁ」

 二人はギルドによって依頼が全く異なるのだと説明した。
 その依頼内容も金儲けしか興味が無い様な依頼ばかりで見ていて辟易していた。尤も、”困り事解決します”をモットーにいしてるワークギルドの掲示板と見比べてしまってはいけないのであろうが……。

 それとは別に、スイールとヴルフが注目した事柄があった。

「受付の男の手、見ましたか?商売人の手じゃありませんでしたね。握りだこがありました。武器を常日頃持っている手でしょうね」

 一瞬だけ開いた手の平を驚くべき動体視力で捉えていた。商売人やギルドの職員にはあまり見られぬ握りだこ、つまりは武器などを常日頃から扱っている証拠でもある。

「スイールもそう見たか。ただ、護衛を兼任しているだけかもしれんがな。まぁ、この件は積極的に首を突っ込まない方が良いだろう」
「そうですね。我々はごく普通の旅行者なのですからね」

 二人は”ぼそぼそ”と蚊の鳴くような声で話し、同意した所で少し早いが宿へと帰る事にした。

「少し早いですが、宿へ戻りましょう」
「あ、ごめんスイール。ちょっと寄りたい所があるから先に帰ってて」

 日はまだ高く、十分に日の光が注いでいて暮れるまでまだ時間があった為かエゼルバルドが別行動をしたいと言い出したのだ。
 スイールにはエゼルバルドの目的が書籍を探したいのだと察していた。

「わかった。日が沈む前には帰って来るようにね」
「は~い」

 スイールに元気良く返事を返すと、いても立ってもいられないのか、足早に雑踏の中へとエゼルバルドは消えて行った。



 村の本屋へと足を向けるエゼルバルド。旅の目的の一つにまだ見ぬ書籍を探す事があった。本屋を発見する度に書籍を買っていては邪魔になってしまうので、早々と買う事は出来ない。だが、どのような書籍を置いているか調べておく事は重要だった。
 だが、ここは辺境の村。本屋に入って見たが何処にでも置いてある書籍ばかりしかなく、”がっくり”と肩を落とすのであった。

 そして、”とぼとぼ”と肩を落として宿へ帰る道すがら、大通りから脇道に入った所でエゼルバルドは足を止め、人の目が届かぬ場所へ息を殺して身を隠した。
 それから直ぐに、二つの足音が同じ様に脇道に入って来た。

「あ~、ちくしょう。あの小僧、何処へ行った。向こうを探すぞ」
「見失っちまったらどやされる。早く見つけよう」

 二つの足音はそのまま脇道を駆け抜け、何処かへ向かって行った。

 エゼルバルドが異様な気配に気が付いたのはスイールと別れてから直ぐだった。街中の雑踏へ混ざり行く自分を追い掛けて来たとわかった。あのタイミングで追い掛けて来るなど、商業ギルドからしか考えられない。詳しくは聞いてないが、スイールとヴルフのやり取りで何らかのトリガーを引いたのだろうと予想した。
 そして、追い掛けられたエゼルバルドも、余計な事に首を突っ込むつもりは全くなかったのであるが、それは既に手遅れだった。



 エゼルバルドが宿に到着すると食堂で、出来上がった二人としらふの一人が出迎える。

「おう、遅かったなぁ。もう始めてるぞ」

 テーブルの上にはすでに何品も料理が並び、空になったジョッキが三個ほどヴルフの前で転がっていて、スイールの前にあるジョッキにも半分ほど残っていた。
 ヒルダは上品にもクラスに入った果実酒を口に運んで楽しんでいたようだ。トルニア王国を含めて殆どの国は、十五歳を過ぎれば成人としてお酒を口に出来るので、アルコール類も問題ない。
 そして、合流したエゼルバルドは飲み物を注文し、椅子に腰を下ろした。

「ヴルフさんは呑みすぎですよ。もう少し控えてください」

 ”いつもの事だ、気にするな”と、”グビグビ”と喉を通り抜けるエールを楽しみ、”ぷはー”との声と共に酒臭い息が吐き出される。他のテーブルで鉱山の男達のが吐き出す煙草の煙と合わさり、二つの匂いを嗅いだヒルダが嫌な表情をして手で匂いを払おうとしていた。

 ちなみにであるが、日本で売っているような紙巻き煙草は普及しておらず、葉巻かパイプで吸う煙草が殆どを占めている。煙草は禁止されておらず、街中や酒場などで簡単に葉を購入できる。一応、お酒と同じように十五歳を過ぎれば購入は可能であるが。

 ~~閑話休題~~

 そして、注文したエールがなみなみと注がれたジョッキがテーブルに運ばれてから、エゼルバルドが先程の出来事を呟くように話し出した。

「さっき別れた時、後をつけてくる二人組がいたんだ。途中で撒いたから何処まで探しに行ったか分からないけどね。時間からして、商業ギルドから付けられたと思うんですよ。心当たりがあるとすれば、スイール達ですけど……。二人は何をそこで聞いたんですか?」

 商業ギルドでの話は、スイールとヴルフの二人だけで完結させようとしていたが、行き先をつけられたのであれば、共通の認識を持たざるを得ないとエゼルバルドとヒルダに話す事にした。

 そして、スイールがジョッキを傾けて”ゴクゴク”と飲み干すと静かに話し出す。

「本来は首を突っ込みたくないんですけどね。簡単に話すと、商業ギルドで護衛の事を聞いたら、”盗賊に襲われた”とか、”情報は来ていません”と受付の男から話を聞いたんだ。私達は”護衛の話を聞いた”だけなんだがね」

 続けてヴルフがジョッキの淵を指でなぞりながらスイールの後を続ける。

「受付の男の手に握りだこがあった。そんな”たこ”は剣を振り回してるワシ達が作るもんなのに、商売人が作るのかって、な。怪しいが余計な事に首を突っ込む程ではないと二人で話をしたんだがなぁ……」

 何処で予定が狂ってしまったのかと、悩ましいのだとヴルフが告げていた。
 その話を聞き、エゼルバルドもヒルダも”なるほど”と納得して頷いていた。

 彼らの行動は本部の目の届かない所で私服を肥やす職員なのか、もしくは乗っ取られたかどちらかだろうと見ていたが、真相など本来は気にしないておこうと思っていたのだ。だが、相手から接触するのであれば、仕方ないと腹を決める。

「さすがに宿にまで踏み込んでは来ないだろう。買い物に出るなら、最低でも二人で行動してくださいね。装備が出来ましたら直ぐに出立するつもりでいますから」

 なるべく”騒ぎは起こさない”ようにとスイールに注意されたが、何処まで守れるだろうかと、三人は苦笑するしかなかった。

 話の後はテーブルに残った料理を楽し見ながらジョッキを傾け、和気あいあいとした時間が過ぎて行った。
 その後、ヴルフが飲み過ぎて潰れる寸前だったのは予定外の出来事であった。

 彼らの食事の様子を見ている幾つかの眼が不気味に光っていたのは気にしていなかったようである。
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